乙女ゲームのライバルキャラに転生しましたが
私はどうやら転生とやらをしたらしい、それも乙女ゲームのライバルに。まるでお決まりの様な出だしだが、実際にそうなのだから仕方がない。
私の名前は西園寺 百恵 本日高校に入学する予定だ。何時私が転生したことに気付いたかた言えば、つい先ほど入学式の為に訪れた高校の門を潜った瞬間だ。急に頭の中に前世の記憶が流れ込んできた。前世の私はゲームや漫画が好きなオタクで、この乙女ゲームも前世で散々やり込んでいた。死因は急性アルコール中毒だと思う……お酒を飲みながらゲームをしていたら気分が悪くなってそこから記憶が無い。
22歳のことだった。門を潜ってから前世の自分無いわぁと思うまでおよそ22秒、たったこれだけの秒数で自分の前世を把握したのだ。
前世を思い出してから今の自分について考えている。私が今いる世界が前世でやったゲームと同じなのであれば、この世界は「桜舞う出会い」という乙女ゲームで、まぁ簡単に言えば主人公である少女が、攻略キャラである男の子たちと恋愛をする話だ。
ただ問題は自分の立場だ。私こと西園寺 百恵は残念ながら主人公では無くライバルになってしまう。主人公が攻略するキャラの一人、西園寺 遼雅の妹で同じく攻略キャラの帝王院 雅弘に片思いをしている設定だ。主人公がこの2人の攻略キャラと仲良くなると嫉妬して意地悪をするのだ。
もっとも意地悪といっても、悪口言ったりする程度なので、社会的に抹殺されたり人生お先真っ暗とかにはならないし、そもそも主人公がその2人と仲良くなっても嫉妬する予定は無いので問題は無いはずだ。しかし、1点だけ問題がある。それはハーレムエンドに成った場合だ。
ハーレムエンドは名の如く主人公が攻略キャラ全員とくっつくエンドなのだが、もしこれに成ると話が変わってくる。私が酷い目に合うのではなく、兄である西園寺 遼雅が酷い目に合うのだ……どうしてハーレムエンドで攻略キャラである兄が酷い目に合うのかと思うだろう。しかしよく考えて欲しい、現実の世界で1人の少女と複数の男の子がくっつくというのは世間的にどうであろうか。
もしこれが全員無名の存在であれば問題にはならないのだろうが、攻略キャラの多くは(兄も含む)スポーツ選手だったり、人気アイドルだったり、大手企業の跡取り息子だったりと世間的にも有名なのだ。有名どころの爛れた関係はすぐにテレビで面白可笑しく取り上げられて彼らは後ろ指を差されてしまうのだ。そして罪を感じた少女は自殺、攻略キャラの多くも後を追うというなんとも薄暗い内容になっている。
さすがに、このエンドはないわぁと当時は話題になったのだが、確かゲームの時は攻略キャラ達がメインであやふやだが、攻略キャラの家族にもマスコミの手が伸び世間から笑いものにされていたはずだ。それは避けねばならないし、何より現世で私は兄である遼雅と仲もいいので、出来ればそんなドロドロした人生を歩いて欲しくない。
打倒ハーレムエンドを決意した私は直ぐに行動に移した。このゲームは序盤の行動が鍵となる。タイトルが「桜舞う出会い」とあるが、その名の如く桜舞うこの時期に出合ったキャラが攻略対象となるのだ。そしてハーレムエンドになるには必ずしなくてはいけない行動もある、つまりその行動を阻止してしまえばハーレムエンドのルートは無くなる筈だ。急いで最初のポイント地点のに向かう。私が向かうのは校舎裏だ。校舎裏で主人公が猫と戯れるというのが最初のポイントになる、ならば校舎裏に猫がいなければいい。そう思い校舎裏に向かう。
「何よこれ……」
校舎裏に行くと其処には信じられない光景があった。
「「「「「「「「「にゃー」」」」」」」」」
猫、猫、猫、見渡す限り猫がいるのだ。唖然としていると今度は後ろから何か叫び声が近づいてくる。
「………ーーーーーーーぃやああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「!?」
何事かと振り向くと一人の少女が必死の形相で走ってくるのだ。
(主人公……と猫!?)
そう、主人公である少女とその少女を追ってくるこれまた大量の猫がだ。
「はっそこの人、助けて下さいぃぃ!!」
少女が主人公がやっちゃ駄目だとうという顔で私の方に向かってくる。正直どうやって助ければいいのか……。
「こっち!」
とにかく何とかしなくてはと、少女の手を掴んで走り出す。必死に走り校舎の中に避難する、何匹か一緒に入ってきたが先ほど見た量を考えれば怖くも無いとなんとか追い払う。凄く悲しそうに此方を見つめる猫達に良心が痛んだが、心を鬼にした。
「あ、ありがとう、ございます」
息も絶え絶えな少女がお礼を言い何が起きたのかを説明してくれた。説明されても理解は出来なかったが。
何でも少女は入学式の為に学校に向かう途中に1匹の猫にまとわりつかれたという。しかし少女は学校に行く途中だった為に相手にしなかったのだが、だんだんとまとわりつく猫が増えてきたのだと言う。そうして気づいたらあの大量の猫に襲われるように追いかけられたのだと言う。
「でも本当に助かりました。私猫アレルギーでどうしても猫は嫌いなんです」
落ち着きを取り戻したのかニコリと笑いながらお礼を言う少女に私は戦慄が走った。
(どういうこ!? 猫嫌いならハーレムフラグをへし折れる筈なのにまさか猫の方から彼女に寄ってくだなんて……むしろ校舎裏は強制ハーレムのような状態だった、まさか主人公補正?)
「あれっ!?……もしかして西園寺さん?」
「ええ、そうよ西園寺 百恵よ、貴方の名前は?」
「ゆ、夢見 姫子です」
少女こと夢見 姫子(どうでもいいけどいかにも乙女ゲームって名前はどうにかならないのかしら)私の顔を見るなり驚いた様にしている。はて、主人公と西園寺 百恵に接点はあったかしらと思いつつも自己紹介を進めていく。
その後少し話をして、姫子(彼女が名前で呼んで欲しいと懇願してきたのよ)の強い要望で私たちは友達となった。あんなふざけた状況でも猫と戯れたことになるのではと不安に思いつつも、姫子と友達という近い立場ならばハーレムエンドを叩き折れるかもと期待しつつ私たちは教室に向かった。当たり前だが入学式には参加できず教師に叱られてしまった。
しかし私の期待は甘すぎた……。
姫子は明るく元気な子で彼女自身は何人もの男を手玉に取るような人間ではないのだが、寧ろ攻略キャラの誰にも惚れた様子を見せていないのだが主人公補正は残酷だった。
例えば、調理実習でお菓子を作ってそれを攻略キャラの1人に食べさせるという選択があるのだが、姫子の作ったお菓子は正直人間が食べれるモノではなくモザイクが入っていそうな出来栄えだった。これは流石に食べさせられないし、食べないだろうと思っていたのだが……。まさかモザイクを持った姫子が転び、その拍子にそのモザイクが飛んでいき、偶々通りがかった攻略キャラがいて、偶然その攻略キャラの口にモザイクが入って行くだなんて誰が想像できるだろうか……。因みにその攻略キャラは口から泡を吹いてい倒れた、恐るべしモザイク。
他にも主人公が体調不良で保健室に行くとそこでイベント発生したりもするのだが、姫子は健康優良児で保健室とは無縁だと思っていたし彼女自身保健室は苦手だと言っていたのだが、ある日購買で買ったパンを食べた姫子はどうやらそのパンに中ってしまったらしい。物凄く青ざめて顔で保健室に強制連行されてそこで強制的にイベントが発生していた。私は付き添いで傍にいたのだけど、なんかこう、ゲームの中のようにキラキラしている攻略キャラと腹痛とか吐き気とかで死にかけている姫子との温度差が笑いを誘ってい寧ろ失笑しか出なかった。
それ以上に何故だか攻略キャラ達が異様に姫子に興味を持ったらしく呼んでもいないのに明りに集まる虫の様に群がってくる。因みに私の兄も姫子に興味を持っていた、理由を聞いても何故か彼女の傍に行かないといけないという強迫概念に襲われるとのことだった……これは恋愛感情じゃないけどそれでもハーレムエンドに行くのか?
とにかくパッと見恋愛フラグには見えない形で姫子は次々とハーレムエンドへの道のりを歩み続けていた。
「百恵ちゃんどうしよう……私果たし状貰っちゃったよ」
「はぁ?」
怯えながら姫子は私に一通の手紙を渡してきた。何々、『前略 本日16時に校舎裏にて待つ必ず来るように』……何だこれ?
「えっこれだけなの?」
「うん、今朝下駄箱開けたら入っていたのどうしよう私喧嘩強くないよ」
「いや、何も果たし状って決まった訳じゃ……」
そこで私はあることに気付いた、これはハーレムエンドの最終段階である攻略キャラ達からの告白ではなかろうかと。本来ゲームではこんな形ではなくメールで呼び出されるのだが姫子は攻略キャラの誰ともメアドを好感していないはずだ、以前兄から教えてくれと頼まれたが断固拒否した。
しかしメールでもこんな内容では無かった気もするが……とにかく回避するべきだろう。
「怪しいし無視が一番いいよ」
そうだよねとどこか安心した様子の姫子に本当に回避できるのか今までの事を思うと不安になってくる。とにかく姫子が校舎裏に行かないようこっそり見張りながら放課後まで過ごしていた。放課後も姫子と一緒に帰ろうと校門近くまで一緒に歩いていると急にそれは起こった。
「夢見姫子大人しくしろ!!」
「「えええええ!!?」」
急に学校の男子生徒の制服を着て目出し帽を被った人物が2人程現れて姫子を拉致していったのだ、校舎裏の方向に。余りの事で思わず呆気にとられていたが私は直ぐに彼らの後を追って校舎裏に向かった、さっきの目出し帽の男の声って聞き覚えがあったけどまさか兄じゃないよね……。
校舎裏に着くとそこには怯え震える姫子を囲うように攻略キャラ達が立っている。目出し帽は脱ぎ捨てられていた。
「姫子君、君を見ていると何故か動悸が激しくなるんだ」
「君が視界に映らないと不安で不安で」
「姫子ちゃんのことを考えている時が一番刺激的なんだよ」
「姫の傍にいないといけない気がするんだ」
「運命なんだきっと」
「「「「「お前が好きなんだ」」」」」
その告白ってどーなの? マジで好きだと思ってる?? そんな告白劇が目の前で繰り広げられた。しかし告白劇と言うよりは男たちの顔には隈ができて血走った目をしているのでどちらかというと脅迫現場にか見えなかった。
しかしこれでも一応告白だ、姫子の返事次第ではハーレムエンドまっしぐらだ、どうしよう。しかし私のそんな考えは姫子の叫びにより一掃された。
「わ、私は男は嫌いなんですーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
泣き叫ぶように叫ぶと姫子は私を見つけて一直線に走り寄ってくる。
「助けて百恵ちゃーん」
姫子は泣きながら私に抱きついてきた。あの叫びの後ですが、まさか百合なんですか!? 混乱の余りぐるぐる考えながらも姫子を慰めつつ、姫子の叫びにショックで崩れ落ちる数人、嫉妬で私を睨みつけてくる数人の男たちにこれからどうなるんだとこれからの事を考えて渇いた笑いしか出なかった。