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十六話 入学試験-2.

 午後の試験は体育館のような広い建物で行うらしく、試験官の男性に連れられて学園内を移動することになった。

 門の外からでは分からなかったがこの学園はとにかく広い。校庭らしき広場だけでも野球グラウンドサイズが四つあったり、体育館のような建物が所狭しと並んでいる。

 直接は声を掛けては来ないが、上級生と思しき生徒が遠くから僕たちを見ているのに数回出くわした。合格すれば彼らが先輩となるのだろうと、受験生達は憧れの眼差しで見つめた。


「まずは武術に関する適正試験だ。そこに木製の武器があるから各自好きなのを選びなさい」


 大きなホールに案内されたアレク達に向けて、教師の一人が口を開いた。

 どうやら試験官と数合打ち合い、反射速度などを見るようだ。


 他の生徒が片手剣や槍などを選び試験に挑んでいく中、アレクは悩んでいた。

 元より武術の適正に関しては諦めていたのだ。開拓村では武器といっても短剣か弓しか持つ事が無かった。どちらかと言えば弓の方が得意ではあったが、木製の武器は用意されてなかった。


 仕方なく小ぶりな片手剣を手に取り試験官に挑んだが、当然のごとくあっさりと終わってしまった。周囲から笑われるかと思ったが、魔法使いを目指す者も居たのだろう。アレクと同じ程度の腕しか無い受験生も居たのでそれほど目立たなかったようだ。


 別な場所に目を向けると、偶然リールフィアが試験官に挑むところだった。

 リールフィアは短めの片手剣を両手に持ち、スピードを活かし攻撃を繰り出していた。まるで舞いを見るかのような動きに、周囲からは感嘆の声が上がっていた。

 アレクも同様にリールフィアの動きから目を離せなかった。きっと彼女は剣士として大成するのだろうなとアレクには感じられた。


 武術の試験が終わると、今度は別な建物に案内された。


「さて、ここが君たちの魔力適性を検査する場所だ。他の教室の者も居るから、こっちに二列で並んでくれ」


 そう言われて建物に入ると、体育館を二倍くらい広くしたような建物だった。既に他の教室の受験生が検査をしているらしく、若干ざわめきが聞こえてくる。

 二列に並び所定の場所に居ると、試験官の人が検査の概要を教えてくれた。


「これから順番に前にある水晶を触れて貰う。水晶は魔力量を計る魔道具だ。他の受験生とは見えないように衝立ついたてがあるから誰かに見られる心配は無い。その後、生活魔法を何か一つ使って貰う。得意な奴でいいからな」


 どうやら水晶に触れて魔法の適性を調べて、生活魔法を使って詠唱や精度を見るようだ。恐らく魔力量が少ない者は不合格となるのだろう。

 説明が終わると順に衝立で仕切られた場所に一人ずつ入って検査が始まった。列の半ばまで進み、やっとアレクの番になり空いた場所へと足を勧める。


「えっと、まず水晶を触れてっと……」


 水晶に触れるとアレクの体から魔力が水晶に吸い取られるような感覚が襲う。それに伴って水晶が緑色に変わり、次いで青へと変色してゆく。青から薄い紫、そして濃い紫になった時点で色の変化が止まったのを見て水晶から手を離した。


「嘘だろ、この歳でA評価の魔力って……」


 担当してくれた教師が小さな声で呟く、見ると顔色が若干青くなっていて額に汗が浮いている。


「アレク君、少しまっててくれるかな?」


 教師はそう言い別な教師に何事か耳打ちすると、検査場の端に居た学園長の所まで駆けていった。残されたアレクはどうした物かと思いながらもその場にて待つことにした。他の場所では生徒の入れ替わりが行われているのに、アレクの場所だけ空かない事で周囲の目に晒される居心地が悪い状態で数分待たされた。


 一旦離れていた教師がシルフィード学園長を連れて戻って来たのは三分くらい過ぎた辺りだった。教師の手には別な水晶が持たれており、アレクが先ほど触った水晶と置き換えられる。


「すまないね。もう一度水晶に触れてくれるかな?」

「はい」


 意味が分からないアレクだが、恐らくは水晶の故障かトラブルと考えた教師が別な水晶を持ってきたようだ。さっきと同様にアレクが手を触れると、同じく濃い紫色まで変色した所で変化が止まる。


「どうやら水晶に異常はなかったようね。珍しいけれど過去に事例が無い訳ではないわ。次の検査に進みましょう」


 シルフィードがそう言うと、教師は頷きアレクへと生活魔法を唱えるよう指示する。生活魔法と言えどもこの場で水や地属性は無理があるんじゃないかと思い尋ねると、要望があればタライや土の入った植木鉢を用意してくれると告げられた。


(まあ、ここは単純に《ライト》でいいか)


 別段得手、不得手が無いアレクは学園長と教師の前で生活魔法を唱えた。


「《ライト》」

「「なっ!?」」


 詠唱破棄で唱えられた《ライト》を見て、今度こそ学園長と教師の表情が驚愕に染まる。固まったまま何も言わない二人を見て、《ライト》では判断が難しいのかと思い別な生活魔法を唱える。


「《ダークネス》。《ファイア》」


 自分で生み出した灯りを《ダークネス》で対消滅させ、続けて指先に小さな炎を生み出した。これなら大丈夫だろうと思って二人をみたアレクだが、そこには相変わらず固まったままの学園長と教師が立ちすくんでいた。


「あの……、何かまずいんでしょうか?」


 アレクの発した一言でやっと我に返った学園長は、目つきを鋭くさせてアレクへと問いかける。


「アレク君? 今使ったのは生活魔法よね?」

「はい、《ライト》、《ダークネス》、《ファイア》です。入門書で学んだので間違ってない筈ですけど……」


 シルフィードのあまりの形相に尻すぼみに声が小さくなる。目つきが鋭く怒っているかのように見える。美人が怒ると怖いと言うが、前世から含めて初めてその言葉の意味を実体験したアレクだった。


「入門書を読んだのであれば、正しく詠唱が書かれていた筈よ? どうやって詠唱破棄で唱えられるようになったのかしら?」


 通常であれば、十三歳の子供が出来るような事ではない。平民の出身と書かれていたが実は名のある導師級魔法使いの高弟ではないかとシルフィードは考えたのだが、アレクの次の一言で言葉を失う。


「いえ、あれ詠唱長すぎると思いません? 普段の生活で使い難かったので試したら出来ました」

「「……」」


(嘘でしょ! 私だって詠唱破棄で魔法を発動させれるようになるまで五年掛かったのよ。唯の人間の子が独学で発動できるなんて聞いたことも無いわ!)


 魔法への親和性の高いエルフや龍族であれば分かる。また、ドワーフのように火への親和性が高い種族であれば《ファイア》くらいは詠唱破棄で唱えられるようになるだろう。

 それが、可もなく不可も無くが売りの人間の子がこの歳でその域に達しているのをシルフィードは理解できなかった。



 この後、たっぷりと五分程かかってやっと気持ちと感情の整理が付いたシルフィードがアレクを解放する頃には他の受験生は検査を終わっていた。予想以上に疲れたアレクは何が悪かったのかとため息を吐きながら教室へと戻った。

 全ての試験が終わり、翌週に合格発表があると告げられると解散となった。皆が帰路に着くのに混じりアレクも宿へと帰る道を歩きながら今日の出来事を思い返す。


「朝は貴族ともめるし、午後の適性検査では学園長に睨まれるし散々だ……」


 もう一度深く溜息を吐きながらも、リールフィアのような可愛い子と会話出来たのだけが唯一の救いだと思いながら宿へと戻り、夕飯時の仕込みを手伝うのであった。



 気落ちしていたアレクを見て、ミミルやティルゾが心底心配したのは言うまでも無い。

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