表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死王の嘆き ~死神から呪福を貰い転生しました~  作者: 藤乃叶夢
第二章 ゼファール王立学園 入学
24/107

二十三話 英雄ガルハート.

改稿前ランディという名前でしたが、ランバートとかぶり気味なのでガルハートと名前を変更しました。

 昼食を挟み、午後の授業は実技の時間だった。とはいえ、初日から魔法を放ったり剣を振り回す筈も無く比較的地味な授業だ。

 魔法は生活魔法を用いて、詠唱の正確さや魔力の込め方を繰り返すだけだった。

 しかし、それほど魔力量が多くない生徒ばかりなので、アレクや何人かの生徒以外は直ぐに魔力が半減してしまい直ぐに授業は終わってしまった。

 アレクも余り目立たないように加減して授業を受けているのだが、不完全燃焼気味である。

 次には武器を用いての授業となった。アレク達がグラウンドに集まると、一人の男性が生徒達の前に立つ。


「これからお前らの戦闘指導をすることになったガルハート・メッソンだ」


 そう名乗った男は軽薄そうな美丈夫だった。歳は三十くらいだろうか?歯を見せて微笑めばキラッと光りそうな印象を受けた。


「ガルハート様って、あのSSSランクの『武神ぶしん』の異名を持つ!?」


 生徒の誰かが驚きの声を上げた。その途端、女の子達からは黄色い悲鳴が、男子達からは熱狂的な雄たけびがグラウンドに轟いた。

 余りの煩さにアレクは耳を塞いで騒ぎが落ち着くまでやり過ごす。近くを見てみるとフィアとエレンも頬を染めてガルハートを見つめていた。


(『武神ぶしん』? 皆の反応からすると有名人みたいだけど……)


 田舎暮らしだったアレクには全く聞いたことの無い名前だった。


 異名というのは魔法使いの頂点である『魔道師』と同じく、その道を究めた一部の偉人に与えられる二つ名である。

 また、SSSランクは冒険者達のギルドでのランクであり、全種族の最高ランクがSSSとされている。


「あ、あの! どうしてガルハート様のようなお方が教師をなさっているんですか?」


 女生徒の一人が、こちらも頬を染めながらだがガルハートに質問する。確かに王立とはいえ、学園の生徒の指導にそんな有名人が就くなど聞いたことも無い。

 女生徒の質問にガルハートは頬を指先で掻きながら説明した。


「あー、この数年他国との戦争も無く平和だろ? 魔物も最近では大物が出たという話も無い。つまりなんだ……暇なんだ。その時に学園長のシルフィードから声が掛かってな」


 どうやら暇つぶしで教師を受ける事にしたらしい。予想外な理由にアレクは呆気に取られたが、他の生徒は英雄に指導して貰えると興奮状態だった。

 事情を知らないアレクは、一つ質問をガルハートに投げかける。


「あの、ガルハート様は『武神ぶしん』という事ですが。どのような活躍をしたんですか?」


 アレクのこの一言に当のガルハートでは無く、周囲の生徒から驚きの声があがる。


「は!? アレク、ガルハート様の事しらないのか?」

「嘘でしょ? ガルハート様といったら『亜竜殺し(ドラゴンキラー)』『戦場の死神』『救国の英雄』って呼び名で有名よ?」


 クラスの生徒から口々に上がるのは、ガルハートがどれ程の偉業を達成したかという言葉だった。

 ある街を襲った亜竜「ワイバーン」を単独で撃破したとか、他国との戦争でたった一人で戦況を左右したとか。

 どんな武器でも達人級に使いこなし、いかなる魔物でも戦争でも負け無しのその姿に付けられた異名が『武神』らしい。


「成程、すみません。田舎者なのでそういった話に疎くて……」


 頭を下げたアレクに当のガルハートは全く気にした風も無く、朗らかに笑い許してくれた。


「ああ、気にすんな。勝手に付けられた異名だしな。それに、俺は唯の教師として来てる。人に教えるのも初めてだから余り期待されても困るんだよ」


 そう言ったガルハートはふと目を細めてアレクを見た。


(ふぅん、こいつがシルフィードの言ってたアレクか。この歳で結構な魔力量らしいな)


 ガルハートは学園長からアレクやエレンのように将来有望層な生徒については事前に説明を受けていた。 特に平民出のアレクは異常とも言える魔力量を保有していることを伝えられていた。

 受験の時よりもアレクの魔力量は更に上がっているのだが、ガルハートは一目見るとその魔力を正確に測る。


「さて、俺の自己紹介をしに集まった訳じゃないんだ。早速授業を始めよう」


 ガルハートは内心を表には出さず、変わらない笑顔で生徒達を相手する。


「まず、前衛として武器を振るつもりの奴は右へ、魔法を主体にする予定の者は左へ別れてくれ」


 ガルハートの指示で将来どのようなスタイルで戦うかによってチーム分けをされる。

 当然、アレクは武器など前世を通して持った事もないので魔法主体の左側へと移動する。ロハの村に居た時使った事のある武器といっても、父親が狩った獲物を捌く為のナイフと弓くらいだ。

 ガルハートは近接戦闘を覚える重要性を生徒達へと話し始めた。自分に合った武器を選ぶ重要性や、魔法使いでも護身の為に武器は欠かせないとアレク達に説明する。


 そうして、グラウンドの片隅にある木製の武器の中から自分が使ってみたいという武器を三つ選ばせる。


「あの、ガルハート先生? なぜ一つではなく三つ選ぶんですか?」


 アレクがそう質問すると、ガルハートはいい笑顔で頷いて説明してくれた。


「うん、いい質問だな。一つ選べと言えばそれは当人の好みで選んだだけだ。見た目とか、軽いからとかな。それは決して本人に合った武器とは限らない、実際は二つ目、三つ目に選んだ武器が本人に一番適している事の方が多いんだ。それに、魔法を主体の奴に武器を選べって言って選べるか? 精々が短剣か杖を選ぶだけだろう?」


 そう言って皆の方を見ると、確かに近接希望の生徒は片手剣か両手剣を手に取った者が殆どで、魔法を主体にする生徒は短剣や杖ばかり手に取っていた。木製の武器には槍や斧、弓もあるのだが、それらを手に取った生徒は皆無だ。

 言い当てられた感じがしてアレク達は所在無げに目を彷徨わせた。そんな生徒達を見てガルハートは説明を続ける。


「だから、最初に選ぶ武器は三つって俺は決めてるんだ。最初の一本とは系統の違う武器を選ぶ事をお勧めするぞ。あと十分くらいで選んでくれ」


 そう言われてアレクは手元にある武器へと目を戻す。既に手に取っていたのは短剣を模した木刀だ。他の二つに何を選ぶか少し真剣に考えてみる。


「片手剣? でも確か正確な技量が無いと刃が垂直に当たらないって聞いた事があるな。弓も器用さが必須そうだし」


 散々悩んだ挙句、アレクは短剣の他に棒杖と鈍器を模った武器を手に取る。そんなアレクを見ていたガルハートが興味深げに話しかけてくる。


「ほう? アレク君はメイスと杖か。何でそれを選んだか聞いてもいいかい?」

「えっと、鈍器ならどんな角度で殴っても相手に与えるダメージは変わらないからです。剣は鎧や硬い皮に遮られると通らないけど、鈍器だと衝撃を内部に通す場合があると聞いた覚えがあります。

 杖は『突けば槍 払えば薙刀 持たば太刀 杖はかくにも 外れざりけり』だったかな? 突き、払い、打ちと万能な武器だと聞いた覚えがあったので」


 どちらも前世での小説やテレビでの記憶だったが、それを聞いたガルハートは驚いた表情でアレクを見つめていた。


「ほう、 思ったより考えて選んだな。それに加えて、その二つの武器なら殺さず捕まえたい場合にも便利だよ。非殺傷の武器としてもいい」


 ガルハートに褒められたアレクは照れたように微笑んだ。それを見た他の生徒は、自分もガルハートに褒めて貰おうと今まで以上に必死に武器を選ぶのであった。

 この後、簡単な型を指導してもらい、体力作りの為にランニングや柔軟体操などを夕暮れまで行った。貴族が中心だった為か、皆一様に地面へ倒れ伏したり荒い息を吐いていた。

 疲れてはいるものの、立っている生徒も居た。それは父親に騎士団長のオルグを持つランバートや数名の男子生徒だった。女性で立っていたのは見た目に反してリールフィアであった。


「フィアさんは体力あるんだね」


 息を整えながらアレクが声を掛けると、フィアは恥ずかしそうに頬を染めながら事情を教えてくれた。


「私の父の領地は東の未開の地に面した田舎なの。魔物が多いし身を守る為にって父に剣術は教わっていたのよ」

「なるほど。だからか……フィアさんに負けないように僕も頑張らないとな」


 女の子に負けてはいられないと気合いを振り絞って立ち上がる。

 結局この日は体力の限界まで身体を動かす羽目になり、筋肉痛に大半の生徒が悩まされる事になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ