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キラキラ  作者: るうあ
キラキラ 本編以後の小話
35/54

何よりも愛しい君をゆるやかな鎖でつなぎ止め、広い檻に閉じ込めよう。

 抱き寄せると、少女は頬を赤らめ、身を硬くする。

 にわか雨に濡れた長い黒髪を手に掬い、口づけた。

 少女は恥じらって声を上げる。いつものように。

「もう、王子ってば、ちょっとは人目を気にしてくださいっ!」


 真昼の町中、雨に濡れぬよう軒下に誘われ、身体をすっぽりと覆われている少女は、軽く抵抗してみせる。

 少女を抱きしめて離さない亜麻色の髪の青年は、町を行き交う人々の目など、一向に構わぬといった風だった。

 ふと、青年は髪と同じ色をした瞳を伏せた。

 辺境地の領主であり、また「王子」という身分である自分。

 常に人目を気にし、身分に相応しい立ち居振る舞いをしなくてはならなかった日々が、閉じた瞼の裏に甦る。

 ――だが、もう自分を無理に装う必要はない。

 この、腕の中にいる少女の前では。

 優麗な微笑を、いたずらっぽい微笑にかえ、王子はささやいた。

「他人の目など、気にしないで」

 少女の耳朶に、そっと打たれる甘やかな声。

 ぞくりと鳥肌が立つほどに艶かしく、少女は身を縮こまらせる。

「やっ、お、王子ってばっ」

 全身に火がつき、湯気が出そうだ。少女は紅潮した頬を、王子の胸に押し当てる。そうすることでさらに王子の心を煽っているなどと、無防備な魔女はまったく気付かない。

「……キラ」

 髪を撫で、王子は少女の秘された名を口にする。他の誰にも聞かれぬよう、少女の耳元で。

 いつしか雨はやみ、雲の切れ間からやわらかな陽射しが地上に降り注いでいた。木々や家屋に残っている雫が、光を受け、白く煌めいている。

 その美しい光景すら、王子は少女の瞳に映させない。

 ―――私だけを見、感じていればいい。

 抱きしめる腕に力をこめる。

 少女は息苦しさに眉間を寄せ、首を伸ばした。

「……お、王子っ」

 王子は腕を緩めた。少女を、己の腕の中で窒息させてしまうわけにもいかず、致し方なしに解放する。

「もうっ王子ってば、いつも唐突なんだから」

 可愛らしく拗ねる少女を見やり、王子は少し困った風に笑う。

「いつも君だけを見ていたいと思うのは、いけないことかな?」

「まっ、またそういうっ」

「怒った顔も愛らしいが、笑ってくれるともっと嬉しいのだけどね?」

 硬直し、少女はあ然と口を開けている。返す言葉もない、といったところだった。

 王子は再び少女の黒髪を掴み、微笑みを向ける。

「君は、私のものだ」

 口にはしない、その言葉。

 ――この黒髪が鎖となり、私と君とを繋ぎとめてくれればいい。決して離れられないように……。

「……好きだよ、キラ。誰よりも」

 結局口に出して言えたのは、その一言。

 だがそれが、全てでもある。

 王子の想いを受け、少女キラは頬を火照らせている。

「わたしも、……です」

 もちろん王子は訊き返す。聞こえなかった、その肝心な一言を。


 ただしそれは、―――今宵、二人きりの時に、ね。




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