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不死王の嘆き ~死神から呪福を貰い転生しました~  作者: 藤乃叶夢
第二章 ゼファール王立学園 入学
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三十三話 一層の守護者.

 ダンジョンも今日で三日目となり、初日と同様ガルハートとリサが随行する為に連れだってダンジョン前へとやってきた。

 そこでガルハート達が見たのは、ダンジョン前で素振りをしているランバートや、ストレッチをして、やる気十分なフィアだった。


「お前ら、妙にやる気だがどうしたんだ?」


 ガルハートが尋ねると、イメージトレーニングをしていたと思しきエレンが答えた。


「おはようございます! 私達は絶対に負けません!」

「いや、何にだよ?」


 答えになっていない回答にガルハートの突っ込みがはいる。この三人は駄目だと思い、他のメンバーよりも落ち着いて見えるアレクを捕まえて、皆から少し離れた所へと連れて行く。

 アレクは昨日ミリアから聞いた話をガルハートに話した。


「……という訳で、三人が「先輩方の死は無駄にしない」とか言い始めて、ああなりました」


 アレクの言葉に、ガルハートは納得がいった顔で三人を見やる。


「ああ、お前らもあれ・・を聞いたのな……」


 その含みのある言葉にアレクは首を傾げるが、ガルハートは何でもないと言って溜息を吐いた。

 実は、昨日ミリアがアレク達に話した内容は、だいぶ・・・話を盛っている。確かに、当時の生徒達が一般ダンジョンに挑んで大きな被害を受けたのは事実だった。

 だが、実際の死者はおらず重軽傷者が多数出ただけで済んだのだ。


(それでも、二度と同様の事態が起きないように生徒達を脅す意味もあって話す事になってるんだがな……効果あり過ぎだろ)


 毎年、教師の中で一人が受け持って生徒に話す事になっている。それが今年はミリアだっただけなのだが、ランバート達は完全に信じているようだった。

 普通に考えれば、例え五年以上前の事とはいえそれだけの事件があれば誰かしら生徒の中で知っているものだし、親から聞いた者も居た筈だ。

 辛い過去の話であり、そうそう口に出す事も躊躇われる内容なので生徒同士の会話に出る事もない。

 自分たちのチームだけが聞いているかもしれないという心理も働いているのか、この五年上手く作用している。


「まあ、やる気があるのは結構だ。今日は一層の最後まで目指していこうか」


 ガルハートの言葉に、四人は気合いの入った返事を返すのだった。一人蚊帳の外だったリサだけが、訳の分からないまま首を傾げていた。

 アレク達は破竹の勢いでダンジョンを進んでいく。二日間戦闘を経験した事で、動きが滑らかになってきていた。また、昨日ミリアにみっちりしごかれた事で、種別ごとの対応も初日とは比べ物にならない程成長していた。


(本当に、昨日どれだけ鍛えたんだよ)


 ガルハートは呆れるしか無かった。初日が休憩を多めに挟みながら六時間だったのに対して、昨日は休憩を碌に取らず、九時間も潜っていたことをガルハートは知らなかった。

 

(今朝の職員間で申し送りをした時、ミリアがやけに上機嫌でアレク達の事を褒めていたから、何かあったなとは思っていたが……)


 指導すればしただけ成長を見せるアレク達を、ミリアが気に入ったのだろう。つい、指導に熱が入ったようだ。あまり、やり過ぎさせないように、ミリアを注意しようとガルハートは思いながら、ダンジョンの奥へと進んでいった。

 ダンジョンの一層は、それほど入り組んでいない。簡単な地図を書きながら進んでも、あっさりと一層の奥へと辿り着いた。



 そこにはダンジョン入口とは色違いの扉があった。


「さて、この奥の部屋には一層の守護者が居る。何が居るかはランダムだから俺から教える事は出来ない。それと、一旦入ると守護者を倒して先に進むか、護符で帰還するしか出る方法は無い」


 ガルハートはそう言って部屋の前で休憩をしているアレク達へと説明を始めた。


「この中の守護者を倒すと、クリスタルが手に入り、二層へと入る事が出来る。ダンジョン入口の扉にそれをかざすと次からは二層へと直通で通れるようになるんだ」


アレクは不思議に思う。それはダンジョンそのものに転移系の付与がされているという事なのだろうかと。だが、誰が迷宮を作り上げたのかすら分からないのだから、答えの出ない問いかけである。


「さあ、休憩は終わりだ。お前達なら大丈夫だと思うが、油断せず戦え!」

「はい!」


 ガルハートの激励に、四人は息を合わせて応えた。

 ランバートが先頭に立ち、扉を押し開ける。重厚な音を立てながら扉が開くと、奥から生き物の息遣いが聞こえて来た。

 素早く中へと入り隊列を組むと、背後で扉が自動的に閉まる。これで倒すか、護符で逃げ帰るかの二択しかなくなった。

 部屋は大きなホールとなっていて、学園の体育館の広さの倍はあるだろうか。侵入者に気付いたのか、奥からこちらへと向かってくる気配が感じられた。


「視界を確保するよ。《ライト》」


 アレクは連続して《ライト》の魔法を唱えると、ホールのあちこちへと灯りを飛ばしていく。ミリアの唱える《ライト》よりも数段明るい魔法は、五メートルはありそうな天井近くから十分な光量をもってホール全体を照らしてゆく。


「見えた。あれが守護者……ね!?」

 

 守護者の姿を視認したフィアの語尾が変な風に跳ね上がる。まだ少し離れた場所からこちらへと飛び跳ねながらやってくる魔獣の姿は―― どう見ても、モフモフの兎だった。 

 

「なんだ、兎かよ」


 ランバートが気の抜けた声で呟いた。そう、こちらへ向かってくるのは五匹の兎だった。ジグザグに飛び跳ねながらこちらへとやってくる。見た目に迫力は無くランバートが気の抜けた声を上げたのも頷ける。


「あれ……大きすぎない?」


 エレンの呟きが聞こえた。比較する物が無い所為でいまいち大きさが把握し難いが、近づくにつれ、体長が二メートル近い事が分かった。


 頭部には一本の角がある。毛に覆われて魔石の有無は分からなかったが、目が白く濁っているので野生の動物ではなく、魔物で確定だろう。何より、体長二メートル近い兎が普通の動物である筈が無い。


(兎は後足での蹴りに注意だったか? あとは角があるんだし突進してくる可能性もあるな)


 アレクは授業でミリアが言っていた、一角兎という魔獣の話しを思い出した。未だ魔獣の姿に呆けている三人へと注意を促す。


「みんな! あれは一角兎だよ。後足の蹴りだけは直撃喰らわないで!」


 アレクの言葉に、ハッと我に返った三人は戦闘態勢へと移る。フィアなどは、「見た目の可愛さに騙されるところだった」などと呟いていたが、意識は既に切り替わったようだ。

 敵が五匹も居る為、このまま接敵されてはランバートとフィアでは抑えきれない。エレンと目で合図して、魔法を発動させる。


「《ウィンドカッター》!」

「我、願うは敵を穿つ鏃――《アースブリッド》!」


 アレクが風の初級魔法である《ウィンドカッター》を連続で唱える。それに続いてエレンが地属性の《アースブリッド》を一角兎へと撃ち込んだ。一角兎は飛んでくる魔法に気付き、今までとは異なる速度で回避行動をとり始めた。

 アレクの魔法は掠った程度で、エレンの魔法に至っては完全に回避されてしまう。


(くそっ! 思ったより俊敏だ)


 野生の兎であれば、移動速度は時速八十キロメートルにも達する。一角兎は巨大な所為かそこまで早くは無いようだが、単体魔法では簡単に回避されてしまうだろう。


 足を止めるか、動きを読んで当てるかの二択しかないと考えたアレクは、エレンへと叫ぶ。


「エレン! 足止めするから動き止まったのをお願い」


 アレクの言葉にエレンが頷く。アレクは何時もの《アースバインド》を唱え、足止めを狙う。アレクの唱えた魔法は一角兎の足へと絡みつき、一瞬動きを止める事に成功するのだが、次の瞬間には強力な後ろ蹴りで魔法を解かれてしまった。


「なっ!?」


 兎の後ろ蹴りは強力で、自分の倍程もある狼なども撃退してしまう。その蹴りはアレクの魔法程度なら簡単に打ち破る威力をもっていたのだ。

 足止めが無理だと判断したアレクは次の手段に切り替えた。


「エレン、タイミングを合わせて! 《ウォーターブリッド》、《ウォーターピラー》!」


 アレクは一角兎の居る場所の左側へと水系魔法を連発する。兎は水に濡れるのを嫌うという知識を思い出し、水系で攻める事を選んだのだ。《ウォーターブリッド》にて頭と同じ大きさの水の塊を飛ばし、《ウォーターピラー》で一メートル程の水柱を足下に生み出す。

 案の定、水を嫌がるように巨大兎は右へと方向を転換して逃げ惑う。それに合わせてエレンが逃げる先へと魔法を撃ちだす。


「我、願うは敵を切り裂く風――《ウィンドカッター》!」


 エレンが放った風属性の魔法は、目論見通りに逃げ先を誘導された一角兎へと直撃した。アレクと違い、連発は出来ないが休みなく魔法を唱えて当てていくと、五匹の兎の動きは目に見えて遅くなった。

 そこへ追い打ちで泥沼を生み出す《クァグマイア》の魔法で泥を発生させる。白く綺麗だった毛は泥水を吸って重くなり、もはや走る事すら困難な状態へとなっていた。


 ここでやっと出番とばかりに、ランバートとフィアが兎を一匹ずつ狩っていく。後ろ脚に注意が必要だとはいえ、ここまで動きが鈍った状態では装備の重いランバートですら余裕で回避が出来た。

 一匹ずつ数を減らしてゆく一角兎。アレクもエレンも魔法にて仕留め、戦闘開始から十分程で五匹全てを倒し終えた。

 それを眺めていたガルハートは口元に笑みを浮かべながら、満足そうだった。


(状況判断、それに魔法の手数ではアレクが一番すぐれているか。初見での一角兎は初心者殺しって呼ばれてるんだがな。こうもあっさり倒すとは)


 高い俊敏性と、強力な後ろ蹴りは冒険者になりたての初心者が大怪我を負ったりしがちな魔獣だった。今回は、広いホールで距離があったからアレク達に有利だったという事もあるだろう。森などで、至近距離で遭遇していたなら違う結果もあり得るのだろうが。


「お前ら、おめでとう。これで一層は攻略したことになる。部屋の奥にクリスタルが出てくる筈だ」


 ガルハートの言葉で、やっと戦闘が終わったのだと実感したアレク達は、歓声をあげて喜んだ。

本来であれば、一角兎の毛皮は良い値段で売れる。だが、傷だらけになった事と泥水で汚れきった所為で価値が無くなっているとこの後聞かされ、アレクはがっくりと項垂れるのであった。


 この日、アレク達の班は一年生の中で一番早く二層へと到達したのだった。

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