122話〜深淵ダンジョン〜
こんばんは!
バラッパーです
今回も楽しんでいただければ幸いです
実side
[緊急クエスト…深淵ダンジョンを踏破せよ…報酬無し…頑張れ♪]
[声]が今までしたこともないような声色で話しかけてくる
暗い洞窟
先の見えない通路
岐路はなくただ前に続いている
「これはもう…」
[進め]
「だよなぁ」
[声]の言う通り、前に進むしかないようだ
ナイフを拾い、靴紐を結ぶ
安物の探索者服
遺物は無い
しかし、それがいつもの田中実の服装
「さ…楽しい楽しい出征だ」
暗闇に飛び込むのに、その顔は…嗤っていた
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ルーニャside
「痛ててて…」
ミノルの背を追っていたら急に地面が無くなり、下に落とされた
地面に打ち付けられたお臀を撫でる
「セイラ、大丈夫?」
「ああ…しかし、さっきの実は…」
「多分偽物ね…あの黒娘に騙されたわね」
まんまと騙されたと唇を噛み、自身の甘さを悔やむ
「さて…それでこれはどういうことだ」
「これ、ダンジョン、よね…」
普通ならこの場で見るはずのないもの
それが視界一面に広がっていた
「これは…」
「異常ね」
空気が変わる
彼女らはダンジョン探索のプロである
もしそこがダンジョンならば彼女らは探索者になる
「セイラ…武装確認」
「オールクリア…弾薬も問題ない」
「よろしい…さて、他の2人は?」
「…生命タグは問題なし…位置は…くそっ…ダンジョン内でも問題ないはずなのに位置情報が狂ってる…」
探索者に配られるスマートウォッチを見ながらセイラが悪態をつく
「落ち着いて…まぁ、彼らも探索者なんだから先を…1番奥を目指すわ」
その目には信頼しか写っていなかった
「それに…多分ミノルも来てるわよね…」
信頼の他にも色々なものが宿る目をしていた
「彼なら…ふふっ…」
「そうだね…彼なら…ふふふ…」
先程までの弦の引き絞られるような緊張感は和らぎ、その代わりに淀んだ重みが場を満たす
「さ!行きましょうか!」
「そうだね」
ダンジョンにしては質素な空間を2人の探索者が歩く
その足取りは軽く、奥に待っているであろう男に想いを巡らせて
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???side
「…………」
「…………」
ただただ通路を黙って歩く
金髪赤眼のスレンダー体型の美女とモコモコした帽子をかぶり、薄めのブロンド色の髪と銀の目を持った豊満な体つきをした美女が目も合わせずにただ歩く
「……」
「……ねぇ、なにか話さないの?」
「あんたなんかと話すことなんて無い」
「はぁ…これだからおつむの弱い合衆国育ちは嫌なのよ」
「なに?寒くて駄肉だけ育った連邦の女はそんなことしか言えないの?」
「は?」
「あ?」
特級探索者同士の睨み合い
それぞれの聖遺物や遺物も反応し、予兆を見せる
「はぁ…やめましょう…今はこんなことしてる場合じゃないし…」
「そうだな…」
互いに殺気を収め、前を向き直す
そのまままた沈黙の時間が続く
進み、出たのは広めの空間
「ここは…」
「最悪の空間ね」
その空間は人で作られていた
裸の男、裸の女、裸の子供に裸の老人
老若男女が惚けた顔をし、たまにびくついている
床も、壁も、天井も
人、人、人、人…
見える限り人で埋め尽くされていた
「この人たちは…生きてるの?」
「脈は…ある…でも…正気には思えない」
周りの状況を確認する
最悪の光景
生物を侮辱する行為
倫理観などこの場には残っていなかった
「それで…あの真ん中にいるやつは?」
「さっきまでいなかったわよね?」
そして、いつの間にかいた女性
ピンク色の髪にピンク色の眼、そして扇情的な服
とりわけ目立つのは頭にある一対の角と翼
その姿はまるで…
「悪魔…」
「あら?知っている子がいたのね」
「「ッ!?」」
悪魔のような女性が口を開く
その一言で全身が総毛立ち、足が怯む
「っ…ああ…」
「くっ…」
顔を赤らめ、股を擦り合わせる2人
息も荒くなり、明らかに異常事態だった
「ふふふ…目線を向けるだけで…可愛らしい♡」
人間でできた椅子から立ち上がった彼女はそのまま2人に近づく
その1歩1歩歩む動きが人を魅了する
2人はその動きから目を離せない
「今なら選ばせてあげる…ここで私の養分になるか…」
目の前まで近づき、2人の顎を撫でる
「「あっ♡」」
それだけで体をびくつかせる
そして悪魔は口を耳元に近づけ、誘惑を鼓膜に落とす
「それとも…私の奴隷になって…一生私の小間使いになるか…」
人間から見たら断り難い甘い誘惑
2人も例外ではなくその提案に二つ返事で了承しようとする
「「…うあ…は…は…」」
「はい」
その言葉が口から出る
その瞬間が言われる瞬間を悪魔は口角を上げながら待つ
しかし、その言葉は乱入者によって遮られる
「「はぃ…《ドゴォォォォォォォン!》…っ!?」」
「っ!?何が!?」
先程まで惚けていた2人の顔が爆音によって驚愕に染められる
悪魔もその音がした方向へ弾かれるように向く
「痛ってて…やりすぎたか?」
そこには何も感じないただの男
しかし、本能は警告と情欲を伝えてくる
そして、気づかなかったが男の手には見覚えのある顔が
「エンヴィー!?」
自身の同胞であり、その中でも上位の強さを誇る彼女が血だらけになりグッタリとしていた
「あれは…」
「あいつは…あの…」
先程まで魅了にやられていた2人が正気に戻る
1人は知らない顔の男に困惑し、もう1人は何かを思っているのか鋭い眼で見つめていた
「貴方は…何?」
息を整え、男に問う
それだけでも恐怖に身が震え、何かに心が弾む
その男は悪魔の方へと目線を向ける
その目を見て「ヒッ…」と小さな悲鳴が漏れる
そして、男は口を開いた
「俺か?俺は…」
男は目を瞑り、何かを考え込む
その後目を開き、嗤いながら言う
「俺は探索者だ」
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では、また次のお話で!




