『蒸気帝都の「ガトリング法師」 ~お経は唱えん。この六連装の回転式破魔砲が俺の説法だ~』
和風スチームパンク × 退魔 × 重火器 お経の代わりに鉛玉をばら撒く、破戒僧のアクションです。
【第一章:下層街の賭場】
プシュウゥゥゥ……。 どこかの配管から蒸気が漏れる音が、絶え間なく響いている。
ここは東の果ての島国、日ノ本。 その中心にある巨大都市「帝都」は、蒸気機関の煤煙と、行き場のない欲望、そして人ならざる「妖気」によって常に曇天に覆われていた。
帝都下層、第十三番街。 治安維持部隊すら寄り付かないスラムの奥に、その酒場はあった。
「丁か、半か! さあ張った張った!」
熱気と紫煙が充満する賭場。 男たちの怒号が飛び交う中、一人の男が盆(サイコロの台)の前に胡座をかいていた。
「……半だ」
男の名は、龍雲。 年齢は不詳だが、二十代後半といったところか。 鍛え抜かれた巨躯に、ボロボロの法衣を纏い、首からは巨大な数珠を下げている。 だが、その態度は聖職者とは程遠い。 口には安物の紙巻き煙草をくわえ、右手には一升瓶。そして背中には、身の丈ほどもある巨大な**「黒鉄の鉄櫃(棺桶)」**を背負っていた。
「へっ、この生臭坊主が。また半か? 逆張りしねぇと身ぐるみ剥がれるぜ?」
対面に座る男――いや、頭から角を生やした巨漢の「牛鬼」が嘲笑う。 この街では、妖怪と人間が入り混じって暮らしている。その大半は、人の姿を借りたチンピラのような「半妖」たちだ。
「御託はいらねぇ。壺を振れ」
リュウウンは煙草の煙を吐き出し、気だるげに言った。 壺振り(ディーラー)がサイコロを振る。 カラン、コロン。
「勝負!!」
壺が開かれる。 賽の目は――二と四。「丁」だ。
「ギャハハハハ! 残念だったなぁ坊主! 丁だ!」
牛鬼がテーブルの金を総取りしようと腕を伸ばす。 だが、リュウウンは動じない。 彼は懐から一枚の「御札」を取り出し、テーブルにパシリと叩きつけた。
「……待ちな。そのサイコロ、随分と『妖気』が染み付いてるじゃねぇか」
バチバチバチッ! 御札が触れた瞬間、サイコロが紫色の火花を散らし、中から小さな妖魔が這い出てきた。 イカサマだ。サイコロの目を妖術で操作していたのだ。
「あァ!? テメェ、イチャモンつける気か!」
牛鬼が激昂し、テーブルをひっくり返す。 周囲の客たちが蜘蛛の子を散らすように逃げる中、リュウウンは片手で一升瓶を守りながら、ゆっくりと立ち上がった。
「イチャモンじゃねぇ。説法だ」
リュウウンの瞳が、鋭く光った。
「博打ってのはな、運否天賦に魂を乗せるから面白いんだ。イカサマなんぞで勝って、美味い酒が飲めるかよ」
「うるせぇ! 説教なら地獄で垂れてろ!」
牛鬼が本来の姿――体長三メートルの異形へと変化し、丸太のような腕を振り下ろす。 普通の人間ならミンチになる一撃。 だが、リュウウンは背中の鉄櫃を軽々と片手で持ち上げ、それを「盾」にして攻撃を受け止めた。
ゴォォォォンッ!!
鐘楼を叩いたような重低音が響く。 鉄櫃は傷一つ付いていない。
「なっ、なんだその棺桶は……!?」 「商売道具だ。……さて、酒をこぼしかけた罪は重いぜ?」
リュウウンは鉄櫃を背中に戻すと、右手を握りしめた。 その拳に、青白い光――**「霊力」**が収束していく。
「南無ッ!!」
ドォォォォン!! 放たれたのは、拳圧による衝撃波ではない。圧縮された霊力の塊だ。 それが牛鬼の腹に直撃し、巨体が砲弾のように吹き飛んで店の壁を突き破った。
「ガハッ……!?」
外の路地に転がる牛鬼。一撃で気絶している。 リュウウンはフゥーッと煙草の煙を吐き、店主に酒代(と、壊れた壁の修理代)の小銭を放り投げた。
「釣りはいらねぇ。……ったく、シケた街だぜ」
【第二章:古びた依頼】
店を出たリュウウンは、蒸気配管が迷路のように絡み合う路地裏を歩いていた。 雨が降り出した。酸を含んだ黒い雨だ。
「よう、生臭。派手にやったみてぇだな」
路地の陰から声をかけてきたのは、片足が義足の老人だった。 情報屋のゲンだ。かつては帝都の蒸気技師だった男である。
「ゲン爺か。……何か美味いネタはあるか?」 「ああ。デカい山だ。……『第三開発区』を知ってるか?」
第三開発区。 帝都の地下深くに建設中の、新しい地下鉄ラインの工事現場だ。 だが、数週間前から工事がストップしているという噂があった。
「あそこの地下で、作業員が何人も行方不明になってる。軍部は『ガス爆発』だと隠蔽してるが、生存者の証言じゃあ『化け物』が出たらしい」 「化け物ねぇ。いつもの『餓者』か?」
餓者。 この帝都にはびこる、人の負の感情と死体に妖気が憑依して生まれる怪物だ。 知能はなく、ただ生きた人間を喰らい、増殖する。動く屍のような存在だ。
「いや、ただの餓者じゃねぇ。現場から妙な『石』が出土したらしい。それを掘り出してから、おかしなことが起きてる」
ゲンは一枚の地図と、前金が入った封筒を差し出した。
「依頼主は、現場監督の遺族だ。敵討ちと、事態の収拾を頼みたいそうだ。……やるか?」 「金になるならな」
リュウウンは封筒を受け取り、懐に入れた。 そして、背中の鉄櫃を揺らす。 ズシリ、と重い音がした。
「それに、コイツ(相棒)も腹を空かせてる。久しぶりにデカい花火を打ち上げるのも悪くねぇ」
【第三章:地下遺跡の封印】
深夜。 リュウウンは封鎖された第三開発区のゲートを破り、地下へと続く巨大な縦穴を降りていた。 蒸気エレベーターは止まっている。梯子を使って数百メートル。 空気は湿り気を帯び、腐臭と鉄錆の匂いが混じり合っている。
「……ここか」
最下層。 そこは、掘削工事によって暴かれた「古代の遺跡」だった。 帝都の地下には、蒸気機関が発明されるより遥か昔、平安の世の遺跡が埋まっていると言われているが、ここはその一部らしい。
カサカサ……カサカサ……。
暗闇の奥から、無数の這い回る音が聞こえる。 リュウウンが携帯用のカンテラを掲げると、光の先に蠢く影が見えた。 作業着を着たまま腐り落ちた人間――いや、『餓者』の群れだ。 目は赤く光り、口からは蒸気のような妖気を吐いている。
「グゥゥ……オオォォ……」
餓者たちがリュウウンに気づき、一斉に襲いかかってくる。 数は二十、三十……いや、もっといる。
「雑魚が群れるんじゃねぇよ」
リュウウンは鉄櫃を地面に置き、手にした錫杖を構えた。 先端に刃が仕込まれた、武闘派の錫杖だ。
ゴァンッ!!
錫杖を一振り。 先端の輪が鳴り響くと同時に、霊力の刃が飛び、先頭の餓者の首を跳ね飛ばした。 リュウウンは舞うように敵陣へ切り込む。 打撃、刺突、そして霊力を込めた蹴り。 接近戦において、彼の右に出る者はいない。
「南無!」
最後の一体を壁に叩きつけ、リュウウンは息を吐いた。 まだ鉄櫃を開けるまでもない。 彼は餓者の死骸を乗り越え、遺跡の最奥へと進んだ。
そこには、巨大な空間が広がっていた。 中心にあるのは、注連縄が巻かれた巨大な岩――『殺生石』だ。 だが、その岩は真っ二つに割れていた。
「封印が……解けてやがる?」
工事の振動で割れたのか、それとも誰かが意図的に割ったのか。 割れた岩の間から、濃厚な妖気が噴き出している。 そして、その妖気の中に、小さな影があった。
一人の少女だ。 見た目は十歳ほど。豪奢な着物を纏い、透き通るような白銀の髪を持っている。 だが、異様なのはその背中だ。 九本の黄金色の尾が、ゆらりと揺らめいている。
「……九尾の狐か」
伝説の大妖怪。国を傾けるほどの力を持つ厄災の化身。 少女はリュウウンの気配に気づき、ゆっくりと瞼を開けた。 その瞳は、血のように赤く、そしてどこか退屈そうだった。
「……人間か。久しいのう」
少女の声は、幼い見た目に反して、老婆のような威厳に満ちていた。
「わらわの眠りを妨げたのは、お主か? それとも、外で騒いでおる雑魚どもか?」 「俺じゃねぇよ。俺は掃除屋だ」
リュウウンは警戒を解かずに間合いを測る。 特級の妖気だ。下手に手を出せば蒸発する。
「掃除屋か。……ふん、丁度良い。わらわも腹が減っておる。お主のその溢れんばかりの霊力、少しばかり啜らせてもらおうか」
少女――九重がニヤリと笑った瞬間。 ズズズズ……と地面が揺れた。 いや、九重の力ではない。 遺跡の外、地上の方から、凄まじい轟音と悲鳴が聞こえてきたのだ。
『緊急警報! 緊急警報! 第三区画より、大規模な餓者の群れが出現!』 『数が多すぎる! 蒸気甲冑部隊、応答せよ! 防衛線が突破されるぞ!!』
無線機(ゲンから渡されたもの)から、悲痛な叫びが聞こえる。 どうやら、九重の復活に呼応して、帝都中の妖気が活性化し、餓者のパンデミック(百鬼夜行)が発生したらしい。
「チッ、面倒なことになりやがった」
リュウウンは舌打ちをし、背中の鉄櫃を担ぎ直した。
「おい狐。飯が食いたいならついてきな。地上には、お前の妖気に引かれた腐れ客が山ほどいるぜ」 「ほう? 百鬼夜行か。……悪くない余興じゃ」
九重はふわりと宙に浮き、リュウウンの肩に乗った。 最悪の封印が解かれ、帝都は今、地獄へと変わろうとしていた。
【第四章:百鬼夜行】
地上に出たリュウウンの目に映ったのは、地獄絵図だった。
帝都の第三区画。 普段は蒸気機関車が行き交う大通りが、炎と黒煙に包まれている。 路地裏、マンホール、建物の隙間。ありとあらゆる暗がりから、無数の「餓者」が湧き出していた。
「グガァァァァッ!!」 「助けてくれぇぇぇ!」
逃げ惑う市民を、腐肉に覆われた餓者たちが襲う。 噛まれた者は、数分後には新たな餓者となって立ち上がり、次の獲物を求めて走り出す。 爆発的な感染拡大。 九重の封印が解かれたことで、帝都の地下に溜まっていた「負の遺産」が一気に噴出したのだ。
「こりゃあ酷えな。祭りどころの騒ぎじゃねぇ」
リュウウンは建物の屋上に立ち、眼下の惨状を見下ろした。 肩に乗った九重が、面白そうにクスクスと笑う。
「人間どもが右往左往しておるわ。……おい人間、あれを見よ。お主らの守り神が来たぞ」
九重が指差した先。 大通りの向こうから、重厚な蒸気音と共に、巨大な鉄の巨人が現れた。
プシューッ! ガション、ガション!
高さ三メートルほどの『蒸気甲冑』だ。 帝都を守る精鋭「機甲警察隊」の部隊である。 全身を真鍮と鋼鉄の装甲で覆い、右腕には蒸気圧で駆動するパイルバンカー、左腕には火炎放射器を装備している。
「総員、散開! 餓者をこれ以上市街地に入れるな! 焼き払え!」
隊長の号令と共に、十数機の蒸気甲冑が一斉に火炎放射を開始する。 ゴオオオオッ!! 紅蓮の炎が餓者の群れを包み込む。
「ギャアアアッ!」
餓者たちが松明のように燃え上がる。 一見、優勢に見えた。 だが、餓者の数は異常だった。燃えながらも突進してくる個体が、蒸気甲冑に取り付く。
「なっ、離れろ! くそっ、関節部に爪を立てるな!」 「隊長! 後方からも来ます! 囲まれました!」
ガシャッ、バキッ! 鋼鉄の装甲が、餓者の怪力によってこじ開けられる。中から操縦者の悲鳴が上がり、すぐに途絶えた。 鉄の巨人が次々と沈黙していく。
「脆いのう。鉄の塊ごときでは、怨念の濁流は止められんよ」
九重が冷たく言い放つ。 リュウウンは煙草の吸い殻を投げ捨て、足元の屋根瓦を踏みしめた。
「ああ。鉄だけじゃ足りねぇ。……霊力が無けりゃ、あの世には送れねぇんだよ」
【第五章:土蜘蛛】
戦況は絶望的だった。 機甲警察隊が壊滅し、避難民たちが逃げ込んだ広場に、餓者の群れが迫る。 そして、トドメとばかりに、地面が大きく隆起した。
ズガガガガガッ!!!!
アスファルトを突き破り、巨大な影が出現した。 それは、餓者たちの集合体でできた、巨大な「蜘蛛」のような怪物だった。 体長十メートル。 背中には無数の人間の顔が浮かび上がり、苦悶の表情で呻いている。
特級変異種――『土蜘蛛』。
「オ……オオォォォ……」
土蜘蛛が咆哮すると、衝撃波で周囲のガラス窓が一斉に割れた。 広場の人々が悲鳴を上げてうずくまる。 死だ。 圧倒的な死の具現が、彼らを押しつぶそうと巨大な脚を振り上げた。
――その時。
ドォォォォォォンッ!!
上空から、黒い塊が隕石のように落下してきた。 それは土蜘蛛の脳天に直撃し、その巨体を地面にめり込ませた。
「グギュウウッ!?」
土蜘蛛が悲鳴を上げる。 土煙が晴れると、怪物の頭上には、巨大な**「鉄櫃(棺桶)」**が突き立っていた。
「……なんだ?」 「棺桶……?」
避難民たちが呆然と見上げる中、屋上から一人の男が飛び降りてきた。 ボロボロの法衣をはためかせ、スタッと鉄櫃の上に着地する。
リュウウンだ。
「よう、デカブツ。場所を借りるぜ」
彼は土蜘蛛の頭を踏みつけながら、ニヤリと笑った。 その肩には、美しい少女(九重)が優雅に座っている。
「誰だ……?」 「坊さん?」
ざわめく群衆。 リュウウンは懐から数珠を取り出し、首にかけ直した。
「安心しな、衆生ども。……ここからは、俺の管轄だ」
ギチチチチ……!
足元の土蜘蛛が怒り狂い、体を揺すってリュウウンを振り落とそうとする。 周囲からは、数千の餓者の群れが津波のように押し寄せてくる。 逃げ場はない。 普通の武器なら、一瞬で飲み込まれて終わりだ。
だが、リュウウンは不敵に笑うだけだった。
「おい狐。霊力のパスは繋がってるな?」 「うむ。わらわの力、存分に使え。……久しぶりの殺戮じゃ、派手にやろうぞ」
九重の九本の尾が逆立ち、黄金色の妖気がリュウウンの体に流れ込む。 リュウウンの筋肉が膨張し、全身から青白い蒸気のようなオーラが噴き出した。
「おうよ。……さて、説法の時間だ」
リュウウンは足元の鉄櫃を蹴り上げ、左手でガシリと掴んだ。 そして、右手で鉄櫃の側面にある「封印解除レバー」を握りしめる。
「――開門。零式、起動」
プシュウゥゥゥゥンッ!!!!
鉄櫃から圧縮された蒸気が四方に噴き出した。 重厚な装甲板がスライドし、内部の機構が露わになる。 そこに収められていたのは、仏具ではない。 六本の太い銃身を束ねた、黄金に輝く回転式重機関銃――ガトリングガンだった。
「なっ……なんだあれは!?」 「大砲……!?」
リュウウンは巨大なガトリングを軽々と構え、餓者の大群に銃口を向けた。 銃身には、密教の梵字が刻まれている。 霊力を増幅し、物理的な破壊力に変換する、対妖魔専用決戦兵器。
『零式霊力回転砲・紅蓮』。
モーターのような唸りを上げて、銃身が回転を始める。 キュイイイイイイイイイ……!
「極楽往生しやがれ!!」
引き金が引かれた。
【第六章:南無三ッ!!】
キュイイイイイイイイイ……!!!!
黄金のガトリング砲『紅蓮』の銃身が、高圧蒸気の力で限界回転数に達する。 甲高い駆動音が、戦場の悲鳴を切り裂いた。
リュウウンは、足元の土蜘蛛と、眼下に広がる数千の餓者の群れを見下ろし、噛み潰した煙草を吐き捨てた。
「経文の準備はいいか、クソッタレども。……全員まとめて、極楽行きだ」
彼の瞳が、霊力の過剰供給によって金色に輝く。 引き金に指がかかる。
「喰らいやがれ! 南無三ッ!!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!
轟音。 六本の銃身から、目にも止まらぬ速度で「破魔の弾丸」が吐き出された。 それはただの鉛ではない。表面に微細な経文が刻まれ、高密度の霊力が込められた、対妖魔専用の霊弾だ。
弾丸の嵐が、押し寄せる餓者の群れを薙ぎ払う。 一発一発が小型爆弾並みの威力を持ち、餓者の腐った肉体を内部から破裂させ、青白い浄化の炎に変えていく。
「ギャアアアアアッ!?」 「グギィィィッ!!」
前線の餓者が瞬く間に肉片となり、消滅する。 だが、リュウウンの攻撃は止まらない。 右へ、左へ。 ガトリングの掃射線が動くたびに、扇状に「死」が撒き散らされる。
「ハハハハ! 良いぞ! もっと回せ! もっと燃やせ!」
肩に乗った九重が狂喜乱舞し、九本の尾から狐火を放つ。 物理と霊術の飽和攻撃。 圧倒的な火力の前に、帝都を飲み込もうとしていた百鬼夜行が、物理的に押し返されていく。
「オ……オオオオオッ!!」
足元の土蜘蛛が、苦し紛れに暴れ出した。 背中の人面瘡から瘴気の弾を放ち、リュウウンを道連れにしようとする。
「往生際が悪いんだよ、デカブツ」
リュウウンはガトリングの銃口を、真下の土蜘蛛の脳天に向けた。 ゼロ距離射撃。
「地獄で閻魔にツケとけ」
ズドドドドドドドドドドドドッ!!!!
毎分6000発の連射が、一点に集中する。 土蜘蛛の鋼鉄のような甲羅が削れ、砕け、肉が飛び散る。 断末魔の叫びすら、銃声にかき消される。 数秒後。 土蜘蛛の巨体は、光の粒子となって爆散した。
【エピローグ:煙と朝焼け】
プシューッ……。
回転を止めたガトリングの銃身から、白い蒸気と熱気が立ち上る。 周囲は静まり返っていた。 数千いた餓者の群れは一掃され、広場には瓦礫の山と、浄化された光の残滓だけが漂っている。
「……ふぅ。一仕事終わったな」
リュウウンはガトリングを鉄櫃に格納し、ドカッと瓦礫の上に座り込んだ。 懐から新しい煙草を取り出し、まだ赤熱している銃身に押し付ける。 ジッ、と音がして火がついた。
「美味い」
紫煙をくゆらせるリュウウン。 その横に、九重がふわりと降り立つ。
「人間にしてはやるではないか。久々に良い余興であったぞ」 「そりゃどうも。……で? お前はどうするんだ、狐」
リュウウンが横目で見ると、九重はニヤリと笑った。
「決まっておろう。お主の霊力、気に入った。わらわの腹が満ちるまで、憑いて行ってやる」 「チッ。とんだ貧乏神を拾っちまったな」
リュウウンは悪態をつきながらも、拒絶はしなかった。 東の空が白み始める。 煤煙の向こうから差し込む朝日が、荒廃した帝都を照らし出した。
避難していた人々や、生き残った兵士たちが、恐る恐る顔を出す。 彼らが見たのは、巨大な鉄櫃を背負い、美しい少女を連れて瓦礫の山を去っていく、一人の破戒僧の背中だった。
誰かが呟いた。 「ガトリング法師だ」と。
こうして、帝都の裏社会に新たな伝説が刻まれた。 お経の代わりに銃弾を、数珠の代わりにガトリングを操る、最強の退魔師の物語が。
(完)
最後までお読みいただきありがとうございます!
「ガトリング最高!」 「南無三!!」
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