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六話 雑貨商バンドンと加護話.

 アレクがシルフの気まぐれ亭から出て教えられた道を進むと、程なく雑貨商の看板が見えてきた。宿からそれ程遠くなかった事に安堵しながら店の中へと入って行く。


「おや、いらっしゃい」


 店に入ると店内を所狭しと様々な品が陳列されていた。店内に入った正面にはカウンターがあり一人の男性が座っていたが、入って来たアレクを見ると立ち上がって挨拶をしてきた。


「こんにちは。シルフの気まぐれ亭のティルゾさんから、魔石の買い取りをしていると伺ったんですけど……」

「ほう。ティルゾの紹介かい? 確かに家で買い取りもやってるよ。魔石は物によって値段がばらつくから見てからでないと値段は言えないけどね」


 アレクが挨拶をして用件を伝えると男は笑顔で言葉を返してくれた。どうやらティルゾの言うとおり魔石の買い取りをしてくれるらしい。アレクはほっと息を吐くとカウンターへと足を進めた。


「僕はアレクといいます。バンドンさんのお店と聞いたんですけどご本人ですか?」

「おっと、名乗ってなかったね。そうだよ、私がバンドンだ。早速売り物を見せてくれるかい?」


 どうやらカウンターに座っていた男がバンドン本人だったようだ。

 アレクはバンドンに急かされながら、布袋から三つの魔石を取り出してバンドンへと見せた。

 魔石は薄い青と濃い青の物が一つずつと薄い緑の物が一つだ。アレクはこれらが幾らで売れるか全く分からないので不安だったがティルゾの紹介という事もあり、買い叩かれる事は無いだろうと信じる事にして手渡した。


「ほう、因みにアレク君は魔石の種類と価値について知ってるかい?」


 バンドンは宝石を手に取り、光に透かして見ながら聞いてきた。

 バンドンからの質問にアレクは首を横に振った。そんなアレクを見てバンドンは一冊の本を棚から取り出すとアレクに開いて見せた。


「ほら、これが魔石の種類と一般的な相場だよ。魔石は色、大きさで値段が変わる。それぞれ中に有している魔力の量が異なるんだ。今後も魔石を売る事があれば覚えておくといい。知らないで持ち込むと買いたたかれるからね」


 どうやらバンドンは誠実な人柄らしく、アレクに本を見せながら種類と相場をしっかりと教えてくれた。但し、需要と供給によって相場は多少変動することもあるけどねと例外があることも付け加えたが。

 バンドンが開いた本には、綺麗な絵が描かれていて、その横に値段らしき数字が書かれていた。


「今は特に相場に偏りが無いから気にしなくていいけどね。これら三つで銅貨十六枚ってとこだな。問題が無ければその値段で買い取らせて貰うけど、どうする?」


 バンドンから見せられた本と自分の持ち込んだ魔石を見比べながら適正かどうかを計算する。魔石の色は白、黄、緑、青、紫、赤の順で価値が高くなる。緑以降は、薄いものと濃い物があり、濃い魔石の方が高い。

 薄い緑はさほど高く無く、鉄貨五十枚程度の値しかつかなかった。薄い青が銅貨五枚、濃い青が銅貨十枚と本には書かれていた。

 因みに、緑と青の魔石は弱い魔物から得られる為あまり高くは無い。だが、紫と赤はかなり上位の魔物からしか得られない為に一気に値段が跳ね上がる。



 相場は以下の通りだ。

 白=鉄貨五枚、黄色=鉄貨十枚

 薄い緑=鉄貨五十枚、濃い緑=銅貨一枚

 薄い青=銅貨五枚、濃い青=銅貨十枚

 薄い紫=銅貨五十枚、濃い紫=銀貨一枚

 薄い赤=銀貨五十枚、濃い赤=金貨一枚


 一番安い白色の魔石だと大した金額では無いが、一番高い魔石となると平民が一生働いても得られない程の額となるようだった。

 これだけの値が付くだけに、多少腕に覚えのある者は冒険者となり魔物を狩る職に就くものが後を絶たない。だが、冒険者になれば誰でも富を得るかと言えばそうではなく、魔物に殺されて短い生涯を閉じる者も多いのだ。


「アレク君はまだ若いようだから冒険者では無いんだろう? 冒険者なら私みたいな雑貨屋に持ち込まずギルドへと持っていく筈だしね」

「ギルドですか? 確かに僕は田舎の村から出て来たばかりですし、冒険者では無いです」


 バンドンの言葉にアレクは首を横に振って否定した。冒険者ギルドでも魔石の買い取りはしているらしい。闘う術の無い自分はギルドへと登録することも出来ないだろうし、出来たとしても魔物にあっさりと殺されるだろうという思いもあった。だからこそ、学園に入ろうと思っているのだが。


「まあ、事情があるんだろうし魔石の出所は聞かないよ? だけど、お金が欲しいからって魔物に安易な気持ちで挑むとあっさり殺されるからね。絶対しちゃいけないよ?」


 アレクを心配してくれているのだろう。バンドンの言葉に素直に頷くとアレクはその値段で了承しお金を受け取った。


「ご心配ありがとうございます。出来れば学園にでも通って剣なり魔法を覚えたいと思ってますので、冒険者になるとしたらその後ですね」

「おや、学園に入りたいのかい? 私もね、昔は学園に通っていたんだよ」


 どうやらバンドンも学園の卒業生のようだ。レベッカから聞いた内容とほぼ同じ――若干年代が違うので異なる情報もあったが――話を聞かされる。バンドンが通っていた頃は今よりも学費が安く、毎年何人かは平民でも学園に通っていたとバンドンは話す。だが、年々学費は上がっており、この十年で平民が入学したのは数えるほどなのだと教えられた。


「そうだ。アレク君は神殿で洗礼は受けたのかい?」


 バンドンから聞いたことの無い単語が出て来たのでアレクは意味が理解できずに聞き直した。


「洗礼ってなんですか? 神殿と学園って何か関係が?」

「学園は関係ないが王都の者は成人となる十五歳辺りで、神殿に行って女神様の洗礼を受ける習慣があるんだ」


 田舎で生まれ育ったアレクでは知らなかったが、大きな街の住人であれば成人となる十五歳までに、神殿で洗礼と祝福をして貰う事が昔からの風習としてあるようだ。


「その時に女神様の御目にとまると、加護を授かる場合がある。万が一加護を授かれば様々な能力が手に入るよ。人によって戦闘系や生産系、もしくは生活の中で活かせる能力を得られるんだ」


 加護の種類は多種多様だ。商売の役に立ちそうなものから戦闘の役に立つもの。一見何の役に立つかわからないものまで際限なくあるようだ。まるでゲームのスキルのようだな、とアレクは思った。

 加護の内容によって、その後の人生が変わった人もいるそうだ。戦闘系の加護を得た事で、唯の村人から英雄へと上り詰めた者。逆に冒険者を目指していたが、加護が料理だったが為に食堂を開いて料理人になった者などだ。それらの話をバンドンは面白おかしく話してくれた。


「だから、学園に入るなら先に洗礼を受けたほうがいいよ。運よく戦闘系の能力を授かれば有利になるだろうしね。洗礼は銅貨五枚で受けられるし。ま、加護を授かれなくても悲観することは無いよ。加護を授かる人は万人に一人くらいなのだから。私も加護を授からなかった」


 アレクとしては、加護に頼らずともこうして商いをしているのだから立派だなと思う。


「そうなんですか、可能性があるなら一度神殿へと行ってみようと思います」


 アレクは礼を言いながらも内心では自分には既に加護があるのだろうと確信していた。


(一度死んだのに生き返った事と、傷の治りが速いのは何かしらの加護がある可能性は高い……。あれ? でも加護を授かる前から効果が出てるのか? どちらにしろ、あの時聞いた声を確かめる為に、神殿には赴く必要があるからな)


 そう心の中で混乱しながらも、アレクはバンドンへ礼を言い宿へと帰る為に店を出た。




「加護か……」


 宿へと戻ったアレクは、ベッドへ横たわりながら呟いた。先程バンドンから聞いた話を思い返しながら、明日には神殿へと赴き洗礼を受けようと決意する。

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