三十四話 弟子入り.
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「ん……」
アレクはいつもより遅い時間に目を覚ました。昨日、一層の守護者を倒した後地上へと戻ったアレク達だったが。ガルハートと神官のリサも連れて、シルフの気まぐれ亭で打ち上げを行った。今年の一年で一層を攻略したのは、アレク達のチームが最初だと聞かされた四人は歓声を上げて喜んだ。祝杯をあげ大いに騒いだ結果、部屋に戻って来たのは九時を回ってからだった。アレクは疲れてもあり、風呂に入った後はさっさと寝てしまったのだ。
「おはようございます。お父様」
「おはよう、アン」
傍に待機していたアンに挨拶を返しながら、未だ寝ぼけた頭を徐々に覚醒させる。
夏休みはまだ一ヶ月もあるが、四人が揃ってダンジョンに潜れるのは今回潜った三日と、夏休みの終わり付近の四日しかない。その間はアレクを除いた三人は、貴族としての用事があって揃わないのだ。
特にすることの無いアレクは何をして過ごそうかと選択肢を頭に思い浮かべる。お金を稼ぐのであればシルフの気紛れ亭に行くべきであろうし、力を付けるのであれば魔法の練習などの鍛錬をすべきであるとアレクは考える。
お金は眷属であるアインが吐き出す魔石のおかげでそれほど切羽詰まるような状況ではない。であれば少しでも早く力をつけるために未収得の魔法を調べるべきではないかと考えた。
「図書室にでも行って魔法を勉強するか」
アレクは独り言を呟くとアンの作ってくれた朝食を食べ終えると学園の図書室へと向かうことに決めた。
初め、アレクは一般の生徒が閲覧できる場所に置いてある本を見ていたのだが古代語を記述した本は殆ど無かった。不思議に思い管理人に尋ねたところ、古代語魔法を記した本は特別区画にて管理されていると教えられた。理由はと尋ねると生徒が実力に見合わない魔法を覚えてしまうのを防ぐためだと説明された。
出入りが管理されているその区画へ入る為には教員からの推薦状が必要であるらしい。アレクは諦め他の本を探そうとしていると特別区画の中に見知った姿を見つけた。担任のミリアである。
美人が書物を静かに読んでいる姿は、とても絵になっていた。少しの間その姿に見惚れていると、ミリアが顔を上げアレクに気付いた。
「あら、アレク君。夏休みなのにお勉強かしら?」
アレクに気付いたミリアは近づくと声を掛ける。
「はい。古代語魔法について調べようとしていたのですが、めぼしい本が置いてなくて。ミリア先生は何の本を読んでいたんですか?」
何を読んでいるのかとアレクが尋ねると、ミリアはアレクを特別区画の中へと招き入れ、手元の書物をアレクへと見せてくれた。タイトルには『魔法大全』と書かれている。タイトルだけでは意味が分からなかったアレクが首を傾げると、ミリアはアレクを正面へ座るようアレクへと勧める。そして本について説明してくれた。
「魔法が生まれたのが、女神エテルノがこの世界に現れた時というのは授業でも話したでしょう? この本にはその当時女神の直弟子だった人が書かれた魔道書の『写本』なのよ」
そう言って、本の冒頭を開くと順に説明してくれた。著者の名はマドゥライ・ウォーロック。エルフにして歴史上初の魔法使いと呼ばれ、後に『魔王』の称号を得た人物である。彼はエテルノに師事し今の魔法体系を確立させた偉人である。
「この本にはエテルノ様が人類に伝授した魔法の全てが書かれているの。けれど長い年月の中で当時の威力に比べ、質が低下してきているのが現代の魔法ね。アレク君が初めに使った蒼い炎の《ファイアアロー》に関しても記されているけれど、その理論は失われて久しいの。だから君の魔法はとても興味深いのよね」
授業でアレクの放った《ファイアアロー》の放つ色は青白かった。更には金属を溶解させる程の高温である。それは現代の魔法使い達では不可能な現象だった。
ミリアはアレクの魔法をみてから今日まで幾度となく青白い炎を再現しようとしてきた。だが、多少威力が高くなっても炎の色までは変化せず、煮詰まっていたのだ。
偶然にもこの場所でアレクと会ったことで丁度良い機会なので聞きだそうと思ったのだった。
「ああ、あの時の魔法ですか? どうしようかなぁ……」
アレクはそう言って困った表情をする。炎の温度と酸素について説明するには、大気中の成分についてから説明しなければならない。当然この世界では解明されていない事象であり、なぜ知っているかを言う必要が出てくる。
だが、アレクが悩んでいる理由をミリアは違う風に捕らえた。
「当然ただで教えてとは言わないわ。それなりの対価は支払うし私が教えれる事なら、その情報と引き替えでも良いわ。何ならこの区画へ立ち入ることの出来る推薦状を書きましょうか?」
どうやらミリアは相応の対価を求めているのだと勘違いしたようだ。アレクとしては知識の元について詮索される事が煩わしいだけなのだが。
暫く悩んだ後、アレクは意を決して頷いた。
「では、僕の持っている知識をミリア先生に教える代わり、授業よりも高度な魔法について教えて貰えますか?」
この三ヶ月余りでアレクが学んだ魔法は無属性と属性魔法の初級だけである。だが、今学んでいる程度の魔法では魔力が欠乏するまで使う事は難しい。そして、卒業までに学べるのは上級か魔導師級の初歩までだと聞いていた。アレクとしてはもっと魔法を学んで力を付けたいのだ。
今目の前にいるミリアは魔道師級の魔法使いである。そして魔道具作成を得意としている。
無属性魔法の《ストレングス》や《タフネス》に代表される身体強化と、武器に魔力を纏わせ強度を上げたり離れた敵へと魔力を飛ばす《魔力撃》が代表的である。身体強化の魔法も中級や上級ともなれば筋力・耐久力・敏捷を全て引き上げる《フルブースト》や、全身に魔力で作られた鎧を纏う《マジックアーマー》など強力で使い勝手の良い魔法がある。
属性魔法は大きく攻撃魔法と阻害系の魔法に分かれているが、初級は《ファイアアロー》や《アースブリッド》のように単体を相手する小威力の魔法を指す。中級ともなると頭ほどの大きさの破裂する《ファイアボール》など、複数の相手に中規模の魔法を放つ事が可能になる。
アレクがダンジョンで二体を同時に《ウィンドカッター》で攻撃していたが、あれは魔力を通常の数倍込めることによって可能にしているだけで、あくまで初級魔法である。中級魔法が扱えるのであれば中級を用いたほうが魔力の効率は良いのだ。
上級魔法ともなれば属性魔法の上位となる重力(地)・氷(水)・炎(火)・雷(風)を扱うようになる。炎は下位の火属性よりも更に火力が上がり、広範囲かつ高い火力を誇る。氷は文字通り氷塊を操り敵を凍らせたり鋭利な礫で切り裂く事も出来る。風属性と合わせた《アイスストーム》などは広範囲に氷の礫を含んだ竜巻を発生させることで範囲内にいる敵を倒すことが出来る。炎と違い周囲への延焼を心配する必要が無いため、森や建物内では氷属性が用いられる事が多い。
重力は物質の重さをコントロールすることで運搬を楽にしたり、落下の速度を調整することが可能となる。高級な荷馬車などにはこの重力魔法を用いた魔道具が備え付けられている事があり、商人などに人気が高い。
最後に無属性の上位となる空間魔法だが、これが一番特殊であり習得の難易度が高い。
代表的な物は見た目以上に荷物を入れることの出来る《マジックバッグ》の魔道具だろう。マジックバッグは非常に高価であり、一部の富裕層しか持つ事は許されていない。この魔道具を作成できる魔法使いは、これだけで一財産を築くことが出来る。
また、上級よりも更に上位の『魔導師級』と呼ばれるランクがある。このランクともなれば離れた場所の空間と空間をつなげる、いわば《テレポート》の魔道具を作成することが出来るのである。
学園のダンジョンで用いられている帰還用の護符には指定した位置へと飛ぶ事が出来る《リターン》の魔法が込められているがこれは魔道師級の魔法を用いているのだ。
それらの魔法をミリアから教わることが出来れば、卒業までにかなりの魔法を習得できるとアレクは考えた。前世の記憶を持つ事を知られるリスクはあるが、それよりもメリットが高いとアレクは判断した。
「そして、これから僕が先生に言う知識については他言無用でお願いします。理由はすぐに分かると思いますが、これを承諾して頂けないと教える事は出来ません」
アレクの真剣な表情に、ミリアは目を逸らすこと無く対峙した。ほどなくして、ミリアは頷き約束することをアレクに伝える。
「わかったわ。私、ミリア・ナックスはアレク君から聞いた事について一切の他言をしない事をここに誓います。それと、私から魔法を個別に学ぶつもりなら師弟関係を結ぶ必要があるわ。私の弟子となるのであれば私の知りうる限りの知識を貴方へ教えましょう」
ミリアと師弟関係を結ぶ事に嫌は無かった。アレクは頷き、この日よりミリアの弟子として魔法を学ぶ事となった。




