一巻発売記念SS
本日、一巻の発売を記念してSSを一本書きました!
書籍のおまけとは全く別の内容なので、購入してくれた人も楽しめると思います。
ただし、内容は割と暗めなので楽しめるか微妙なのですが(汗
一巻発売記念SS
とある王国の小さな開拓村で男の子の元気な産声が上がった。三人目となる我が子の誕生に父親とその妻はとても喜んだ。
父親は産まれたばかりの我が子を抱きかかえながら、何と名を付けるべきか悩む。
「そうだな。『護る』という意味でアレク(alek)と名付けよう。我らの子が、この危険と隣り合わせの世界で、自らと大事な人を護れるように」
夫の付けた名に、妻である女性は静かに微笑んだ。
「ふふ。良い名前ですね。さあ、いっぱい飲んで元気に育ってね、アレク――」
夫から我が子――アレクを返して貰い、乳を与えるべく胸元に抱き寄せながら囁いた。
まだ小さな子が、唯々幸せな人生を歩んでくれる事を願って。
ゼファール王国は建国からまだ数百年の歴史しか無い。大陸にある国々の中では比較的新しいほうである。西には大国のソティラス帝国、北方はラムリーフ公国とエルフの国であるユグドラルの三カ国と国境を接している。
北方の二カ国との関係は悪くない。しかし、西のソティラス帝国は間に山脈を挟んでいるにも拘わらず何かとちょっかいを出してくる。帝国が周辺国への侵略を目論むのは、帝国の周囲が他国に囲まれていることが原因となっている。
ソティラス帝国の南には海が広がっており、人類が大破壊時代において魔物から逃れたとされる『終焉の島』がある。終焉の島――今では『再生の島』と呼ばれているが、その島は帝国領では無い。理由は、人類全ての財産であり女神の降臨した地として神殿に所有権が認められている為だ。
そして、大陸では帝国の三方向が全て小国で囲まれてしまい、これ以上領地を広げる事が出来なくなっているのである。それとは逆に、周辺国は未だ未開拓地が周囲に広がっており、年々拡張の一途を辿っている。
このままではいずれ、帝国と周辺国の国力は逆転するだろう。だが、それを帝国は認めることは出来ない。結果として、周辺国が未開拓地を切り拓き領土を広げる度に戦をしかけてくるようになった。
アレクが三歳の時、帝国はゼファール王国へと侵略するため戦争を仕掛けてきた。多くの戦士や魔法使い、そして神殿の神官を犠牲にして何とか帝国の猛攻を退けることに成功した。
アレク達の住まうロハの村は開拓を始めて間もなかった事もあり、村人が戦に駆り出されることな無かった。それでも国からの開拓資金は減らされたし、物流も悪くなるなどの影響は出た。
決して豊かとは言えない環境の中で、アレクは幼少期を過ごす事となった。
それから五年の歳月が過ぎ、アレクが八歳となった頃、アレクは妙な夢に魘される事が多くなった。それは、前世の記憶だと後になって分かるのだが、当時のアレクにはまだ理解出来なかった。
「ねぇ、父さん。変な夢を見るんだけど」
ある日、アレクは夢で見る地球の事について相談したことがあった。最初は子供の話すことだと笑っていた父だが、幾度となく聞かされるにつれ、表情に厳しさが表れるようになった。
「アレク。そんな便利な世の中というのは、少なくともこの国では聞いたことが無い。夢を見るのは良いが、現実としては有り得ない」
アレクの父は他の村人よりも学があった。この村へと来る前は別な国に居たらしく、ゼファールには無い文化などにも多少の知識がある。だが、アレクの見る夢の中身は、あまりにも荒唐無稽な内容過ぎた。アレクが他の村人からおかしな目で見られる事の無いよう、決して夢の内容を他人に話さないようにと約束させた。
それから数年間にわたり、アレクは夢を見続けた。村の暮らしをよくすることが出来そうな内容
の夢を見ることもあったが、父との約束を守り誰にも言わずに五年を過ごすことになる。
そんなアレクは次第に口数が減り、家族以外の者と話すことが無くなってきていた。誰かと話せば夢の話を喋ってしまうかもしれないという恐れがあったのだ。
そんなアレクにも、分け隔て無く接してくれる幼なじみという存在が居た。アレクよりも二歳年下の少女で名前をソミアといった。
「ねぇ、アレクお兄ちゃん! また川で『水切り』しよう? 今日こそはお兄ちゃんに勝つんだから!」
ソミアはアレクから教えられた水切りという遊びに夢中だ。水切りとは平べったい石を水面に投げて跳ねさせる遊びの事だ。一人で居る事の多かったアレクが、川辺で遊んでいたのを偶然ソミアに見られてしまい、面白そうだと教える羽目になった。
娯楽も無く、子供が遊ぶような遊具の無いこの村において、アレクの行っていた水切りは手軽に遊ぶ事が出来た。どちらが多く跳ねさせることが出来るか競える事も、夢中になった理由の一つだろう。
手伝いの合間に、よく二人で連れ歩く姿を村の人々は微笑ましい表情で見つめていた。狭い村での事だ、将来はきっとアレクとソミアが結婚すると村の誰もが思っていた。――あの忌まわしき盗賊団さえいなければ――
「はっ!」
アレクは勢いよくベッドから飛び起きた。どうやら昔の夢を見ていたようだ。
今は失ってしまった平穏な日々の夢に、悲しみと同時に盗賊団への怒りを感じる。
「お父様。どうなさったのですか?」
急に飛び起きたアレクに驚いたアンが、主を案じて傍へと身を寄せた。
「いや……ちょっと昔の夢を見ただけだ。驚かせてごめん」
アレクはそう告げると目元に浮かんでいた涙を手で拭った。どうやら夢を見ながら少し泣いていたようだ。
(悲しんでいても現実は変わらない。何時か家族とソミアの敵を取って、墓参りに行こう)
王都に来てからの慌ただしい毎日に、少しずつ故郷での記憶が薄れてきていた事に気づき、アレクは衝撃を受けた。きっと、忘れて欲しくないと願ったソミアが見せてくれたのだと、アレクには思えた。
何時かは思い出として記憶の彼方へと追いやられるのかもしれない。しかし、そうなるのは少なくとも村を襲った濡れ鴉を倒してからだとアレクは再び目を閉じ眠りについた。




