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08 魔王、キレた

 ユンボが地面に落下した衝撃で砂埃が上がっている。そのせいで視界が悪く、魔王がどうなったのかが分からない。ユンボと激突する直前、受け止めるような体勢をとったように見えたが……。

 三人が固唾を飲んで見守る中、最初に声を発したのは勇者だった。


「や、やったかッ!?」


 ミノル君、その台詞は使い古されたフラグだぞ。そう言いたかったが、さすがの魔王も三トンを軽く超す重機に潰されたらひとたまりもないはず……や、やったか!?


「き、貴様らぁ……」


 やってなかった。

 砂埃が晴れ、視界が開ける。

 そこには、まるでバーベル上げの選手のように両手でかろうじてユンボを持ち上げ立っているている魔王の姿があった。

 魔王の足は地面にめり込み、頭や腕からは血がドバドバと流れている。息も切らしていて乱していて、奴が呼吸をするたびに連動してユンボも上下する。 

 重量挙げの選手のようにユンボを苦しそうに持ち上げている魔王。なんとシュールな光景か。

 待て待て、のんきに感想を抱いてる場合じゃない。俺の策は失敗したのだ。

 ユンボを支える魔王の両腕はブルブルと震え、体力の限界がすぐそこまで来てそうだった。

 魔王の足が地面にさらに沈み込んだとき、


「ぬぅ……おおおおおおあああああああァ!」


 地獄の底から這い上がってくるかのような雄叫びと共に、魔王は力を振り絞ってユンボを放り投げた。

 召喚時の落下のときまでではないが、キャタピラから着地したユンボの着地音は、俺の腹の中で暴れ回るように、重く響いた。

 肩で息をし、立ったままうなだれる魔王。足元もよろよろとおぼついておらず、倒せなかったにしろ、これならあともう一息ではないか。そう思わせるほどの瀕死の状態だ。

 魔王が顔を上げる。目が合う。

 憎悪、憤怒、鬱憤――そこには(おびただ)しいほどの怒りの感情が攪拌(かくはん)し、蠢いていた。

 無意識に、俺は後ずさっていた。目の前にいる生き物は、瀕死などではない。どころか、先ほどまでの眼中にない羽虫扱いの感情は消え去っており、新たな感情が俺に向けられていた。

 何千ものナイフで刺してくる、明確な殺意が。


「こんなもので、我を殺せると思ったか……」


 ぼそぼそと、独り言のように魔王は怨嗟の声を吐いていく。


「……愚かな……」


 吹き出すような、自虐とも嘲笑ともとれる感情が外に放散されていく。


「我が……俺が……」


 そして残されたどす黒い感情が、ただ純粋に目の前の人間たちを(ほふ)る呪詛となる。


「俺が人間如きに殺されるわけがないだろォがァ!」


 その声だけで、周囲一帯の空気が弾けた。

 魔王が放つ圧が旋風を巻き起こし、俺たちの体を突き抜ける。気を抜いたら吹き飛ばされるどころか、俺という存在ごと消し飛んでしまうのでは……そんな錯覚をしてしまうほどだ。


「調子に乗るなよ虫けら風情がァ! 塵一つ残らんと思えェ!」


 先ほどまでの落ち着きは残っておらず、脳天を揺さぶられるほどの荒々しい口調で天に吠え散らす様は、繋ぎ止めらていた鎖を引きちぎった猛獣のようだ。

 身の毛がよだつほどの咆哮に、俺はもちろん、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたであろうミノル君とユイちゃんも、破壊の権化を前に正気を保つので精一杯のようだ。

 魔王の双眸(そうぼう)が、俺たちを捉えた。


「キャア!」


 突如、俺の左脇に立っていたユイが吹き飛んだ。


「ぐあァあああああッ!」


 すぐ次に、俺の右脇にいたミノル君が同じように吹っ飛ばされる。

 ページを読み飛ばしたかのようないきなりすぎる展開に、俺は顔を右往左往させ、狼狽えることしかできない。

 吹き飛ばされた二人は意識はあるようだが、魔法的な攻撃も含まれていたのか、口から血を流して苦悶に満ちた呻き声を上げていた。

 残されたのは、俺だけ。

 目の前には、絶望が服を着て立っているかのような生き物が立ちはだかっている。こんなの、俺だけの力でどうこうできるわけがない。

 ただ身を縮こまらせ、震え、動けず、食いちぎられるのを待つことしかできない。


「貴様は、俺が直接その命を刈り取ってやる」


 殺意の全てを俺にぶつけるかのような眼光が、俺に抵抗を許してくれない。指一本動かした次の瞬間には八つ裂きにっている自分のイメージが脳裏を侵食し、吐き気が込み上げてくる。実際、吐いた。


「無様だな」


 俺の口から出てくる吐瀉物が不快な水音を立てて地面にぶちまけられる。

 全身の震えが止まらず、情けなく涎を垂らす俺を見て、魔王は冷たく言い放つ。


「だが、こんな虫けらのカスに俺が傷を負わされた……それが何よりも無様で許せん……!」


 敵意も悪意もない。ただ純粋な殺意の塊が、圧力をもって俺の頭にのしかかる。耐えられず、膝から崩れ落ちてしまう。


「洗い流すしかない。貴様の醜悪な血で、我に付いた醜悪な傷を」


 魔王は埃でも払うかのような手つきで俺の首を掴み、持ち上げる。さっきもこんなことあったな、と昔のことのように思い出してしまう。

 首を絞めつける力はどんどん強まる。俺が呻こうが苦痛で顔を(しか)めようが、関係ない。


「死ぬ準備は出来ているか」


 暴力。暴威。凶暴――あらゆる『暴』の化身と化した魔王は、邪悪に口角を上げた。

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