九話 女神との出会い-3.
「そう言えば。この召喚できる眷属はどんなのが呼べるんです?」
気恥ずかしさからアレクは話を変えた。名前を呼ばれ満足したのか、エテルノも加護の説明を再開するようだ。
「そうね、基本的にアレクの知ってるアンデッドを召喚する事ができるわ。でも、《ゾンビ》とか《グール》のような腐乱しているのはやめて欲しいわね」
エテルノはその美しい顔を僅かに顰めて言った。確かにアレクとしてもゾンビ系は遠慮したいところだ。見た目が悪すぎて嫌悪感を抱くし、何より夏場は臭そうである。
「だとすると《スケルトン》系か、《ゴースト》系ですかね?」
アレクの頭の中に思い描いたのは、骨で形作られた《スケルトン》。霊体などの《レイス》《リッチ》。不死で代表される《ヴァンパイア》だった。
「人型だけじゃなく、動物なんかも良いわよ? 狼や犬であれば狩りにも使えると思うし」
「あ、いいですね。小さければ見つかりにくいでしょうし、偵察も出来そうだ」
エテルノの提案にアレクも同意する。
「だとすると召喚の種類は《ボーン・アニマル》《スケルトン》《レイス》《リッチ》《ヴァンパイア》かしら。詳細を決めましょうか」
この後暫く、エテルノとアレクは召喚するアンデッドの内容を話し合った。アンデッドといっても召喚されるのは魔力を媒体に造られる魔法生物の一種であるらしい。
眷属はアレクの知識、記憶を元に創られ一定の知能を有する事が出来る。
《ボーン・アニマル》は骨で出来た動物だ。狼や虎などの形にすれば高い機動力を持つ眷属となる。
《スケルトン》は呼び名の通り人骨に似せた兵士で剣と盾か槍を持った状態で召喚できる。装備のタイプによって盾を持った《ナイト》、両手剣の《ソルジャー》、弓を持つ《アーチャー》のオプションを選択出来る。
《レイス》は生き霊で体が透明であり、物質を透過することができる。情報収集や諜報に役に立つが、大した攻撃手段は持ち合わせていない。
《リッチ》はレイスと異なり肉体を持つ。黒いローブを纏い、大きな鎌を持った姿で現れる。魔法攻撃と鎌での攻撃を得意とする。鎌で傷を与えると、肉体ではなく精神にダメージが及ぶ。
最後に《ヴァンパイア》だが、これだけは媒体となる人物が居て初めて使用可能となる。つまり人間やエルフなどに《眷属化》の加護を使用することで、対象をヴァンパイア化するのである。伝承と同じく身体を狼やコウモリに変化させることが出来る。
「――こんなところかしら。魔力量が少ない内はサイズも小さくなるし呼び出せる数も僅かになると思うわ。そして《眷属化》だけはよく考えて使ってね? 二度と元には戻らないから」
説明を終えたエテルノはアレクへそう忠告した。
「成程。死なせたくない程大事な人か、信頼のおける人のみの限定ですね」
「そうね。当然相手の同意を得て用いてね? 勝手に不死族にしてしまえば敵対されるわよ」
こうして見ると、加護が優秀すぎてチートだなぁと密かにアレクは溜息を吐いた。だが、最初に女神が言った通り長い年月を一人で生きるよりは連添いを造れるというのは魅力的ではある。
「あと、ヴァンパイア化した眷属同士や貴方との間に子供は作れるから。安心して?」
「ぶっ!」
女神の一言にアレクは紅茶を噴出しそうになったが、エテルノは大事な事でしょとアレクを見て笑顔で話した。
「加護についての説明はこれで十分かしら。次はこの世界の魔法について教えてあげるわ」
エテルノはそう言うと、カップへ新しい飲み物を注ぐ。
「これは……。コーヒー?」
「この世界では流通していないけどね。木は生えているから探してみるのもいいかも。神界に来てくれれば何時でも煎れてあげるわ」
エテルノはそう言って自分のカップに大量の砂糖とミルクを注いだ。アレクは生まれ変わってから初めて味わうコーヒーの味を楽しむ為にブラックのまま頂くことにする。
「さて。私がこの世界に創り出した魔法は『古代語魔法』と『精霊召喚』。精霊召喚はエルフを初めとする妖精族にしか使えない魔法よ」
アレクは煎れて貰ったコーヒーを味わいながら、エテルノから魔法について教わる。
古代語魔法とは、言語によって身体に内包する魔力を操り、消費することで発動させることが出来る術である。火や水、風を自在に操り敵を倒す事を目的とする。極めれば重力や空間を操る事も出来るようになるのだとエテルノは説明する。
何故『精霊召喚』を妖精族しか扱えないかとアレクが尋ねると、女神は昔のことを思い出しながら答えた。
「妖精族は寿命が長い代わりに子供が出来にくくて種族の絶対数が人間よりもずっと少ないの。だから数で圧倒できる人間よりも個の力を強化させて種族間の調和をとったのよ」
妖精族が召喚する精霊は、火・水・地・風の四元素のいずれかの性質を持っている。召喚者の力に比例して下位・中位・上位に分けられ、上位精霊ともなれば圧倒的な火力を有するようだ。
魔法を用いるには魔力が必要であるが、その元となるのは『魔素』と呼ばれるエネルギーである。このアレストラの大地や大気中には、その魔素が溶け込んでいる。それを体内に取り込んだものを魔力と呼び、保有する魔力の多さを『魔力量』と呼ぶ。
呼吸や食事を通して魔素は体内に取り込まれる。そして、取り込んだ魔素を使えば使っただけ魔力量が増えていくのだ。
「竜族や妖精族のように長寿な種族は総じて魔力量は多い傾向があるわね。逆に獣人や人族は低いの。寿命の違いだから仕方が無いのだけどね」
エテルノはそう言うと自ら煎れたコーヒーを一口飲む。
「効率よく魔力を増やすには、魔物を倒すか魔法を使って魔力を消費する方法があるわ。魔力を使うと、消費した魔力に応じて僅かに魔力量が上昇するの。だから魔物を倒せずとも魔力を使えば魔力量を増やすことが出来るの」
これは、魔物の周囲に濃い魔素が漂っている事に起因する。魔物は魔素を多く含む為、魔物の肉などを摂取しても魔力の上昇につながる。
現状戦う力を持たないアレクにとって、唯一可能な魔力量を増やす方法は魔力を消費する事である。しかし、やはりと言うべきか魔物を倒した際に得られる量よりは落ちるのだ。
「それと貴方の魔力量は普通の人並みしか無いわね。寿命が無いからいずれは増えるでしょうけれど、魔法使いとして身を立てるのなら他の人よりも努力が必要ね」
「僕の魔力は低いんですか……。学園に入るには魔法使いとしての資質が必要だと聞いているんですが、なんとかならないですか?」
今まで武器もまともに扱えず、魔力も人並みしか無いのでは学園に入ることが出来ないのでは無いかとアレクは不安に駆られる。アレクが不安そうにするのを見て、エテルノは暫し黙考した後、口を開いた。
「普通の人には無理だけど、貴方だけが可能な方法があるわ。それは、魔力が枯渇するまで使い切る方法よ。これなら繰り返すうちに他者にひけを取らない程には増やすことが出来ると思うわ」
何故普通の人では無理なのか。エテルノが続けて発した台詞を聞いてアレクは理解した。
「魔力枯渇に陥ると高い確率で死んでしまうの。だから枯渇するまで魔力を使うなんて普通は有り得ないの」
魔力を大量に使った場合激しい疲労を感じる。そして、魔力が残り僅かになると、頭や心臓に激しい痛みを感じ、最悪意識を失う。その時点で魔力の消費を止めれば問題が無い。だが、無理にそれ以上魔力を消費すると意識を失い、ほとんどの場合はそのまま命を落とす羽目になるのだ。
「だけど貴方は死なない。これから幾度か枯渇を繰り返せば、普通の人が一年掛けて上昇させる魔力量を短期間で得ることが出来るわ。流石に増えるに従って魔力を使い切る事が出来なくなるでしょうけれどね」
普通の人間であれば、強い痛みを伴う事を毎日繰り返す事など出来ない。毎日心臓発作が起きる様を想像してみるといい。普通なら気が狂う結果になるだろう。
アレクは自分に耐えられるだろうかと自問する。強くなる為に必要であれば、幾度かであれば耐えられるかもしれない。出来る範囲で頑張ろうと心に決めるのであった。
その後は取り留めのない話(主にエテルノの愚痴)を聞かされ短くない時間を過ごした。エテルノの話が一区切りつくとそろそろ時間ねと寂しそうな表情でアレクを見つめた。
「そろそろお別れの時間ね。あ、安心してね? 向こうではほんの一瞬の出来事になっているわ。時折神殿に顔を見せに来てね? 寂しいから」
エテルノはそう言うとアレクへバイバイと手を振る。アレクも手を振り返しながら女神へと言葉を返す。
「わかりました。頑張ってみます。また会えるのを楽しみにしてますよ」
その言葉を最後にアレクの姿は神界より消え去る。残された女神は寂しそうにしながらそっと呟いた。
「命ある者は『死にたく無い』と願う。――果たして死ねない貴方は何を願うのかしら」




