118話〜VS穐村班〜
実side
下半身だけになり、データ体として消えていく穐村先輩を背にして道を急ぐ
道中にいた魔物たちはすれ違いざまに頭をノックし、破壊する
そのまま中央まであと半分くらいだろうか
その辺に差し掛かった時、風が吹く
何かを感じ、仰け反る実
空が目に入り、青い空が一面に映える
しかし、それは上から降ってきた大剣を振り上げた影に遮られる
並外れた脚力を使い、後ろに跳び退いた実を待ち受けていたのはメイスを構えている大きめの女性だった
「っぶねぇな!?」
そのメイスも避け、実は離れた場所には着地する
「み、実さん…も、戻りましょう?」
「今なら、まだ、許す」
「あんた寝不足なんだよ。ほら?昼寝しに行こう?」
三者三様の言葉で班への帰還を求める
その姿は闇堕ちした仲間を取り戻しに来たようだ
しかし、実は期待に押しつぶされた勇者でも無ければ悲しい過去を持つ悪役でもない
少し…ほんの少し仲間の退場が琴線に触れ、敵を屠ることを決めたただの凡人なのだから
「戻らないし、許されなくてもいい…だからそこを退いてくれ」
実は冷徹にもそう言い放つ
「はぁ…説得は無理か…なら!」
降矢は大剣を振り回し、実に襲いかかる
それをナイフで受ける実
「ふふふ…まさかナイフで受け止められるとはね…」
鍔迫り合いを行う実に楽しそうに話しかける降矢
その横から神速で迫る走入の蹴り
「ッ!?う、嘘ですよねぇ!?」
マッハを超えた蹴りを素手でつかみ、そのまま投げる
そのまま消えていく走入
「レディをそんなに雑に扱ったら嫌われちゃうっよっと!」
鍔迫り合いの状態から唾付近にある噛み合わせにナイフを噛ませ、そのまま横に振り回す降矢
(これ…以外にしっかり噛みつかれるな…)
実はナイフを抜こうとするが、しっかりとした作りによってビクともしないナイフを見、その手を離す
遠心力によって宙を飛ぶ実
そこに飛来する無数のエネルギー弾
「よし、命、中」
メイスは杖であり、あられは遠距離タイプのようだ
「あはは…い、痛かった〜」
走入も森の中から戻ってくる
「やっぱ、『俊足の英雄』は強い、ね」
「い、いえいえ…『神話の賢者』も便利そうですよね…」
「ほら皆、まだ油断しないで」
「は、はい」
「は〜い」
降矢たちの見据える方向には黒い煙を上げながら仁王立ちしている
そして背後からあすなろ抱きで実に引っ付いている少女がいた
「ねぇあなた?これは浮気じゃないかしら?配偶者持ちが他のメスと一緒にいるなんて」
その少女から冷気が迸る
世界が凍り付いたかのような錯覚を与える存在
降矢たちは少女への警戒を最大まで引き上げていた
「何あの子?人間?」
「ううん、『神話の賢者』で視た、人間じゃなくて聖遺物、だって」
「聖遺物?だがあれは人間じゃないか?」
「と、都市伝説…」
「なんだそれは?」
「い、一部の聖遺物は人間化することが出来るっていう…」
「ほう…やはり君は面白いね…」
走入の話を聞いた降矢は興味深そうに実に目を向ける
その目は興味と執着の強い淀んだ目をしていた
「はぁ…お前、力貸してくれんのか?てかどっから来た?」
「聖遺物ってのは自動的に持ち主に追従するのよ!勿論力になるためにね!」
そう言いながら首に抱き着く少女
「まぁ、役に立つなら良いか…」
実は話を切り上げ、降矢たちと向き合う
降矢たちも陣形を整える
「第壱聖遺物…氷河期の聲」
実が聖遺物の名前を呼ぶ
その瞬間、絶対零度の冷気があふれ、降矢たちへの方へと迫る
「全員回ッ!?」
目の前から迫る冷気
これは避けなければいけないと考えた3人の行動は正しかった
しかし、大規模攻撃に目が行き過ぎたのだ
足元から這い寄る蛇のような冷気に下半身が凍らされ、身動きを封じられてしまったのだ
「う、嘘ぉぉぉぉ!?」
「む…不覚」
「ここまでか…」
胸あたりまで凍らされた3人は悔しそうな、信じられないような顔をしていた
「じゃあな…また今度会ったらご飯驕りますよ」
そして冷気の波がぶつかり、3人の氷像を砕いていく
【EEI3年降矢三奈、3年御使あられ、2年速水走入…脱落】
即死判定なのか即座にアナウンスが響く
「んじゃ、中央行くか」
彼には憐憫はない
普通、1日だけだろうと同じ屋根の下で共にしたらこのような行いを躊躇するだろう
しかし、田中実は平凡あり、普通ではない
彼には普通が通用しない
彼は平凡なだけ
もし、もしもの話だ
「これで何回目かな~」
彼の平凡は彼の中での平均だとしたら…
「ん?俺今なんか言ったか?」
その人生はどれほど修羅の道だったのだろうか




