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彼は私の最強手札(He is my joker)  作者: 野良にゃお
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おわり)To be continued

その5/To be continued



 何の前触れもないままに、生きている事を意識する………って、ただ単に目が覚めただけなのだけれども。脳が機能している、心臓が鼓動している、だから身体のそこかしこを動かせる。意識的に、無意識に、感覚を実感している。眠っている間だってそうなのに、筈なのに、なのに、判らない………知覚って、なんだか頼りない。どんな理由があるにせよそう、突き詰めてみればそう、眠っている間に何が起こったとしても、目を覚まさない限り有って無いようなモノ。目が覚めたとしても、意識しなければ無かった事と変わらない。


 少なくとも………僕にとっては。


 そう考えるとなんだか怖いよね、眠るのって。ま、それでも眠たくなったらころっと眠ってしまうだろうけれど。


「………なんのこっちゃ」

 と、ぽつり。たしかにそうだ、うん。なんのこっちゃだよな。


「んん………」

 ん、静香さん起きた?


「………ん」

 あ、笑った。ヤバいよ凄い可愛いマジで女神みたいだ。



 うん、平和だなぁー!!



 僕の腕枕で穏やかに、和やかに眠っている静香さん。僕の憧れの女性だ。これからずっと、こうして生きていける。生きていけるように頑張れる。夢みたいだよ。夢みたいに幸せだから、やっぱり眠るのが怖い気もしてきた。眠れないかもしれない。だって、眠っている間に全て無かった事とかになっちゃってたりなんかしたら………立ち直れないし。


「んっ、シュンくぅん………」

「え、あ、はい」

 起きた?


「………」

「………」

 あれ?


「………んにゅ」

「………寝言?」

 でしたか。


 夢の世界にまで僕をキャスティングしてくれているとは………ありがと、静香さん。これはヤバいかも………かなり幸せだ。ちょっと泣きそうだし。


 ………ただし。


 とある一点を除いて、

 なのだけれど。


 こんこん。

 がちゃ。


「おはようございます御主人様」

 噂をすれば何とやら。満面の笑みで登場する小春さん。


「………召し抱えた記憶はありませんけど」

 早速、第一試合スタート。先手は僕です。


「昨夜はお楽しみでしたか?」


「それは何処かの姫と勇者に言ってくださいよ宿屋の主人さん」


「え、それなら間違えてないじゃん」


「一般ピープルですけど」


「我が姫様の仰せのままに?」


「うぐ………」

 結果、あえなく惨敗。僕は返す言葉を失って呻く。


「私がすぐ横に居たというのにお二人でイチャイチャなさって忘れる若しくはシカトするだなんて………迂闊だったな勇者よがはは!」


「宿屋の主人あらため魔王さん声が大きいよ! って………シズカさんまだスヤスヤさんなんだからさ」


「朝まで寝かせなかったもんね」


「おいコラ」

 どうやら、第二試合スタートらしい。今度は小春さんからのようだ。


「隣のお部屋で独り悶々とさせるプレイなんて、ドSにもホドがありますわ」


「じゃあ、帰れよ」


「私、寝不足なのでまだ居ます」


「寝不足? 枕が変わると眠れないような繊細なタイプには見えませんけど」


「貴方達の目眩く桃色な声や音がつい先程まで隣のお部屋に洩れ聴こえてくるもんですから」


「シテねぇーから」


「なんと! では、それを妄想させて独りで慰めさせるプレイでしたか」


「それもシテねぇーから」


「え、てっきりそうだと思って私ったら何度も………ぽっ」


「シテたのかよ!」


「刺激し過ぎてジンジンしちゃっておりますいやん!」


「冗談はもうイイから早く国に帰れよ」

 結果、またしても惨敗の様子。と、言うよりも。分が悪いから途中で棄権しました。


「ちえっ、羊飼い君は冷たいなぁー」


「あ、でも………ありがと」

 そして、真面目な空気に変えようと試みる。


「えっ、そ、そんな急に、真面目モードにならないでくださいよ」


「だって、さ。もう帰れよって怒らせてからのはいはい判りました帰りますよに繋げてホントに帰るつもりのお気遣いコンボなんでしょ?」


「うくっ。流石に侮れま………いいえ、それを言うのは野暮ですよ羊飼い君」


「うん………ゴメン。野暮ついでに、念の為にオレ達を護衛しとくか的な優しさで泊まったんでしょ? 感謝してるし邪魔だから帰ってほしいとまでは思ってないよ。でも、オレはもう戻るつもりなんてないからさ、だから、時間は大切にしてね。とは、激しく思ってます」


「そうですか………では、まだ一晩ではありますが何者かが彷徨くなどの不安要素もなさそうなので、今回のところは引き下がります」


「そうしてください」


「ですが、次回は羊飼い君のお優しい面を攻撃して、必ずや仲間に引き込んでみせます。それに羊飼い君ならきっと、私が大ピンチの際くらいはヘルプしていただけるだろうと読みましたし」


「それは………借りもある事だし、善処しますよ。でも、その時が来ても平和ボケしまくってて役に立てない可能性大だと思うよ」


「いえいえ、期待しております。それではこれで、ホントに失礼しますね」


「えっ、シズカさんには?」


「私の方は未だ裏の人間ですから。代わりに宜しくお伝えください」


「………うん。じゃあ、また」

 僕が空気を変えようと試みた事を察したのだろう小春さんとの暫しのキャッチボールの後、僕はそういう言い方をして締め括る事にした。


「また、って………はい。心と身体を大切にしてください。あ、玄関の施錠は外からかちゃりとしておきますので、目が覚めるまでそのままでいてあげてください」


「うん。ありがと」

 以上、コミュニケーション終了。それにしても、こんな形で影の手とお知り合いになるなんて、ね。



 ぱたん。



 ………。



「危険な事しちゃダメだからね?」



「ん、あっ。起こしちゃった?」

 部屋のドアが閉まる音から数えて僅か数秒の後、静香さんが終わった筈の会話に参加してきたので、僕は少しの焦燥を抱きながらもそう返した。どのあたりから起きていたのかは定かではない。


「しちゃダメだよ?」


「えと、う、うん………」

 話しの内容から予想するにたぶん、影の手に手を貸すかどうかのあたりかな。と、思案しながら。僕はとりあえずそう返した。


「あと、もう一つだけ」

「何でしょうか………」

 の、だけれど。


「………沢山シテくれたクセに」


「あう、う、でも、でもそれはシズカさん初めてなのに感じちゃったとか恥ずかしそうに言うから可愛くてそれで触ったらまたすぐに感」


「それ以上は言うなぁー!」


「………ゴメンなさい」

 かなり最初の方からだったようです。しかし僕は、強くなった焦燥が表情や声に出てしまう事を抑えつつ茶化して誤魔化そうと、影の手の事は有耶無耶にしようと、努めて会話の空気を変えた。


「あ、そうだ。責任、思いついちゃった」

「え、イヤな予感しかしないんですけど」

 の、だけれど。


「一生、お尻に敷かれなさい」

「わお………」


「だって、アタシのモノなんだもん」

「………たしかに」


「でしょ?」


「………我が姫様の仰せのままに」

 茶化したつもりのそれが、未来を決定づける重大な案件へと成り上がってしまいましたとさ。


「えっへん! あっ、じゃあ、じゃあ、じゃあさ。赤ちゃん欲しいなぁー」


「えっ、姫様?」

 そして、静香さんによる爆弾発言。


「ねぇ、シュンくぅーん!」


「え、いやその、起きぬけの今すぐってウキキさんじゃないんだから………」

 つい先程までの焦燥とは別種の焦燥が膨らんでいく。


「だって、だってだってシュンくんは、さ………初めてじゃないでしょ」


「え、あ、いやその」

 更に、見えない角度からカウンターを喰らったような言葉を投げかけられて、膨らむスピードが増す。


「アタシだってそのくらい判るんだからね! それって浮気なんだぞ! 酷いよシュンくん………ひんっ」


「いやあのゴゴゴゴメンなさ」

 静香さんによる反論不可な主張の後すぐ打って変わっての曇りのち大雨なコンボに、ヤバい泣かないでと焦燥しまくりの僕は兎にも角にも謝ろうとした。


「だから、だから、アタシしか思い出せないくらい毎日沢山シテもらう事になりました。これは決定事項です!」

 の、だけれど。


「えっ、と………」

 静香さんがそれを遮るかのように重ねてきた。きりっ←って、何故かなってます。なので、どうしてここで教師キャラを? と、逡巡していると。


「………泣くぞ」

 と、ぽつり。静香さんが真顔で呟く。


「え、あ、その………喜んでお受け致します」

 で、完全に飲み込まれました。


「うむ! じゃあ、じゃあ、二人でウキキさんになっちゃおー」


「………」

 それにしても………さ。



 静香さんって、

 こういうキャラだったっけ?



「シュンくぅーん」


「ちょっ、シズカさん………」

 が、しかし。そういえばこうだったかもしれない………と、おもわずにはいられないお尻に敷かれていた数々の記憶が浮かび上がってきた。


 ま、それも悪くないけど。

 ………いや待てイイのか?


「えへへ。はむっ、んっ………」

「あうっ、ちょ、ちょっ!」


 静香さんいきなりそれは、

 どうかと思いますけどぉー!


 ………。


 ………その頃。


 ドアを隔てた向こうでは。


「昨夜といい今といい、私ってイジメられているのかしら………激しく有り得えますね。ぐすん」

 と、ぽつり。部屋のドアを閉めてすぐ玄関まで瞬間移動するという離れ業なんて流石に持っていなかった小春は、音を立てないようにそっと、そっと、玄関に向かうのだった。


 ………。


 ………。




             その5)終わり

          彼は私の最強手札 完

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