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五十話 油断.

 仲間の成長ぶりに驚いたアレクではあったが、これが戦闘中である事を思い出す。後続の狂犬達クレイジードックへと範囲魔法を叩き込んだ。既にエレンの《アースショット》によって弱っていた魔物は、アレクの魔法を受け瀕死の重傷となった。


 ランバートとリールフィアはその間にそれぞれの眼前に居た魔物を倒し終えており、《フレアウォール》が消えると同時に残った残敵にとどめを刺していく。

 気付けば六匹もいた狂犬は全て倒し終えており、辺りには濃い血の臭いが立ちこめていた。この戦いの中で前衛の二人は何度か武技を使用していたが、それぞれが覚えている武技は一つだけなのか、他の技を使う事は無かった。



「驚いたなぁ。ランバートやフィアが武技を覚えてたなんて。授業ではまだ習っていなかった筈だよね? それに、エレンの唱えた中級魔法も」


 アレクの記憶では夏休み前までに学んだ中には武技も中級魔法も無かった筈だ。だとすれば、三人は独学で習得したかアレクがミリアに教わったように誰かに指導して貰い習得したかのいずれかのはずだ。

 エレンについてはある程度検討がついていた。彼女の祖父である人が魔導師であることは既に聞き及んでいたので、恐らくは祖父から学んだのだろう。そんなアレクの考えを知ってか、エレンは経緯を話してくれた。


「私の場合は想像の通り、御祖父様から教えて貰ったのよ。本当は学園を卒業してからって約束だったんだけど、学年でいち早く二層へ到達したって話したらお祝いに土属性の《アースショット》だけ教えて貰えたの」


 エレンの祖父もこのダンジョンの事を知っており、魔物の出現数が多くなるであろう二層へ行くならばと教えたのだろう。もしもアレクもエレンも効果範囲が広くなる中級魔法を覚えていなければ、二層の攻略はかなり厳しくなる事が予想される。



 アレクが詠唱破棄で魔法を撃ちまくれば不可能では無いだろうが、そうなると随行員である教師に止められてしまうだろう。突出した一人の力で攻略する為にダンジョンへ潜らせている訳ではないのだから。


「俺の武技は兄貴に頼み込んで教えて貰ったんだよ」


 エレンが話し終えるとランバートが事情を説明し始めた。

 一月前にダンジョンへと潜った際、大鼠の突進によって怪我を負ったランバートは、家に帰るなり騎士である兄に相談したらしい。


「鎧をフルプレートにしたらどうだと言われたけど、そうすると重すぎて動きが鈍くなるだろう? だから鉄小手と中型の盾に変えるだけにしたんだ」


 盾だけでなく鉄の小手を装着しているのは、武技を使用した際の反動によって腕を痛めるのを防ぐ為でもあるようだ。確かに二メートルもある体躯の魔物を吹き飛ばすだけの力がかかるのだから納得である。


 アレクはランバートの話を聞き終えると、傍らに立つリールフィアへと視線を向けた。彼女はアレクと共に屋敷にいて、日中の間はほぼアレクと共に居た筈だ。一体いつの間に武技を習得したのか全く分からなかったのだ。


「えっと……侍女のレイアなんだけどね。彼女あれで昔冒険者をしていた事があるの。短剣で使える武技を知ってるって言うから教わってたの」


「へぇ、あのレイアさんが冒険者ねぇ……」


 屋敷に滞在していた時にアレクが感じたレイアの印象は、いたって普通のメイドであった。もっともレイアが冒険者をしていたのは二十年近く前らしいので見た感じは分からなくて当たり前なのかもしれない。


(というか、レイアさんって見た目三十歳くらいだけど、一体いくつなんだろう)


 リールフィアの母であるオルテンシアと古くからの付き合いだという話は聞いたが、だとすればあの見た目で四十歳に近かったりするのだろうかと本人に聞かれれば刺されそうだと考える事をやめる。


「話は終わりましたか?」


 話をしていたアレク達にミリアの冷ややかな声がかかる。周囲を警戒しながら小声で話すのならば問題は無い。しかし、ここはダンジョン内であり、いつ魔物が声を聞きつけてやって来るかわからない場所なのにとミリアは溜息を吐く。


「ダンジョンに限らず、戦場ではもっと周囲に注意して会話しなさい。――ほら、声に反応してまた魔物がやってきましたよ」


 ミリアの言葉に自分達の失敗に気付く。慌てて隊列を組み直し通路の先の気配を探ると、狂犬がやってきていた方向から再び何かが駆けてくる音が聞こえる。


「くそっ! アレク灯りを!」


 ランバートの焦りを含んだ声にアレクの灯していた《ライト》の灯りが通路の先を照らす。つられるかのように、エレンの灯していた《ライト》も天井付近から僅かに先を照らすように移動した。



 通路の先から足早に近づいてくる魔物の姿をアレク達は捉えた。まず目に入ったのは、全長が五メートル程もありそうな巨大なバイパーだ。

 アレクが眷属と共にダンジョンへと潜った際、一層の守護者部屋に居た大蛇に似ていた。だが、守護の魔物に比べ、二回りほど小さいように思える。そして、その蛇の後を追うように現れたのは、こちらも巨大なイモムシ型の魔物、クロウラーが三匹だった。


「バイパーは念のため毒に気をつけて。クロウラーは僕とエレンで足止めする」


「「了解!」」


 アレクの言葉にランバートとリールフィアはバイパーへと意識を集中させる。毒を持っているか不明だが、武技を使える二人であればバイパーごときに遅れを取るとは思えなかった。


「貫け! 《アースニードル》」

「我願うは敵を穿つ無数のやじり――《アースショット》」


 ほぼ同時に唱えた魔法は、詠唱を破棄している分アレクの方が早かった。

 クロウラーの進路を塞ぐように、地面から複数の石で出来た槍が生じる。進路を塞がれた事に、魔物の行進が止まったところへエレンの《アースショット》が炸裂し、魔法によって石のつぶてがクロウラーに突き刺さり、緑色の体液を周囲へとまき散らした。


「キュアアアアアア!」


 奇怪な声を発してクロウラー達がのたうち回る。ダメージは与えているものの、重要な器官が存在しないのか、そのまま進路を妨げる石槍にかじりつき始めた。


「これでとどめ! 《ファイアー・ロンド》」


 アレクの放ったのは火属性の中級魔法。アレクの周囲に拳大の火弾が十数個生まれ、次の瞬間クロウラーへと向けて飛んでいく。曲線を描き四方から魔物に襲いかかる火弾はまるで踊っているようにも見える。

 火に焼かれ、僅かに香ばしい匂いが漂い始めた頃にはクロウラーは全て動かなくなっていた。そんな遠距離魔法の飛び交う中、バイパーへランバートとリールフィアの攻撃も始まっていた。

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