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アイコとケンジ  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


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3/9

第三話「積み荷の正体」


 「やらなければいけないことがある」と言った割に、マリアはしばらく黙っていた。

 アイコは待った。十秒。二十秒。

「……マリアさん?」

『少し、整理しています』

「整理って何を」

『何から話すべきか』

「全部話して」

『全部話すと——』

「長い?」

『とても』

「じゃあ短くして」

『難しいです』

 ケンジが横から言った。

「じゃあ一番大事なことだけ」

 間があった。

『——この機体の中に、人がいます』

 コックピットに沈黙が降りた。

「人?」

『正確には、眠っている人です。コールドスリープ状態で』

「どこに」

『この機体の最深部に、カプセルがあります。そこに』

「誰が」

『私には——名前しか分かりません』

「名前は」

『ハセガワ・サチコ』

 アイコの全身の血が、一瞬止まった気がした。

「……それって」

『あなたのお母さんだと思います』


 しばらくの間、アイコは何も言えなかった。

 ケンジも何も言わなかった。

 スピーカーからも、何も聞こえなかった。

 アイコの母、長谷川サチコは——三年前に失踪していた。

 海洋研究者だった。ある日、調査船ごと消えた。遺体も、船の残骸も、何も見つからなかった。

 アイコは今でも、母が死んだとは思っていなかった。

 思いたくなかっただけかもしれないけれど。

「……本当に?」

『確認できていません。でも、カプセルの登録名がそうなっています』

「会える?」

『カプセルを開けるには、特殊なコードが必要です。白鳥機関が管理しています』

「じゃあ奪えばいい」

 アイコは操縦桿を握り直した。

「白鳥機関のコードを奪って、お母さんを起こす。それが正しい場所に届けるってこと?」

『……少し違いますが、方向性は合っています』

「どこが違うの」

『白鳥機関のコードは、世界に三か所に分散して保管されています』

「三か所」

『一つは海底基地。一つは宇宙。一つは——』

「宇宙!?」

『はい』

「宇宙って、宇宙?本物の?」

『本物の宇宙です』

 アイコはケンジを見た。ケンジがアイコを見た。

「……聞いてた?」

「聞いてた」

「どう思う?」

 ケンジは少し考えた。

「無理だと思う」

「だよね」

「でも」

「でも?」

「君のお母さんが中にいるなら——」

 ケンジは眼鏡がないまま、アイコをまっすぐ見た。

「やるしかないんじゃない」

 アイコは一秒だけケンジを見て、それからモニターに向き直った。

「マリアさん」

『はい』

「まず海底基地から行く。場所は?」

『ここから東に四十キロ。ただし——』

「ただし?」

『白鳥機関の索敵艇が、さっきより多く展開しています。今、外は』

 モニターが切り替わった。暗い海の中に、光の点が無数に広がっていた。

「……多い」

『十七機確認しています』

「十七!?」

『はい』

「一機でどうやって十七機を——」

『アイコさん』

「何?」

『この機体には、まだ使っていない機能があります』

 コンソールの隅で、今まで灯っていなかったボタンが一つ光った。赤いボタン。

「これ何?」

『変形します』

 アイコとケンジの声が重なった。

「「変形!?」」

『この機体は海中形態と——戦闘形態、二つの形を持っています』

「戦闘形態って」

『見た方が早いです。押しますか?』

 アイコは赤いボタンを見た。ケンジを見た。モニターの十七の光点を見た。

 押した。

 機体が唸った。

 変形が始まった。


 つづく



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