(1)
暗闇の中で1人佇むのは、私。
聞こえてくるのは、ウギャー!ウンギャー!と赤ちゃんの泣き声。
やがて見えたのは、駅にあるコインロッカー。
確実に、その中から聞こえる。
捨てられた……?
疑問に思ったのは、一瞬。
ズキン!と頭に激痛が走り、その場にへたり込んで、両耳を両手で塞ぐ。
これは夢……?
それとも……
うっすら、瞼を開けると、真っ白な天井らしき物が見えた。
此処は何処………?
疑問に思ったのは、一瞬だけで、頭の中にある脳が上手く動いてくれない。
「目が覚めたのね?」
女性の声が聞こえ、視線だけを声の主に移す。
声の主は『今、担当医を呼んで来るわ』と言って、私の視界から消えた。
"分からない?"
何が……?
私の中で、別の私が問い掛けてきた言葉に、問い返してみた。
だけど、それだけで、終わった。
「自分の名前を言える?」
私の顔を覗き込む様に、問い掛けてきたのは、40歳くらいの白衣を着た男性。
……名前……?
何かを言おうと思うのに、何が言いたいのか分からない。
……名前……?
……私の……?
……それは……?
……何も分からない……
「此処が何処か分かる?」
そんな事を言われても、私の頭の中にある脳は、上手く動いてはくれない。
『此処は病院。そして私は担当医の矢形』と言ったのは、白衣を着た男性。
聞いたけど、理解するのに数分かかった。
何故、病院……?
確か……私は……?
……思い出せない。
最後まで読んで下さった読者の皆様に感謝。
『Merci beaucoup』