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八話 女神との出会い-2.

「でも―― 考え方によっては貴方は私が待ち望んだ存在なのかもしれないわね」


 独り言のようにエテルノは呟く。先ほどまで見せていた表情とは異なり、何故か嬉しそうだった。


「どういうことです?」


 アレクは困惑して訪ねる。

 エテルノはアレクに見つめられているのに気付き話を元に戻した。


「ううん。こっちの話。そういう訳で、貴方は異界の死神に不死の加護を授かっているわ。本来異質すぎて封じられていた加護と能力が、一旦死んだ事によって発動したのね」


 アレクが今まで普通に生きて来たのは、この世界にとって異質な加護が封じられていたからのようだ。それが一度死んだ事によって封が解かれ、本来の加護の力が発動したのだとエテルノは説明した。


「それで、こんな髪と眼になったんですね。治癒能力が高くなってるのもその所為なのか……」


 アレクは原因が分かり、少しだけ安心した。異質な加護である事には違いないが、何も分からないままよりは気持ち的に楽になった。


「さて、それを踏まえて現状の把握と、私からも加護を授けましょう」


 エテルノがそう言うと、アレクの目の前にプレートが形作られた。相変わらず何もない所から物を作り出す光景を見て、流石神様だと感心した。

 アレクがプレートを手に取ると銀色の輝きを持つプレートに文字が浮かび上がってきた。


 **********

 名前:アレク・モルテ 種族:不死族アンデッド 年齢:十三

 加護:異界の死神の呪福  能力:不死、高速再生、暗視

 加護:女神の祝福  能力:眷属召喚、眷属化

 称号:不死王ノーライフキング

 **********


 手に取ったプレートを凝視してアレクは愕然とした。種族が人間では無く、不死族アンデッドとなっていたのだ。

 アレクはあまりのショックで額に冷や汗が浮かんでくる。見かねたエテルノが汗をハンカチで拭いてくれているが、アレクはプレートに書かれた内容を把握するのに頭が一杯だった。


(一度死んだから? でも心臓も動いているし食事も取ってる。『地球』で言うアンデッドとは違うのか?)


 この世界でもおばけや幽霊といった逸話は存在する。しかしアレクが十三年生きてきた中では、魔物としてのアンデッドは聞いた事が無かった。


(異界の死神って……あっちの世界に死神って居たんだな。日本人なんだから閻魔様とかじゃないのか? 不死と高速再生、暗視はわかるけど。そもそも呪福って何だ?)


アレストラに生まれてからも、生まれる以前の世界でも聞いた事の無い言葉だ。そして極めつけは最後に表示されている称号の『不死王』の文字だ。


(ノーライフキングってアンデッドの王だっけ? 確かヴァンパイアとかリッチとかの上位的な存在だったっけ?)


 数分程経て、やっとプレートに表示された内容を脳が理解した。

 甲斐甲斐しくアレクの汗を拭いてくれていた女神に気付くと、アレクは女神へと詰め寄った。


「女神様。なんで人間辞めさせられてるんですか? それに呪福って何ですか!」

「まぁまぁ、落ち着いて? 順に説明するから、ね?」


 取り乱したアレクに女神は優しく諭す。女神に言われた途端にアレクの心は落ち着きを取り戻す。あれだけ取り乱していたにもかかわらず、一瞬で落ち着くというのは女神が何かしたのだろうか。


「落ち着いたようだし、順に説明するわね? まず種族だけど、一度死んだ時点で人族のカテゴリーから外れてしまったの」


 エテルノの話を聞く限りでは、この世界でも一度死んだ者を蘇生させる手段は無いのだと言う。


「『呪福』というのは私も初めて聞く言葉ね。本来は祝福となる筈だったのでしょうけれど……。何らかのミスで『呪』となってしまったようね」


 エテルノはアレクから目を逸らしながら言葉を口にした。アレクの存在に気付いた時に『地球』の死神であるバストルには既に問い合わせを行っていた。結果は単純な書き損じ。漢字を用いなければ起きえなかったミスである。

 だが、まさか神の一柱である者が、字を書き間違えたとアレクに伝えることはエテルノには出来なかった。だが実際に一文字書き違えた為に、システムが本来とは異なる加護を与えてしまったのが実情だ。


「まあ、結果として盗賊に殺される筈が助かったのだから良かったじゃない? ちょっと死ななくなって永遠の時を生きる事にはなるけれど、それは私も一緒だし。それに、ほら。前世でも死にたく無いって思ったのでしょ?」 


 エテルノがアレクを慰める。だが女神から告げられる『死ねない』『永遠の時を生きる』という言葉がアレクの精神を苛む。

 前世で死ぬ間際に思った死にたくないという気持ちの代償がこれだというのか、これでは加護というより、文字通り呪いではないかとアレクは余計な加護を付けた死神へと悪態をつく。

 アレクが落ち込んでいくのを励ますように、エテルノは更に言葉を続ける。


「不死王というのは、この世界で初めての不死族である貴方に相応しい称号だと思わない? それでね、『眷属召喚』というのはそんなあなたをイメージしたアンデッド召喚魔法ね。この世界での召喚魔法はエルフが精霊を呼び出せる以外は今は存在していないのだけど」


 そんなアレクの気持ちを無視して得意げに語る女神。


「そして、同じく『眷属化』。不死の貴方にとってこれが一番重要よ。気に入った仲間や伴侶を貴方と同じように不死族に出来る能力よ。これがあれば好きになった人や大切な人に先立たれるという事が無くなるの。どう? 気に入った?」


 まるでアレクの為に頑張って考えたの、とでも言いたげな女神を見てアレクは力無くテーブルに突っ伏した。


「あれ? どうかしたの?」


(逆に女神様の頭がどうしたのか僕は知りたいよ!)


 女神のキョトンとした表情にどっと疲れたアレクは心の中で叫ぶ。不死の体だというだけで異質なのに更に上乗せをする女神の意図が掴めなかった。


「あの、女神さま。これ完全に人間辞めるパターンですよね? なんで人外な加護にしたんです!? 人間社会でどうやっても生きて行けないでしょう!」


 絶叫したアレクに、エテルノ一瞬キョトンとした表情をする。だが、すぐにクスクスと笑い言葉を続けた。


「そもそも不死の体の時点で、いずれ周囲から孤立するのよ? だからこそ、この加護にしたんです。私はね、貴方にこの世界で自由に生きてほしいと思っているわ。だけど独りぼっちの人生なんて空虚なものよ」


 エテルノはどこか悲しそうな表情で呟いた。


「私はずっと寂しかったわ。創造神であられるイリエレス様がおられるけど。アレストラで過ごしても限りある命の者は私を残して逝ってしまうし。別れが辛くて結果としてこの空間に閉じこもるようになったわ」


 エテルノは創造神と共に世界を見守ってきた。それこそ気が遠くなる程の年月を。

 エテルノの瞳にはうっすらと光るものがあった。親しかった者達を看取って来た事を思い出しているのだろうか。


「共に過ごしたいと思えた人も居たわ。でも、私に与えられた権限では不死となる存在を創ることは出来なかった。――でも、貴方が不死の特性を持ってこの世界へやってきたことで変化が生まれた――」


 アレクを見て寂しそうに微笑む。その美しさにアレクの鼓動がはねた。


「貴方には私の味わった寂しさを味わって欲しくないの。だからこそ『眷属召喚』と『眷属化』の能力を与えるのよ。とはいえ、召喚した眷属は貴方の魔力が動力源となるから、魔力が枯渇してしまえば存在を保てなくなる。眷属化はアレストラの全ての生命体を不死族にする力があるけれど。肉体を完全に破壊されてしまえば滅ぶ事になるわ。だから、厳密には完全な不死の存在となる訳ではないわね」


 アレクは黙ってエテルノの説明を聞いた。十年、二十年は良いだろう。だが、五十年、百年と過ぎれば自分も孤独感にさいなまれるのだろうなと漠然と理解した。


「わかりました。どっちにしろ頂いた能力ですから。使いこなせるかは僕次第ですよね」


 エテルノはアレクの言葉を聞いて満足そうに頷く。


「受け取って貰えて嬉しいわ。それと、折角不死なのだし私とも時折会ってくれないかしら?」


 エテルノのような美少女と会うのは良いのだが、神様と頻繁に会うというのは大丈夫なのだろうかとアレクは逡巡する。


「それは良いですけど。大丈夫なんですか? 神様と頻繁に会うって出来るものなんですか?」

「大丈夫よ。でも他の人には内緒よ? まあ知られても狂言と思われるだけでしょうけど」


 問題がなさそうだとアレクが頷くと、エテルノは嬉しそうに満面の笑顔になった。


「ありがとう。長い付き合いになりそうだし、私のことはエテルノと呼び捨てていいわよ?」

「えっと。いいんですかね……エテルノ様「エテルノ!」」


 様付けで呼んだアレクにエテルノが言葉を重ねた。テーブルに身を乗り出し、エテルノの顔がアレクに近づいてくる。テーブルとの間に挟まれた双丘に目を奪われそうになる。


「エ、エテルノ……」


 顔を赤らめ、自己主張の激しい物体から目を逸らしつつエテルノの名を呼ぶと、エテルノは嬉しそうに笑みを深くした。



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