これからのこと
前回のあらすじ~
生徒達の引率を頼まれ「先生」と呼ばれてちょっと良い気分。
そこへクロが現われて「ドラゴンが来るぞ」「はあ?」
平静を装いつつ生徒達の元へと戻る。
「先生、なんだったんですか?」
黒髪のポニテちゃん、確か名前はロミーナと言ったな、が尋ねて来た。
「いや。ハンター同士偶に会うとな、情報共有したりすることもあるから」
その挨拶なのだと答える。その情報が「ホームが「全ての頂」に襲われる」なんてことは滅多にどころかほぼないけどな!
生徒達にその情報を今伝えても「何を言ってるんだか」で笑い話になってしまう。とにかく現実をみなければならないだろう。
「んじゃ、行こうか」
先頭に立って歩き出す。顔が険しくならないようにするのがとても大変だった。
木がまばらになってくると、嫌でもその巨体が見えた。
「うそ…」
誰の口から出たのか。俺も目の前のこの光景が誰かに嘘だと言ってもらいたい。
崩された外壁。あれでは結界も破られてしまっているだろう。ホームに半分以上体を入れ、その長い首をもたげて口で街の中を探っている。獲物、つまり人間を探しているのだろう。
「いやあああああ!」
誰かが叫び声を上げた。
「おい! 口を塞げ!」
少人数とは言え「全ての頂」に気付かれてこちらに来られたらたまったもんじゃない。それを分かっていたのか理解したのか、周りの者達が急いで悲鳴を上げる女子の口を塞ぐ。気持ちは分からんでもないが、今は音を立てるのは愚策だ。
幸運にもその声は届かなかったようで「全ての頂」はこちらに顔を向けなかった。
「おい、いいか、音立てないようにして、ここから立ち去るぞ」
「え、でも先生、どうするんですか?」
代表なのか、トニーレオンが聞いてくる。
「どうするもこうするも、こうなったら逃げる以外に選択肢はない。ホームの人間を助けになんて行ってられないぞ。それは分かってるだろ?」
口を閉ざす。
皆あそこに大事な人がいるのだろう。それは俺も同じだ。おふくろ達はクロのおかげで助かったが、俺にだって大事な友はいる。同性の友も、もちろんヒュルリィちゃんだって。
しかし助けに行くなど自殺行為だ。無事に逃げ延びてくれることを祈るしかない。
ホームには四方に他の街へ転送できるゲートがある。上手くすればそのゲートに乗って何人かは逃げ延びているはずである。
「さあ、行くぞ」
俺達はソロリソロリと、再び森の中へと引き返していった。
みんなの気持ちを落ち着ける為と今後のことを考えたいので、しばし適当な所で休憩することにした。もちろん周りの警戒は怠らないように注意する。気落ちしていてようが魔物には関係ない。それどころが動きが鈍くなればあちらさんは大喜びだ。
俺はお花摘みに行くと適当に言って、皆の視線が届かない場所まで移動。そこにあった高い木にするすると上り始める。上からするわけではないからな。
風に乗ってくる臭い。生き物の気配。それを感じつつ、俺は妖しの力を使い始める。
(多分、変わってるよな)
軽く使うならば然程変化は起きない。しかし、この力を強く使うほど、俺の外見には変化が起きる。それを見られたくないのだ。説明も面倒くさいし、何より説明出来ない。
周辺を感知する為、力を解放。いつもよりも広範囲に力を伸ばす。きっと今瞳の色が紫に変わっている。下手すると髪の色も変化しているかも知れない。
ソナーで分かるのはそこに魔力を持った者がいるというくらいだが、妖しの力ではそれがどんな生き物か判別出来る。つまり同士討ちがなくなる。ついでに遠見の力も併用すれば、その生き物が何をしているのか詳細に分かるのである。なんと便利。
俺が探しているのは生き残りだ。ホームから出ていたハンターが何組かいたはずだ。昨日などに戻っていたならアウトではあるが、運良く今日まで外に出ていたチームがいると思いたい。
俺1人であの卵達を連れて、この何がいるかも分からない世界をうろつくのは難しい。誰でもいいから手助けが欲しい。それと、俺の頭の中の地図が間違っていないか確認を取りたい。
ニホン州のトーキョーホーム。それが俺のいたホームの名。記憶違いでなければ、ここから一番近いのが南にあるヨコハマホームだったと思った。
それにこの周りに広がる森にはかなりキチガイな魔物達がおり、その森を抜けるのに確か南が一番安全…とは言えないが、一番無難だったはずだ。その情報の確認も取りたい。
「何故そこで我が輩を呼ばぬのかのう」
「どわっ…」
叫び出しそうになるのを必死に堪えた。生徒達に見つかるわけにはいかない。
太い幹を背にしていたのに、いつの間にか肩に重みがずしり。ああ、これは慣れ親しんだクロの重み。いや、人型じゃないよ。猫の姿だよ。
「我が輩は知識の宝庫なのだぞ? そういう時に我が輩を呼ばぬでいつ呼ぶというのだの」
「俺は青い猫型ロボットにすぐ頼るような腑抜けじゃないんだよ」
あのアニメは今でも人気です。あれをヒントに色々開発されてたりするしね。いや、凄い作品だ。じゃなくて。
「やれやれ、ツンデレも過ぎればただの生意気だの」
「俺はデレた覚えはないが?」
「幼い頃は…」
「その話はやめい!」
小さい頃なんてそんな分別なんか無かったワイ!
「まあいい。出て来たなら丁度良いから、教えろよ。南に進んでヨコハマに向かった方が良いのか? それとも別の方角に向かった方が良いのか?」
「ふむ。距離的に見てもまあヨコハマで間違いは無いの。しかしのう…、あの卵共に森を抜けられるとも思えぬが? その先の道程もお主でさえ危ういかも知れぬぞ?」
「だとしても行くしかないだろう。それとも転送ゲートが無事だとか? だったら「全ての頂」が去るのを待って街に戻るが」
「いや、奴はその存在を知っていたようだの。先にそれらを破壊しておった。さすがは「全ての頂」と呼ばれる奴よの」
「全ての頂」つまりドラゴンは頭が良いというが、本当だったんだな。
「有り難いのは先に壊してくれたおかげで、情報が来た時には既にカレンは戻ることもできずに地団駄を踏んでいたことかの。流石に「もののけ道」を使っても遠すぎるからの」
俺達が使う「裏道」は便利なワープが出来るようなものではない。ただ少し違う空間を歩いて渡るだけのものだ。
「だとしたらやっぱり、あの人数を連れているとなると「裏道」は使えない。普通の道を通って遠くても行くしかないだろう」
普通の道、というか獣道だけどね。
「まあそうなるの。ほれ、有り難い事に近くに2チーム生き残っておったぞ。6位と12位ではないかの」
「「ホワイトファング」と「ライオネス」か。出来れば1位の「レッドホーク」のが頼りになったけど。まあ、いてくれるだけ有り難いか」
クロが感覚を共有したのか、2チームの面々が脳裏に見えた。6位が今いる所から東。12位が西にいる。2チームとも今は休んでいるようだった。
「考える事は同じか」
「安心せい。お主だけはなんとしても我が輩が守ってやるからな」
「俺に「クロエも~ん」と泣けと?」
「それでも良いぞ。後でカレンに見せてやろうの」
「やめい!」
感覚共有が出来るというのは便利ではあるが、不便な面もあるのだ。
クロが姿を消し、俺も妖しの力を使うのをやめて木を降りた。力を使うのをやめれば色は元に戻る。ついでにお花摘みもして行く。
生徒達の元へ戻ると、不安そうな一同の顔。
「せ、先生…あたし達、これから、どうしたら…」
アリーフェアが真っ青な顔で聞いてくる。気を落ち着かせる為に休んだのだが、一部かえって不安を募らせてしまったようだ。
「俺もよく考えたんだが、みんな学校で大体の地理は習ったよな?」
全員が頷く。
「それを思い出してみるに、ここから一番近いのがヨコハマのホームだと思ったんだ。だから、徒歩でそこへ向かう」
「そんな! 無茶な!」
アガスタという男子が叫んだ。真面目そうな顔をしているから、そこまでの道程の厳しさが分かっているのかもしれない。
「転送ゲートがあるじゃないですか!」
「あれを見て無事だと思うか?」
アガスタが今見てきた光景を思い出し、唇を噛む。
「無事なら勿論だが転送ゲートを使って移動したい。だが相手は「全ての頂」だ。あれは魔物の中でも人を凌ぐ知能を持つと言われている。壊されていると考えたほうがいい」
みんな更に暗い顔になった。
「ヨコハマまで徒歩で行くのは無茶かも知れない。だがしかし、ホームはあの通り壊滅的な状態だ。結界は壊され魔物除けももう発動していないだろう。じきにあそこにも魔物が入ってくるようになる。そんな所にいたいか?」
誰も何も言わなかった。
「念の為夜を待って1度ホームに戻る。そこで何か役に立ちそうなものがないかを探す。とくに今の俺達には食料が足りない。何か食べられる物がないか探すぞ。他にも武器などあるか分からないが、あって困る物じゃない。とにかく探しに行こう」
不安そうな顔をしながらも、みんなが頷いた。
そう。3日間の行程だったので多少大目に食料も配給されているが、ここからヨコハマまで保つ量ではない。最悪道々食べられそうな魔物などがいたらそいつを食さねばならない。
(「跳ねる者」は美味いと聞いた事があるけど…)
直接捌いたことはないのでどうしたらいいのか分からないが、どうにかしなければならないだろう。時間停止機能が付いているので腐ることはない。
とりあえず後で皆のバッグから「小鬼」や「血吸い」、「囓る物」は捨てさせて空きを作ろうと、俺も適当な所に腰を下ろした。
日が落ち始める前に行動を開始する。真っ暗になったら身動きが取れなくなる。一応目に魔力を溜める「暗視」などの方法はあるが、それはやはり疲れるので動けるうちに動いておいた方が良い。俺はそんなのなくとも結構見えるのだけれども。あ、妖しの力でね。
ホームの近くへ行くと、すでに「全ての頂」の姿はなかった。無残に壊された外壁が見える。
「行くぞ」
念の為いつもの出入り口の方へと行ってみる。開かないとは思うが、もし何か機能が生きていればどこかの調理機器を使って何か料理を出せるかも知れない。
いつもの入り口に立ってセンサーに翳してみるが、やはり動かなかった。
「やはりか。仕方ない。あの壁が崩れている所から入ろう」
外壁は完全に下まで壊れているわけではない。しかしこのスーツは着ている限りある程度肉体強化出来ている状態にあるので、多少の壁ならば乗り越えることも可能だ。
壊れている所まで多少距離はあったが、なんとか陽が落ちきる前にホームの中に入ることは出来た。
「なんだこれ…」
そんな感想が誰かの口から漏れた。
ホームの中は瓦礫の山だった。街を徘徊している掃除ロボも機能を停止し、そこら辺で倒れている。警備ロボも、タクシーも、みんなみんな動きを止めていた。異様な光景だった。
ステーションと呼ばれる魔力納入装置に触れてみるも、何も反応はなかった。
手前にある建物は殆どが全壊しており、奥の遠くの方の建物はまだ形を保っているものが少しあった。だが無事なものは1つも見えなかった。
そして、動く影は1つも無い。俺のようにペットを飼っていた者達も大勢いたはずだが、その影すらない。ペットのような小さな動物も食われてしまったのだろうか…。
「先生…」
女生徒の声がした。
「ああ、とにかく、探してみよう」
やっぱりスリーマンセルで各方面に探索に行ってもらう。何かあった時は色弾を打つように指示する。たまにしか使わないアイテムなのでその存在を忘れそうになるが、魔力を込めてスイッチを押し、放り投げると花火のように上空で破裂するものだ。色は赤と緑がある。赤が救難。緑が助勢という所か。団体で動く者達が使う物である。それをいつでも使えるように、腰の所に装備させる。すぐに使う物などはバッグから出して装備することも可能だ。
俺はとりあえずハンター受付の方へと足を向けてみた。いつもならタクシーやゲートを使って移動するのだが、そんな便利な物など今は無い。とにかく歩いてスタッフ専用扉から中へと入っていった。鍵は付いていたが、もちろん銃で壊している。
自分の足音だけがコツコツと響く。長銃は邪魔なので背に回す。背中に長銃を固定出来るものが付いているので、必要ない時は背に回している。右手に短銃を構えて、左手は掲げる。魔力を少し集めると、チップが反応して光を帯びる。その光を頼りに先へと歩いて行く。
通路はそれほど崩れもなく綺麗な物だった。しかし誰もいない。いつもはあれほど、いやそれほどでもないが、そこそこ人の気配や何かしらある物だが、今は何もない。
受付の辺りへ行くと、天井が見事に崩れ去っていた。そこにも倒れている者はおろか、人影は1つも無かった。
(どうやって…)
逃げる者達、もしくは瓦礫に下敷きになった者達だっていたはずだ。なのに、瓦礫の山の所に血溜まりはあっても、その血を流したと思われる何かは影すら見当たらなかった。
(生き物を集める術か何かでも使っていたと?)
そうとしか考えられない。でなければ食われずに残った人やペットなどの動物はいるはずだ。
受付の前に立つ。そこにはいつも可愛い笑顔を向けてくれていたヒュルリィちゃんがいたはずなのだが、今は誰もいない…。
(ヒュルリィちゃん…)
敵を取るなどとは言えない。どう考えても叶う相手ではない。少しの間黙祷を捧げた。
とにかく何か役に立つ物があれば持って行かなければならない。武器や弾(この場合爆弾の意味)がないかと倉庫の方へと行ってみる。ハンターの装備や武器などの制作は、中低能力者達の貴重な仕事となっていた。彼らの作った物を、俺達が使うのだ。それを納入しておいてある倉庫を覗く。有り難い事に扉は壊れて開け放たれていた。
「おお、あるある」
中に入ろうとして足を止め、振り向いた。
「出てこいよ。分かってるぜ」
お読みいただきありがとうございます!
キーナの魔法共々張り切って書いているこの頃。
楽しめて頂ければ幸いでござりまする。
イメージはハリウッド映画かな?などと不遜にも思いながら書いてます。
え、ありそうじゃん?こういう感じの映画…。
何よりもまずは最後まで書き切ることでござんすね。
この作品のネックは「子供を作らないと決意している主人公」です。
お忘れ無く。
そして気付いた! 6月12日は母親の誕生日だ!
もう10年以上前に亡くなってますが、忘れないものですね。
この日は自分にとっての母の日、母に感謝する日です。
好きだった団子でも買ってこようかな…。