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五十二話 黒い悪魔.

 ダンジョンへと潜ってから六時間が経過した頃、アレク達一行は二層の守護者部屋であろう扉の前に辿り着いていた。


「はぁ、はぁ。一層より早く辿り着けたから良かったけど……やっぱり敵の数や種類は一層の比じゃねぇな」


 四人の内、体を動かすランバートやリールフィアには疲れの色が色濃く浮かんでいた。休憩中にも絶えず襲って来る魔物によって、ここまでまともに体を休めることが出来なかったのだ。

 加えて、武技を頻繁に使用して戦ってきた所為で魔力も大分消費してしまったのだろう。それに比べてエレンやアレクは魔力量も多く、まだ余裕があった。前衛である二人に比べ、体もそれ程動かしていない事も理由だろうが。


「今の状態で守護者部屋は厳しいんじゃないかしら?」


 監督であるミリアは四人の状況を観察してそう提言する。

 守護者も一層より強い魔物である事は想像に難くない。疲れもそうだが、何より魔力が減っている状態では長期戦にもつれ込んでしまうと魔力枯渇になる恐れもある。


「ミリア先生。折角ここまで来ることが出来たし行かせて下さい」


 ミリアの言を受けて四人で相談した結果をリールフィアが告げる。

 決して攻略を急いでいる訳でも無いが、今引き返してしまうと帰路で出会う魔物と戦って帰らなければならない。入り口へ一瞬で戻ることの出来る《帰還札》も全員持ってはいるが、それは最後の手段として取っておきたい。

 それよりも守護者を倒してしまえばその部屋から三層や入り口へと転送できるクリスタルが手に入るのだ。どうしても先へと進みたいという気持ちのほうが強くなる。


「戦闘時間を三十分くらいと考えて、ここで最大二時間は休憩できますよね? 途中で魔物が近づいてくれば困るけど、最悪でも一時間休憩取れれば守護者とも十分戦えると思うんです」


 そう言うリールフィアの言葉をミリアは静かに聞きながら状況を分析する。


(疲労感から見てランバートとリールフィアの魔力は残り半分くらいかしら? エレンとアレクはもう少し残っていそうね。確かに一時間も休憩を取ることが出来れば肉体的疲労は回復するでしょうけど。魔力は武技を二回、いえ三回分戻るかどうかね)


 ミリアは勿論の事、アレクやエレンのように魔力量が多ければ時間当たりの回復量も多い。だが、元々前衛職であるリールフィア達では一時間程度休んでも回復量はたかが知れている。

 前衛である二人の魔力が減り、武技が使えなくなれば自然とアレク達の手数勝負となる。そうなれば今は十分魔力が残っているアレク達にしても魔力切れになる可能性は高い。


「気持ちは分かったわ。ただし、前へ進むのであれば最低一時間半は休んで魔力を回復しなさい。途中魔物が近づいて来た時はアレクとエレンで可能な限り対処。ランバートとリールフィアは武技を使用しない事を条件に戦っていいわ」


 ミリアから告げられた条件に、四人は黙って頷いて了承する。

元より可能であれば二時間は休憩して魔力を回復させたいと考えていた四人である。出来れば魔物が近づいて来ませんようにと願いながら四人は体を休める事にした。





 休憩を開始してからおおよそ二時間。その間、二度魔物が近づいて来たが、アレクやエレンの魔法により近づく前に仕留めることが出来た為、リールフィア達前衛が動く事態にはならなかった。

 迎撃するために用いた魔法も、出来るだけ音が出ないように風属性を多用し、余計な魔物を引き寄せないよう気をつけていた。


「よっし! おかげで二時間は休めたから体力も魔力もかなり回復した。二人ともありがとうな」


 長い時間座っていた為に固くなった体を伸ばしながらランバートがアレク達に礼を言う。


「本当、助かったわ。これならどんな魔物が守護者でも全力を尽くせるわ」


 休憩前とは違い、ランバートもリールフィアの顔にも疲労の色は殆ど無かった。そんな四人を見て、ミリアは頷いて進む許可を出す。

 ランバートとリールフィアが守護者部屋の扉を押し開ける。徐々に開いてゆく扉の隙間からアレクが暗視の能力を用いて中をのぞき込む。灯りのともっていない石室の中からは、小さく乾いた音が聞こえる。だが、見える範囲では魔物の姿は見つけることは出来なかった。



 扉が人の通れるくらいに開くと、四人とミリアは守護者部屋へと突入した。

 奥からは絶えずカサカサと乾いた音が小刻みに聞こえている。音の正体を掴むべくアレクとエレンは《ライト》の魔法を連続して唱え、部屋の全域を照らす。

 次の瞬間、背後の扉は自動的に閉じてしまった。背後の閉じた扉も気になったが、それよりも灯りに映し出された魔物の正体を掴もうと灯りの強さを強めていく。


「ひっ!」


 その光景を見た瞬間、小さく悲鳴をあげたのは誰だったのか。見ればリールフィアもエレンも、ミリアですら一歩後ずさっていた。


「おいおい……まさかこいつら――コックローチか?」


 ランバートのうわずった声に、女性陣三人は涙目で首を横に振っている。

 ――そう。アレク達の見える範囲に居たそれは、大量のGの姿をした魔物だったのだ。


 見渡す限りを埋め尽くす程の黒い魔物。《ライト》の灯りを受けテカテカと光っている大量の魔物はアレクの記憶にもあったアイツである。


「「「いやぁぁぁぁぁぁ!」」」


 遂に耐えきれなくなった女性三人から悲鳴があがる。

 その声に反応して数百はいるであろう黒い悪魔が一斉にアレク達の方を向く。体長は一メートル程もあるだろうソレは、長い触覚を小刻みに振るわせながらじりじりと近づいてくる。


 既に女性陣は入って来た扉へと全速力で移動し、閉じている扉を開けようとする。だが、何故か扉は頑なに閉じたまま開く気配が無い。

 女性陣が完全な混乱状態になってしまい、現状戦線に立っているのはランバートとアレクだけだ。その二人とて、Gの姿をした大量の魔物にどう対処して良いか悩んでいた。


「おいおい。この数じゃ直接殴るのは無理だ。アレク何かあいつらを一掃出来るくらいの魔法を持ってないか?」


 既にランバートもアレクの横まで後退していた。彼我の距離は十五メートルを切りそうになっている。この数が一斉に飛んで襲って来るかと想像するだけで鳥肌が立つ。


 アレクは考える。奴の弱点は何だったかと。


(ホウ酸? 界面活性剤? どっちも魔法じゃ無理だ。あと何だっけ……確か寒い地方には居ないって聞いたことがある)


 思い出すのは前世の記憶。

 前世の自分の妻が奴を嫌いで何時も騒いでいたのを思い出す。北東北や北海道なら住み着けないと騒いでいたような記憶が蘇る。

 はっとアレクは顔をあげた。


「ランバート! フィア達のところまで下がって盾で皆を守るんだ!」


 アレクにしては珍しい大声に、ランバートは慌てて女性陣のところまで走る。


「ミリア先生! 全力で耐氷魔法の準備を!」


 パニックに陥っているミリアがはたして自分の言った言葉の意味を理解してくれているかわからないが、既にGの魔物との距離が残り十メートルとなっていた。


「魔力を全部つぎ込んでやる! 《アブソリュートコールド》!」


 アレクが叫ぶ。

 唱えた魔法は以前ミリアと実験した絶対零度の氷を生み出す魔法だ。アレクの立っている場所から扇状に極低温の冷気が吹き荒れる。冷気に当てられた黒い魔物は逃げる間も無く一瞬で氷漬けとなった。

 突如として吹き荒れる極寒の風に、ランバートは女性陣を護るように盾を構えて自らも盾の影へと隠れる。


「「きゃあ!?」」


 突然のことに訳が分からなかったエレンとリールフィアは小さく悲鳴をあげてランバートの後ろへと屈む。だが、ミリアだけはアレクの唱えた魔法に気付いて即座に氷耐性をあげる魔法を唱えた。


「《アイスプロテクション》!」


 ミリアの魔法によってランバートを含めた四人を包むように、水色の膜が覆った。彼女が唱えた魔法は属性防御の魔法で、対応した属性の威力を弱める効果がある。


 しかし、アレクの唱えた絶対零度の氷は通常の氷属性のものより強い。冷気を含んだ風が止むまで、ミリアは何度も繰り返し魔法を唱える羽目になった。

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