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不死王の嘆き ~死神から呪福を貰い転生しました~  作者: 藤乃叶夢
第二章 ゼファール王立学園 入学
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三十八話 誘拐?.

 尚も言いよどんでいたセバスだったが、時間が無いとばかりに口を開いた。


「実は、お買いものへと出かけた奥様が、同行した侍女共々まだお帰りになっておりません。今、人を街中へと走らせて情報を集めておりますが、もしかすると攫われた可能性が」


 セバスの言葉にフィアの顔が青ざめる。ショックからふらついたフィアをアレクが慌てて支えた。どうやら今日会う予定だったフィアの母親が未だ帰宅しておらず、攫われた可能性があるらしい。

 フィアはアレクに支えられた状態のまま、詳細を求めてセバスへ続きを言うよう促す。

 フィアの母親であるオルテンシアは昼までの予定で、侍女と王都の西区で開かれている市を見に馬車で向かったのだとセバスは説明した。市の中まで馬車は入れない為、二人は歩いて市の中へと進んだのは馬車の御者が確認している。

 しかし、予定の時間が過ぎても二人は馬車に戻ってこず、御者の男が市の中をくまなく探したが見つけることは出来なかった。一時間ほど探したところで屋敷へと急いで戻り今に至るらしい。


「しかし、王都の中で白昼堂々と貴族を誘拐ですか? 周囲は市を開いていたのでしょうし、いくらなんでも人目に付くと思うんですが」


 アレクの疑問はもっともである。加えて貴族への誘拐や暴行などは死罪である。そこらに居るごろつきに手を出す度胸があるとは思えなかった。


「御者の話では、かなり入り組んだ場所で市が催されていたようで……。普段なら護衛を付けておったのですが、あいにくと本日は空いて居る者がおらず……」

「今は過ぎた事を論じている場合じゃないわ。セバスは引き続き情報の収集を。まだ衛兵に届けるのは早すぎるかしら。でも、時間が経てば酷いことをされてしまうかも。そもそもどの辺りを探せばいいのよ!」


 フィアは努めて冷静に振る舞おうとするが、母親が誘拐されたかもしれないという焦りが口調を荒くさせていた。貴族だと知って攫ったのだとすれば身代金目的か、フィアの家と反目する貴族の指示である可能性が高い。だが、もし貴族とは知らずに犯行に及んだのだとしたなら。


(時間が経てば暴行されるかもしれないな)


 アレクの脳裏にロハの村で盗賊団に襲われ、殺された幼なじみの姿や母親の姿が思い出された。嫌なことを思い出した所為かアレクを激しい頭痛と吐き気が襲った。

 隣にいるフィアは心に余裕が無くアレクの変化に気付かない。アレクは痛みと吐き気に耐えながら自分がどう行動すべきか思案する。


(フィアにはあんな思いを味合わせたくない。とは言っても顔も知らず、どこに居るかも分からない二人をどうやって探せば?)


 アレクの知っている限り、魔法での探索は不可能だ。魔法はそこまで万能では無い。いずれ研究を進めれば開発出来るかもしれないが、少なくとも今は無理である。衛兵へと連絡し、市場周辺を捜索して貰うにしても、今から詰め所に届けてなどと悠長な事をしている余裕は無いだろう。まして、捜索に割かれる人員はいいところ十人か二十人だろう。探し当てるまでに時間が掛かりすぎる。


(ある程度広い範囲を素早く探すには、ローラー作戦が一番確実だ。だけど人手が足りなすぎるな。ん? 人手か……僕にはそれを解決する手段が一つだけあるじゃないか)


 アレクは悩む。フィアに自分の秘密を明かしていいものだろうかと。しかし、フィアの母親を自分の母と同じような目には遭わせたくないという気持ちが勝った。

 アレクは決意してフィアへと話しかけた。


「フィア。お母さんを探す方法に心当たりがある」

「え?」


 アレクの言葉にフィアは驚いてアレクの顔を見た。


「だけど、人にあまり知られたくない魔法なんだ。ちょっと特殊な方法でね……」


 アレクが今から行おうとしているのは、眷属召喚による捜索である。広い王都で急いで人を探すにはこれしかないのだと思いながらも、知られた後フィアにどう思われるだろうという恐れもあった。

 アレクの見せる真剣な表情に少しだけ逡巡したフィアだが、意を決してアレクへと頭を下げる。


「助けてくれるのならどんな秘密でも守るわ。アレク君お願いできる?」

「分かった。他の人には内緒で頼むよ? 色々僕にも事情があってね」


 一応フィアに口止めをしてから、アレクはフィアに母親の身の回りの品で今朝まで身につけていた物を探して貰う事にした。

 アレクは侍女の一人が持ってきた膝掛けを受け取る。そして一旦玄関から外へ出ると、周囲に人の目が無い事を確認して眷属を召喚すべく口を開いた。


「《眷属召喚》――《ボーンアニマル》ミクロマウス!」


 アレクの召喚によって呼び出されたのは、数百にも及ぶ数の小さなネズミだ。骨で出来た三㎝ほどのネズミが所狭しと足下で蠢いている光景は不気味だった。


(この膝掛けに付着した臭いをたどれ)


 アレクの命令に従い、数百もの小さな眷属が一斉に街中に散らばった。

 大量に魔力を消費したことで、目眩がアレクを襲う。眷属をこれだけ大量に召喚したのは今回が初めてである。以前実験した時は、精々が数十匹であった。

 今回召喚した眷属はアンやツヴァイ達のような人間に近い知能は持っていない。簡単な命令に従うだけの存在として生み出した。ミクロマウス達はフィアの母親の匂いを辿って街中を駆けている。その小さな身体ゆえに家屋の中まで進入することが出来る。例え何者かに攫われたのだとしても、監禁されている場所まで特定できるだろうとアレクは考えたのだ。


 アレクはフィアの下へと戻り、あとは結果を待つだけだと告げる。しかし、いくらフィアがアレクを信じたとしても他の者はそう簡単に納得できる筈が無い。使用人の大半はアレクの言葉など信じずに街へと捜索に出かけていった。

 アレクとしても捜し出せるかは賭けであった。初めての試みであったし、その方法も明かしていないのだから自分を信じろなどとは間違っても言えない。


 魔力の使いすぎによる倦怠感を誤魔化すために、アレクは壁へと寄りかかりそっと目を瞑る。閉じた目に映ったのは輝点がまるで波紋のように広がっていくかのような光景だった。どうやら自分を中心に、眷属がどう展開しているかが映し出されたようだ。アレクの指示を受けたミクロマウスがしらみつぶしに街中を駆けているのだろう。五分、十分と過ぎるにつれ徐々にその捜索範囲は広がっていくのが分かる。




 ほどなくして均一に広がっていた眷属の一部に変化が生じた。ある一点を中心にミクロマウスの動きが止まり、周囲に居た他の個体もその一点へと集まっていくのが感じ取れた。


「王都の地図を見せてください!」


 アレクは目を開けて指示を出す。慌てて侍女の一人が駆けていき、程なくして書斎から王都の地図を抱えて戻って来た。

 その地図を床に広げたアレクは、東西南北を合わせると、先ほど感じた方角へと指でなぞっていく。飛んで行く糸の間隔からおおよその距離を推測して指を這わせていくと、あまり治安の良くない一帯を指し示した。


「恐らくだけど、フィアのお母さんはこの辺りに居ると思います。これは、急いだ方がいいかな?」


 次の瞬間、フィアが屋敷をすごい勢いで飛び出して行った。アレクは慌てて立ち上がると、セバスへと人を集めて捜索するよう言い残して、自らもフィアの後を追った。

 フィアは走り難いミュールを脱ぎ捨てると、自らに敏捷力をあげる《クイック》の魔法を掛けて走っていく。その後ろからは少し遅れてアレクが追いかける。


(くそ! フィアは元の身体能力が高いから追い付くのがきつい)


 アレクも同様に《クイック》の魔法を使っているのだが、フィアの速さに置いて行かれないように走るのが精いっぱいだった。加えて魔力の使いすぎによる目眩も完全には治っていない。

 アレクはアンを呼び出すと、簡単に指示を出した。


『アン! 眷属の反応がある辺りを捜索。女性が捕われていないか探して』

『畏まりました。お父様』


 アンは一礼すると、空を飛んで行った。物理的な質量を持たないアンは、全力で走るフィアよりも先に目的地へと到達するだろう。自分達が辿り着いてから捜索するよりも早く見つける事ができるだろうとアレクは目論む。

 十五分程走り、息を切らせながら目的の場所へと到着したアレクとフィアだが、当然家の扉は皆閉じているので、どうしたら良いのかと躊躇し、立ち止まった。


「はぁ、はぁ。――フィア落ち着いて。一人で動いても探しようが無いでしょ?」


 アレクはそう言うと、再び目を閉じて眷属の居場所を確認する。どうやら、今居る通りの奥を示しているようだ。あまり目立つ行動をすると母親がどうなるか分からないのだからと言い含めて、アレク達は静かに移動を開始した。


『お父様、目標と思われる女性二名を発見しました』


 アンからの念話が届く。フィアを一旦立ち止まらせてアレクは念話でアンに状況を確認する。


『女性はお父様の位置から七件先の民家の一室に捕われています。見たところ、外傷や乱暴された痕はありませんが、別な部屋に同じく誘拐されたと思しき女性が五名捕らわれています。そちらの部屋には誘拐犯の一味だと思われる男が四人。家の前に見張りが一人います』


 アレクはアンに詳細を聞き終えると、フィアへと状況を説明した。アンの事は言えないので、魔法だと誤魔化して伝える事にした。フィアは嘘だと勘付いているようだが、緊急事態なので問い質すような事はしなかった。


「――という状況。第一目的はフィアのお母さん達の安全確保。次に同じく捕らわれている女性五人の救出。そして、出来るなら悪党五人の捕縛だね」

「どの程度の強さか分からないけれど、私たち二人じゃ正面からは無理ね。人質に取られても困るし……この部屋の配置だとすると、なんとか裏から回って助け出せないかしら?」


 地面に簡単な間取りを書いてフィアと打ち合わせをする。人質を取られるのが一番避けたい事なので、フィアが裏の窓から忍び込めるように陽動が必要だろうとアレクは提案をする。


「――という感じで、僕が前から犯人の一味をからかって陽動するよ。もし全員が僕の方に来たら窓から侵入して。最悪でもオルテンシアさんを助けだして逃げて」


 フィアは何か言いたそうだが、黙って頷いた。フィアはアレクが怪我をしないか心配なのだ。それに対してアレクは茶化すようにフィアへと笑いかける。


「大丈夫だよ。いざとなれば僕も逃げるから。ま、フィア達が逃げ出すまで時間くらいは稼ぐって」


 未だ心配そうなフィアだったが、母親を救う為に時間はあまり掛けれないと判断した。二人が飛び出して、恐らくセバス辺りが衛兵を連れてこちらへ向かっているだろう。だが、現状のままでは人質の身が危ないのだ。


「じゃあ、予定通りに。魔法でそっちの状況はある程度把握できるから、自分の事に集中してね」


 そう言ってアレクはフィアと別れて、目的の民家へと正面から近づいた。

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