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四十六話 夏の終わり.

短めです……

 ミリアがアレクを弟子にしたという話は、学園長の耳に入ってから数日の内に学園の関係者へと通達が出された。既に上位の魔法を習得しているアレクは嫌でも目立ってしまうため、事前に教師陣には知らせる必要があった為だ。


 在学中の生徒が教師の弟子になることは珍しくは無い。特にその教師が貴族であれば才能ある者を自分の家、若しくは派閥への囲い込みたくなるのは当然である。


 今年も学園へと入学した生徒の内、上位合格者などは内密に声が掛かっていたりする。だがアレクは平民出という事もあり貴族達からの勧誘対象になっていなかった。

 とはいえ、神官としての才覚もあり、若くして導師級の魔法使いとなったミリアの弟子ともなれば、周囲の関心は自然と高くなる。新学期が始まれば好奇の目に晒されることは必須だろう。加えて、上級生や他の一年生からの嫉みなども想定されるが、今年の上位入学者という事で、出自を除けば面と向かって何か言える者は少ないだろう。



 誘拐事件のさらに二週間後。一ヶ月ぶりにシルフの気まぐれ亭に集まったランバートとエレンは、アレクから直接弟子入りした話を聞き、驚きで口を開いたままになっていた。

 暫くしてショックから立ち直った二人は口々に経緯について尋ねてきた。ある程度話せないことをぼかしながら、事情を説明すると納得してくれたのだが、エレンなどは非常に悔しそうだ。


「あのミリア先生に弟子入り出来るなんて。私はお爺様から教えて貰えることになっているけど、出来るなら私もミリア先生から教わりたかったなぁ」


 エレンは頬を膨らませながらそう言うと、アレク特製のフルーツ牛乳を飲む。エレンは祖父が導師級の魔法使いである為、学園に通いながら祖父からも魔法を学んでいる。大半の魔法使いが、導師級の魔法使いに弟子入り出来ない事を考えれば、エレンも十分恵まれているのだが。


「まあ、事情は分かった。要はアレクが上位の魔法を使っても驚くなという事だろう? 事前に説明も無くダンジョン内で使われたなら驚くだろうからな」


 ランバートは何でも無いことのように言うと、ハンバーグを口に運ぶ。騎士として剣を中心に学ぶランバートとしては、あまりそこら辺に興味は無いようである。

 それよりも気になったのは、アレクとリールフィアの距離である。

 リールフィアがアレクに興味を持っていた事はエレンも知っていた。だが、今アレクの隣に座っている彼女からは、明確に好意的な雰囲気を感じるのだ。


(どことなく変わったな。こいつら)


 そう感じた理由は分からない。元よりランバートはこういった変化を捉えるのは昔から上手かった。頭で考えるよりも感じとる事の方が得意で、異様なまでに勘が鋭いのだ。


「まあ、それはいいとして。明後日にまたダンジョン潜る予定だったけど皆の都合はどうだ?」


 ランバートの問いかけに三人は大丈夫だと頷く。アレクとしてもザンバート家に滞在しすぎて体が鈍ってきていると感じていたのでダンジョン攻略は望むところだった。


「ただ、一ヶ月もブランクがあるからね。お手柔らかに」


 アレクがそう言うと、ランバートとエレンは訝しげに首を傾げた。


「なんだ。アレクは一ヶ月遊んでたのか?」


「そうよ! 夏休みと言われてるけど学園の生徒はみんな夏休みを利用して他の人に差をつけようと修練しているのが普通よ?」


 二人からの駄目だしを受けたアレクは、ばつの悪い表情で頬を掻いた。すると、隣に居たリールフィアが慌てて話に割り込む。


「アレク君は私の母を助ける為に怪我をしたの。だから、治るまで私の家に滞在して貰ったの」


 リールフィアから事の顛末を聞いた二人は直ぐに納得した。すると今度は逆にダンジョンへ潜っても大丈夫なのかと心配し始めた。

 アレクはランバート達の不安を解消させるため、軽い模擬戦や運動は行っていたとだけ告げた。ただ、理由はともあれ一ヶ月もの間実戦から離れて居ただけに、明後日のダンジョン攻略には不安が残るのも事実だった。



 結果として予定通りダンジョンへ潜ることを決めたアレクは、他の三人と別れ街の中を一人で歩いていた。


 真っ直ぐ学園の寮へと戻ろうかと思ったが、近くで市が開かれていると宿に居た他の客が話していたのを聞いた為、少し買い物をしようと思い立ったのだ。

 王都へとやってきてから約半年の間、アレクは最低限必要な物しか買ったことが無かった。ところが、唯一見栄えの良い服を誘拐犯達との一件でぼろぼろにされてしまった為、公の場に着る服が無くなってしまった。


 リールフィアの母親であるオルテンシアに服を仕立ててあげると言われたが、アレクはそれを拒んだ。助けられた事を恩に着る気持ちはわかるが、あまりあれこれと世話を焼かれるのはどうかと思ったからだ。


 この数ヶ月の間で、アレクの財布の中身は多少の余裕をもっていた。定期的にアインが吐き出す魔石を売っていたところ、来年度の授業料である一銀貨を超えたのだ。


(これで少しは生活にゆとりが持てるな)


 アレクとてそれなりに物欲はある。ダンジョンへ潜る為の装備も自分の物を持ちたかったし、日用品や細々とした物を手に入れたいと思いつつも我慢してきたのだ。因みにアレクがダンジョンに潜る際に用いている杖は学園の備品であったし、防具は厚手のローブだけであった。


 ランバートやリールフィアは金属製の部分鎧と革鎧を合わせたものを着ているし、エレンですら革で出来た胸鎧を装着している。恐らく一年生の中で普通のローブのみでダンジョンに潜っているのはアレクだけだろう。

 学費の心配をしなくとも良くなったが、新品の革鎧などは値段が高くまだ買えないだろう。だからこそ、中古の鎧や服が市に並んでいないか探そうとしているのだった。


『アン。僕が装備出来そうで安い革鎧と、手頃な錫杖。それと、夜にこっそりダンジョンに潜るときに顔を隠せそうな何かを探して教えてくれ』


 アレクは眷属でレイスのアンに指示を出す。

 市場は数多くの露店が並んでおり、とてもではないが一人で全ての露店を見て回るのは無理に思えた。


『畏まりましたお父様。ですが、鎧と錫杖は理解出来ますが顔をお隠しになる物とは一体?』


 アレクの指示を受けたアンだったが、顔を隠す物という曖昧な表現に困惑して聞き直した。


『まあ、優先度は低いけれど夜中にアンデッドの眷属を引き連れてるのを万が一見られた時に、僕だって気付かないような仮面か何かが欲しいなって』


 アレクが懸念しているのは学園に在籍している間に加護の事が周囲に知られる事だ。それを防ぐ為に気休めだとしても何らかの措置をとっておきたいと考えるアレクだった。

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