115話~虫の知らせ~
こんばんは!
バラッパーです
今回も楽しんでいただければ幸いです
実side
実は今、森の中を走っていた
得体の知れない予感に体を突き動かされ、足を動かしていた
(先輩たちには悪いけど…今回は何か不味い気がする…)
魔術を最大限に使用し、先輩方を足止めまでして向かう
(こっちの方は…冠たちか)
そのまま木を登り、飛び移る
そして辿り着いた拠点はボロボロで、地面には見覚えのある3人が倒れ、ワープ寸前だった
「おい!乾神!玉藻!冠!」
木から飛び降り、3人に駆け寄る
「っううう…」
「童…?」
乾神と玉藻平行が目を開ける
「何があった!誰にやられた!」
「ごめんね…負けちゃった…」
「すまぬ…童…」
下半身が崩れ、消えていく2人
実は乾神と並行の手を握る
「間に合わなくてわりぃな…」
「いや…死ぬわけでもないし…最後に王子様に見つけてもらって嬉しいよ」
「交差も喜んでおる…後は頼むぞ…旦那様よ…」
そう言い残し、ワープさせられる2人
実は見送るように空を仰ぐ
そしてもう1人の方へと歩く
「すまないね…こんな醜態を見せてしまって…」
何故か顔を赤くしながら内股で壁にもたれかかっている冠
彼女も体から電子のようなものがあふれ、ワープまであと少しの様子だった
「いや~俺も鈍ったかな…」
「知らん」
「なんか」さっきの2人と接し方違くない?」
「お前だけまだ元気そうなんだもん」
「まったく…こう見えてももう少しで消えそうなんだよ?」
困ったような顔で笑う冠
そして壁に体を預け、実を真っ直ぐに見る
何か恥ずかしさを感じ、目をそらす実
「ははは…君は変わらないな…」
冠の実を見つめる目は懐かしむような恋しいような目だった
そして前に屈んでいる実を抱き寄せる
「お、おい」
「ここで退場なんだ。少しくらい良いだろう?」
そのまま実の顔を胸に押し付ける
「どうだい?乙女の胸は」
「……硬い…ッう!?締め付けんな!」
先ほどまでのしんみりとした空気を吹き飛ばす軽いやり取り
しかしそれは実の心を確かに落ちつかせていた
「落ち着いたかい?」
「…ああ」
「君は他人のことなんて興味も無いのに責任感は一丁前だからね…こうでもしないと君は暴走しかねない」
少しずつ体が薄れていく
もうワープの瞬間が近いようだ
「まぁ、気楽にやろうよ…保健室で君のこと見てるから」
その言葉を最後に冠も消える
ピピッ!!
配られている端末に通知が届く
【EEI1年:乾神姫、玉藻交差、冠猋脱落】
「気楽にか…」
先ほど冠が残した言葉がすんなりと心に沈む
心地よく、心が軽くなった
(そうか…もう少し、楽にして良いのかな…)
冠の言葉はしっかりと実の心に響いていた
しかし、彼を縛りつける鎖は頑強で、根深かった
『なんで楽になろうとしてるの?』
急に後ろから聞こえる声
実ははじかれるようにそちらを振り向く
そこには肩より少し上で整えた太陽のようなブロンズの髪に碧眼を持つ美女がいた
「なんでお前が…」
『なんで?それはこっちのセリフだよ。なんで楽になろうとしてるの?なんでまた先を見ようとしてるの?私たちを忘れるの?ねぇ…黙ってないで答えてよ』
「…お前はもう死んだんだ…もうこの世にはいないんだ…だからもう消えてくれ!」
『へぇ…私たちを忘れようとするんだ…』
実の言葉を聞き、声音が低くなる
『もう私たちを思い出さないの?』
「ああ!もうお前を思い出さないさ!」
そう言うと実は首元から何かを引きちぎり、地面にたたきつける
それはドッグタグだった
それをまるで呪いを振り払うように投げ捨てた
『あっ…』
その光景をみた彼女は引き止めるような仕草をする
しかしそれよりも早く実が言葉を放つ
「もう俺の前に現れるな…亡霊が…」
そういうと実は来た道を引き返す
彼女の声は聞こえず、今まで苛まれてきた罪悪感も消え失せた
実が去った後、彼女とドッグタグはいつの間にか消え、その場には何も残っていなかった
『私たちを忘れるなんて許さない…私たちの生きた証は貴方だけなのに…本体だけが報われるなんて…絶対に許さない…』
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では、また次のお話で!




