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十話 第一の眷属ボーンウルフ.

 気付くと神殿の礼拝堂の中に戻って来ていた。どうやらアレストラの神殿へと戻って来たようだ。

 少し離れた所には修道女のリサが祈りを捧げる前と変わらない場所に立っていた。


「以上で洗礼の儀は終わりとなります。加護を得られても、そうでなくとも神は常に貴方を見守って下さっています。尊ぶ気持ちを忘れずにお過ごし下さい」


 リサの様子を伺うに、ほとんど時間は経過していないようだ。アレクはリサへお礼を言って神殿を後にした。

 神殿を出たアレクは、生活に必要な雑貨や服などを数点購入した。銅貨五枚程使ってしまったが、これで服には困らないだろう。

 ついでに王都を散策し、主要な店が何処にあるかを確認しつつ町の雰囲気を味わった。

 シルフの気まぐれ亭へと戻ってきたアレクは夕食をとるとベッドに横になった。女神エテルノから言われた事を思い返しながら自分が今後どのように生きるべきか考える。


(理不尽な暴力に抗うだけの力は絶対に欲しい。それに家族と村の皆を殺した盗賊団は裁きを下したい……)


 当面の目標としては力を得る事と家族を殺された復讐だ。しかし、魔法も使えなく剣もろくに持ったことの無い今の自分だと復讐をすることは絶望的に不可能である。

 それに盗賊団に関しては自分でなくとも、法の下裁かれてさえくれれば納得は出来るので後回しにすることにした。

 次にアレクの胸中に思い出されるのは、綺麗な女神エテルノの姿だった。


(綺麗だったな……)


 まさに女神と呼ぶに相応しい、神々しく美しいエテルノの姿を思い出すと、アレクは何故か照れてしまう。そんな女神に出会い、又会って欲しいと言われた事を嬉しく思った。


「まずは、魔法覚えないとな。魔力量を上げるにも、枯渇するまで魔力使わないといけないし」


 本格的な魔法は学園に入ってからでないと覚える事はできないが、例外的に水を出したり火種を出すような生活に欠かせない《生活魔法》という魔法が学園外で覚える事ができる。

 また、値段は張るが特定の魔法を発生させる魔法陣を刻んだ《魔道具》という物が売られており、魔石を嵌めたり魔力を流し込む事によって決められた効果を発生させることができる。


「魔道具は値段が張るから無理だな……。バンドンさんの所で売ってたので銀貨十枚とか普通にしてたし。……本屋に行って生活魔法の書で覚えるのが現実的かな?」


 生活魔法は本屋で売られている入門書を読むことによって習得が可能である。田舎とは違い、都会では生活するうえでは必須の魔法であり、必要経費と割り切って購入することを決める。


「あとは、眷属召喚か。今の魔力でどの程度使えるか分からないけど試しに唱えてみよう」


 アレクはベッドから起き上がると部屋の中で《眷属召喚》を試してみる事にした。女神からの説明では集中して《眷属召喚》と詠唱し、何を呼び出すかをイメージし口にすれば可能だと言われていた。


「何を呼び出してみようかな。魔力量は少ないだろうから小さくても問題ない《ボーン・アニマル》かなあ」


 独り言を呟きながら召喚する動物のイメージを脳裏に浮かべる。

 魔法を使った事も無く、上手く出来るかは分からなかったが意を決して口を開く。


「《眷属召喚》《ボーン・アニマル》ウルフ!」


 唱えた瞬間、体から何かが流れ出ていく感覚がアレクを襲う。眩暈が襲い、動悸が激しくなる中、アレクの目の前に子犬程のボーンウルフが生成された。


(くっ! このサイズの大きさで今の自分の魔力の殆どを使うのか)


 エテルノから教えられた、魔力枯渇寸前の症状だ。

 もう少し何か魔法を使えば意識を失ってしまう程に消耗したアレクはベッドに倒れるように横たわり、今生み出した眷属を観察する。

 全身が骨で出来たウルフは体長二十㎝程度。子犬程の大きさしか無いが、その口には鋭い牙が並んでいて噛みつけば出血は免れないだろう。そして手足の爪は本来の狼よりも長く鋭い。この牙と爪で襲いかかればアレク自身が戦うよりは強いのではないかと思える。

 ボーンウルフは小さな尻尾の骨を振りながら横になっているアレクの横へと近づくとお座りをした。

 見た目が骨なので違和感があるが、ちょこんと座っている姿は愛嬌がある。


(このサイズなら小さなカバンに入れて連れて歩いても見られる心配は無いかな?)


 一度生み出した眷属は魔力を餌にするとエテルノに教えられている。アレクは覚悟を決めて残った魔力をボーンウルフに与えた。


「ぐっ!」


 十秒ほど魔力を注ぎ込むと、激しい胸の痛みと共に意識が遠のいてくる。

 初めての魔力枯渇に陥ったアレクは、胸を押さえながら更に魔力を眷属に喰わせる。

 一瞬で魔力を使い果たしたアレクはベッドに倒れ込みながら意識を手放した。





 アレクが目を覚ましたのは数時間が経過した後のようだ。窓の外には既に明かりは無く部屋は闇に包まれていた。深く息を吐き、身体に異常が無いかを確かめるように動かす。

 覚悟を決めていても、やはり枯渇した際の痛みは辛かった。だが、死なないと分かっているからには耐える覚悟さえあれば繰り返す事が出来る程度だと思えた。

 アレクは夕食を食べていないことを思い出した。だが今更降りても食事にありつけないだろうと毛布をかぶって横になることにした。ふと、枕の横で丸くなり自分を見ているボーンウルフに気付いてその頭をなでる。


(これが普通の狼だったらモフモフできるのになぁ)


 そんな益体も無い事を考えながら、朝まで寝ようと目を瞑る。骨で出来た狼は、少しひんやりとしていて夏なら抱いて寝るのに丁度よさそうだった。

 翌朝。日が昇り顔を洗っていて、ふと気になる事があった。


「そういえば、不死王ノーライフキングってヴァンパイア系の呼び名じゃなかったっけ? なんで太陽の光とか大丈夫なんだろう」


 アレクの記憶の中にある不死王とはヴァンパイアとしての特性を持つ存在だった。だが特に陽光で火傷を負うようなことはなかった。


「まあ、大丈夫なんだしいいか。日光浴びれなくなっても嫌だし」


 自分に不利益が無ければ特に気にしないアレクであった。記憶の中にある伝承では、ヴァンパイア系の最高峰、または真祖と呼ばれる存在だった。だが、髪と眼の色が変わった事以外に変化は無く、犬歯が伸びているという事も無い。召喚したボーンウルフにも日光を当ててみたが、特に変化は無かった。


(一種の魔法生物なんだろうなぁ)


 どうしても地球の知識でいうアンデッドを連想してしまうのだが、やはりこちらの世界では性質が異なるようだ。


 一階で朝食を食べ終えたアレクは女将のミミルに本屋の場所を教えて貰う。昨晩考えていたように、効率よく魔力を消費する為早速生活魔法の書を買いに向かった。

 目的の本屋は王都の中央付近にあり、アレクが目指す学園のすぐ近くに建っていた。学園は遠目にも巨大な建造物である為に迷う必要が無く、アレクは学園を目指して足を進める。


 学園が近づくにつれ、道を歩いている人達の中に同じ格好のローブを着ている割合が増す。恐らくはあれが学園の制服なのだろうと予想を立てながら歩いていると学園の正門前までたどり着いた。


(おー。流石にでかいな)


 ゼファール王立学園。ここは国内のみならず国外からも入学希望者がやってくるほど有名な学園である。

 国の近衛騎士や魔術師は全てここの卒業生で構成されており、歴史と実績の兼ね備えている。二年制となっており一学年百名が上限となっている。

 見た感じは現代の大学程の広さがあり、この世界では珍しい三階建ての建物が立ち並んでいる。


「ねえ、君は学園に何か用事?」

「へ?」 


 アレクがぼんやりと学園を眺めていると、不意に背後から声が掛けられた。突然の事に変な声が出てしまったのが少し恥ずかしかったが振り返ると、そこには綺麗な女性が居た。綺麗な金色の髪を肩の下あたりまで伸ばしている。

 その女性は二十歳くらいだろうか、振り返ったアレクを無表情に見つめていた。


「そう、あなた。この学園に何か用でもあったのかしら?」


 再び女性はアレクへと問いかける。どうやら気付けば長い事学園を眺めていたようだ。これならば不審者扱いされても仕方のないとアレクは反省しつつ、女性の言葉を否定した。


「あ、いいえ。今度試験を受けようかと思っていたので見てたんです。本屋に行く途中にあったので、つい見入ってしまいました」


 アレクがそう答えると女性は無表情のまま、「そう」と短く答えるとアレクの横を通り学園に向かおうとする。恐らくは学園の教師か何かで関係者なのだろう。

 すれ違い様に女性はアレクに向けて小さな声で話しかける。


「この学園は貴族が大半。試験を受けるなら生半可な事では無理よ」


 その言葉に驚いたアレクは振り返って女性を見る。


「貴方、貴族では無いわよね?」

「え? はい、そうです」


 女性の問いかけにアレクが答える。目の前の女性はじっとアレクを観察した後口を開く。


「学園の試験項目が何か貴方は知っている?」


 アレクはレベッカに教えられた事を思い出しながら問いかけに答える。


「えっと。魔法の素質、武術の素質があるかの検査と。座学で算術や読み書きの試験だと聞いてます」


 目の前の女性は首を横に振ると小さく溜息を吐く。


「それだけでは足りないわ。この国の歴史や主要貴族に関しても試験があるわ。貴族なら小さい頃から学ぶけれど、試験まで残り二ヶ月を切っている今から貴方が覚えきれるとは思えないわね」


 女性の言葉にアレクは驚く。レベッカから聞かされた話の中ではそのような内容は一切無かったからだ。

 だが、そうと言われて諦める訳にはいかなかった。貴族の名や歴史などは地球でも必須科目だったし、要は暗記すれば良いのだ。

 アレクがあれこれ考えていると、女性は興味を失ったかのようにきびすを返した。


「本屋には歴史書や代表的な貴族に関する書物もあるでしょう。試験に合格する自信があるなら、今月末が申込みの締め切りだから」


 そう告げると、振り返ること無く学園の中へと入っていった。

 アレクは名も告げず去って行った女性を唖然と見送るしか出来なかった。


「結局なんだったんだ? 試験に関して足りなかった知識を教えてくれたのか」


 そう考えると先ほどの女性は、言い方に問題はあったが親切な人に思えてくる。


「どっちにしろ諦める訳にはいかないよね!」


 アレクは自分の頬を叩いて気合いを入れ直すと、本屋へと向かうのだった。


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