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不死王の嘆き ~死神から呪福を貰い転生しました~  作者: 藤乃叶夢
第二章 ゼファール王立学園 入学
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四十五話 エテルノ再び.

 明くる日の早朝。アレクは使用人に断りを入れると、屋敷から出て神殿へと足を運んだ。昨晩はもやもやした気持ちを抱えたままろくに眠れずに過ごした。

 エテルノに会えた場合、アインの巨大化について尋ねるのも今回の目的の一つである。そして、こちらのほうが本題であるが、加護の秘密を打ち明けるべきかどうかの相談をする予定だ。


 神殿が開くと同時に入ってきたアレクの姿に、神官は僅かに驚きの表情を浮かべたが、何も聞かずに礼拝堂まで案内してくれた。恐らく、何か深刻な悩みがあっての事だろうと気を利かせてくれたのだろう。


 礼拝堂にて膝をつき頭を垂れると、以前と同じく真っ白な空間へと瞬時に飛ばされた。

 アレクが立ち上がると、少し離れた何も無い場所にエテルノの姿が顕現した。四ヶ月前と全く変わらない美しい姿に、少しだけ鼓動が早くなる。


「お久しぶり。どうしたの? 少し元気が無いようね」


 純白のワンピースを着たエテルノは、前回と同様テーブルと椅子を用意してくれ、アレクに座るよう促した。勧められるまま椅子へと座ったアレクに、エテルノはコーヒーを煎れてくれるのだった。


「それで? 私に会いに来てくれたのはただ顔が見たくなった、という訳でも無いのでしょう?」


 小首を傾げるエテルノを見て、アレクは自分が利己的な理由のみで会いに来た事を恥じた。


「すみません。今回は悩みごとがあって来ました」

「別に構わないわよ。理由は何であれ会えることは嬉しいし。アレクの用件が済めば私との会話に時間を割いてくれるのでしょう?」


 頭を下げたアレクをエテルノは微笑みながら許した。神として無限とも思われる時の中に身を置くエテルノにとって、アレクと会えるのは唯一楽しいと思える時間だった。

 アレクはエテルノの煎れてくれたコーヒーを飲みながら、今回訪れた目的を告げる。


「今日は眷属の事で聞きたい事が一つ。あと、相談があってやってきたんです」


 まず聞きたかったことの一つである、ボーンウルフであるアインが巨大化した事についてアレクはエテルノに尋ねた。アレクだけが巨大化できるのか、他の眷属にも知らない能力があるのか。

 結論から言うと、巨大化するのはアインだけだという回答だった。


「あのボーンウルフは魔力量の少なかった頃に生み出した所為でサイズが小さいけど、本来ならもっと大きい姿で生み出されていた筈なのよ。だから特例として内包する魔力を消費することで本来のサイズに変化出来るようになっただけ。他の眷属は元から本来のサイズとして固定化されているから巨大化や縮小化は出来ないわ」


 エテルノの説明にアレクは納得する。例えどれほどの魔力をつぎ込んだとしても、全長五メートルもあるスケルトンを作り出せないようだ。魔石を吐き出す理由もアインが本来のサイズで無い事に理由があるのだとエテルノは教えてくれる。アインだけが特殊な個体として作られたようだ。


「そうそう。大きな物と言えば、ワイバーンやドラゴンのような姿をイメージすれば召喚は出来ると思うわ。まあ、竜族に見つかれば『侮辱だ!』とか言われて攻撃されそうだけど」


 エテルノはそう言って笑った。

 もっとも、全長十メートルもある眷属を召喚しようとするなら、今の魔力の十倍以上は必要だと付け加えた。今のアレクは一般的な魔法使いの二倍を超える魔力を持つが、その十倍ともなると到達するまでに何年かかるのだろうかとアレクは苦笑するしかない。


 元々、魔力枯渇による魔力量の底上げは学園に入るための手段の一つであった。最近では枯渇に陥る事は無くなってきていたが、魔物を倒しているだけでもそれなりに魔力は増えつつある。今後魔力量を増やす方法は、眷属を召喚しつつ大量に魔物を狩っていく方法になるだろう。




「ところで話は変わるんですが――」


 眷属に関わる話題が一段落したところで、アレクはエテルノを訪れた本題を切り出した。

 アレクの事を親身になってくれているミリアとリールフィアに己の加護について語るべきか、それとも黙っているべきなのかどうかを。


「騙すのは嫌なんです。かといって、怖がられて離れて行ってしまうかもと思うと……」


 アレクは心の内をエテルノに全てさらけ出した。家族を失ったアレクにとって、ミリアやリールフィアのような存在は貴重であり失いたくないと思う相手であった。

 もちろん、エテルノも神でありながらも気さくで隠し事なく話せる相手だが、如何せん常に逢える相手でもない。そういう意味では、やはりミリアやリールフィアの存在は大きいのだ。


「成る程ね。そうね……私も恋愛や人間関係に疎いからアドバイスなんて大した事は言えないのだけれど――」


 エテルノは困ったように眉をひそめて首を傾げる。魔法の神として、当然魔法に関しては絶対的な力を持っているエテルノではあるが、人との付き合いはそれ程あった訳ではない。精々がアレストラに顕現してから魔法を広めていた百年くらいの間だけだった。


 ふと、エテルノは自分がアレストラに降りたってからの事を思い返してみた。魔法が一切存在しない世界に、全く異質だった自分が降り立ったその時を――。





 自分が何時から存在していたのだろう。気付いた時には創造神と名乗る男の前に立っていた。その時点で自我が目覚めたのか、その瞬間に創造させられたのかは不明だ。だが、少なくともその時からエテルノという名と自我を持っていたし、魔法という能力を持っている事を理解していた。


 創造神――彼はイリエレスと名乗ったが、自身の創り出した世界が滅びに瀕しているので地上に降り立って魔法を広めて欲しいと指示された。何故自分なのかとエテルノが問うと、直接的な干渉は力が強すぎて世界そのものを破壊してしまうからだと答えが返ってきた。


 エテルノにはその命令に従い、暗雲立ちこめるアレストラの地へと降り立つべく行動を開始した。




 大陸はその全てを破壊尽くされ、魔物と名付けられた異形な獣たちであふれかえっていた。残った僅かな人間やエルフ、ドワーフなどの人類が船に乗り一つの島へと逃れてるしか生き延びる手段が無かった時代。


 嘆き、悲観し明日は我が命が散るばかりと涙する人々の前へとエテルノは姿を現した。神々しさを演出する為に少しだけ後光を灯したり、見た目が派手な魔法を使ったことで人類からあっという間に救世の女神として崇められた。

 絶望に彩られた世界の中で、唯一の希望として降臨したエテルノへ強い敬愛の眼差しと、より強い嫉妬の感情がぶつけられたものだ。人類が瞬く間に滅ぼされてきた中、唯一魔物と戦う事が出来るのは彼女しか居なかったのだから、それも仕方の無い事だったろう。


 果たして自分はどのように行動したのだったかとエテルノは思い返す。

 残された人類は彼女を女神として崇める一派と様子を見るために一定の距離を置く者とに分かれた。エテルノは自らを崇める者達の中から、強い意志と才能。そして信念を持つ者を選び魔法を教えて行く事にした。この事により、決してエテルノだけが使える特別な術ではなく、自分達が自らの力で住む大地を取り戻せるのだと理解させたのだ。


 魔法が広まるにつれ、距離を置いていた者達も彼女を認めるようになる。十年も経つと大陸を取り戻すべく船団が島を出港するまでになった。エテルノ自身は島に残り、最も才能のある一人のエルフに可能な限りの魔法を伝えた。そう、後の世に『魔法王』と呼ばれるマドゥライである。


 数十年をかけ、エルフの少年へと魔法を伝え終えたエテルノはアレストラの大地から去る決意をした。これ以上自分が手を貸さずとも、この誇れる弟子が人々を導くだろうと信じて――。





 昔の事を思い出していたエテルノは、今目の前にいる少年へと意識を向ける。

 加護によって異質な存在と変わってしまったアレクだが、きっとあの時アレストラに降り立った自分と似た境遇ではないかと思う。


 不死であるが故に羨望され、それ以上に嫉まれ恐れられるだろう。きっと、世界が彼を認めるには大きな功績が必要になる。しかし、あの時代と異なるのは人類が各々国家を形成している事だ。

 エテルノはこの数百年の歴史を瞬く間に思い返す。


(きっと遠くない未来に戦争が起きるわね。その時がアレクの力を周囲に見せつける事が出来るチャンスになる)


 もちろん、戦争が起きるか否かは予測の域だ。エテルノとて未来視の力を持っている訳では無い。だが、魔物という脅威と人類の力が均衡している近年、人類同士の諍いが増えている事実がある。


(あくまで、私から言える事は一つの方向性を示すだけ)


 エテルノは心の中でそう呟くと、アレクへと言葉を発した。


「その女性二人とは出会ってまだ三ヶ月程度でしょう? 全てを打ち明けるのならもう少し親密になってからの方が良いと私は思うわ。もちろん、秘密を抱えたままっていうのは心苦しいとは思うでしょうけど。焦って自分から何もかもさらけ出す必要は無いんじゃないかしら」


 果たして今共に居るミリアとリールフィアは、二年後、五年後に変わらず共に居るのだろうかとエテルノはアレクに問う。相手もアレクも共にありたいと思えるのであれば、加護の事を告げて良いだろう。しかし、現在いまが親密だとしても、あっさり二年後には別々な人生を歩む可能性もある。結婚と一緒じゃないかしらとエテルノはアレクに問いかける。


「貴方は前世で結婚して、奥さんも居たのでしょう? 付き合っている間に自分の秘密をなにもかも告白したのかしら? きっと結婚してもいいと思えた時点で告白したんじゃない?」


 もしくは、結婚してから相手のことを理解したのかもしれないとエテルノは告げた。

 アレクは記憶を思い返してみた。確かに、ただ彼女と付き合っていた頃はお互い秘密も多かったような気がする。永く付き合って、結婚を意識した頃から隠す事を止めたような記憶があった。


「そうですね。かえって結婚してから知った事も多かった気がします」


 そういったアレクの表情から迷いが少しだけ薄れた気がした。秘密の度合いが違いすぎるが本質は一緒なのではないかと思う。加護の秘密を告げた時に別れるならば、きっとそれまでなのだろう。

 だが、今秘密を打ち明けるにはお互いの理解が足りておらず時期尚早なのだとアレクの心は決まった。ちょっとずつ、小出しに秘密を見せていって最終的に全てを告げよう。出来るならそんな関係を築いていきたいなとアレクは思うのだった。


「ありがとうございます。やっぱりエテルノに相談してよかった」


 そう言ってアレクは頭を下げた。その様子を微笑みを浮かべながら見ていたエテルノだったが、ふと頬を膨らませて一つだけ文句を言った。


「悩みが解決して良かったのだけど、私と話をする時間が無くなってしまったわ。心配事が消えたアレクとゆっくりお話したかったけれど、次回に繰り越しね!」


 どうやらこの場所に留まる時間の限界を迎えたようだ。エテルノにとって楽しみであっただろう時間を自分の相談事だけに使わせてしまった事に何度も詫びながら、アレクの姿は薄くなって消えていったのであった。






 アレクの姿が消えた神界では、エテルノがアレクに見せたことの無い悲しそうな顔で呟く。


「もう。女の子の前で他の子の話ばっかりしちゃ駄目なんだよ……」


 それは嫉妬だったのか、それとも寂しさからだったのか。エテルノ本人にも分からない感情だった。その表情と言葉は女神というよりも一人の乙女のように見えた。

 

人間関係の機微を表現するのは難しいです……。

次回は人物紹介や歴史背景などを投稿する予定です。

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