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不死王の嘆き ~死神から呪福を貰い転生しました~  作者: 藤乃叶夢
第二章 ゼファール王立学園 入学
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三十話 学園ダンジョン~一層.

 夏休みに入ってから五日目。アレク達は学園の保有するダンジョンの入り口へとやって来た。

 前日には街で買い物を済ませていて、それぞれ自前の装備を持っている。

 ダンジョンへ連れて行くことになっていたアンとアインはどうしているかというと、アレクの影に潜んでいる。この十日間アンやアインが感知されないように色々と試していると、アレクの影と一体化できる事が分かった。どのような原理になっているかは分からないが、これで必要な際に自らの影から眷属を召喚することが出来るようになった。

 ダンジョンへの同行は初回という事もあってガルハートと神官の二名が引率してくれる事になった。ガルハートはアレク達と共にダンジョンへ来ておりあとは神殿から神官が来れば揃う事になる。


「神殿の神官様って誰が来るんですか?」


 エレンがガルハートに尋ねると、ガルハートはどこか嬉しそうに答えた。


「どうやら女の子らしいぞ。元冒険者としても活動していた人らしいが、まだ若いって話だ」


 ガルハートは女性がやってくるのが楽しみらしい。英雄色を好むと言うが、彼もそうなのだろうかとアレクは首を傾げた。程なくしてアレク達の所へ一人の女性が近づいてきた。


「初めまして。神殿から派遣されて来ましたリサと言います」


 そう言って頭を下げ挨拶をしてきた女性はアレクが神殿で洗礼を受けた際に担当してくれたリサ・エルグレードだった。


「リサさん?」


 アレクが思わずといった感じで呟くと、リサはアレクに気付いたようで何か思い出すかのように首を傾げた。すると、すぐに思い出したのかぽんと手を叩きアレクへと返事をした。


「あ、神殿に洗礼に来てた子だっけ?」


 どうやらリサも覚えていたらしい。アレクは挨拶をしながら小声で気になっていた事を聞く。


「その節はお世話になりました」

「いえ。またよければお越し下さい」


 アレクが頭を下げるとリサは微笑んで挨拶を返した。


「なんだ? アレクとリサさんは知り合いだったのか」


 ガルハートが意外そうに言った。アレクは洗礼を受けに行った時の担当だった神官だと告げると、アレクの肩へ腕を回して小声で言った。


「なあ、かわいい子じゃないか。俺を紹介してくれないか?」


 やはり英雄は色を好むらしい。アレクが呆れた視線を向けると、ガルハートはわざとらしい咳払いをして先を促した。


「さて、リサさんが来た事でメンバーは揃ったな。俺とリサさんがしっかりと守ってやるから自分達で思った通りに進んで見ろ!」


 ガルハートの言葉に、アレク達は気を引き締めるとダンジョンの入り口を睨み付けた。隊列は模擬戦と同じくランバートが前、次いでフィアが立つ事になる。アレクとエレンが横に並ぶ形でダンジョンへと下る階段を降りて行く。



 ダンジョンへと降りると直ぐに大きな扉が通路を塞いでいた。どうやらこの扉が魔物を外に出ないようにしているらしい。複雑に魔法陣が刻まれている事から何らかの魔道具と思われる。教えてもらった合い言葉を言って魔力を流すと扉は静かに開いてゆく。先には薄暗い通路が奥へと伸びていた。


 全員が扉の奥へと入ると、自動で扉が閉まった。これも掛けられた魔法の効果なのだろう。扉が完全に閉まると周囲は完全に闇に包まれてしまい、エレンは慌てて《ライト》の魔法を発動させる。魔法の灯りに照らされて半径十メートル程まで照らす事が出来た。通路は石で出来ており、ヒンヤリとした空気が漂っている。


 アレクは暗闇を見通せるので真っ暗になった事に最初気づかなかった。エレンが即座に唱えていなかったら疑問に思われただろう。そして《ライト》で照らされた事によって、逆に灯りの範囲外が見えなくなった事に気づく。

 扉の奥の通路は幅が三メートル程だろうか。剣を振るだけの広さはあるが、二人並んでの戦闘には僅かに狭いと感じられた。フィアが槍を使うならともかく、二刀流なので尚更そう感じる。逆に後衛のアレクとエレンにとっては程よい広さだった。エレンは武器を振り回さないし、アレクは杖なので槍のように突く事もできる。


「少しだけ、この狭さでの連携を練習しようか」


 このまま初戦闘になると不味いと感じたアレクはランバートとフィアに提案する。二人もアレクの意図を察して武器を抜き互いのリーチを確認し始めた。エレンも魔法の射線が通るか、位置取りを合わせて確認している。

 五分程連携の確認を行い、ある程度の納得がいったアレク達はダンジョンの奥へと歩を進めた。内部は静まり返っているイメージだったのだが、奥の方から何かの鳴き声が聞こえてきたりと想像よりも意外と音がしていた。

 少し進むと、前方からキーキーと鳴き声が近づいてくるのに気付いた。身構える一行の前に、程なくして数匹の魔獣が姿を現した。灯りに照らされ視認出来た魔物は大きな灰色の鼠の魔獣だった。鼠と言ってもその体躯は五十㎝程の猪のようなサイズである。体当たりや噛みつきでの攻撃が一般的だ。

 初戦闘から複数を相手しなければならない事に少しだけ焦りを覚えるが、アレクは咄嗟に二匹の足止めを試みる。


「大鼠が四匹。二匹は僕が足止めする。《アースバインド》!」


 アレクの放った地属性の魔法が二匹の足へと絡みつき、足止めに成功する。こちらへと向かってくるの残り二匹をランバートが迎え撃つ。


「しっ!」


 ランバートの気合いの入った一撃が大鼠へと振り下ろされた。残念ながら当たりはしなかったが、一匹はランバートと向かい合う形で足を止めた。残った一匹をフィアが迎え撃つ。


「こっちはまかせて!」


 掛け声とともに、フィアは大鼠に切りつけ初撃で深手を負わせた。鼠は一際大きく鳴きながらフィアへと突進してきたが、フィアは落ちついた動作でそれを避け、すれ違いざまに左手の短剣を喉元へと突き刺した。

 その頃、通路の左側へと移動した鼠をランバートが壁際へと追いつめていた。逃げ場が無くなった大鼠に対して剣を振り下ろし傷を負わせる事に成功する。しかし、傷を負った鼠はフィアが相手していた鼠と同様に突進をしてくる。距離が近すぎて勢いはあまり無いが、咄嗟の事で反応が遅れたランバートの脚へとかじりつこうとする。


「我、願うは敵を穿つやじり――《アースブリッド》!」


 その時、間一髪でエレンの魔法が間に合った。ランバートへかじりつこうとしていた大鼠の横腹に拳大の石が飛んで来て突き刺さる。その勢いで横へと逸れた鼠へランバートが剣を振り下ろし息の根を止めた。


「すまん。助かった」

「いえ、混戦で魔法を撃つタイミングが中々掴めなくて。怪我しなくてよかったわ」


 エレンに礼を言うランバートに対し、エレンも支援が遅れた事を詫びる。フィアの方も鼠を倒し終えているのを確認した四人は、未だ足止めを喰らってもがいている鼠二匹へと視線を向ける。


「あれは僕が倒していいのかな?」


 活躍の場が無かったアレクは一応皆に確認を取る。ランバートは「加減しろよ?」と一言だけ口にしたが反対はしなかった。他の二人も頷いて肯定の意を示した。

 アレクはランバートの一言が気になったが、自分とて訓練を積んできたのにと思うだけで特に何も言わずに鼠へと視線を戻す。


「二匹同時なら……《ウィンドカッター》」


 アレクが手を横に振りぬきながら風属性の魔法を放つ。詠唱破棄で放たれた魔法は横一線に二メートル程の風の刃を作り出し鼠へと高速で飛んで行く。刃が鼠に当たると、二匹同時に血を噴出して簡単にその命を文字通り刈り取った。

 全ての魔獣を倒したところへ、リサを伴ったガルハートが近づいてくる。その表情は満足気である。


「初戦お疲れ。少し危ういところもあったが概ね合格点だな」


 そう言ってアレク達を労う。だが、と言葉を続けて反省点を指摘する。


「全体的にお前ら油断しすぎだ。前衛がどちらも敵に集中しすぎて、後衛が見えてなかっただろ? 《アースバインド》が効いてたから良かったが、もし魔法が破られたならアレクとエレンが襲われていた可能性もある。前衛は視野を広く持って常に戦況を認識できるように心がけてくれ」


 そう言われランバートとフィアは項垂れて反省した。とはいえ、ガルハートも最初からそんな事が出来るとは思っていない。だが、意識するかどうかで変化する事もあるのだからと、敢えて言う事にしたのだ。


「エレンは流石というべきか、混戦の中で大鼠に魔法を当てた精度は大したもんだ。だが、混戦なら無理に攻撃系を使うんじゃなく、阻害系に切り替えるとか柔軟に考えれれば尚良しだ」


 ガルハートに褒められ嬉しかったのだろう、エレンは口元を緩めながら頷いた。


「最後にアレクだが。敵が多いのを見て即座に阻害系で足止めしたのは上出来だ。だが、最後までとどめを刺していなかったのが減点だな。さっきも言ったように、途中で魔法が解けたら戦線が崩壊していた。やるなら聞く前に仕留めろ。模擬戦じゃ攻撃魔法を使わせなかったが、これは本物の戦闘だ」


 その言葉にアレクは真剣に頷いた。戦闘が終わるまで様子見をしていて二匹を放置していたのは事実だし。ガルハートの言う通り途中で魔法を破られていたなら危険だった。自分の魔法を過信していた訳では無いが、確かにその通りだろうと自分の甘さと油断を反省した。


「だが、多少の反省点があったほうが俺としても先生らしく言えるからな。次はもっと上手く出来るだろう」


 そんな四人にガルハートはにやりと笑みを浮かべながら先へと促すのであった。

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