元料理人
「それとは別に、一つ気になっていることがあるのだが……」
「何でしょう?」
「ジェイドだよ。なんで、またオーベルの専属料理人なんかになってるんだ? ジェイドはもともと料理なんて出来なかった気がするのだが……」
さすが、エリオット様。ジェイドの料理の腕前まで覚えているとは……。聞かれないだろうと思っていたら、急に突っ込まれてしまい、私は何と答えればよいのか迷ってしまった。
「エリオット様の疑問はもっともですわ。その件につきましては、オーベル様に確認していただけると……」
私が視線を逸らすと、エリオット様が怪訝な表情をしていた。
「アイリス? また何か隠してる?」
「そんなこと、なひぃです」
どれくらい話を濁そうか――そう考えていた私は、思わず舌を噛んでしまった。
「アイリス?」
エリオット様の緑色の瞳に見つめられ続け、私はとうとう音を上げた。
「ジェイドの話を聞く限りでは、おそらく前世で私と同じ世界で生きていたのではないかと……」
「それは、オーベルも知ってるんだね?」
「はい。むしろ、それが原因で料理人に雇ったと思われます」
「ということは、元料理人?」
「元見習い料理人です。ごめんなさい。騙すつもりはなかったのですが、ファーゴ王子の件もありましたし、落ち着いてから話そうかと思いまして……」
「いや、いいんだ。ただ、私だけ知らなかったのは少し寂しいな」
「エリオット様……」
二人で見つめ合っていると、ジルが後ろで咳払いをしていた。
「コホン。二人とも、私がいるのをお忘れなく」
「……」
「あの、ジルって……」
「何ですか、アイリス様?」
「やっぱり、何でもないわ」
「アイリス?」
「あの、私が聞くのもどうかと思っていたのですが……ジルには確か、婚約者がいませんでしたよね? お付き合いされている方とかは……」
ジルは私を見ると、明らかに嫌そうな顔をした。
「私には婚約者や、付き合っている方はいません。ですが、必要だとは思っておりません。一生、殿下に尽くし命を捧げる所存です」
ジルは騎士の礼をすると、部屋を出ていこうとした。
「あの、変なことを聞いてごめんなさい。エリオット様のこと、これからもよろしくお願いします」
私が立ちあがって頭を下げると、ジルはドアの前で再び一礼をしてから部屋を出て行った。
「気に障ったかしら?」
「いや、いいんだ。ジルは昔からあんな感じだし。気にしない方がいい」
「ジルって、確か男爵家の次男よね?」
「ああ。数年前、ジルの親が男爵の地位を得たんだよ」
「数年前?」




