殿下の嫉妬
「私を攫ったのは、トラスト国のファーゴ王子です」
「ファーゴって‥‥‥。あの『女たらし』で有名な?」
「アイリス様!! 大丈夫でしたか? 何もされませんでしたか?」
「‥‥‥はい」
何て答えたらいいのか分からずに、答えるまでに変な間を空けてしまった‥‥‥。エリオット様は、こちらを見て怪訝な顔をしている。
「アイリス、本当に何もなかったの? 怒ったりしないから、正直に言ってごらん」
エリオット様は剣を鞘に収めると、もう一度私を抱きしめてきた。
「‥‥‥」
「アイリス?」
「‥‥‥キスされました。ただ、それだけです」
そう言った途端、エリオット様の機嫌が急激に落ちていくのがわかった。
「で、殿下」
オーベル様が執り成す様に、あたふたしているのが見える。
「‥‥‥そうか」
「‥‥‥」
(えー、待って。何でそんなに怒ってるの? 「怒らない」って、たった今、言ったばかりじゃないの)
「‥‥‥それにしても、アイリスが無事で良かったよ」
私の頭をポンポンと撫でると、エリオット様は再び、倒れているジェイドを見ていた。
「それで、どうしてジェイドがここに?」
「さっき偶然会って、どうしてここにいるのか、話を聞こうとしたんです。そしたら、話を聞く前に『ケンタウルス』に吹っ飛ばされてしまって‥‥‥」
「偶然?! こんな場所で偶然出会って、ケンタウルスに倒された?」
エリオット様の疑問はもっともだろう。ジェイドがどうして此処にいるのかは、謎だった。
「ジェイドか‥‥‥。何というか、難儀な奴だな」
オーベル様の呟きに、誰も何も言えなかった。
「では、あの『魔物』はアイリス様が倒されたのですか?」
「ええ、そうなんです。オーベル様に付与してもらった魔術を使って、何とか倒したました。間一髪のところでしたが‥‥‥。オーベル様、あれは『魔物』ですか?」
「‥‥‥はい。私も書物でしか読んだことがないのですが、『魔素』が含まれている国では普通に森に住んでいるそうですよ。ただ、魔素を大量に含んだ魔物などは、倒すのが難しいらしいとか‥‥‥。私も詳しくは知らないので、何とも言えませんが」
「魔物‥‥‥。普通の動物の様にも見えたわ。動物とはどう違うのかしら?」
「普通の動物と大して変わりません。ただ、『倒すのが難しい』というくらいです」
「そう」
「‥‥‥そういえば、アイリス様。ファーゴ王子からは、どうやって逃げてきたのですか?」
「それが‥‥‥」