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谷底へ
「ファーゴ王子! ファーゴ王子!」
目を開けると、そこには私を心配そうに覗き込むジルの顔があった。
(薄暗いな。そうか、私は馬車から転落して――ということは、ここは谷底か?!)
「痛っ……」
かつてないほどの頭の痛みに耐えながら、私は周囲を見回した。渓谷の底は岩だらけで何もなかったが、すぐ傍には小瓶が落ちていた。
(オーベル様の回復薬を使ったのか)
「うっ……」
更なる頭痛に耐えていると、ジルの顔が赤くなっていくのが分かった。
(もしかして、私の魔眼か?)
膝の上には、包帯が落ちていた。きっと、私の魔眼にやられてしまったのだろう。顔を赤くしたジルは、身体をモジモジさせていた。
「あぁぁぁぁ……」
その瞬間、唐突に思い出していた。前世の記憶を――私は、姉のやっていたゲーム『白薔薇シリーズ』が大好きだった。前世で私は男であったが、男性が好きで……。ゲームに出てくる攻略対象のジルが大好きだった。
そのジルが、身体をモジモジさせながら顔を赤くして、こちらへ近づいてくる。
「ジルッ、待てっ――これは、何か違う!」
「え?」
ジルが首を傾げながら、こちらへ手を伸ばした瞬間。目の前がキラキラと光り、周囲が白くなっていった。




