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六十四話 捜索隊

 エルフの男は先程までの態度が嘘のように素直になり、大人しく話し合いの場についた。誤解が解けたことで捕らえていたエルフ達も開放することになったが、揃ってアレクに怯えた様子を見せている。アレクとしても自覚はあったので若干申し訳ないとも思う。


「本当にすまなかった。怒りで我を忘れてしまっていたようだ」


 そういって頭を下げたのは、捜索隊を率いていたアニードという名のエルフだった。手段はともあれ、アレクの行為によってエルフ達は冷静さを取り戻したようだ。


「謝罪は受け取りました。それよりも、子供を捜す事のほうが先ですね。……捜索隊はアニードさん達の他にも居るのですよね? その方たちはどちらへ向かったのですか?」


 ミリアはゼファール国北部の地図を広げながらアニードから話を聞いている。ユグドラルからの捜索隊がどの程度居るかによってミリアは自分達の行動を決めようと考えていた。


(もし、この国の人間がやったのであれば国交問題に発展してしまう……。とは言っても今は生徒達の引率で来ているのだし自由に動ける人数は限られているわね)


 もしもエルフの子を攫った犯人が近くに居るのであれば、ミリアは生徒達の安全を第一に考えなければならない立場にある。しかし、一度街まで戻ってからでは犯人を逃がしてしまう確率が高いので行動は慎重に起こさなければならない。


「ゼファール王国へと越えてきたのは俺の隊と、もう一つだけだ。こっちとは別にラムサーフ公国に二つのチームが向かっている」


 アニード曰く、エルフの捜索隊は四チーム。当初誘拐犯の向かった先が判らなかったエルフ達は、その内二チームをラムサーフへと向かわせたようだ。

 ゼファールとの国境を越えた場所で野営をした跡が見つかった事から、犯人はゼファールへと進んでいる可能性が高いのだとアニードは告げた。しかし、森は広大であり自分達の住んでいる森とは違って土地勘が無く、想定よりも捜査が難航していたようだ。


「ミント様だけでも必ずお救いしなければ……」


 悲痛な面持ちでいたアニードが呟いた名に、ミリアは首を傾げた。アニードと出会った際にもその名を聞いた気がしたのだ。

 尋ねると、ミントという子は族長の血筋であり、将来の族長候補の一人なのだとアニードはミリアに説明した。同年代の子供達と遊びに森へと向かい、攫われてしまったようだ。

 アニードの話を聞き終えたミリアは、今後の方針について相談するため、少し離れた場所で様子を伺っている生徒達のところへと向かった。


「――という事情で、このまま誘拐犯を放置しておくと、この国とユグドラルの関係が悪化する危険性があるの。私はエルフと共に捜査へと参加します。みんなは予定を変えてCクラスと合流、その後に今夜の野営を行って貰います」


 ミリアの話を聞いた生徒達は騒然となった。中にはエルフの子供を助ける為に、捜索隊を生徒でも組むべきではという意見も出たがミリアはそれを却下した。


「相手は人を攫うような事を厭わない奴らよ。もし貴方たちが犯人と出会えば口封じに殺される危険性だってあるわ。だから認めることは出来ないの、指示に従って明日には予定通り街へ戻って頂戴。ね?」


 捜索のために頭数が欲しいのは確かだが、生徒を同行させるには余りにも危険過ぎる。例え剣や魔法の腕で生徒の方が勝って居たとしても、命のやり取りに発展した場合に躊躇いから遅れを取る事があるのだ。

 ミリアの説得に生徒達は顔を俯けて押し黙るしかなかった。魔物と戦った経験はあっても、同じ人間と命のやり取りをした経験を持つ者は居ないのだから。


「でも、これだけ広い森をたった数人で捜すのは……」


 生徒の誰かがぽつりと呟いた。確かに正論ではあるが、エルフの為に大規模な捜索隊を組むには王からの許可が必要となる。そんな悠長な事をしていては誘拐犯を逃してしまうのは明白で、時間的にも距離的にも無理だと誰の目にも明かだった。


 ミリアとクラスメイトのやり取りの最中、アレクはどう行動すべきか考えていた。自分の能力を使えばエルフを攫った者達を捜す事も無理ではないだろう。しかし、それを行うには眷属について話さなければならない。


(僕は現状を打開できる力を持ったのに行動を躊躇うのか? 大切な人を二度と失わない為に……理不尽な暴力に屈しないために強くなろうとしているんじゃなかったのか)


 攫われた子供達と面識があるわけでも無く、本来ならアレクが行動を起こさなければならない必要性は無いだろう。だが、だからといって手段を持ちながら見捨てるような事はしたくないとアレクは強く思う。


「ミリア先生、僕も捜索に参加させてください」


 アレクの申し出に生徒や同行していた騎士から驚きの声があがる。そんな中、ミリアとフィアだけはアレクの意図するところが理解出来たようだ。

 二人の脳裏に浮かんだのは、フィアの母親が誘拐された時に、捕らえられた場所を探し当てた実績があるという事であった。フィアはアレクのおかげで捜し出せた事を知っていたし、ミリアはその事実を知らないまでも、可能性としてアレクが何かをしたのだと推測はしていた。


「成る程、捜し出せる手段があるのね?」


「確実とは言えませんが……」


 ミリアの問いに応えるアレクの目は、言葉とは裏腹に自信があるように思われた。


(アレクが秘密にしている事が関係しているのは確かね。見ず知らずの相手を捜す為にそこまでするなんて、お人好しな弟子ね)


 そうミリアは思ったが、アレクからすればミリアも同類である。見ず知らずのエルフの捜索に自らが加わらなくとも、街の騎士団へと報告するだけでミリア個人と、学園としての体裁は保たれるのだから。


「いいのね?」


 何がとは言わずとも、アレクにはミリアが何を言いたいかが判った。


「人攫いや盗賊なんかは許せませんから」


 そう言い切ったアレクの目には躊躇いは無い。




 アレクの返事を聞いたミリアの決断は早かった。生徒達には自分の弟子だからという理由で同行をごり押しして納得させ、生徒は騎士たちの先導によって他のクラスへと合流させる事とした。アレクの持つ秘密に関する事であれば、他人の目が少ない方が誤魔化しやすいとのミリアの判断だった。


「アレク君、無理しないでね?」


 捜索隊が出発する前に、そう声を掛けて来たフィアにアレクは頷く。

 出来るならばフィアとしてもアレクと同行したいという気持ちはあったが、足手まといになる事を嫌って断念した。こういった時に、まだアレクの横に並んで戦えないのだと実感するのだった。





 クラスの皆と別れ、周囲の目が無くなった頃を見計らってアレクが口を開く。


「一つ聞きたいんですが、攫われた子供達が身につけていた物とか持ってないですよね?」


 アレクの問いにエルフ達は言葉の意味は理解出来なかったが即座に首を横に振った。この世界の住人達には猟犬という概念は無い。また、追跡が出来るような魔法も無いために、不明者の持ち物を所有している筈も無いのだ。


「ミリア先生、奥の手を使うつもりですが出来れば人の目に触れさせたく無いんですよね」


 アレクはそう言ってちらりとエルフ達へ視線を向ける。ミリアに対しては信頼しているので、知られても黙っていてくれそうだとアレクは思っているが、エルフ達は先程出会ったばかりの相手であり、そうも行かない。

 アレクの言葉を受けて、アニードは憮然とした表情でアレクに言葉を返す。


「アレクと言ったな。貴様がどのような方法でミント様達を捜すのかは判らんが、手段もわからず『はい、あっちです』と言われてもこちらも信用出来ん。もしも子らを捜す手段があるのだとすれば、目の前でやって貰いたい。ミント様や子供達を救えるのなら、エルフと精霊の御名に誓って他言しないと誓おう」


 エルフの男達もアニードの意見に同意のようだ。彼らの言い分も判らないでも無い。子供らの命が掛かっている状況下で、互いに信頼の置けない相手が『あっちに居ます』と言ったからと信じられる筈も無い。


「気持ちは分かりますけどね。こっちとしても時間が惜しいので言い合いはしませんが……。ミリア先生、精霊の御名に誓うっていうのはエルフにとってどれだけ重い事なんです?」


 人間の言う『神に誓って』という言葉も、聖職者がそれを口にするのと一般人が口にするのでは言葉の重みが違う。ましてや神罰が無いのであれば、所詮はただの口約束でしか無いのだ。


「エルフにとっての精霊との誓いは割と重いほうね。エルフは私たちと違って小さな集落で過ごす事が多いから、約束は大事にされていると聞くわ。――学園長が建国から数百年経つのに、いまでも学園に留まっているのも、建国王との約束を今でも守っているからだ、とも言われてるわね」


 ミリアが知っている限りでは、エルフの約束事は人間のそれよりも重いようだ。そうであるならば、その誓いを信じてみようとアレクは決めた。

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