とても面倒くさいとある婚約破棄について
「ナタリー•グラフニカ!俺がお前と結婚することはない。俺は真実の愛を手に入れた」
美しい花々が咲き誇る春の庭。そこで高らかに声を上げたのは、この国の第一王子。アーノルド殿下。
「い、嫌です!私はアーノルド様を愛しているんです。貴方のために大変な妃教育だって耐えているのに……こんな仕打ち耐えられません!」
今にも泣き出しそうに目を潤ませているのはナタリー様。アーノルド様の婚約者であり、未来の花嫁様でございます。
「知ったことか!お前は俺の愛するレイチェルを無視したり、約束をやぶったり、叩いたりしたそうじゃないか。なぁ!レイチェル」
話をふられ、私は困ってしまいました。確かにその通りです。ナタリー様は、私の挨拶を無視したり、昨日は約束をしていたのにわざとすっぽかしました。私を叩いたりしたこともあります。でもそれは、殿下が来る日も来る日も彼女の目の前で私に求婚したからですよ?女の嫉妬とは可愛く根深く恐ろしいものです。だから甘んじて私はそれをお受けしておりました。毎度毎度貴方の求婚も無下にはできず、私はその場を笑ってごまかすしかありません。ですが、はっきりお伝えするのであればそろそろ潮時ですかね。
「ちょっと待った!」
あら、まためんどくさいのが……いえいえ、花壇の茂みから飛び出してきたのはアーノルド様の双子の弟君。第二王子のレオナルド殿下。彼は私を指差して不敵に笑って見せます。
「私は知っている!レイチェル。あなたは、兄上を籠絡してこの国を手に入れようとしている悪女だ!兄上!この人を信じてはいけません!ナタリーや僕を部屋に閉じ込め嫌がらせを続けている悪女ですよ!」
んー、あれを嫌がらせというのであれば、アーノルド様にも同じことしているんでけどね?恋は盲目?むしろ彼は嬉々として私を受け入れていますが……。
レオナルド殿下は跪くと、ナタリー様に微笑みかけ、その手を差し出しました。
「ナタリー。どうか兄上との婚約はやめて、私と婚約してください。こんな男より、私は貴方を幸せにします」
あら、素敵。ナタリー様はどうするのかしら。興味津々で見ていますと、ナタリー様はプルプルと震え出し、なんとその手を弾いたのです。その衝撃でレオナルド様はバランスを崩して、地面に倒れ込みます。
「嫌よ!私はアーノルド様のお嫁さんになるの!」
ボロボロと涙を流して、ナタリーは地団駄を踏みます。空を見つめたままのレオナルド殿下が続けて大声で泣き出します。
「なんでーー!お兄ちゃんより!俺の方がナタリーこと好きなのにいい!やだ!やだーー!!」
泣き喚く二人を見て、ついにアーノルド殿下もおろおろしだします。助けを求めるように私を見つめてくるので、ここで彼にもトドメを刺すとしましょう。
「あのですね。アーノルド殿下。気持ちは嬉しいけど、私もう結婚してるのよ。だから貴方のお嫁さんにはなれないわ」
かがみ込み、微笑むと、彼の目からもどんどん涙が。まぁ、この際。二人も三人も、泣き止ませる手間は変わりません。
わんわんわんわんと涙の大合唱。
私の名前はレイチェル。アーノルド、レオナルド、ナタリーの教育係にございます。はてさて、この五歳児3人はどんな大人になることやら、大人になってから馬鹿みたいな婚約破棄ごっこなんてしないよう。貴方たちが嫌がらせなんてうそぶくレッスンでしっかり教育してさしあげなければ……ああ、これは骨が折れそうです。
おわり
叙述トリックって難しい