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八十話 妖精の宴

ミリア・ミント・ミレイア……ミから始まる名前が多すぎると感じ始めてます。

「大変申し訳ありませんでした」

「いえ、大丈夫です。気にしてませんから」


 リラからの謝罪に対し、アレクは全く気にして無いと手を振って答える。

 何故リラが謝っているのかと言うと、お互いに挨拶をした後マーレはさんざん騒いだあげくアレクの頭の上へ座って休憩を取り始めてしまったのだ。流石に招待した客に対し失礼だと言うことで、リラによってつまみ上げられて今に至る。


 フェアリー族の族長筋だという割に扱いが雑に思えるが、何時もこうなのだと言われアレクはミリアと顔を見合わせて苦笑するしかなかった。 


「では族長の所へ案内致します」


 リラの案内に従い、再び族長の所へと歩き始める。礼拝堂のような部屋の脇から奥へと続く廊下を暫く歩くと、もっとも奥まった場所にある扉の前でリラは足を止めた。


「この部屋に族長――ミレイア様がいらっしゃいます」


 アレク達にそう告げると、リラは扉をノックし、入室の許可を得るべく声をかける。すぐに中から入って良いと許可する女性の声で返事があった。

 扉を開け中に入ると、部屋の中には以前助けたミントともう一人エルフが椅子に座って待っていた。ミントはアレク達の顔を見ると嬉しそうに笑顔を見せる。アレク達が勧めた椅子へと腰掛けるのを待ってミントの横に居たエルフが口を開いた。


「ようこそ、私はエルフの族長にしてユグドラルの代表を兼ねているミレイア・マドゥライ・ルナカーラと申します」


 ミレイアと名乗ったエルフの女性は、学園のシルフィードとよく似た美しい容姿であった。ただ唯一異なるのは、肌の色が褐色である事だろう。ミントの祖母である事から、彼女も高貴なノーブルエルフである事が窺えた。

 アレクとミリアも名乗り挨拶を返すと、ミレイアは微笑みながら礼を口にする。


「孫娘――ミントと子供達を救ってくださって本当にありがとう。この子を失ってしまっていたなら取り返しのつかない事態になっていたでしょう」


 ミレイアはそう言うと隣に座っているミントの頭を優しく撫でる。ミントは自分がどれほど周囲に心配を掛けたかこの数ヶ月で嫌と言うほど思い知ったのだろう。今は少し俯き静かに撫でられるままとなっていた。

 族長の直系の血筋であるミントが見つからなかった場合、エルフ達は彼女を見つけ出す為にあらゆる手段を講じていただろうとミレイアは話す。ともすれば周辺国と争う事になっていた可能性もあったのだと言う。

 ミントも、自分が特別な存在である事は物心つく頃から教え込まれていた。しかし、母であるシリカが病で伏せっていた事で、自らの手で薬草を採取しに出歩いてしまったのであった。


「そう言えばそんな話をしていましたね。あれから快方に向かったのですか?」


 アレクが尋ねると、ミレイアの顔に憂愁の影が差す。ミントに至っては泣きそうな顔になってしまったのを見てアレクは慌てる。


「その話はおいておきましょう。この度あなた方をお招きしたのはミントと子供達を救ってくれたお礼をする為なのですから」


 ミレイアはそう話を切り上げると、本来の目的へと話題を移した。


(もしかすると既に亡くなってしまったのかな)


 二人の態度を見てアレクはそう感じ、余計な事を言ってしまったと後悔した。しかし、アレクの表情を見て誤解を招いたのだと気付いたのか、ミレイアは力なく微笑みながら否定した。


「いえ、未だ床に伏せっているという意味です。様々な治療を施しているのですが……」


 流石にこれ以上は家庭の事情であると感じ、アレクとしても詳細を尋ねる事が憚られた。


「さて、お二人には三日という短い期間ですがこの街を自由に見て回って下さい。案内はリラにさせます。夕餉ゆうげまでには戻って来て下さいね」


 ミレイアにそう言われ、アレク達は一旦場を辞する事となった。


 街の中を案内して貰いながらも、アレクには先ほどのミントの表情が気になっていた。この世界では治癒魔法によって怪我・毒・麻痺などに対しては魔法でなんとかなる。しかし、病気となると魔法による治療は望めない。

 病気となると薬師による治療が主となる。そしてエルフはその分野では全種族の中で最も秀でている。そのエルフ達で治せないとなるとアレクが持っている知識程度では助けにならないだろう。

 それでも親を失う悲しみを味わうには、ミントはまだ若すぎる。そうアレクは思うのだった。




 夜にはささやかながら晩餐会が開かれ、捜索隊を率いていたアニードの姿も見受けられた。挨拶を交わし事件での事を再び感謝された。


 会場となった広間にはエルフやフェアリーの他にも幾つかの種族の代表が参加しているようだ。

 妖精族の代表格であるドワーフやハーフリングはアレクの知識にもあったので、見ることが出来たことに感動した。どちらの種族も身長はあまり高くなく、ドワーフは身長が百三十センチほどのがっしりとした筋肉質で想像通りの髭面だった。ハーフリングはドワーフの半分ほどしかなく、小柄で細身な体型であった。

 今回、アレク達が招かれたのはエルフ族の都合によるところが大きいため、他種族からの参加者はそれほど多くは無かった。それでも、各種族の代表からは国の未来を担う子供達を救ってくれた事に感謝し、アレクとミリアに礼を言うのだった。


 エルフ達はと言えば、族長のミレイアとその夫である普通の色をしたエルフ、そしてミントとその父親なのであろうエルフの姿があったが、やはり母親であるシリカの姿は見られなかった。

 宴が進むにつれ、皆酒が入り宴会のようになり始める。未成年であり酒を飲めないアレクは広間の端へと移動して盛り上がっている様子を眺めていた。

 すると、アレクの視界の隅に広間から出て行くミントの姿を捉えた。気になったアレクはミントの後を追って広間から抜けだす事にした。


 ミントは広間から離れるとエテルノとマドゥライの像のある礼拝堂の方へと向かい歩いてゆく。アレクがその後を追うが、周囲にも誰かの気配が感じられる。気配のする方へと視線を向けるとエルフの姿が見えたので、恐らくはミントを護衛する役目を持った者なのだろうと判断してそのまま後を追っていく。

 程なくしてミントは礼拝堂へと入っていくと、エテルノの像の前に跪いて祈りを捧げ始めた。入り口でどうしたものかと立ち止まっているアレクの横に、先ほど見た護衛のエルフの女性が近付いて来ると軽くアレクへと会釈をしてきた。

 アレクも会釈を返すと、そのエルフは痛ましげにミントを見つめると、アレクへと話しかけた。


「アレク殿、少しミント様の話し相手になって下さいませんか?」


 そのエルフはミントから目を外さずにそう囁いた。


「ミント様は族長を継ぐお方です。……ですが、その為か我々同族に対して弱音を吐くことが許されない環境におります。シリカ様が長く床に伏せっておられる今、あの小さい体に一族の期待が重しとなっているのです。ミント様の恩人であられる貴方に頼るのは筋違いかもしれませんが、どうか……」


 エルフの女性はそう言うと小さく頭を下げた。

 アレクはその願いに対して静かに頷いた。自分が何かをしてあげられる訳では無いが、話を聞くくらいなら出来るだろうと思う。未だ静かに祈りを捧げているミントの所へと向かうのであった。

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