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不死王の嘆き ~死神から呪福を貰い転生しました~  作者: 藤乃叶夢
第二章 ゼファール王立学園 入学
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三十五話 第三の眷属ツヴァイ.

「では、僕の放った青色の炎についてですが――」


 図書館から場所を移動し、ミリアの研究室へとアレク達は移動していた。ミリアから魔法を学ぶ前に、先に自分の持っている知識を伝える方が先だと思ったアレクは覚えている限りの科学の知識をミリアに教えた。

 空気中の成分と炎の関連性についてや、自然界での雨や雷、風の発生するメカニズム。水が気体や固体に変化する『三態』についてを順に教えていく。


「つまり、大気中に酸素という物質があると認識した上で、生み出した炎にその酸素を供給するようイメージすると炎が青くなっていくんです」


 一通りの説明を終えたアレクは、水差しに入っていた水を一口飲んで喉を潤した。ミリアはといえば、アレクの説明を必死に手元の紙へと書き込んでいる。

 ミリアは一切の疑問を持つ事なく、ひたすら手を動かして書き記すと大きく息を吐き出した。


「ふう。すごい知識ね。大破壊時代以前はどうか知らないけれど、少なくとも有史以降では聞いた事もない理論ね」

「あの。自分で言うのも何ですけれど、信じるんですか?」


 この世界には無い概念であるはずの話を、ミリアは簡単に受け入れすぎではないだろうかとアレクには感じられた。だが、アレクの心配を他所にミリアはきょとんとした顔でアレクを見た。


「なに言ってるの? それはこれから実験して実証するんじゃない。百の論より一つの証拠よ。それにしても空気中の成分だなんて発想はどこから出てくるのかしら」


 ミリアの疑問は当然のことである。今まで誰も持ち得なかった知識を、僅か十三歳の少年が持ち得るはずが無いのだから。


「自分でもよく分かっていませんが、八歳くらいの頃に気付いたら『知って』いたんですよ」


 輪廻転生という概念がこの世界にあるか知らないアレクには、これ以上説明のしようが無かった。下手に前世の記憶や異世界の知識だと告白しても不審がられるだけだろう。もちろん、アレクがミリアに伝えた事を証明する術は無い。簡単な理科の実験を行えばある程度の立証は出来るだろうが、流石にそこまでする事は面倒だと思うアレクであった。


「成る程ねぇ。アレク君のような事例は過去にもあったと記憶しているわ。まあ、大概は頭がおかしい人として扱われたようだから他の人には言わないほうがいいわね」


 ミリアの言葉にアレクは驚いた。過去に自分以外にも転生者いたのかと思ったのだ。


「その人達の事を記録していた本か何か無いんですか?」


 勢い込んで尋ねたアレクに、ミリアは何冊かの本のタイトルをアレクに教えた。


「今言ったタイトルの本を読めばその人達について多少は書かれていた筈よ。だけど私も読んだけれど、これといって興味をひかれるような事柄は書かれていなかったわよ?」


 ミリアは記憶から本に書かれていた内容を思い起こしてみるが、『私は神の生まれ変わりだ』とか『私は大破壊時代よりも前に生きていた』と言ったような一笑に付する内容ばかりだった。


「そう言う事を知っていたのに、本当によく僕の言う事を信じましたね」


 下手をすれば異常者扱いされていたのだと冷や汗を流すアレクに、ミリアは容赦ない言葉をぶつける。


「さっきも言ったけれど、実験して実証出来なければアレク君もその人達の仲間入りよ? もしそうなれば私の弟子にもしないし。下手をすれば学園からも追い出されるかも」


 脅すように言ってみるがアレクは「当然ですね」と苦笑しただけだった。その様子にミリアは少しだけ安心した。嘘や戯れ言であれば今の言葉で動揺するはずであるからだ。

 こうして、ミリアの弟子となってからの一週間は地球の科学知識の検証にあてられた。


 二日目にはミリアも青白い炎を生み出すことに成功し、アレクの言葉は実証された。これにより正式にミリアの弟子として認められる事となる。

 実験は次々に行われた。水属性や氷属性の威力や生成速度の変化にも現れる事が判明し、ミリアは大喜びであった。中でも絶対零度の氷を造り出す《アブソリュートコールド》が成功した時にはアレクが心配するほど狂喜していた。


「嬉しいのは分かりますけど。ちょっとこれは……」

「うぅ……ごめんなさい。くちゅん!」


 今二人が居る研究室の室温は、夏であるにもかかわらず氷点下に下がっていた。

 ミリアが調子に乗って《アブソリュートコールド》を連発した所為で、室内は冷凍庫並に冷えてしまっていた。外は真夏であるのにこれだけ室温を下げる事を見ても、この魔法がいかに極低温かが分かる。


「今市場で売られている『保冷庫』に用いる魔法をこれに変えれば、かなりの効率化が図れますね」


 鳥肌の立った腕をさすりながらアレクは呟いた。

 今市場で売られている保冷庫、いわゆる冷蔵庫は魔導師が用いる氷魔法を込め箱の内部を冷やす魔道具である。商人や食べ物を取り扱っている店などでは持っている事が多い。ただし、冷凍保存出来るほど冷えない上に大きさに比例して消費される魔力が多く、大量の魔石を必要とする為コストパフォーマンスが悪い。


「確かにこの魔法なら消費される魔力に対しての効率は上がるでしょうけど……全部凍っちゃうわよ?」

「そこは箱を二層式にしてですね――」


 ミリアの疑問にアレクが提案したのは、地球で昔売られていた仕組みの冷蔵庫である。上部に氷を発生させ、その下には冷凍庫を。更にその下には冷気を制限した空気が流れるようにした冷蔵庫部分を設置することで、箱内部の温度を調整出来るようにするのだ。


「この仕組みなら冷蔵庫へ流れ込む冷気を調整することで全体を凍らせたりも出来るかなと」


 アレクが描いていく図を見ながらミリアは驚きを隠せなかった。


(発想力が凄いわね。――いえ、これも『記憶』から?)


 いったいどれだけの知識を持っているのか――ミリアは自らの知的好奇心を満たしてくれるであろうアレクをじっと見つめるのであった。





 アレクが『記憶』についてミリアに告白してから、昼の間はミリアと研究室に居る事が多くなった。夜はミリアから許しを得て中級魔法に関して書かれた書物を部屋で読みふける毎日である。

 そして、新たな魔法を知れば使ってみたくなるのは当然の事であった。とはいえ、入学して僅か三ヶ月の生徒が訓練所で中級魔法を使っているとなれば他の生徒や教師から目を付けられるだろう。

 だとすれば人目に付かない場所はと考えると、ダンジョンの中しか選択肢が無かった。


 他の生徒がダンジョンへ潜るのは朝九時から夕方六時までの時間である。アレクが人目につかないように潜るとすれば、夕方六時以降なのだが、部屋に誰か訪れてくるかもしれないのを考慮して、夜九時以降にしようと決める。

 帰還札を使用すればダンジョンの入り口には戻ってこれる為、時間ギリギリまで進んでも戻るのは一瞬だ。その都度銅貨一枚が経費でかかるが、こればかりは仕方が無い。


「さてと。周囲の警戒はアンに任せて、遊撃はアインだとすると……接敵されないように盾役が必要か」


 あくまでダンジョンに潜るのは、魔力を消費する為なので攻撃手段は基本的にアレクの魔法で事足りる。足止めや補助的な攻撃をアインにさせる事を考えれば、必要なのはランバートのような盾となってくれるポジションの眷属だろう。


「そうすると、《スケルトン》を召喚するとして……装備は盾と剣でいいかな?」


 ある程度イメージを固めると、アレクは早速スケルトンを召喚し始める。


「《眷属召喚》――《スケルトンナイト》!」


 アレクの呼びかけに応じて、目の前に身長が二メートル程の骸骨騎士スケルトンナイトが姿を現す。骨で出来た鎧『ボーンアーマー』に身を包み、左手には中型の盾を装着している。右手にはロングソードを携えていた。


「おお……結構迫力あるな」

「お褒め頂き恐縮です。我が主よ」


 アレクが呟いた言葉に対し、スケルトンナイトから声が聞こえた。その声は渋い男性の声で、どうやら自我もしっかりと持っているようだった。

 自我があるのなら、名前が必要だろうとアレクは骸骨騎士へと名前を付ける事にした。


「そうだな……君の名前はツヴァイだ。よろしく頼むよ」

「良き名を頂戴し、嬉しく思います。不肖ツヴァイ、これからは我が主の盾となるべく精進致します」


 やけに堅苦しい喋り方だが、これはアレクのイメージが原因である。盾持ちイコール騎士、騎士イコール堅苦しいというイメージを持ったせいだ。

 想像していたよりも恰好良い騎士姿に、アレクはテンションが上がる。ツヴァイに色々なポーズを取らせながら悦に浸っていると、ツヴァイが申し訳なさそうに話しかけてきた。


「主よ……申し訳ない。戦闘経験が無い故、どう戦えばよいのか分からぬのですが……」


 そう言って畏まる姿に、アレクは愕然とした。アレクの知識が元になっている為、授業で学んだ知識や、ランバートが戦っているのを見て得た知識のみがツヴァイに転写されているらしかった。


「……まずは一層で戦闘訓練からだね」


 アレクは出だしから躓いた事に項垂れながら、夜になるのを待った。

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