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輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
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異世界転生?

「よし!では、この子の名は……う~ん……保留で!」


 父は翼の顔をじっと見てからそう言った。


「ホリューですか?」


 産婆、と言ってもまだ百歳にも満たない夜魔族の褐色の肌をした女性が龍翼をへにゃり、とさせて聞き返す。

 顔を見るにあまり納得いっていないようだ。


 夜魔族とは地下九層からなる魔族領域でも第三層に根を張る種族で、背に龍翼、尖った耳、精神干渉魔法に長けているのが特徴だ。


「違う!保留にすると言ったんだ」


「ああ、しばらく名無しにしておくのですね」


「そうだ。イマイチ、ピンとくるのがねーんだよ……」


 言って父はしなやかな筋肉がついた腕を組んで考え込む。


 翼は全力ツッコミで泣き疲れていたので聞くとはなしに聞いている。

 そこで、思う。

 何故、僕はこの人たちの会話の意味が分かるんだろう……。

 それは彼が生まれる直前、振り向いたことと藁に縋ったことに関係しているが、彼には分からない。

 考えても分からないことだらけなので、翼はそのことを記憶の隅に放り込んだ。

 それよりも、赤児として生まれた瞬間から自意識を獲得していることで得られる新しい情報の刺激の方が重要だろう。


 何しろ、地球生まれの人間から見れば、どう見ても異世界。

母や父の角も産婆の龍翼も初めて目にするものだ。

 好奇心が疼いて仕方がない。

 着ている服装だって、母は前合わせの和服のような物だが、産婆はメイド服、ミニスカートではなく裾が長い昔の映画で見るような簡素な紺のワンピースに白い前掛けだし、父はノースリーブの上に硬質な皮の胴丸、朱地に金の刺繍入りマントに腰紐でまとめただけの麻ズボンという出で立ちだ。


 すげー、まじファンタジー!

 異世界転生ってやつなのかな……。


 翼は父、母、産婆を、マジマジと観察して、一人興奮してきた。


 魔法とか剣とか修行して、勇者になったりとか、竜に乗ったりできちゃうのかな……。


 翼は映画やゲーム、本に語られる不思議な世界の不思議な物語を想像して、悦に入っている。


 父母と産婆は未だに翼の名前をどうしようかと悩んでいるようだった。


 そんな時、翼の目の前を光がチラつく。

赤い小さな光の粒、青い小さな光の粒、色とりどりの光の粒が翼の周りを踊るように廻りながら瞬いていた。


 翼の意識は突如表れた、その光の光景に惹きつけられる。


「……れた」

「……れたね」

「……れたよ」


 声と言うにはか細く、音と言うには意味深な響き。

 翼は好奇心のままに光に手を伸ばす。

 光の粒たちは、まるで恐れるように、逃げまどうように、その手を避けて明滅する。


「いあり……あきゃぁあぁ!」


ひかり……と言おうとしたが、口がまわらない。

 途端に光の粒たちは翼の前で少し強く発光したかと思うと、空間に溶けるように消えてしまった。


「ん?なんだ?

 今、こいつ何か言ったか?」


 父が耳を寄せてくる。


「あら、何かあったのかしら?」


 母が覗き込む。


「生まれた瞬間から言葉を話すのはさすがにないと思いますよ……」


 苦笑気味の産婆。


「いやいや、俺の子だからな……何か特別な力とかあってもおかしくないぞ……」


「親バカ……」


 ぽつりと産婆が呟く。

 そんなことには聞く耳を持たないのか、父が耳に手を当てて聞き逃すまいとしながら、囁く。


「ほ~ら、お父しゃまにもういっかい、言ってごら~ん……お名前かな?じぶんで決めたお名前とかあるのかなぁ~?」


 父の耳が迫る。

 余程父は名前で悩んでいるのだろう。

 本来なら生まれる前に決めておくか、ある程度の目星を付けておくものなのだろうが、父は直感を大事にしているのか、ものぐさなのか、暗中模索だったようだ。


「今ね~、ボクちゃんの名前をゴラッサムディスにしようか、ブレイガンツにしようか迷ってるのよ~。

 どっちがいいかな~?」


 翼は父にネーミングセンスが無いと知った。


「あなた……いくら男の子だからって、それはあんまりですよ……もう少し可愛らしいのがいいですわ……」


 母がたしなめる。

 翼は焦った。

 光の粒に夢中になるあまり、自分の名前がゴラッサムディスかブレイガンツになるところだったとは……。

 翼は一所懸命に自分の名前を伝えようとする。

「ん〜ばぁ、は!」


「お、何か言おうとしてるぞ!」


 父も何とか聞き取ろうとしてくれる。


「ん〜、ばぁ〜……」


「ンー、バァー……」


 そこで翼は気付く。


 このままじゃ、僕の名前『ンーバァーッハ』とかになるのでは……?

 それは避けたい。

 赤ん坊の口でツバサと言おうとしても、まともに喋れないのでは、自分の名前がンーバァーッハかゴラッサムディスかブレイガンツになってしまう。

 言いにくい上に長くて覚えてもらいにくいし、ダサい。

 ただでさえ前世で人間関係に失敗してるのに、そんな名前じゃ、ハードルが高すぎる!


 そう考えて、翼はとっさに言葉を代える。

 とは言っても、とっさに自分の名前など浮かびはしない。

 翼は、安直に自分のハンドルネームを伝えようと思った。


「ぅいんん……ヴぃんヴ……」


「お!」

「あら?」


 父母が声を上げる。


「えっ……まさか……?」


 産婆も顔をひきつらせる。


「うぃんぐ、ぐ……ういんぐぅ……」


「えっ?も、もういっかい!ほら、がんばれ!」


「うぃぃぐっ……ういんぐぅ……うい……んぐぅ……」


 ダサい名前は嫌だという翼の執念が勝ったのか、その口ははっきりと『ウイング』と音にしていた。


「ウイング?……おい、今、こいつウイングって言ったよな?」


「まあ、ほんとうに……でも、ウイングっていい響きですわね」


 父と母が頷きあう。

 どうやら、お互いにそれでいこうと思い立ったらしい。


「よーし!お前の名前はウイングだ!

 ウイング・エリュセイグド・ヴォラウディーグ・サタンロード・ルーシュフエルだ!」


 翼はそれを聞いて内心で引きつけを起こしていた。


 長い……長い名前が嫌で、必死に短くしたのに、名前の後に続くミドルネームだかファミリーネームだかが長すぎる。

 いきなり人生のハードルが上がったような気がして、挫折しそうだった。


「良かったわね、ウイング。あなたは今日からウイングよ」


 父母が笑いあっていた。

 産婆もやれやれといった様子で、でも喜ばしいことだという風に龍翼を震わせていた。


 そんな周囲の穏やかな雰囲気に少しだけ、この人(?)たちが父母で良かったと思った翼は、疲れが出たのかそのまま温かい母の胸に抱かれて眠りに落ちていった。


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