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ジェイドと難民

 私達は転移陣から降りると、陣が描かれた魔術具を回収し、近くに用意されている馬の場所へ向かった。


 ドォォォォォン────


 城が見える方角から破壊音が聞こえる。もうバレたのだろうか? 緊張感が高まるのを感じ、口から自然と出てくる唾を上手く飲み込めなかった私は咳き込んでしまった。


「アイリス様?! 大丈夫ですか?」


「ごめんなさい‥‥‥。大丈夫よ」


「アイリス様、こちらの馬をお使いください」


 手綱を手渡されて見上げると、馬は嬉しいのか尾っぽを振ってニコニコしていた。


「アネッサ、あなたも逃げるのよ」


 彼女は首を横に振ると微笑んだ。


「この先、真っ直ぐ進むと大通りに出ます。大通りを左に曲がり、道なりに進むと国境です。そこへ向かってください。エリオット殿下が、(じき)に迎えに来るでしょう」


「アネッサ、あなたは‥‥‥」


「わたくしは、微力ながらここで足止めをさせていただきたいと思っております。この辺りへも、もうすぐ追ってがやって来るでしょう」


 アネッサは私を馬の上へ乗せると、馬の尻を叩いた。


「さあ、行って。アイリス様をお守りするのよ」


 ヒヒィーン────


 馬は嘶きながら、何とか走り出した。


「アネッサ。どうか無事で‥‥‥。また会いましょう」


 アネッサは頷くと、前を見据えて臨戦態勢に入ったのだった。



*****



 馬は真っ直ぐに走っていたが、少しずつ右にズレて走っていた。手綱を引いて方角を調整しようとしても、あまり言うことを聞いてくれない。


「お願い‥‥‥。言うことを聞いて」


 私は馬の背を撫でながら話しかけ続けたが、馬は更に右に逸れて走り続け、森へ突っ込んだ。


 慌てた私は、すぐに両手で手綱を引いて馬を止めたが、森の中には既に大勢の人がいた。


「これは‥‥‥」


 少し開けた場所に、ボロボロの衣服を身に纏った平民が所狭しと座っており、自炊しているのか、端の方では一部の者が炊き出しを行っている。


「もしかして‥‥‥。難民?」


「アイリス様!!」


 こちらへ駆け寄ってくる男性に見覚えはなく、私は少し戸惑ってしまう。


「アイリス様、私です。ジェイドです。司教の息子だった‥‥‥」


 男性の顔を見つめていたが、ひげを抜かして考えれば確かに少し老けたジェイドの顔にそっくりだった。


「ジェイド? 本当に??」


 事件後、ジェイドは姿をくらましていた。だが、司教の養子で実の息子ではない事と、事件に直接関与していないことが判明していた為、野放しにされていたのだ。一部の者の噂によると、「養父(ちち)の陰謀を必ず暴く」と息巻いていたそうだ。


「アイリス様が、何故ここに‥‥‥」


「それは、私も聞きたいです」


 ジェイドの話によると、ここにいる難民は全て『アーリヤ国の難民』らしかった。


「アーリヤ国の難民が、何故こんな所にいるのかしら?」


「私にも、よく分かりません。アイリス様、わ‥‥‥」


 ジェイドが何か言いかけた瞬間、目の前からジェイドの姿が消えた。


「ケンタウルスだ!!」


「逃げろ!! ケンタウルスが現れた!!」


 よく見ると、森の奥から出てきた動物にジェイドは吹っ飛ばされていた。炊き出しを行っていた難民たちは、クモの子散らす様に逃げていった。


 難民が「ケンタウルス」と言った()()は、およそ私が知っているケンタウルスのイメージとはかけ離れていた。前世では、ケンタウルスは上半身人間で下半身が馬だったはず‥‥‥。それが、目の前にいるケンタウルスは、どう見ても大きめの『サイ』だった。


「アイリス様、お逃げを‥‥‥」


 今にも踏み潰されそうなジェイドが、虫の息で私に言った。




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