変わらない想い、変えられない想い
次の日の午後。私は仕事を早めに切り上げて、ジェイドの言っていた四阿へ来ていた。
「あ……」
サラは四阿の前で待っていた。近づいていくと、私に気がついたのか一礼をしていた。
「お忙しいところ、申し訳ありません」
「いや、大丈夫だ。それより、話というのは……」
「も、申し訳ありませんでした」
サラは勢いよく頭を下げて謝っていた。
「え?!」
「ジェイド様から言われました。オーベル様とは、その――恋仲ではないと」
「えっ? ああ、そうだね」
「それでその、言っておいた方がいいと思うことがありまして……」
「はい」
私は「言っておいた方がいいこと」とは何だろうと、少し期待してしまった。
「あの、実は私――ジル様のことが好きなのです」
「はい?」
「話は、それだけです」
そんな事を言われても、困ってしまう。失恋した挙げ句、なぜ他者への愛の告白を聞かなければならないのか――私は、途方に暮れていた。
「だから、私に諦めろと?」
「そういうことが言いたかった訳では、ありません。結果から言えば、そういうことになるのかもしれませんが、私はジル様に憧れています。この恋が実らないにしても、この思いを変えることは出来ませんし――ずっと思い続けると思うのです。例え、ジル様が他の方と結婚しても」
「つまり、その気はないから期待するなと?」
「端的に言えば、そうかもしれません。ですが、私はアイリス様のメイドとして誇りを持って仕事をしておりますし、一生お傍でお仕えするつもりです。だからという訳ではありませんが、恋愛は自由でありたいのです」
「もう、いいさ。応援するよ、君のこと……。手助けできるかどうかは、分からないけど」
「ありがとうございます、オーベル様。ご理解いただけて、本当に良かったです」
サラは、今までにない最高の笑顔をしていた。私は、腹の底が捻れるような気持ちを押し隠して笑った。
「応援しているよ」
*****
研究室に戻ってきた私は、机の上に置いてあったフォーチュンクッキーを眺めていた。これを渡せば、サラは本当に私のことを好きになってくれるのだろうか?
クッキーの包み紙に手を伸ばそうとして、慌てて手を引っ込めた。いけない……。彼女が幸せに過ごせることだけを考えよう。
「オーベル様、いますか?」
「また、お前か……」
気がつけば、ジェイドはまた研究室に来ていた。
「サラの様子がおかしかったので、少し気になりまして……」
「振られた私を、からかいに来たのか?」
「振られた? あー、やっぱりサラはジル様ですよね。それで――もしかして、クッキーの力を借りたくなっちゃいました?」
「まさか」
以前もそうだったが、何ていうタイミングで現れるんだろう、この男は。
「そうですよねぇ。紳士ですもんねぇ、オーベル様は」
「からかいに来ただけなら、帰ってくれ」
「いえ、そうではなくて……。さっき部屋に来た衛兵が言っているのを聞いたんですが、行方不明だそうですよ?」
「行方不明?! 誰がだ?」
私は半ば、やけくそになりながら聞き返した。
「トラスト国へ向かったファーゴ王子と、護衛のジル様です」
「何だって?!」
私は慌てて身体に掛けていたタオルケットを跳ねのけると、エリオット殿下のいる執務室へ向かった。
「今日も、お休み返上ですね」
ジェイドが後ろで何かを呟いていたが、気に留めている余裕はなく――大急ぎで、執務室へ向かったのだった。




