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キラキラ  作者: るうあ
キラキラ 本編以後の小話
37/54

君の笑顔を見るたびに自分だけのものにしたくなるのは、いけないことなのだろうか。

 ―――贅沢な望みなのだろうか。


 セレンは、安堵しきって眠る少女の髪を撫ぜる。

 普段は早起きらしい少女だが、セレンが隣にいる朝は、大幅に寝過ごしてしまうようだ。そして寝ぼけ眼をセレンに向けるとその後すぐに、慌てて身を離そうとする。

 いいかげん慣れても良さそうなものだけどと笑うセレンに、少女は決まって、

「無理です、慣れませんっ!」

 と言って顔を赤くする。

 時に、寝たふりをして少女に心の準備をする時間を与えてやるのだが、それがわかると少女は照れもあってのことだが、ふくれっ面をして拗ねてしまう。

 恥じらっている様子も愛らしいに違いないが、やはり笑顔を見せてほしい。

 夜、さんざん啼かせておきながらそれを望むのは、やはり贅沢なのだろうか。



 そして今朝も、同じ事を繰り返す。

 セレンは頬杖をつき、ようやく目を覚ました少女の顔を間近に覗く。

「おはよう、キラ」

 少女は二、三度瞬きをし、それからようやく「目を覚ます」。

 少女の黒髪を一房掴み、セレンはそっと触れる。再び「おはよう」と告げた、その唇で。

「ちょっ、ちょっ、お、王子っ!」

 今にも湯気が出そうなほど顔を赤らめ、少女はおたおたと慌てふためいている。

「おっ王子っ、顔、迫らせないでないでっ!」

 セレンは「今さらだと思うけど」と苦笑する。

「それにしても、……夜は名を呼んでくれるのに、朝になるといつも「王子」に戻ってしまうんだね?」

 からかう風に言うが、それは吐露されたセレンの本心だった。

 それを察し、素直な少女は胸を痛め、返答に窮してしまう。

 私を見て。名を呼んで。

 セレンの亜麻色の双眸が、それを語る。

 ―――王子が望むことなら、なんでも叶えてあげたい。

 いつもそう思っているのに、うまく行動に表せない自分が歯がゆく、もどかしい。

 少女キラは戸惑いがちに、だが、火照った顔をセレンに向けた。

「……あ、えと、……セレン」

「ん?」

「……っ」

 笑って「おはよう」を言おうとしたキラだったが、くじかれてしまった。

 セレンの微笑が、あまりに艶かしすぎて。

「セ、セレン、えと……」

 恥じらいに頬を紅潮させている少女の、なんと愛しいことか。

 セレンは目を細め、ため息をつく。

 それは、無自覚に発せられる、森の魔女の魔法。威力は絶大だ。

 セレンを惑わせ、眩ませる。

「今日はずっとこのまま、こうしていようか?」

「だっ、だめっ、だめですっ!!」

「起きるの、億劫だし。……ね?」

「ね、じゃありません! 朝なんです、起きなくちゃだめなんですっ!」

 肩を抱き寄せようとするセレンの腕を、キラは必死に解く。

「どうしても?」

「どっ、どうしてもですっ」

 くすっと小さく笑って、セレンはキラの手を取り、指先に口づけた。

 当然、キラは真っ赤になって硬直する。

「それじゃぁ、もう一度。――おはよう、キラ」

「……う」

 こうやって、セレンにはいつも先手を打たれてしまう。

 キラは観念したように、肩の力を抜いた。そうしてやっと、

「おはよう、……セレン」

 それを言えたのだ。

 セレンが望む、笑顔とともに。



 ―――やはり、贅沢な望みなのだろう。

 セレンは苦い想いをため息にかえ、吐きだした。

 愛しいキラ。

 君のその笑顔を、私だけのものにしたい、私以外には見せないでほしいと、――縛るのは。


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