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七話 女神との出会い-1.

 翌朝、早速バンドンから教わった神殿へとアレクはやってきていた。目的は言わずと知れた洗礼を受ける為だ。


(はぁ……。受けるだけで銅貨五枚は痛いよなぁ)


 アレクは神殿を前に溜息を吐く。ここでの銅貨五枚の出費は正直痛い。既に月末までの宿と食事の心配はしなくて良いが、これから何かと生活に必要なものを買うには余りにも心許なかった。


「何か僕でも出来る仕事とか紹介してもらおうかな……」


 そう独り言を呟きながらも意を決し神殿へと入って行く。

 入口を潜るとすぐに受付のような場所があり一人の修道女が座っていた。

 彼女はアレクに気付くとにっこりとほほ笑みながら声を掛けてきた。


「ようこそ、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「えっと、初めまして。アレクと言います。神殿で洗礼を受けられるって聞いたんですけど」


 修道女はまだ若く二十代だろうか、フードに隠れていてあまり分からないが赤毛の美しい女性だった。アレクが用件を伝えると彼女は立ち上がり隣にある椅子へと座るよう勧めてきた。アレクは言われるままに椅子へと腰かけると向かい合うように修道女が座り、アレクへと挨拶をした。


「私はリサと申します。神殿は初めてですね? 洗礼についてご説明させていただきますわ」


 リサと名乗った修道女は慣れた様子で、神殿と洗礼についての説明を始める。創造神や魔法神を祀っている事。都市や大きな街には必ず神殿が建っており、小さな村でもほこらは必ず建てているようだ。


「そういえば、生まれの村にも小さな(ほこらがありました。創造神様とエテルノ様の祠だったんですね」


 アレクは今は無きロハの村にあった祠を思い出していた。何の神を祀っているかは知らなかったが年の始まりには村人総出で祠へとお参りした記憶があった。


「そうだと思いますよ。普段は神の名を出すことは無いですからアレク君くらいの子が知らないのも無理ありません。年初めや秋の豊穣祭くらいしかここでもお参りに来る方は居ませんし」


 どうやら女神の名を知らなかった事について悪く思われなかったようだ。大きな都市でも年に数回ほど神殿へと足を運ぶ以外は縁が無く、年若い者が知らない事は珍しくないようだ。

 神殿が、孤児院や施療院を運営しているのはレベッカから既に聞いていた。施療院は神官だけが使える治癒魔法という魔法と、医療の知識を用いているらしい。


「施療院で働けるのは神官として名誉な事なんです!」


 神殿にて肉体の構造や病を学ぶことで神官になることが出来る。しかし、神殿や施療院で働ける神官は優秀な一部の者のみである。その他の神官は冒険者となり経験を積み、毎年行われる採用試験に合格しないと勤めることが出来ないのだ。

 施療院での治療費や、洗礼の際に受け取るお金で孤児院が運営されていると聞き、アレクは銅貨五枚も仕方が無いかと少しだけ納得した。


「さて。洗礼ですが奥の洗礼所にてエテルノ様へ祈りを捧げます。その際に、適正があればご加護をエテルノ様より授かりますが、一万人に一人程度なので期待なさらないようにお願いしますね」

「はい、加護っていうのは知り合いからある程度聞きました」


 リサの説明にアレクが答えると、リサはなるほどと頷いた。


「そうですか。加護についてですが、ご本人しか加護の中身は知り得ないものです。もし、加護を授かってもむやみに言いふらすようなことは避けて下さい」


 これは、昔から続く決まりなんだとリサは言う。加護と能力の内容が知られてしまい、他人に悪用されたり、国同士の戦争に利用されたりという事が過去に度々あったらしい。

 必要な情報はある程度聞けたのでアレクは早速洗礼を受けるべく案内して貰う事にした。


「では、銅貨五枚とこちらに名前の記入をお願いしますね」


 アレクは帳面に自分の名前を書き記し、リサに銅貨五枚を手渡した。そして案内されるままに奥へと連れられると、女神像の置かれた礼拝堂へとたどり着いた。

 初めて見た女神像は慈愛の表情を浮かべた少女の姿で、記憶にあるマリア像を彷彿とさせる。


「では、ここにひざまずいて女神に祈りを捧げてください。貴方に神のご加護がありますように――」


 リサの指示通りに女神像の前に跪いたアレクは手を合わせると頭を下げた。すると、女神像から眩い光が放たれると、次第にアレクの視界は真っ白な光で埋め尽くされた。





 真っ白な光に覆われたアレクはあまりの眩しさに目を閉じた。程なくして恐る恐る目を開くと、周囲には白いだけの空間が広がっていた。神殿の中であった筈なのに、床も周囲も天井のあったはずの上も全て真っ白なのだ。


「ここは……」


 アレクが呟くとすぐ近くから声がかけられた。


「ここは私とアレストラに住む者達とが会うための場所です」


 すると、何時の間にかアレクの目の前には一人の少女が立っていた。少女は金色の長い髪を腰まで伸ばしており、その表情は慈愛に満ちていた。アレクは少女が先ほど見た女神の像に面影が似ていると感じて声を掛けた。


「もしかして、エテルノ様ですか?」


 アレクの問いかけに少女はにっこりとほほ笑むと頷いて見せた。


「そうよ、私がエテルノ。ようこそ、異世界からの魂の旅人よ」


 女神エテルノはアレクが異世界の知識を持っているのを知っているようだった。アレクは何故自分に前世の知識があるのかを女神に尋ねる事にした。


「僕の事を知っているんですか? どうして僕には前世の知識があるのでしょうか? それに、村で一度死んだ時に声を掛けてきたのはエテルノ様ですよね?」


 するとエテルノは少し困った表情をしてからアレクの手を取った。


「ここではゆっくりお話も出来ませんわ。こちらで座ってお茶でもどう?」


 話が長くなるなら座って聞いたほうがいいだろう。アレクはそう考えると女神に手を引かれるまま立ち上がった。すると、周囲の景色が一変しどこかの草原のような光景へと変化した。


「これは!?」


 アレクが驚いて周囲を見ると、どこまでも広がる草原と青く澄みきった青空が広がっていた。上空には小さな小鳥が飛んでおり自分と女神のすぐ横にはテーブルと椅子がどこからともなく置かれていた。


「真っ白い空間は神々しさを出すには良いのですけど、殺風景すぎますから。それにアレストラの者をあそこに長く留め置くと精神に異常をきたしますし」


 驚いているアレクを面白そうに見つめながら、エテルノはテーブルの上にティーセットを出した。どこからともなく一瞬で物を出す女神にアレクは先ほどから驚きっぱなしであったが、何時までも立っているのもどうかと思い椅子へと座ることにした。



 用意された椅子に座ると、エテルノが良い香りのする紅茶を煎れてくれた。アレクの向かいの席へと座ったエテルノは自分用に煎れたティーカップを持つと、上品に一口飲む。

 周囲の風景からすると、のどかなひと時に見えて、ここが普通の空間では無いことを忘れそうになる。 


「さて、まずは貴方がどうして前世の記憶を持っているかよね。貴方の元居た世界を管理していた神のミス……こほん! 悪戯としか説明できないわね」


(今この女神ひとミスって言ったぞ!?)


 エテルノの言葉に心の中で突っ込みを入れた。取り繕うように言い直したが、アレクにはしっかりと聞こえていた。神と言えどもミスするのだなと、どうでもいい考えが頭をよぎる。

 エテルノは僅かにアレクから目を逸らして心の中で呟く。


(まさか、祝と呪を死神が書き間違えた所為でシステムが初期化イニシャライズし損ねたなんて言えないわよね)


 女神がそんなことを考えているとは知らないアレクは、質問を続けた。


「では―― 僕が一度死んだ筈なのに生き返ったことに関しては何かご存じですか? それと、傷が治りやすくなったりしてるんですが」


 アレクの問いに、エテルノはカップを口へと運ぶ手を止めた。


「貴方が前世でどういった死に方をしたのかは覚えているのかしら? ――そう、思い出してしまったのね。前世での貴方は、死の間際とても強く願ったそうよ『死にたく無い』って。それがあちらの神の目にとまり、加護を付与されて転生させたようなの」


 前世での自分が抱いた死にたく無いという想いの所為だと説明されたアレクは、複雑な気持ちだった。そんなアレクの表情を見て、エテルノは慰めるかのように言葉を紡ぐ。


「まあ、この世界はとても危険で死が身近なの。すぐ死んでしまうよりは良かったじゃない? それに、申し訳ないけれど私がアレストラの住人に与えている加護と違って、消してあげることも出来ないわ」


 エテルノはそう言って、困った表情を浮かべる。自身が授けた加護であれば消す事も可能だが、こればかりは異世界の神の仕業である為に、自分では手が出せないのだと言った。



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