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輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
63/151

地上のゴブリンなのです

二マワリ〈日〉かけてシム湖北方まで来たウイングたちは、湖から少し奥まった場所に拠点を構えていた。


樹海の中にも、ぽっかりと開けた広場のような場所がある。

周りに柵を立て、簡易の陣地としているのだ。

今回は他者の目が多いため、マルガレーテの指示によりウイングの魔法で風呂や竈を作ったりはしていない。

自分たちのアドバンテージをわざわざ他者に見せて、余計な詮索をされたくないというのがその理由だった。


『白夜の蒼炎』はこの拠点防衛が主な任務だった。

ソロの冒険者の一部と『深緑の狼』の半分ほど、さらに『白夜の蒼炎』からはミルキルが、索敵に出ている。


元々、今回のゴブリン発見の報をもたらしたのは、今拠点で柵を作っている『風精団』と呼ばれるパーティーだ。


彼らは湖の畔で水を飲む三十匹ほどのゴブリンを見つけた。

さすがに多勢に無勢なため手は出さなかったが、できるだけ後を尾けた。

だが、途中で仲間らしきゴブリンたちに発見された『風精団』は尾行を断念、そのことをギルドに報告した。

二百から三百という数は、ギルドの職員たちによってなされた予測が元になっている。


なので、ゴブリンの住処の確認は自力でやるしかない。

そのために索敵要員である『深緑の狼』とソロ冒険者の一部は、昼間の内に見つけてやろうと躍起になっている。


その間、残った者が広場を中心に柵を作り、拠点防衛に当たっているという訳だった。


時折、広場を横切ろうとする魔物と戦闘になるが、二十名近いパーティーがいるのだ。『白夜の蒼炎』以外は素早さ重視の冒険者ばかりとはいえ、負ける方が難しい。

とはいえ、シム湖北方は南方に比べて魔物の数が多いらしい。

数キザミ〈時間〉の間に三度は魔物と遭遇している。


夕刻が近付いてきた頃、ソロ冒険者の一人が戻ってきた。


「発見したぞ!ここから北に五グミョーン〈キロメートル〉行った洞窟に集まってやがる!」


「よし!なるべく細かく地形を説明してくれ!

すぐに攻撃部隊に伝令だ!」


『深緑の狼』のリーダー、ロックが応える。

ソロ冒険者は『深緑の狼』に囲まれて、場所の説明を始める。

と、次に戻ってきたのは南方を確認していた『深緑の狼』の冒険者だった。


「ロック!当たりだ!南東三グミョーン〈キロメートル〉にゴブリンの住処だ!」


「何!?そりゃ本当か!」


「嘘ついてどうするんだよ!」


「いや、ついさっき北方五グミョーン〈キロメートル〉でゴブリン発見の報を聞いたばかりだぞ!」


「はあ?こっちは百五十匹はいたぞ!?」


「俺の方はおそらく二百匹くらいはいたぞ!?」


「おい、情報より五十も多いじゃねえか!」


斥候部隊内に衝撃が走る。

と、ミルキルが姿を現す。


「あ、ミルキルさん!大変なんですよ!」


いち早く見つけたアリアがミルキルに駆け寄る。


「ただいま……こっちも大変だよ……。

おーい!ロック!北西八グミョーン〈キロメートル〉にゴブリンの大集落だ……やつらデカイ木を中心に四百はいやがる……」


「はあ!?おいおい……勘弁してくれよ……」


ロックが頭を抱えて呻いた。

ミルキルが抱えていた猿のような魔物を放り出す。


「しかも、ここを見に来ていたゴブリンがいたぞ!」


猿といっても、身長一ミョーン〈メートル〉以上、細身の体に長い腕、額には第三の目のように魔石が露出している。

体毛が赤茶色で魔石が赤いので、火の固有魔法を使うのだろう。

ミルキルの矢を胸に受けて絶命している。


「これが……ゴブリンです……?」


「ああ、お前が不安がってたからな。見たら少しは安心だろ!」


ミルキルがウイングに片目を瞑って見せる。

ウイングは独りぶつぶつと「違うです。これはたぶん魔物なのです……」と呟いていたが、ミルキルは頓着せずに自論を展開する。


「ま、予定より百近く多いからそこんとこは用心しなきゃだけどな!」


「違うんだ……ミルキル……北方に二百、南方に百五十、お前の報告が四百、予定の倍以上だよ……」


ロックが考えるのを諦めたように、地面に大の字に身体を投げ出す。


「はあ?こっちは三百しかいないんだろ?どうすんだよ?」


ミルキルが責めるようにロックににじり寄る。


「しらねーよ!……と、言いたいとこだが、そうもいかねえんだよなあ……」


言ってロックが身体を起こす。


「とりあえず、他のパーティーリーダー集めて、決めてくるか……」


同時にロックはソロ冒険者の一人をギルドへの伝令に出す。

おそらくこの情報がギルドに伝われば、領主の持つ正規兵を動員することになるのだろう。

残っていたソロ冒険者と『深緑の狼』のメンバーが、ロックの指示の元、一斉に伝令として動き出す。

ロック自身も『風界の鷲』というリーダーパーティーがまとめている部隊へと向かうらしい。

ウイングの知る限りでは『紅蓮の獅子』は今回の討伐に参加していない。

事が起きた段階で、まだ冒険から戻っていなかったのだろう。


「しかし、とんだ大事になってしまったな……」


マルガレーテがミルキルと話している。


「こんな近場に三ヶ所も住処があるなんてな……こりゃ元々でかい群れが大きくなり過ぎて巣別れしたって線かもな……」


「シキシロが見つけた群れはどれだか分かるか?」


マルガレーテが『風精団』のリーダー、シキシロに聞く。

シキシロは柵作りの手を止めて、マルガレーテに向き直る。

歳は三十を越えているらしいが、童顔で線も細い。

まるで商家の少年のような男だった。


「さあ、恐らくは北側のどちらかだと思いますが、自分にははっきりとは……何しろ向こうの護衛と出くわしてから一目散に逃げましたから!」


特に悪びれる様子もなく営業スマイルで話す姿は、白っぽいローブと合わせて、本当に旅の商人に見える。


「嬉しそうに話すことでもないだろ……」


ミルキルのツッコミが入るが、シキシロには堪えた風には見えない。


「いえいえ、無理して死んだら意味がないですから、判断は正解だと思ってますよ!」


「そうですねえ……結果的にこちらは人数を揃えて来られた訳ですし、シキシロさんの判断が功を奏した形てすね……」


ムースも手を止めて言う。


「この猿って食べられるですかね?」


ウイングは地上でゴブリンと呼ばれる猿を前に思案顔だ。

自分の心労が余計な心配だったと分かり、ようやく生気が戻ってきたようだった。


「人型はちょっとやめません?ウイング……」


アリアが顔を引き攣らせる。


「安心したら腹が減ったって感じだな。

でも、ゴブリンは筋張ってて食えたもんじゃないから、やめとけよ、ウイング。

こっちの剣熊(ソードベア)にしとこうぜ!」


ミルキルがウイングの顔色が良くなったのに気付いて、笑顔で言う。

剣熊(ソードベア)は先ほど広場を横切ろうと突進してきたのを仕留めたものだ。


「そうだな……これからを考えるとちゃんと食べておいた方がいいだろう」


マルガレーテは全体に聞こえるように言うと、それからウイングに近付き小声で告げる。


「ウイング、料理はしていい。でも、竈は作らないようにな……。

お前とアリアの魔法は私たちの切り札だ。まだ温存しておきたい」


「分かったです」


ここまで『白夜の蒼炎』は他のパーティーと同じような食事を心掛けてきた。

干し肉、黒パン、味付けのない魔物焼き肉、塩スープ、全ては他の冒険者に配慮してのことだ。

ウイングの調味料セットも封印していたのだ。

この部隊だけでも三十人近い人間がいる。

いくらウイングが調味料を持ち込んでいたとしても、全員に振る舞ってしまえばあっという間になくなる。


「じゃあ初心に戻って、干し肉まぶし蒸し肉でもやるです!」


ウイングは大きめの石を拾ってくると、それをまな板代わりに、剣熊(ソードベア)の肉を薄切りにして、細かく砕いた干し肉をまぶしていく。

さらに支給されている薬草で肉を纏めて包む。

薬草は香草の一種で、生のまま噛むと強い清涼感と刺激で、傷の痛みを誤魔化してくれるというものだ。

傷が治る類いのものではない。

だが、この薬草は火を通すと刺激が和らぎ、すっきりとした清涼感だけが残る。


『白夜の蒼炎』メンバーはウイングのやっていることを見て、すぐに自分たちの干し肉と薬草を提供した。


「何をなさっているんですか?」


興味を持ったシキシロがウイングに聞く。


「料理なのです」


出来上がった剣熊(ソードベア)の薬草包みを適当に取ってきたおおきな葉で包んで、地面に掘った穴に入れる。


「それ、薬草ですよね?」


「傷が治らない草は意味がないです。でも、食材としては優秀なのです」


「いやいや、戦闘中の怪我を一時的にでも忘れさせてくれるというのは大事なことですよ?」


「まあ、食べたら分かるです!」


「はあ……まあ、自分に支給された分をどう使おうと本人の勝手ですから、いいですけどね……」


ウイングのやっていることの意味が理解できないという風に首を捻って、シキシロは柵作りに戻っていった。


穴の上に燃えにくい生木を組んで蓋にするとその上で焚き火をする。

後は中まで燃えないように見守るだけだ。 じっくりと待つ間に陽はかなり傾いてきた。

ロック以外は全員戻ってきている。

ある程度焚き火が燃えたところで、土を被せてじわじわと熱だけを残した。


「そろそろいいですかね」


ウイングの動きを真似て、アリアが手伝ってくれる。

半ばまで燃えた蓋を外す。

穴から大きな葉に包んだ物を、「あち、あち……」と言いながら取り出す。


「ロックがまだだが、先に食事にしよう」


マルガレーテが指示を出す。

ロックが居ない現状、『深緑の狼』の誰かが指示を出すのが筋というものだったが、その『深緑の狼』に頼まれてマルガレーテが副リーダーになっている。

元、十指に入るパーティー『白夜の華』をまとめていた実績を買われてのことだった。


『深緑の狼』の半数が見張りに立つ中、他の者たちで先に食事を取る。


と、その矢先にロックが戻ってきた。


「おう、飯か!ちょうどいい。食いながら話そう」


アリアが木の棒を箸代わりに、ロックに大きな葉に包まれたものを渡す。


「なんだこりゃ?」


「ウイングが作った剣熊(ソードベア)の薬草包み蒸しです」


ウイングがみんなの前で大きな葉を開く。

出てくるのはしっとり濡れた薬草の包みだ。

それをウイングは手掴みで(かぶ)り付く。


「……うん、美味しく出来たのです!」


味は脂身が多めの豚しゃぶという感じだ。

肉が野性味のある感じだが、薬草の清涼感が臭みを取るのと脂のしつこさをすっと流してくれる。


それを見て、各々が齧り付く。


「うまい!」「美味しい!」「これは、食が進みますね……」


しばし、皆が無言で味わう時間が進む。

というか、食べ終わるまで無言だった。

食べ終わり、ひと息ついてからマルガレーテが思い出したようにロックを促す。


「それで、どうなった?」


「ん?ああ、そうだったな。

みんな、聞いてくれ……。

全体としては、部隊のほとんどは明日、南東の百五十匹を片付ける。

その間、残りの部隊は北方と北東に備える。

それからギルドの後続を待って、全員で北方を始末、最後に北西の四百は、正規兵と合同で囲むことになりそうだ。

ゴブリンは繁殖力が高いからな。

なるべく逃さず殲滅したい。

俺たちは明日は『砂塵の爪』と北側の見張りをやることになっている。

距離があるから問題ないとは思うが、もし北側のゴブリンが南側と呼応するようなことになったら、できる限りの足止めをしろって話だ……」


「足止めと言われても、アールタイルの部隊だってウチと人数は大差ないんだろ?

無理とは言わないまでも、無謀だろ……」


ミルキルが天を仰いでいた。

気持ちは全員同じようなものだ。

六十やそこらで、二百、下手をしたら四百というゴブリンを相手にするのは流石に殲滅という条件がある以上、かなりの無謀だろう。


「当たり前だ!だからな……そんなことになったら、俺たちは逃げる。

逃げ足はあるしな。……ついでに多少の敵は引っ張っていくぐらいの気持ちでいれば、面目は立つ。

そこは全員、他のリーダーパーティーも納得済みだよ……」


「まて、私たちはそれでもいいだろうが、その場合『砂塵の爪』はどうなる?

アールタイルのパーティーは足を捨てての殴り合いを信条としていたはずだぞ?」


マルガレーテが心配そうに聞く。とはいえ、心配そうだと感じるのは『白夜の蒼炎』メンバーくらいのものだ。

ロックなどには、冷静に事象を分析しているようにしか聞こえない。


「あいつらはやる気だったからな……俺たちがどれだけ引き付けられるかで、生存率も変わるだろうさ……。

とは言っても、本当にもしもの場合の話だぜ?

同時に動くなんてのはねーよ。断言してもいい。明日は休暇みたいなもんだよ!」



翌日、『砂塵の爪』が率いる部隊と共にウイングたちは広場に作った陣地で待機している。

北方、北西のゴブリンの住処には『深緑の狼』のメンバーが二人ずつ見張りに行っている。

南側では今頃、襲撃が開始された頃合だろう。


「随分、がっちりと防御を固めたな……」


鎧をがっちりと着込んだアールタイルが、陣地の柵を見てそう評した。

それを聞いたミルキルが笑う。


「アールタイルの鎧とは比べるべくもないけどな」


「ふっ……気付いたか……」


アールタイルが誇らしげに鎧を見せる。


「前とは変わったな」


アールタイルを見て、マルガレーテが言う。


「ふっふっふっ……実は騎士土竜ナイトモールの鱗を使った新作鎧だ……つい二マワリ前に出物があってな!

今日がお披露目なんだ!」


「ほう、それは良いものを買ったな」


マルガレーテの褒め言葉にアールタイルはニンマリする。

それを聞いていたアリアはウイングに、


「アレってもしかして……」


「その通りなのです。

何しろ、留め金部分の加工は僕が手伝ったのです」


ウイングも胸を張る。


「また、手伝ってたんですか……」


「鎧作りも奥が深いのです……」


ウンウンとひとり納得したように頭を振るウイングだった。

ウイングは防具屋の職人の手伝いを暇を見つけてはやっている。

どうやら、売り物の一部を任されるレベルの腕をつけつつあるようだ。


遠く南側からときの声が上がる。

それは地鳴りのように低く響く音で、時折、剣戟や魔法が放たれる高音などが混じる。


「始まったわね……」


モーリーが耳をすませる。

と、突然。


ゲキャキャキャキャッ!


まるで樹海中に木霊するような声が響き渡る。


「風の魔法なのです……」


ウイングが看破してみせる。


「まさか、そういう固有魔法を持つ個体がいたとでも言うのか……」


ロックが驚愕する。


「確かに、ゴブリンの固有魔法は千差万別、そういう個体がいてもおかしくないですね……」


難しい顔でムースが断じる。


「音響爆弾みたいなものですかね?」


「音響爆弾?」


ウイングの呟きに反応したのはアリアだった。


「大きな音で相手の動きを封じたりするです」


「確かに……大きな音って、一瞬ビクッてなりますよね……」


「それよりも、まずいのはこの声に北側のゴブリンが反応する可能性があることだな……。

奴らは声で仲間を集める習性があると聞いたことがある……」


ロックは顔に緊張を滲ませている。


「はんっ!つまりはこの暇な時間が潰せるってことだろ?」


アールタイルは余裕の表情だ。


「おい、アールタイル。

本当にやるつもりなのか?」


マルガレーテが聞く。

アールタイルは背負っていた大剣に手を掛けて笑う。


「なんだ、心配でもしてるのか?

安心しろ、ゴブリンの百や二百、俺たち『砂塵の爪』だけでも充分だ!」


「別にお前の心配などしていない。

ただ、それに付き合わされる他の者はどうするんだ?」


「そ、そうか……。

だが、その点ならぬかりはない。俺が集めたのは、俺が認めた猛者ばかりだからな!全員異論はない!

なあ、みんな!」


「「「応っ!!」」」


いざという時に一番危険な役回りを買って出たのも、自分たちこそが精鋭という自負があるからなのだろう。

アールタイルの心残りはマルガレーテに心配してもらえないこと、ただ一点という感じだった。

もちろんそれも、ひたすらに耐えるという選択肢だからだ。

耐えれば、今南側で戦っている他の冒険者たちが救援に来てくれる。

殲滅はできなくとも蹴散らすくらいなら充分だ。

生き残る目算があるからこその選択だと言える。

生き残れば、そこからまた勝つための手段を選べばいいと考えるような男だった。



そして、その時は来た。

二人の冒険者がほぼ同時に駆け込んで来る。


「ロック!北のゴブリンが動いた!

ここの東一グミョーン〈キロメートル〉を掠めるルートだ!

南に向かってる!」


「誰だっけ?絶対動かないとか言ってたの?」


ミルキルがこれみよがしにロックに聞く。


「さあ?きっとみんなを安心させようとした優しい奴なんじゃないか?」


ロックが惚けてから、声を張り上げる。


「よーし!俺たちの仕事はこの陣地まで二百の客をエスコートすることだ!

煩そうな奴には遠慮なく矢を射掛けてやれ!

いくぞ!」


『深緑の狼』率いる部隊が移動を開始した。


「これがフラグってやつなのです……」


ウイングは一人、納得したように呟いた。


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