第1帖:時を越える
「いよいよ、再来週の週末が地区大会かぁ~。和葉、調子はどう?」
「うん、調子は良いよ。今年は関東大会で優勝するのが目標なんだ」
「和葉、弓道上手いもんね~。去年の関東大会ではベスト4だったっけ?」
「そうそう、惜しかったよね! 私達、地区大会も関東大会も応援に行くからね!」
「ありがとう! 頑張るね!」
高校2年生の初夏。私は、中学時代から仲の良い友達2人とたわいもない話をしながら下校していた。
「じゃあ、また月曜日にね! バイバイ、和葉!」
「バイバイ! 気を付けて帰ってね!」
私の家に続く長い階段の前で友達と別れると、私は2人の友達の姿が見えなくなるまで見送った。2人の姿が見えなくなると、私は階段を駆け上がった。
私は、古くからこの土地にある神社の一人娘。この神社には古い伝説が残っているらしく、小さい頃から耳にタコができるくらい聞かされていた。
―――萌黄の御髪を持ちし巫女、
その尊い命を捧げこの世を救い給う。
その地、永久に悪しき者蔓延ることなかれ―――
神主のおじいちゃんは、私の髪の色がその萌黄という色らしく、私が生まれた時に「巫女様の生まれ変わりだ」と大喜びだったらしい。
だからかな?
おじいちゃんは、私が小さい頃から、その言い伝えを何度も話してくれた。小さい時はお伽話だと思って喜んで聞いていたけど、物心がつき始めた時に「実際にあった出来事」だなんて聞いてからは、今では呆れて聞き流している。
「ただいま~!」
「お帰りなさい、和葉」
階段を上りきると、鳥居の前で掃き掃除をしていたお母さんに会った。
「丁度、良かったわ。おじいちゃんから和葉に伝言よ。悪いんだけど、蔵の掃除をしてくれる?」
「ええ~~~! なんで、私なの!? あの蔵って、いつもおじいちゃんが掃除してるじゃん!」
「おじいちゃんもかなりの年だし、大変でしょ?」
おじいちゃんは今年で87歳。おじいちゃんの年齢を考えると、あの蔵の掃除するのは、もう難しいのかもしれない。
「お願いよ」
「………分かった。じゃあ、荷物置いたら行くね」
仕方がないと諦めた私は、大きな溜息をすると渋々了承した。
◇◆◇
蔵は本殿からかなり離れた所にあり、参拝者の人達は蔵の存在は知らず、家族しかその場所は知らない。蔵に続く石畳の階段は整備されておらず、蔵の外壁には所々苔が生えている。雨が降った直後だと蔵の辺りは、かなり湿っぽく普段以上に近寄りがたい雰囲気を醸し出している。そのため蔵の掃除を誰もやりたがらず、今までは、おじいちゃんに蔵の管理や掃除を任せっきりにしていた。
私は学校の鞄を部屋に置くと、おじいちゃんに一通り蔵の周りと中の掃除の仕方を聞いて、掃除を始めた。
「にしても、すっごい汚い! おじいちゃん、本当に今までも掃除してたのかな?」
初めて入った蔵の中は、あまり日の光が入らず薄暗く、棚や床は埃が積もっていた。棚の整理をすると、錆が付いて開かない箱や使用用途不明なガラクタが大量にあった。捨ててしまっても何も問題ないように思うが、おじいちゃん曰く由緒正しいものや歴史的にも文化的にも価値がある優れたものもあるとかで、ガラクタはないんだとか………。
「本当に価値があるなら、きちんと管理しないとダメでしょ」
蔵の中の状態を見ながら、そんな貴重なものが本当にこの家にあるのか、と不思議に思いながら、私は言われた通り掃除を続けた。
思うように掃除が進まないでいると突然、バサッと何かが落ちる音がした。薄暗い辺りを見渡すと、そこには古い和綴じ本が落ちていた。
「何これ?」
「それが、この神社に伝わる巫女様の話が記された書物じゃよ」
本を拾い上げ、声がした方を見ると、そこにはおじいちゃんが立っていた。
「お、おじいちゃん!?」
「どうじゃ? 捗っておるか様子を見に来たのじゃ」
覚束ない足取りでおじいちゃんは蔵の中に入って来た。
「う~ん、思ったより捗ってないかも」
正直におじいちゃんに伝えるとおじいちゃんは苦笑した。
「それより、この本が小さい頃から聞かされてた、あの話の本なの?」
「うむ。その書物は巫女様について書かれた歴史的にも貴重なものじゃよ。その書物によると、昔は巫女様の像がこの神社の社に奉納されていたらしい」
「えっ? でも、今はその像ないよね?」
「うむ。じゃが、不思議なことにどうして失くなってしまたのかまでは記されておらぬのじゃ」
「ふ~~ん」
巫女様のことを大切にしているなら、巫女様の像がなくなってしまったなんて重大事件なのに、その原因や経緯が記されていないって、なんだかいい加減な気がした。
「とにかく大事な書物じゃから、きちんと元の場所に戻しとくんじゃぞ!」
「はーーい!」
そんな私の様子に気付いたのか、少し強い口調で私にそう言うと、おじいちゃんは蔵を出て行った。
「こんなのあったんだ………」
まさか、本があるなんて思ってもいなかった私はまじまじとその本を見た。
「本当に、そんな言い伝えが書いてあるのかな?」
好奇心から私は巫女様の話が書かれているという本のページをめくった。
おじいちゃんは、古くから言い伝えられてる有名な話だって昔から言ってたけど、近所の人達はもちろん学校の友達も誰一人、そんな話を知っている人なんていなかった。
――――――再び、悪しき者の封印が解かれようとしている
「えっ? 何?」
何処からか知らない声が蔵の中に響き渡った。
――――――汝、萌黄の御髪を持つ者
「な、な、何なの!?」
本から声が聞こえてくると気付いた私は、急いで本を閉じようとした。だけど、見えない力によって抵抗されて、本を閉じることができなかった。
――――――この世を救い給え!!
「きゃあああああああああああ!!!!」
本から急に温かい青白い光が飛び出し、私の体を包み込んだ。私の体は、大きく揺れ動き、何かに吸い込まれていくようだった。そして、私は意識をだんだんと手放していった。
これより本編開幕です!
この物語を書く上で作成したプロットを見ながら、書き進めていきたいと思います。
まだ、物語が始まったばかりですが今後の展開の都合上、念のため15歳以上推奨の
年齢制限を設けさせていただきます。