126話~開戦~
こんばんは!
バラッパーです
今回も楽しんでいただければ幸いです
実side
[アスモデウスのクラスがディストラクションからキングに疑似変更…戦力確認開始…日本人:田中実、合衆国特級探索者:アストラ・セネカ、連邦特級探索者:イヴァン・イヴァノブナ・セイア…戦力不足]
「マジかよ…」
[声]の言う通りなら目の前で変異を繰り返している女に負けるということだろう
[■■■を認知すれば対処が可能だ…しかし、あのチートを使っても意味がないだろう?自力で対処しろ]
[声」はそれだけを言い残し黙る
この力は絶望を届けるだけの無能なようだ
[無能では無い]
「なぁ、セネカさん、セイアさん、動けるか?」
「ッ!…ええ…」
「まぁ?」
先ほどまで座り込んでいた2人も少し辛そうだが立ち上がれるようにはなっていた
「体調は?」
「何とか……大丈夫……」
「連邦出身を舐めてもらったら困るわ」
2人とも立ち上がる
そして胸を張り、体を伸ばす
キラッ
セイアの指に鈍い銀色が見える
その指輪はいつの間にか無くなっていたやつで
「待ってセイアさん?」
「何かしら?」
「その指につけてるのは?」
「指?あら何かしらこれ」
どうやらセイアも知らない様子
人差し指に嵌められた指輪を眺める
「アナタ、これ知ってるのかしら?」
「ま、まぁ……」
口が裂けても遺物とは言えない
それも聖遺物とは言えるはずもなかった
しかし、実以外ここにいる人間は特級探索者
情報網は広かった
「あーーーーー!それ!それ知ってる!」
もう1人の特級探索者セネカが声を上げる
「それこの前裁判の議題にあがってたやつだ!てことは……あんたは……」
2人の視線が鋭くなる
「つまり……これは聖遺物……それを持っている……でも特級探索者ではないよね?」
セイアの手が腰に伸びる
そこには指揮者のようなステッキ
「それにあんた……ルーニャさんの……ならここで……」
セネカも何かを手に握っている
それはペンダント
実は戦闘態勢に入ろうとする
無理は無い
相手は特級探索者2人
合衆国特級探索者「信者」アストラ・セネカ、連邦特級探索者「氷奏者」イヴァン・イヴァノブナ・セイア
どちらもルーニャ・アンドロメダとタメを張れる程の実力者
その2人からの敵意は想像を遥かに超えるものだ
空気が張りつめ、互いに踏み出す
その瞬間、轟音が鳴る
「「「ッ!?」」」
音の出処は先程まで変異を続けていた女
本来ならあの時点で攻撃を加える計画だった実は歯噛みする
後ろにいる2人も殺意が霧散している
それほど圧倒的な圧力を放っていた
「ねぇタナカミノルだったかしら?」
「なんだよ…」
「あれは…何?」
「俺が聞きてえよ…」
本当は少しは知っている
しかし、今ここで言っても信頼関係を築けなければ詰みだ
(てか今もはや敵対の域まで行きそうだったからな…もう少し言わない方が吉だな…)
「それで…あの女倒さないとここ出れないのかしら…あなたさっきもう一人の女片手に持ってたでしょう?何か無かったの?」
「何もなかったな。扉が開くとか見る前にこっちに壁突き破ったからな」
「何よ使えないわねぇ」
「うるせぇなお前こそ見たとき腰抜かして座ってたよな?ビビってたんじゃねぇの?」
「んなわけないでしょう!?あなたこそその口に氷詰め込まれたくなかったら私にそんな口聞かないことね!」
「んだとてめぇ!」
先ほどまでのシリアスが崩れる
互いにおでこがくっつきそうになるほど近づき、メンチを切り合う
「ちょっと今こんなことしてる場合じゃないでしょう!?」
セネカが2人の間に割り込み、距離を離させる
「…そうね」
「悪い…」
先ほどまでメンチを切り合っていたとは思えないくらい落ち着く2人
「なんかこんな距離を詰めるつもりは無かったのよ」
「俺もなんかいつもより口悪くなってた」
「あの女の能力ではないわね…」
「そしたらセネカさんもなってるはずだしな…どうするセイア、もうやるか」
「そうね…あんたが前衛、合衆国女が遊撃、私が後衛…これで問題ないでしょう?」
「ああ…」
「ええ…怖…」
急に息がぴったりになる2人
繰り返すが先ほどまでにらみ合っていたとは思えなかった
そして沈黙しているアスモデウスに向かい合う2人
「合衆国女!あんたが仕事しないと後衛が安心して攻撃出来ないでしょう?早く来なさい!」
「分かった…はぁ…刻め聖十字」
ネックレスだった十字架が槍に変化する
それを構え、実の横に並ぶ
「日本人、しっかり前衛しなさいよ」
「はいはい」
実も普段のナイフを抜き、構える
開いている左手には小さく魔法陣を作る
「さぁ…探索開始だ」
………………………………………………………………
???side
『あなたはこの国の未来よ!』
うるさい
『あなたは完璧でなければいけません』
黙れ
『???ちゃんは凄いよね!』
うるさいうるさいうるさいうるさい!
この世の全てが煩わしかった
面倒だった退屈だった嫌いだった
だから何度も命を絶とうとした
何度も喉にナイフを突きつけた
でも……出来なかった
暖かい光を忘れられなかった
前どこかで見た光
そうだ……あれは迷い込んだ時だ
『ねぇねぇ、大丈夫?』
覗き込んでくる子供
顔は逆光で見えない
しかし、その心配が当時の私には心地よいほど染みた
そして、その子供と少しばかり遊んでいた
手を取りあって楽しく歌った
花畑に座り込んで、花の冠を作ってくれた
かくれんぼで見つけてくれた
世界を明るくしてくれた
遊び疲れて寝てしまったその子を膝に乗せ、顔を撫でる
それだけで胸が高鳴り、頬が熱くなる
この時間が永遠に続けば、この時間が続くなら他には何も要らないとでさえ思えた
しかし、子供に親がいることは当然のことで、親のような女性が血相を変えてこちらに走ってきていた
『??る!大丈夫かい!』
名前を聞き取れなかった
しかし、その親は私の顔を見るとすぐに??るを抱き寄せた
『どこかへ行きたまえ!この子は渡さないよ!』
一方的に言われた宣戦布告
私が何か言う前に??るは奪い取られる
そのまま2人は帰っていき、私は大木の下に取り残される
その後使用人が大慌てで近づいてきた
家に連れ戻され、また懲罰房に入れられる
でも、今回は辛くなかった
??るが編んでくれた花冠を抱いて寒い鉄の床に寝る
冷たい床のはずなのに心は暖かくて
脳裏に??るの笑顔が焼き付く
「待ってて……すぐ迎えに行くから」
決意を胸に秘め、夢に落ちる
夢の中でまた会えたら……
そんな幻想を抱きながら
少女は眠る
その身は血の傑作
何千年もの間紡がれた才能の大河
それを一身に浴びる少女は今、物の怪から人に成った
「次会えたら……こ、婚約……とか?」
頬を赤らめ身を悶えさせる
その姿は人としか見えない
「えへへ……楽しみだな〜」
悲劇に溺れるはずだった少女の船はいつの間にか明るい光へと引き寄せられて行った
そして今まで別れていた血が突如繋がりを持ち始めた
《XI計画》
1.探索者強度X
2.遺物との融合
3.古からの血の大河
ある学者は言った
「もしこの荒唐無稽な計画を果たす者が揃う時代があったとするならば……その時代は倫理の外れた狂気の世界か……それかそこまでしなければ対峙できない存在を”世界”悟った時だろう」




