10000回目の終わりの始まり
――大丈夫。この思いも…記憶も……消えることはないんだよ。
◇◇◇
――西暦2090年。
第39回、国立魔術研究院高等部東京校―通称東京魔術高校―入学式当日。
白を基調とした制服に身を包んだ一人の青年が、東京魔術高校の門を叩いた。
青年は桜並木の道を進む。ここは国家主導の政策として設立された全国に9つある魔術高校のうち、最難関と言われる東京校。国家の魔術分野の象徴として巨額の投資を受けているだけあって、敷地面積も設備も超一級。日本の尺度において、高校生の学び舎としては最高峰と言える。
「…すごいな。いや、流石というべきか。」
周りを見渡すと上級生らしき人影が見える。
入学式の日にこれだけ早い時間から学校にいるということは、恐らくは生徒会役員か委員会に所属しているのだろう。
一瞥しただけでも、彼ら一人一人のレベルの高さが伺える。
(真に価値あるのは生徒の方か…)
これには期待感を抱かずにはいられない。
父上の指示でこの学校に入学したが嬉しい誤算というものだろう。
そんなことを考えていると
「エリヤ!こっちこっちー!」
聞き慣れた声のする方を見ると見覚えのある顔が。
「司姉様…」
我が姉はなんと元気なことか。
どんな時でも変わらない明るさは、彼女の生来のものなのだろう。
およそ三ヶ月ぶりの再会だが、良い意味で変わっておらず安心した。
「司姉様、ご進級おめでとうございます。」
「はい、ありがとう!エリヤも入学おめでとう!…うんうん」
「どうしたんですか?」
「いやー、たった3ヶ月で見違えたなーって。やっぱり高校生は違うね!それとも東京に来たからかな?」
「からかわないでください。それを言うなら姉様こそ品が磨かれていますよ。」
「えぇー、そうかなー!全くこの子は口だけは上手になっちゃって。」
そうは言いつつ笑みを隠せないところが我が姉ながら可愛いものだ。
「んんっ!入学式は講堂で行われるから、少し早いけど席を取っておきなさい。お友達が出来るように気合い入れて!」
「ハハッ、ありがとう姉様。」
そう言って姉様とは一旦分かれる。入学式まではまだ時間があるので、この学校の施設でも見ながら講堂に向かうことにした。