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十八話 出会い.

(週末に宿で働く以外にもしかすると収入得られるかな?)


 学園内で魔石を買い取るのは、学園内で使用する魔石を賄う為だ。市場で流通している魔石を買うよりも、自分たちで直に買い取った方が安く済むからだ。

 また、ダンジョン以外でも手持ちの魔石も買い取るらしいのでアレクが売るのを躊躇っている魔石も売ることができそうなのが嬉しかった。


「さて、お昼ご飯の前にお風呂でも入ろうかな~」


 アレクは楽しみにしていたお風呂を沸かすべく浴室へと入る。《ウォーター》を唱え、浴槽一杯に水を溜める。魔力量から見ても大して減ってないのを感じて他の生徒が苦労するのがよく分からなかった。


(まあ、三十回以上死んでるし魔力量はあがってるんだろうな。受験の時にA評価って言われたから、それなりに多いんだろう)


 実際はA評価と言えばかなり高い分類に入るのだが今のアレクは知る由も無い。水を張り終えたアレクは魔道具に触れ、水をお湯へと変えてゆく。

 これは他の魔法使い達もそうだが、魔法でお湯を作り出す事は出来ない。水は常温ばかりで、冷やすにしろ温めるにしろ魔道具に頼っているのが世間一般的である。

 上級の魔法使いになると氷を発生させることは出来るようだが、普通の魔法使いにはその知識が秘匿されている。


「お風呂を沸かす魔道具に冷蔵庫っぽい魔道具か。魔法が使えなくても便利だから良いんだけど自分でお湯とか氷とか作れればもっと楽なんだろうな」


古代語ルーンを知ってもメカニズムとイメージが構築できなければ魔法として発動しないのだが、恐らくアレクは古代語ルーンさえ分かれば発動できるだろうと思っていた。


「ま、図書室で古代語ルーンについては調べるとして。今はお風呂お風呂」


 どうやらお湯が沸いたらしく湯船からは湯気が立ち上る。手を入れ適温なのを確認するとささっと服を脱ぎ湯を浴びる。石鹸などが置かれていない為、洗ってから入る事が出来ないのが残念だったが今回ばかりは仕方ないと割り切って湯船にドボンと入る。


「くぅ~。この世界での初風呂だ!きもちぃぃ~」


 緩んだ表情で初風呂を楽しむ。お湯が馴染んできた頃に一度上がりタオルで体を擦り垢を落とす。贅沢にも一旦お湯を捨てて新しい水を張ると体を洗っている最中に張り替えた真新しいお湯へと体を沈めた。

 学校の関係者が誰かでも見ていたら驚愕の表情を浮かべただろう。水を張るのが大変なのが普通なのに一人で沸かしただけに留まらず、もう一度張り直したのだ。


(最近、魔力を使い切るのが大変になってきたし他の生徒達のお湯を張る事で小銭稼ぎできないかな?)


 少しでもお金が欲しいアレクは湯に浸かりながらそんな事を考えた。有り余った魔力が毎日増えていく所為で使い切るのが最近は大変なのだ。

 他の生徒はお湯を張るのが大変なのだし、自分はお金が欲しい。お互いがWIN-WINの関係になるのに良い考えだと思い、入学後に相談してみようと考えるアレクだった。





 数日が経ち、入学式が翌日へと迫ってきた。既に寮に入る者は全員入寮を終えており、廊下を歩くと多くの人とすれ違い挨拶をする事が多くなってきた。

 今年入学予定の百名の内、寮へ入ったのは六十名程で、その大半が王都以外から受験した生徒だった。アレクが心配していたボレッテン侯爵家のカストゥールは屋敷から通うらしく、寮へ入る事が無かったのでほっと胸を撫で下ろした。

 また、意外な事に男子と女子の寮は分けられてはおらず隣の部屋が女の子というのが珍しくなかった。アレクは個室だったが、近くの四部屋は全て入試の上位で占められており男女構わず部屋割りがされていた。当然、二人部屋については男女別れている。

 また、嬉しい事にリールフィアも受かっていたらしく寮内で会う機会があった。お互いに合格したことを讃えあいその日は別れたが、後日個室だということを伝えるととても驚かれた。


「え! アレク君個室って事は入試の上位者なの? すごいじゃない!」

「たまたまだよ。筆記は頑張った結果が出たけど、適性検査だとちょっと自信が無かったし」


 謙遜して言ったアレクだが、受験前に起きたトラブルで発した魔力を見ていただけにリールフィアもアレクの実力が相当なのだろうと確信していた。色々と部屋の事を話している内にお風呂の話題になった。


「お風呂は嬉しいけど、水を溜めるのが大変よね」


 案内の時に職員が言ったように、リールフィアも風呂へ水を溜めるには大変だと嘆く。そこでアレクは以前考えていた事をリールフィアへ話した。


「僕は魔力量だけは多いみたいで水張りは大丈夫だったよ。実は風呂の水張りで小遣い稼ぎが出来ないかと思ってるんだ。ご覧のとおり僕は平民だからお金を少しでも稼がないといけないし」


 とはいえ、流石に女の子の部屋は入りにくいので男子に持ちかけようと考えていると話す。

 リールフィアも部屋に男の子を入れる事に葛藤があったようだが、それでも毎日風呂に入れる事の方が勝ったらしくアレクへ頼むことにした。


「同室の子に聞いてみてからだけど、私の所もお願いできないかな?」

「でも変な噂が立ったらリールフィアさんが困るでしょ?」


 アレクは良いとしても女の子の部屋に男が入って行くのを見られると変な噂になるだろうとアレクの方が躊躇する。

 だがリールフィアは、風呂への水張りのバイトを公にしておくことで事前に部屋に入る事を周囲に知らせておくことで噂が立たないように出来るとアレクを説得する。

 そこまで毎日風呂に入りたいのかと思ったアレクだが、学園が始まれば授業で汗を掻くのだから毎日入りたいと願うのは女の子なら当然なのだと熱く説得された。


「じゃあ、管理人の先生へ連絡してお水張りのお仕事を許可して頂きましょう! 料金は幾らくらいにするつもりなの? あと一晩で張れる量ってどのくらいなのかしら?」


 こういう時の女の子の行動力はすごいと思ったアレクだった。あっという間に話が決まり寮の管理人への許可を貰い、掲示板にポスターを張り出すまでその日で行ってしまった。

 結局、水張りは一回鉄貨十枚で請け負う事になった。もっと安くてもいいとアレクは思ったが、リールフィア曰くアレク以外の生徒は貴族か商家の子供だし毎日頼んでも銅貨三枚程度であれば問題ないのだと説得されてしまった。

 その晩、アレクはリールフィアの部屋を訪ねてお水を張った。



 リールフィアと同室の子はエレンと言う名前だった。最初は部屋に男を入れるのに難色を示していたが、リールフィアがどうしてもと頭を下げるので仕方なく許した。

 しかし、変な疑惑をもたれないように水を張るまで立ち会って貰い、浴室よりも中へは入らないようにしようと思ったアレクだった。

 また、浴室に貴重品や洗濯物などを置かない事も注意書きとしてポスターに追記した。


「流石、アレク君ね。《ウォーター》を詠唱破棄で唱えた事も凄いけど、たった五秒で浴槽を一杯に出来るなんて」


 アレクの魔力が多い事を知っていたリールフィアですらアレクの魔法は驚くべき事だった。

 何も知らないエレンに至っては驚きで声が出せない程だった。エレンの祖父は導師級の魔法使いだった為、アレクがあっさり行った魔法がどれだけ凄い事かを理解していた。自分と同じ歳の普通の子供なら出来る事では無いことも。

 アレクが部屋を出ていってからやっと我に返ったエレンはリールフィアへと詰め寄ると詳細を問い質した。

 だが、リールフィアとてアレクの事をそれ程知っている訳では無いので何も答える事が出来なかった。


「まあ、毎日お風呂に入れるんだしいいじゃない?」


 最後にはそんな言葉でその場を逃げたリールフィアにエレンは呆れつつ溜息を吐いた。


(私と同じくらいは魔力量があるの? 御祖父様から教えられた方法を知っている?)


 エレンはそんな事を考えながら、アレクの出て言った扉をじっと見つめていた。

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