第17帖:英雄譚
――――― あれから3日。
私達は、歩き続けてやっと司さんが治める雲龍村に辿り着いた。
「此処が俺の村だ!」
「やっと着いたか…………」
険しい山道を進みながら、ようやく着いた村を見て國彦は疲労感を露わにした。
「此処が司さんの村なんですね!」
「どうだ! 良い所だろ?」
「はい、とても!」
雲龍村は、とても緑が豊かで近くに大きな川が流れていた。自然豊かな村は司さんの自慢なのか誇らしげに村を眺めていた。
「おや? 司様ではありませんか!」
「本当だ! 司様だ! 」
「司様だわ!」
「おかえりなさいませ、司様!」
「あぁ、ただいま! 皆、変わりはないか?」
司さんは、あっという間に近くにいた村の人達に囲まれた。老若男女問わず、村の人達は司さんが帰って来てすごく嬉しそうだった。
「司さん、すごく慕われているんですね」
「そうですね。司は村の方達にとても信頼されているようですね」
目の前の光景を見てそう呟くと、いつの間にか私の隣に立っていた靖麿さんが嬉しそうな顔でそう言った。
「神使としてこのような光景はあるべき姿かもしれません。私達も司を見習わないといけませんね」
「そうですね」
「………………」
司さんと村の人達のやりとりを嬉しそうに見つめている國彦や靖麿さんと違って、俊成君は無言でその様子を見つめていた。
「あれから数年経ちましたが、司は今でもこの村の英雄のようですね」
「英雄?」
「はい。数年前、この村の近くで流行病と飢饉が重なったことがあったんです」
「流行病と飢饉がですか?」
「あぁ、それなら僕も知っています」
「俺も知っています。かなり、大変だったみたいですよね?」
「ええ、それは話に聞くよりも過酷なものだったようです」
靖麿さんは当時のことを私達に分かりやすく話してくれた。
―――― 数年前。
突如原因不明の病で人々は倒れ薬師達も手を尽くしたが助けられる命はなかったこと。そして、それと同時に起こった飢饉により人々は、「何かの天罰が下ったのか」それとも「何者かによる呪いか」と不安の声が広がっていたらしい。でも、司の村だけは発病者や飢饉の影響を全く受けなかったそうだ。
「何故だか分かりますか?」
靖麿さんにそう聞かれ私は首を横に振った。
「そうですよね。私も司がしたことを聞いて驚きました。………司は、自分の村と発症した村に巨大な結界を張ったんです」
「そうだったんですか!?」
「…………かなり無謀なことをしたんですね、司さん」
一拍おいて司さんが行ったこと靖麿さんが説明すると、國彦と俊成君は驚きを口にした。
「そうですね。確かに司はかなり無謀なことをしました」
でも、そのおかげで司さんの村では発病者は出なかったし、司さんが他の村に被害が広がらないようにその村に結界を張ったことで流行病と飢饉の影響を最小限に抑えることができた、と靖麿さんは話してくれた。
「凄いですね。だから、司さん英雄なんですね」
「はい。ですが、話はそれだけではありません」
「えっ?」
「確か、その村で生き残った人達を全員、司さんは村に迎え入れたんですよね?」
「えぇ~~!?」
靖麿さんの言葉を引継いでそう答えた國彦の言葉に私は思わず大声を上げた。
「あっ、悪い! 俺、今日は客人を連れて来てるんだ。待たせるのも悪いし、また今度ゆっくりな!」
大声を上げた私と目が合うと、司さんは村の人達に手を合わせて謝ると慌てて、こちらに戻って来た。
「悪い、待たせたな!」
司さんは私達の顔を見て謝ると、私に視線を合わせた。
「大きな声出して驚いてたみたいだが何かあったのか?」
「い、いえ! 何でもありません。すみません」
司さんは不思議そうに私を見ていたが、気を取り直して再び私達を見た。
「そうか? じゃあ、社まで案内するぜ!」
司さんは私達の先頭に立つと社に向かって歩き出した。
司さんの後をついて行きながら私達は靖麿さんの話を聞いた。
「でも、どうしてその村の人達を受け入れたんですか? 司さんの村の人達は納得したんですか?」
「和葉さんのお察しの通り村人からは猛反対されました」
「当然ですね。終息したとはいえ、原因不明の流行病が発症した土地の人間を好き好んで自分達の村に招き入れようなんて思いませんから」
俊成君はきっぱりとそう言った。やっぱり、困っていると分かっていても流行病が発症した人達を自分の村に招き入れることは他の神使達でも容易なことではないようだった。
「でも、納得させたんだろ? 前にそう聞いたけど」
「ええ、そうです。ですが、どうやって納得させたか國彦君は知っていますか?」
「いや……、そこまでは…………」
「國彦さんは中途半端な納得の仕方しますからね」
「うっせぇ!」
「それで司さんはどうやって納得させたんですか?」
喧嘩しそうな國彦と俊成君の間に入るように私は靖麿さんに話の先を促した。
「………その土地の人々とその村を一度に浄化したんです」
「「「!?」」」
しばらくの沈黙の後、靖麿さんは意を決したように重い口調でそう答えた。私達はその答えを聞き、息を飲んだ。
私達は、その行為がどういうものなのか知っている。靖麿さんから渡された術の本には、こう書いてあった。
―――― その行為は自分の命を削る行為だと。
「そ、それは、本当ですか?」
「ええ、本当です」
困惑しながら質問した國彦に靖麿さんは静かに同意した。
「よく生きていますね、司さん」
俊成君は靖麿さんから前を歩く司さんの背を見つめながらそう呟いた。
「本当に」
靖麿さんも両脇を歩く私達から司さんに視線を移してそう答えた。
「確か、司さんこの村でその発祥地の村にも結界を張ったんですよね?」
「そうです」
「そんなこと並大抵の精神力じゃ維持できないのに、その後にそんな行動するなんて自殺行為じゃないですか!?」
「ええ、ですが、司は困ってる人々を見捨てることができなかったんです」
司さんが行ったことを自殺行為だという俊成君に靖麿さんは司さんの心情を語った。
「司はあんなですが、根は真面目ですからね。それに、いくらその土地を浄化したとしても数十年、最悪の場合、数百年もの間は、その土地は使い物になりません」
「まぁ………原因不明の病ですからね。発症原因が分からないとなると浄化してもそこに住み続けて今までのような生活を送るのは難しいですから」
國彦も眉間に皺を寄せながら土地の浄化の難しさに同意した。
「ええ、ですから司はその土地に住んでいた村人を迎え入れたんです。人の浄化は土地の浄化と違い、個という存在で対応しやすいですが、土地は違います。土地は自然との調和や自然の力が大きく影響します。どんなに力のある者でも完全に浄化するのは難しいです。ですから、司は彼らが安心して生活できるように彼らを村に迎え入れる前に浄化することで村の人達に納得してもらったんです」
私は前を歩いてる司さんの後ろ姿を見つめた。いつも明るくて気遣ってくれる司さん。術が苦手だと言いながらも自分の命をかけてまで皆を護ろうした司さんの背中は、いつもより大きく見えた。
「英雄と呼ばれるのにふさわしい行動をしたんですね、司さんは」
「ええ、本当に司は凄いですよ。神使としてあるべき姿です。私も見習わないといけません」
靖麿さんは、それを神使としてあるべき姿だと言った。だけど、司さんは神使としてあるべき姿を追ったからじゃなくて、司さんの強い意志がそう動かしたんだと思った。
ムードメーカーの司。
そんな司の意外な一面を垣間見ることができました。
苦手な術で靖麿も驚くような大胆なことをやってのけてましたね!
しばらくの間、司の村なので司ターンが続きます。
GW突入ですね!
私生活が慌ただしくなり、今月は執筆時間が思いのほか取れそうにありません…………。
なんとか、今月も最低もう1回更新できるように頑張りたいです。
もし、今月の更新が今話のみになってしまったら申し訳ありませんが、ご了承下さい。




