五十七話 合宿.
長時間PC座っている割に文字数が少ない……
夏の暑さが和らぎ、山は秋らしい色へと変わりつつある頃。
学園では冬を前に、学年ごとに行われる合宿の準備に追われていた。この合宿は野宿などの実地訓練と、生徒同士の連携を培うための行事である。
ゼファール王国は決して平和な国ではない。東には魔物が溢れる未開拓地があり、西の帝国は虎視眈々と領土を奪おうと狙っている。何時大規模な戦いが起きるかも知れないこの地で、大規模戦争の訓練は必須科目となっている。
生徒達は授業中やダンジョンへ潜る場合において、四名で一組の班単位で行動する事を基本としている。今回の訓練ではクラス全員を一つのチームとして行動する、いわゆる小隊での訓練が行われることになっている。さらに五つあるクラス全員で行動する中隊訓練までが今回行われる訓練のすべてである。
貴族は戦争ともなれば、千の単位で人を指揮する場合も起きえる。その予行演習の場となっており、親の爵位が高く、将来武官を目指している生徒から順に指揮官へと割り振られる。ではアレクのような平民が参加して何をするのかと言えば、ただの兵士役である。
因みにアレクのチームの班長は、卒業後騎士を目指しているランバートに決まった。本来であれば騎士団長の息子であるランバートは小隊長でもおかしくない。しかし、クラスにもう一人騎士団に所属している父親を持つ生徒が居り、そちらの生徒が嫡男だった為に譲ったようだ。
「まあ、俺は次男坊だしな。それに指揮とかは面倒くさい」
ランバートはそう言って普段の指揮もアレクに丸投げしていた。本人としては何も考えずに剣を振るっているほうが気楽でいいのだと言う。だが、アレク達は知っている。ランバートは面倒くさがり屋ではあるが、決して馬鹿ではない。無謀な行為はしないし、それなりに周囲を観察する目を持っているのだと。
「立場的に班長はやるけど、何時ものように全体の把握は任せたぜ」
そう言ってアレクの肩を叩くランバートにアレクは頷く。同じ後衛としてエレンでも良いのだが、彼女はまだ詠唱の破棄が出来ず、指示を出していては魔法が途切れてしまうのだ。
「それでエレン、今年の合宿場所は何処になりそうなの?」
そう聞いたのは、アレクの隣に立つフィアだ。
「まだ発表されてはいないけれど……東と西は元から候補外だと思うから、南北のどっちかじゃない?」
席に座り本を読んでいたエレンが、顔を上げて答える。
エレンも合宿がどこで行われるかの情報を持っている訳ではなく、あくまで推測を述べているだけだ。しかし、常識的に考えて危険性の高い東西はないとエレンは考えた。そうなると単純な消去法で南北のいずれかしか無い訳である。
そんな話をしていると、担任のミリアが教室へと入ってくる。しかし、何時もと異なるのはミリアの後ろから見知らぬ女性が共に入って来た事だ。年の頃はアレク達よりも僅かに年上だろうか、まだ少女と呼べる容貌である。アレクは記憶を思い返してみたが、学園の教師で見た記憶が無かった。
「おはよう。皆さん来週行われる合宿の件は既に知っているわね? このAクラスの担当は私と、こちらのシェーヌさんに決まったわ」
ミリアはそう全員に話すと、シェーヌを紹介した。
シェーヌと紹介された少女は、やはりこの学園の教師ではなかったようだ。歳は十五で、騎士団に所属しているのだという。普段は北部にある街の治安を護る仕事に就いており、今回行われる合宿中の案内役なのだとミリアが説明した。
「シ、シェーヌと申します。騎士団一年目の若輩者ではありますが、皆様の案内役を仰せつかりました。よ、よろしくお願いします」
緊張しているのか、幾度か噛みながらも自己紹介を終えたシェーヌ。ブロンズ色のふわっとした髪に、僅かにそばかすの跡が残っているものの、可愛い顔立ちをしている。クラスの男子の半数はそんなシェーヌへと質問を投げかけ始めた。
「シェーヌさんは北部のなんて街に勤めてるんですか?」
「得意な武器は何ですか?」
「シェーヌさん! 彼氏とかいるんですか?」
どうでも良い内容から、プライバシー無視な内容まで一斉にかけられた問いにあわあわと慌てるシェーヌに、更に男子の熱がこもる。そんな男子の行為に、女性陣は冷めた目で騒いでいる男達を見やる。
「静かに!」
いい加減に鬱陶しく思ったのか、ミリアが声を張り上げて男子を静かにさせる。ミリアをあまり怒らせると物理的な雷が落ちる為、騒いでいた男子は途端に大人しくなり席で小さくなる。何故か隣に居たシェーヌまでもが怯えていた。
静かになった教室の中、再び質問の声が上がった。
「シェーヌさんは、王都に居る騎士団のレベッカという騎士はご存じですか?」
上がった声の主に教室中の視線が集まる。その視線の先に居たのは言わずと知れたアレクだった。
「え? レベッカを知ってるの?」
唐突に出た名前に、シェーヌはきょとんとした顔でアレクを見ている。そんな二人をミリアを始め、クラスの皆が驚いた顔で見ている。若干、フィアの視線だけが怖く感じたのは気のせいだろう。
「歳が同じのようだったので、もしかしたらと。レベッカさんは学園に入る前にお世話になった方なんですよ」
事情を説明するアレクに、知己の名が出たことが嬉しかったのだろう。シェーヌの肩から力が抜けて表情にも笑顔が見られるようになった。
そんなアレクに、また可愛い子が一人取られたとクラスの何人かが愕然とし、フィアはレベッカという知らない女性の名前が出た事に、アレクを見ていた視線を強くしたのだった。




