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百三話 守護者2

 脚に大きな傷を負ったキメラからは、驚異であった機動力の殆どが失われていた。

 アレク達の魔法によって飛ぶ事すら叶わない状態では、離れてさえいればその牙がアレクへ届く事はまず無いだろう。

 もっとも、魔物である以上は通常考えられない攻撃方法を持っていても不思議では無い。アレクは油断することなく、キメラの動きを窺いながら魔法による攻撃を続ける。


「がうっ!」


 追い打ちをかけるように、アインが大きな顎でキメラの尻尾に噛みついた。甲殻に覆われているためその牙が刺さりはしないようだが、尾を引っ張られたキメラはバランスを崩してしまう。

 キメラは背後にいたアインに後ろ脚で蹴りを放つが、傷を負っている所為か大したダメージを与えられては居ないようで、アインがその尾を離すことはなかった。


 そうしている内にドライが立ち上がり、キメラへ攻撃を仕掛ける。


「でかいだけの猫の癖に痛ぇじゃねぇか! 《三連撃トリプル》!」


 手に持つ両手剣が三度キメラに叩きつけられた。

 本来両手剣はそれほど早く動かせる物では無いが、武技はそれを可能にする事が出来る。同じ箇所への連撃によってキメラの硬い毛を貫き、肉が裂け血が噴き出した。


 キメラは怒り狂い、前脚でドライをなぎ払おうとしたが、それをアレクの魔法が阻む。


「《グラビティプレス》」


 地属性の上位である重力魔法グラビティプレスによって、キメラの身体は地面へと押しつけられた。

 これは重力を変動させる事で範囲内を加重させる魔法である。逆に対象を軽くする事も出来、そちらは荷物を軽く出来るので商人などに人気の魔道具として用いられている。


 後ろ脚に傷を負い、前脚での攻撃時に掛けられた加重により、キメラは大きく体勢を崩し横倒しになる。

 巻き込まれてアインも尻尾に噛みついたまま転がったが、下敷きにはならなかったようだ。


 キメラは立ち上がろうとするが、アインがその都度尻尾を引く所為で上手く立つことが出来ずに転がる。こうなってしまえば硬いだけの的でしかない。やっと立ち上がったツヴァイも加わり、比較的柔らかいであろう腹部へと集中攻撃を加え、キメラはその生命を終える事となった。





 今回のキメラとの戦いでアレク達の問題点がいくつか浮き彫りとなった。


「疲れたわ。まさか魔法が効かないなんて……」


 床へぺたりと座り込んだキャトルの呟きに、アレクも同じ思いを抱いていた。


 これまでアレクが戦った魔物や人において、魔法が効きにくい相手は居なかった。だからそういった性質を持っている魔物が存在するという可能性に思い至らなかったのだ。


 「キメラとしての能力か、体毛がそういった性質を持っているのかは持ち帰って調べてみないと分からないけど、今後は考慮して対策を練らないとな」


 アレクの強みはその強力な魔法にあった。だからこそ、これまで直接的な攻撃手段をほとんど鍛えていなかったのも事実だった。

 しかし今後もキメラのような魔物が現れる可能性は高いと思われ、魔法にのみ頼った戦い方では駄目なのだと思えた。


(今のうちに気づけて良かったと思うべきなんだろうな)


 学園を卒業した後に遭遇していたならば、自分だけでなく共に行動する事になるリールフィアも危険な目に遭っていただろう。

 大切な人を二度と失わない為にも、慢心せず魔物について調べようと決意を新たにしたのだった。

 そしてもう一つ……。


「いやぁ、あのでか猫は硬かったな! 思った以上に刃が通らなかったんで焦ったぜ」


 ドライが刃こぼれした両手剣を手にアレクの下へと近づいてきた。

 その後ろにはボーンアーマーに大きな穴を開けたツヴァイが足を引きずりながら続く。


「二人とも、身体は大丈夫?」


「大丈夫です……と言いたいとこですが、見ての通り鎧を貫通して肋骨が何本か。それと地面へ落下した際に足にもダメージを受けてしまいました」


 魔力による修復が始まってはいたが、ツヴァイは満身創痍と表現するのに相応しい状態だった。

 これまで小型の魔物や人との戦いにおいて遅れを取ることのなかった二人だが、キメラの巨体の前では攻撃力においても防御力においても明らかに足りていなかった。

 これも今後の課題として早急に考えなければならないだろう。


「ふぅ……やることが多すぎるな。まずはキメラの素材を剥ぎ取るか」


 アレクは小さくため息を吐くと、ツヴァイとドライにキメラの解体を命じるのだった。

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