六十六話 発見
どの眷属を見せようとアレクが逡巡していると、放った眷属達からの反応が届いた。
アレクは期待に満ちた目でこちらを見ているミリアを手で制すると、眷属とのやりとりに意識を集中する。目を閉じ、森へと広がった眷属達の反応を示す輝点を確認すると、数カ所で人との接触があったようだ。
今回のヴァンパイアバッドは、以前召喚したミクロマウスよりも数を抑えている。その分知性を持っており、多少ではあるがアレクとの念話が可能になっている。アレクが更に深く眷属と意識を合わせていくと、眷属達が捉えたイメージが単語としてアレクへと流れ込んで来た。
(『子供』『大勢』『学園』……この方角と合わせて考えると、他のクラスに合流する予定のフィア達かな)
どうやら反応の一つは先程別れたクラスメイト達を捉えたものだったようだ。更にその先には別な人の反応が多数あり、そちらは隣を移動していたCクラスのメンバーだろう。アレクは合流する時の目印に眷属のヴァンパイアバッドを一体随伴させておくことにした。
(ん? フィア達とCクラスの間に数人の反応がある?)
眷属の一体が移動中のAクラスと、離れた場所を移動しているであろうCクラスとの間に、複数の人の反応を感知していた。アレクは送られてくる単語を読み取り、どんな相手かを知ろうとする。
その反応は精々が五名程度で軽装だと言うことが分かった。しかし、子供を連れているような反応が無かった為、アレクはエルフを攫った者とは無関係な冒険者の一団だろうと判断した。
(こっちの反応は――ここよりも北西か)
今までの反応よりも大分離れた地点で、新たな反応があった。
「これは、当たりかな?」
アレクの呟いた言葉に、エルフ達やミリアの顔色が変わる。一時の休憩は終わりだとばかりに、エルフ達から放たれる気配が狩人のそれになる。
眷属から届けられた思念を読み解くと、複数の人間が小さな子供達を伴って移動しているという内容だった。距離は思ったよりも離れているようで、追いかけるには時間がかかりそうだ。
アレクはミリアとアニード達に状況を報告する。
「子供を伴って移動している集団を見つけました。北西の方角で、距離は――走って一時間くらいの距離かな? 相手は歩いて移動しているようなので二時間以内には追いつくと思います」
「わかった、その情報を信じよう。我々を君が騙しても得になる事は無いだろうしな。場所が分かったならば直ぐに移動する。君たちはどうする?」
アレクの説明にアニードは頷いて応える。そして、ミリアとアレクに対してこの後どうするのかと尋ねてきた。その問いかけの意味を掴み損ねたアレクは僅かにクビを傾げてミリアへと視線を向けた。
「勿論、私たちも随行します。もしも同国内の人間の仕業であれば責任を持って捕らえたいし」
即答するミリアにエルフ達から感謝の言葉がかけられた。
「協力感謝する。しかし、我々の移動速度に着いてこれるのか?」
エルフ達は身体強化の魔法を用いて移動するつもりのようだ。この種類の魔法は元の身体能力によって効果が比例するため、鍛えているエルフ達の速度にアレク達は着いてこれないと思われたようだ。
事実、同じように身体強化を行って走った場合、アレク達は直ぐに離され置いて行かれるだろう。だが、アレクは自信たっぷりに頷いてその懸念を解消する。
「大丈夫です。眷属に乗って移動しますから。ミリア先生、さっき見たがっていた眷属の一体を見せますよ」
アレクはそう言うと腰に付けた小さなバックを開け、中からアインを取りだして見せた。
暫くぶりに外へと出ることが叶ったアインはアレクの手のひらの上で小さく伸びをした。驚きの表情でその様子の一部始終を見ていたミリアと、伸びを終えて周囲を見渡したアインの目とがぶつかった。
「かわいい……」
ぼそっと呟いたミリアは、その言葉をアレクにも聞かれたと気づき僅かに頬を染めた。
「んん! その小さな仔が眷属なのかしら?」
ミリアは咳払いをして誤魔化しながら、アレクへと尋ねる。
「はい。これは僕の眷属で《ボーンアニマル》というタイプのアインという名です。普段は見ての通り小さいんですが……。アイン、二人が乗れるくらいに大きくなってくれ」
アレクの頼みを聞き、アインは手のひらから草むらへと飛び降りると、小さく遠吠えをしながら徐々にその身体を巨大化させてゆく。
「ウォン!」
巨大化を終えたアインは、短く鳴くとアレクの傍へと伏せる。
その様子を見ていたミリアや、エルフ達は唖然としてアインを見つめていた。今のアインは体長が三メートル程度の大きさとなり、立ち上がれば馬と同じくらいのサイズになっていた。
「乗り心地は分かりませんが、これに乗って移動します」
アレクの声に、やっと皆が動き出した。驚きは冷めやらないが、今は攫われた子供達を救い出す事が目的である。アニードは気を取り直すと、出発の号令を掛ける。
「後で色々と聞かせて欲しいところだが、今は先を急ぐとしよう。全員! 身体強化を掛けて移動開始。――《風よ、我を運べ》」
アニードとほぼ同時に全てのエルフが短い言葉を発して魔法を完成させた。それはアレク達の使う敏捷度を上げる《クイック》の魔法とは全く異なっていた。
「あれが精霊魔法よ。確か、風の精霊の力で移動速度を上げる魔法だったと記憶しているけど」
アレクの表情を見て何を疑問に思ったのか判ったのだろう、ミリアはそう説明してくれた。
アニードはアレクを一瞥すると、まるで風に舞った草花のように一瞬で森の奥へと消えていった。
「あれは、すごいですね。《クイック》なんかと比較にならない速さでした」
あまりの速度にアレクは驚きを隠せなかった。あの速さのまま強襲でもされたなら何も反撃できずにやられてしまうだろうと感じた。
「あれが人族と比べて人口が少ない彼らが生き残っている理由ね。古代語魔法と精霊魔法を用いて、更には精霊を使役する。人族と比べて筋力は弱いらしいけれど、弓の扱いは上手いわ。下手な人族の軍なんかじゃ近づくことも出来ずに負けてしまうのよ」
成人し、精霊魔法を習得したエルフは強い。だからこそ人攫い達は子供のエルフを狙うのだろう。
「さて、じゃあ僕達も移動しますか。アイン、あれに追いつけるかな?」
「ウォン!」
アインはアレクの問いかけに力強く吠えて返事をした。そして早く乗れとばかりに自らの背中へとアレクを押しやる。
まずはアレクがアインの背にまたがり、その座り心地を確認する。狼は腰に近くなると伸縮し揺れがひどい為、肋骨の上にまたがり肋骨に足を掛けると、思ったより安定して良いようだった。
「ミリア先生、僕の後ろに捕まってください」
アレクの言葉に従い、ミリアが恐る恐るアインにまたがる。そうして前に居るアレクの腰へと腕を回すと、落ちる事の無いようしっかりとしがみつく。
「よし、アインいいよ。うわぁ!」
アレクが良しと言うのとほぼ同時にアインは力強く立ち上がった。そしてエルフ達が消えていった方向へと一気に駆けだしたのだった。




