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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ゆたか

作者: びくりり(超妄想作家)

初めて 教室に入った時 妙な違和感があった


普通の男子校には無い まとまった雰囲気を感じる


しかも 影がある、、、


「誰がまとめているんだ」


何気なく見渡した


リーダー格が 見当たらない


ただ一人 不思議な空気をまとわせている生徒がいた


静けさの中に 廻りを抑え込む鋭さを感じさせる


「カーストのトップなのか?」


そのキレイな顔を持つ生徒を 俺はあえて見ないようにした


どこかで 自分を守ろうとしたのかもしれない


ただ その目は 追い詰めるように俺を見てくる


俺は 気持ちを落ち着かせて もう一度見た


ゆたかの目は 柔和な微笑みにかわっていた


そして その瞬間 既に俺はゆたかに囚われていた 


抗うことも無く


そしてこれが二人の序章となった


二週間が 過ぎた頃


屋上から 生徒が飛び降りた


ゆたかの後ろの席で 俺の知る限り優しく もの静か生徒だった




「どうして愛してくれないの」


ノートへの走り書き


そんな短い遺書だけを残して



机に白い花が 飾られている


教室には 重くて乾いた空気が流れていた


誰かのすすり泣きを閉じ込めるように



生徒は皆 何処かで自分も同じことをしてしまいそうな おそれを抱いている


きっと そうだ


教室は沈黙で満たされた



このクラスはゆたかが支配しているのか


いや 勝手にみんなが虜になってしまっている


ゆたかに愛されたい


その思いが渦巻いて、、、



それは 危うさを含んだ純愛にみえる


その日の帰りゆたかの家に寄る決心をする




薄暗くなってきた道を歩きながら


亡くなった生徒の事を思い浮かべた


俺に 出来る事はなかったのか


あの遺書のような走り書きは ゆたかに関係してるのか


いやっ そうだと思う


間違いなく、、、


ゆたかの本心も本性も俺は知りたい


担任として


もしかして 違う意味で、、、?






「あっ 俺が読みたかった本だ」

思わず口走ってしまった


ゆたかの口元が微笑んだように見えた


本棚には 数多くの書籍が入っている


本好きの俺には まるで宝の山だった




家族は仕事の関係で海外にいる


ゆたかは広い家に一人で暮らしていた


家事は家政婦がしているらしい


ゆたかが 冷たいお茶をグラスに注いでくれた


俺は緊張で乾いた喉を 潤わせたくて 一気に飲んだ


話しの糸口を探しながら


俺の気持ちを 察したように ゆたかが話し掛けてくれた


「先生 とうまって言うんだね。


父さんと同じ名前だよ」


学校と違ってゆたかが不思議なくらい幼く見えた


「そうなんだ」


そう言いながらも 気持ちが楽になっていく


「先生 良かったら ご飯食べていきませんか。

俺いつも一人だから」


冷蔵庫の中から 惣菜を出してテーブルに並べる



「ありがとう。ご馳走になるね」


ゆたかの顔を見ながら 食事をする


「先生 俺に聞きたいことあるんでしょう」


ゆたかが俺の目を見た





俺は心が見透かされそうで、、、



そう 言葉を掛けられないまま


「今回のこと、、、ゆたかはどう、、思ってる、、、」


「俺はただ、、、」


ゆたかは 目を伏せた

  

窓から入った風が 二人の間を流れ


わずかな時間は 悲しいくらい永く感じた



二人は今 同じ時間を共有してる



ゆたかの白い指先が微かに震えている


俺は手を伸ばして ゆたかの手を握った


ためらいながらだったけど


担任としての優しさで そうした


そう思おうとした


ゆたかがもう片方の手を乗せてきた


ゆたかに囚われてる俺は 動揺した


に取り替える


「先生」


少しかすれたような甘い声


見なくても分かった  ゆたかだと


「昨日はごめんなさい」


「いやっ、、俺だって ゆたかを、、」



俺たちは秘密を作ってしまっていた





そしてそれは廻りを 巻き込んで行く





雑談をしながら 教室へ戻る


数名の生徒が授業の用意をしていた


俺たちの事は 誰もまだ 気付いていない


その日 


俺は ゆたかの家に泊まった


ゆたかも 本が好きだった


お互いに 好きな本を 交換して読んだりした


感想を話したり 笑ったりしながら 穏やかで貴重な時間を 過ごした



ゆたかが 俺をベッドへ誘う


俺たちはきっと 罪を犯している


俺たちが 愛することは許さるはずもなく


だから 尚更、、、



「とうま、、」


その言葉は 父親への慕情なんだろう


俺を呼びながらも 何処かで父親を、、、


俺は気付いていた


そして そんなゆたかを愛おしく思った





俺はもう ゆたかから逃れられる事はできない


俺の体はゆたかに完璧なまでに溺れている


ゆたかに触れられる度 恥ずかしいくらいに俺の体は反応してしまう


声を震わせながら



ゆたかのその手をその唇を いつも追い求める 


俺は そうやって甘えていた


夜にまかせながら


現実は隠そうとしても 何処かで 露呈してしまう


生徒達は 俺たちの関係に敏感だった



そして静かに噂されていく

 

それは嫉妬と 羨望が 入り混じって拡がっていった



俺たちは、、、




季節がかわった頃  俺たちはネットに書き込みをされてしまう


俺たちの関係は瞬く間に知られる


俺に非難の目が向けられた



俺たちを引き離そうと廻りが動きだす


常識のある人々によって




誕生日に 水色のネクタイをプレゼントされる


ゆたかの思いがこもったネクタイ


次の日それは 俺の胸を飾る


俺たちの心は繋がっていた


そして全ての時間を使い果たしたみたいに


心は決まっていた




屋上へ のぼっていく


二人は手を繋ぎ水色のネクタイは その手を結んだ


離れたくなくて



手摺りに向かって行く



僅かな時間を惜しむように 二人は見つめあった


微笑みながら、。

 

「愛してるよ」


「俺も、、、」



今 全てを終わらせようとしていた



誰かの声がした


そしてその声に俺たちは思わず 振り返った




3年後


海沿いの街を 自転車が走る


俺は学校へ向かっている


今日から 新しいクラスの担任だ


かごの中で お弁当が揺れる


ゆたかが作ったお弁当が







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