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燃えさしの存在価値 2  作者: やきとりだいすき
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中編

前回までの話のあらすじ

県立三戸浜高校は並行世界の刀の国の東国軍監査局と国の御霊機と転移技術の制式採用を目指して、東国軍と敵対する西国軍と協力関係にある高校と1年間戦いあって、東国軍と西国軍の御霊機と転移技術どちらを採用するか日夜戦っていた。

しかし、三戸浜高校の3年6組の担任で東国軍の御霊機乗りである谷峨耕助少尉は8月31日の戦いの時敵の兵士で同じように担任をしている小寺少尉から実は互いの本国では停戦協定を結び、刀の国の戦いは終戦に向かいつつあることを聞き、衝撃を受ける。

谷峨と小寺は互いに軍人の任務と担任としての自覚の狭間に揺れながらも残り戦争終了まで半年を切った日々を生き抜くことになる。

それでも、彼等の思いを無視しあざ笑うかのように終戦を迎えた刀の国は統一国家政府と名を変え、日本政府の実力者と手を結び、この戦争に関わった者を粛清しようとしていた。

無事彼等は生き残ることはできるのだろうか………


                  6話


10月になり、戦争終了予定まで半年を切った。

日中はまだ暑い日はあるものの、夏の夜のような熱さはもう微塵にもない。

三戸浜高校の校長室では鳥浜と木村が会話をしていた。

「谷峨少尉が言っていた通り、敵兵からの情報は本当だったみたいだ。刀の国では東国軍と西国軍は終戦協定を結び、統一国家政府という機関になったようだ。我々のやっていた今までのこの3年間を否定されてしまうことになりかねない。本国のこの状態を私をはじめ、一部の高級将校や政府関係者はこんな八百長のようなゼロサムゲームが続くばかり、と思っていた」

鳥浜は静かにイラついた表情を見せた。全てが自分の思い通りに行くとは思わないがこの状況は些か性急なのではないか、と思っているからだ。

木村は頷いて鳥浜に合わせていたが、頭をかきながら鳥浜に言う。

「少佐、本国から命令書が来ていて本国からアイスブランドを送るとのことです。西国軍を撃破して欲しいという本国の激励の文と一緒に送付されています」

「3年間、業務報告が大半と三戸浜高校の教員になる人員の士官や物資しか運ばなかったのに今更御霊機を送るだと?激励の言葉と物資を送った主は誰だ?」

鳥浜の質問に今度は木村がため息をつく。

「元1連隊の連隊長で現在は統一国家政府軍の関東師団長の牧野中将ですよ」

「やはり、牧野さんか………どうやら因縁はついてくるようだな。牧野中将は絶賛、私を殺したいと思っている人間の筆頭だよ。出世と自分の満足の為に組織も人も物資もまるで捨て駒のように扱える男だ。統一国家政府の軍人の人選もなかなかバカではないな」

鳥浜はそう言うと右手で髪をかきあげ、自嘲しながら笑った。

牧野中将という男は反鳥浜派の中心人物で事あるごとに鳥浜を邪魔した人物だ。

対西国軍との戦闘は連戦連勝を維持し、東国軍の中でも屈指の手腕とカリスマ性を持っている人物だ。

「さらに牧野中将の秘書官として黒川先輩、黒川中佐をはじめとして調査隊が翌日こちらに転移されるらしいです。黒川先輩めちゃくちゃ好みなんですけど、昔みたいにもう僕たちは………あー、まだ友好的な関係なら江の島とかみなとみらいとか案内したかったのになぁ。残念です」

「士官学校時代のようにざっくばらんに話すこともできないだろう。俺達はこれからの進展次第で彼等に狙われる立場になる。まさか、友軍に銃を向けられるなんて思ってもなかったけどな」

鳥浜は自嘲気味に言い放った。

鳥浜と黒川は士官学校時代の同期で黒川は士官学校時代で初の女性で生徒会会長を務め、成績も総合成績が1位で卒業式の答辞も読んだくらいだ。

木村は鳥浜と黒川の3期下で鳥浜と同じ部屋の後輩だった。

「支給されるのは射撃戦専用の御霊機のアイスブランドです。けど、今更アイスブランドが導入されるのもなんかきな臭いですよね」

木村がため息をつく。

東国軍の御霊機は人型、運用を限定するのを基本としている。

ファイアブランドを近接戦用の御霊機にして、アイスブランドを射撃戦用にするようにコンセプトを限定して運用するのが東国軍の伝統でもある。

「ファイアブランドの近接戦で敵機を各個で叩くのが今できるウチのやり方だ。それを遠距離で支援をできるのは迎撃戦をする上ではありがたいこと。谷峨少尉にそう言っておけ。きな臭いのなら、それをも利用するのが俺達だろ?なぁ、木村大尉」

「了解しました」

10月の2週目の月曜日、黒川をはじめ10名が三戸浜高校に転移してきた。

「わざわざ本国からご足労、ありがとうございます。私がこの部隊の指揮官鳥浜大紀少佐であります」

鳥浜は丁寧に黒川に挨拶をした。

黒川は高級将校の秘書官と言われるべきルックスを兼ね備え、軍人にしてはもったいないくらいの美人だ。

「久しぶりね。鳥浜少佐、あっ木村大尉もついでにお久しぶり。あなた達、いや生徒達のお陰でこの劣勢をよく支えてきた。本国も日本政府もあなた達のことを良く働いていると評価しているわ」

「そうことは生徒達に伝えていただけないかな。俺達は彼等の未来や将来を奪っている。黒川中佐の口で彼等に言ってくれるとありがたい」

「黒川先輩、僕からもお願いします。彼等の頑張りを認めて下さい。一言で士気が上がる、一言で人は救われるかもしれないのです」

黒川はそんな2人の意見を反対する。

「確かに生徒達はかわいそうなのかもしれない、けど我々の国は基本徴兵制で彼等はここの国の軍に入るのに志願制だと聞く。私達は彼等に日常を奪って死ねと命令している。そんな悪魔みたいな私達に彼等を激励することなど彼等に対して失礼だし、私個人は彼等に愛着も思い入れもない。無駄な言葉を吐く体力が勿体ないわ。優しいのは鳥浜少佐や木村大尉で十分、十分よ」

黒川は冷たく言い放った。

士官学校以来の印象の変わりように2人は驚きを隠せなかった。

取り巻きの部下達も頷くように足並みを揃えて黒川の後についていく。

鳥浜はそんな黒川の後ろ姿を見るだけしかできなかった。

3年6組の教室では生徒達が黒川達を見た話題でつきなかった。

「あの美人の人、谷峨知っているのかよ?」

真がさっそく、切り出す。

「知らないよ、支給されたアイスブランドで精一杯だ。次の御霊機の授業でこれに乗せられる乗り手を育てないといけないし」

「お前、本当に御霊機しか興味ないのな。アイスブランドってなんだよ?」

「御霊機乗りが専門だから御霊機に興味なくしてしまったら担当教科として終わりじゃないか、それにアイスブランドは俺からしても曰く付きなんだよ」

真の質問に谷峨は不快な感情を交えて答えを返した。

今更アイスブランドを送ってきて何の意味がある?あの機体があれば作戦の幅も広がるのは事実だ。

「曰く付きってなんだよ?」

真が質問する。しかし、谷峨は首を横に振って拒否する。

「忘れてくれ。けど、この機体とファイアブランドのコンビネーション戦闘ができるっていうのは御霊機戦においてはかなり強い」

コンビネーション戦闘を行えるようにするには連携が必要になる。

校長室で谷峨は鳥浜と黒川に報告をしていた。

「アイスブランドの乗り手候補は八原泉にしたい………谷峨少尉、あなたの意見は私としては却下するわ」

黒川は話にならない、と言わんばかりに書類を突き返した。

苦虫を噛むような表情の谷峨。鳥浜はその書類を拾いあげ、無言で見続けた。

「私の見た限りでは美咲少尉を指名する。彼女は通信科だけど新兵教育隊でも射撃訓練では優秀な成績を出していて通信オペレーター側の視点での御霊機乗りというのも面白いのかもしれない。谷峨少尉、君は一般部隊に在籍していた時に事故とはいえ、当時のアイスブランドの試験機を破壊したそうね?」

「友軍機と同じ姿形でもこちらを狙い襲うようなら私は敵と認識し自己防衛をしたまでのこと。私の履歴も調べたのですね」

「秘書官として当然よ。あなたみたいな自分の存在意義だけを信じて仲間や周りに迷惑をかける人間はどの時代もどの組織も足を引っ張る人間よ、私があなたに対して人事権があれば即除隊させたい」

黒川は爬虫類のような目つきで谷峨を睨む。しかも、ここまで言うかと谷峨は思う。

「黒川中佐、美咲少尉は数少ないこの隊の通信オペレーターです。彼女を御霊機乗りにするのは私も反対します」

鳥浜も谷峨の意見を助太刀するかのように加勢した。

「鳥浜少佐、あなたも私の意見に口答えする気なの?階級の上の者の意見は絶対?って、言うのを忘れているかしら?通信オペレーターなら荻野遥にやらせればいい、データを見させてもらったけど彼女も通信オペレーターとして適性が高いし、彼女のログ打ちは正直、美咲少尉より腕が上だと思っている」

黒川はしっかりと生徒の履歴をちゃんと見ていたようだ。

「しっかりとアイスブランドの乗り手を育てること、いいわね?命令を聞かねば牧野中将に報告させていただく。それでは失礼」

黒川と取り巻きの部下は校長室を出て行った。

力なく答える鳥浜。完全に出鼻をくじかれた感が抜けない。

「木村大尉にアイスブランドを調べてもらっている。しばらくはメインを美咲少尉、サブは君が言った通り八原泉に乗せればいい。何故、彼女が美咲少尉を薦めるのかはわからないが俺の方も調べておく。いいかな?」

「………了解しました」

そう言うと、谷峨はごみ箱をけり倒した。

完全な八つ当たりで見苦しいが彼自身かなりプライドが傷ついただろう。

美咲は黒川と2人で食堂にいた。

「ここの世界の飲食物だけは凄く美味しいわね。こんな味のレーションや嗜好品ならばこちらに帰っても十分喜ぶわ」

「中佐、お久しぶりです。わざわざ、本国からご足労ありがとうございます」

美咲は黒川にコンビニ弁当とルイボスティーを献上する。

彼等の世界にはコンビニがないので、コンビニの品やサービスには驚くことだろう。

美咲も事実、この世界でコンビニを初めて利用した時は驚いたほどだ。

「今までのレポートありがとう。あなたは私達の側なのにうまく鳥浜達を騙していった。妹の敵を討つ為に軍に入ったのでしょ?目の前にあなたの妹を殺した仇がいる………私達の戻る手土産にその憎き仇を殺していくのも悪くないわよ。あなたは妹に生かされていたのだから彼女の無念を果たすのは当然よ」

「………っ!!私にはあの人が仇だとしても、はい、そうですか。と言える程私は強くはない。私は妹の香帆子と違って御霊機乗りの適性もないし軍の成績も良くないわ。同僚の命を奪えなんて、私にはできない」

美咲は涙を溜め、黒川に啖呵を切る。黒川はそんな美咲をおくびにもせず、さらに自分の言葉を続けた。

「殺す、しか選択肢はないわよ。今までの友は明日からの敵にもなるし妹の無念を晴らすのがあなたの仕事よ。監査局はいずれ敵認定されて牧野中将が監査局及びこの三戸浜高校の生徒に対する討伐軍を派遣する。私は鳥浜や木村くんや明石少尉やあなたを死なせたくない。ただ、谷峨は別よ。彼だけは生かしておけない」

黒川が告げた事実。

谷峨は美咲の妹の香帆子を殺した人間なのだ。もちろん、彼は香帆子を殺したことを知らない。

アイスブランドは命令として、秘密を知りすぎた谷峨達の部隊を始末することだった。始末する側と始末される側の結果として逆転しただけ。

谷峨からしたら火の粉を振り払うように敵を始末しただけだ。

「美帆子、あなたには時間がないわ。この部隊に愛着があるのはわかる。けど、西国軍と戦わなくなった以上、この部隊の役目は終わったの。無駄な命を散らす理由なんてない。西国軍と戦わなくなった代わりに今の仲間を殺すこと、あなたの生徒を殺すこと、軍事的脅威よりはるかに簡単だからよく考えなさい」

クールに言い放ったがこれが最後通告だ。

美咲は机を見つめるだけしかできなかった。

美咲自身、追加人員としてこの監査局に派遣された。以前の部隊は1連隊の本部管理中隊の通信オペレーターとして牧野がいる連隊にいたからだ。

当時の本部管理中隊の中隊長として黒川がいた。

鳥浜と牧野がどんな因縁があるかはわからないが、この東国軍の裏の事情、いや、刀の国の一般国民には知られていない事情がある。

八百長の戦争に気づく者が多くなってきた。軍関係者の上層部や権力者や財閥の者しか当初はわかっていなかったのだが、この3年の間に八百長がリークされ、民衆や一部軍人の勢力が徒党を組んでクーデターやテロが起こったのである。

鳥浜を慕っていた現役軍人や元軍人達が鳥浜の後継者を謳い各地で反旗を翻していた苦い事実があったため、次々と自称他称含め鳥浜の後継者と呼ばれる人物を次々と倒していった。

西国軍の方は聞いた話によると、刀の国が列強諸国に支配されるかもしれないという根も葉もない噂に民衆が東国との平定に政府を動かしたのだ。

それは監査局の人間にはわからぬ事実。

その日、美咲は終始気分が落ち込んだまま過ごしていてさすがにクラスの生徒に心配されるくらいだった。

学校帰り、荻野と中田と真と八原で道を歩いて美咲の話になっていた。

「美咲のあんな顔初めて見たよ、いつもあの人ってクールというか割り切ってる感じじゃん」

荻野は美咲のクラスの生徒だから半年の付き合いとはいえ、なんとなく表情の変化を読んでいた。

「美咲先生は谷峨先生の他に野田が死んだ時に悲しんでくれたんだよね………そんなこと言うなって美咲先生言ってたけど、あの人と谷峨先生だけは野田のお墓に行って花や線香を上げたりしてたんだ」

「あんなタイプに見えないけどな、あの先生も。谷峨と同じで軍属だろ?死んでも悲しんでも前を向けとか割り切れってタイプなのにむしろ俺達よりそういうのをちゃんとしてるじゃん」

中田も八原の発言に驚いていた。真はそんな八原達を無視し、呟いた。

「もう誰も殺させねぇ、狂わなきゃ敵も殺すこともできないし味方を守ることもできない………」

「真、お前最近おかしくないか?」

「最近怖いし」

「野田のことはもういい、もういいの。別にあなたが悪い訳じゃない」

「もういいとかおかしくないかと怖いとかそんなもんどうだっていいんだよ!お前達はあのコクピット越しの景色を見てないから言えるんだ!お互いの顔が見えずにどんな表情をしてるかわからずに互いに見合ったら殺し合うんだ、人殺しの最前線にいたら誰も彼も俺みたいに狂ってしまうんだ」

そう言うと、真は1人走り出してしまった。

「アイツ、どうしたっていうんだよ?」

中田が不思議そうな表情をする。

「真もアイツなりに考えて感じているんだよ、野田も白石が死んだ時は1人で彼しか行かない場所で泣いていたし、皆は真はおっかないと言うけど意外と強がりしかしなくて弱いとこは見せたくないただのこじらせ君だからね………どうせ、すぐ時間経てばケロっとするよ。谷峨が来てから真も変わったんだよ、アイツなりに自分のできることを考えてやろうとしているから。御霊機に乗って最初は今でも大変だけど、やっと役立つことができるって言ってたもん。戦争での兵器だけどさ、初めて自分の夢中になれるものや才能を発揮できるものが見つかったんじゃない。私としてはもっと別な才能だったらいいのにって思ったけど、こんな状況じゃ仕方ないよね。私達が思うより私達も狂っているんだから」

荻野の言葉に中田も八原もただ黙ることしかできなかった。


10月の3週目の月曜日、秋の雨は土日が久々の真夏のような暑さだったのでその暑さを奪うのに十分な冷たい水と空気をもたらした。

職員室もその冷たい空気が入り込んでどこか肌寒い感覚を覚える。

「美咲少尉、土日の休みを潰してまですまない」

「谷峨少尉、アンタも休み潰れたでしょ?私の御霊機乗りの指導でさ。同棲している彼女に申し訳ないからこれ彼女と一緒に食べて」

美咲は地元の有名洋菓子店の詰め合わせセットを谷峨に渡す。

「最近、彼女とすれ違っていて………少しは罪滅ぼしになってくれるなら嬉しいよ。ありがとう美咲少尉」

「プライベートくらいは問題なく過ごしたいし、あなたも彼女には色々救われているんでしょ。日常生活は彼女がいなかったら成り立たないんだから。やっぱり、私は御霊機乗りとしてどう?」

「いや、まだ始めたばかりだろ。姿勢と制御は真達生徒よりも飲み込みは早いし基本はできているけど、それでも………訓練を続けても美咲少尉がとても御霊機乗りとしての適性があるとは思えない。酷な言い方だが黒川中佐にそう進言してしまいたい」

谷峨の言葉で辺りの気温が1℃下がるような感覚だった。

美咲は谷峨の言葉を無言で頷くのみだ。

あなたは知らないからそう客観的に御霊機乗りの立場として言える。

「けど、私乗る事情ができたの。私は前線に出てなくて生徒達が死んでいくのはさすがに耐えられない。こんな個人的事情で適性に合っていないものをやるのは普通は軍法会議モノだけどね」

美咲は自虐しながらも柔らかく力なく微笑む。

「個人で背負い込むのは良くない。自分は見当違いをしていた。美咲少尉の決意と覚悟を度外視していすまなかった。時として、根性論なんて精神論なんて幼稚で忌み嫌うのが大半だが、俺はそんな愚直な覚悟や熱意や責任感で世界が変わるときを何度か見たことがある。美咲少尉が御霊機乗りができる択が増えるのならもっと生徒達を守れるかもしれない」

「ありがとう、谷峨少尉」

美咲の覚悟と決意と静かな闘志に谷峨はふっと緩む表情になる。

この日の御霊機乗りの授業は八原を加えてやってみた。

もちろん、アイスブランドに乗せる為に色々レクチャーを行う。

「八原、この御霊機は射撃戦用の御霊機だ。狙撃をしたら基本移動をしろ」

「わかってる、全員倒すまで撃っていくらでも移動したり隠れたりしてやるわよ。野田の敵は私が全部倒す」

クールでも言葉の語尾が上がっているからテンションが高い八原。

的当の訓練は美咲よりもいい成績で、ヘッドショット率が高かった。

雨音が響く中でのモニター越しから伝わる八原の適性の高さに谷峨は悪寒を感じる程だ。

甲乙つけがたいってこういうことか………

帰りのホームルームを終わらせて、黒板を掃除している時に八原が声をかけてきた。

「谷峨先生」

「どうした?八原、さっきの授業の動き良かったぞ。真や遠藤と違って理解力が高いし、射撃戦は戦術理解力や読解力というか指定されたものに対する理解ってのが問われるからな。初めたばかりなのに良くやっているよ」

「野田よりも?野田より、私上手いかな?」

いきなり承認欲求丸出しで迫る八原。

谷峨はそんな八原に引きつつ、言葉を選ぶようにチョイスする。

「お前の適性の高さを見抜けなかったのは俺のミスだし、野田よりも君のほうがセンスがある。野田は性格が優しいだろ?性格も御霊機乗りには必要な要素なんだ。戦場では優しさなんていらない。大丈夫だ、訓練をいつも通り続ければちゃんと強くなれるさ」

「先生がそう言うなら………いいかな。私もちゃんと野田の敵を討つし、太田和だけなんて任せてられない。アイツも馬鹿なのに変に責任感感じてるし、彼は彼の思ったことやらせたらいいタイプの人間だし先生も鈍感だからちゃんと彼を見たほうがいいよ」

八原は笑みを浮かべる。

野球部のマネージャーをやっていた時のような笑みだ。

こうやって野田や遠藤のような選手の背中を押してくれたのだ、と谷峨は思った。

しかし、真にしろ八原にしろ自分のことを鈍感と言う。

何故なのだろうか?

乗せたくはなかったという葛藤と乗せてみたら強くなるかもしれないという葛藤で悩んだ時もあったがやらせてみて正解だったのかもしれない。

真もアンドロイヤーの使い方が巧みにそして力強くなり、シミュレーターの仮想敵には残虐かつ的確な攻撃をして成長率が抜群だった。

「谷峨少尉、八原の様子はどうかな?」

鳥浜が視察してきた。

「八原が狙撃手の適性も良かったし、長く乗せて育てるなら美咲少尉より彼女の方がいいでしょう。冒険やリスクを冒すという真似はしないので積極的ではないかもしれませんが自分の役割に対する理解力はどの御霊機乗りよりあります」

応用は効かないが覚えたことや指示された戦術や自分の機体特性はしっかりと確認できるので落ち着いた動きができるというのはこの部隊でできる者は少ないので貴重である。

その旨を鳥浜に伝える谷峨。

「嬉しい悩みだな、戦争なのにそんなこと言ってはいけないが」

「ええ、俺もそう思ってましたよ。平和な時で部活の顧問とかやってればそういう言葉に素直に喜べたのに」

「そうだな………」

そのやり取りで2人は十分だった。

「アイスブランドを木村大尉の方で調べているが、今の所ブラックボックスのような類が見つからない。調査隊側のリモート式なのか内部装置なのかまだ見当はつかない。黒川のやることだから何かしら策は張ってあるはずだ。じゃなきゃ、東国軍で女性であそこまで出世はしない」

「そうですか、機械バカの木村大尉でも見つからないというのならブラックボックスを内蔵していたとしても俺達には見つからないかもしれませんね」

「くっ、これだからヒステリックでなまじ頭のいい女は怖いよ。嫌なら俺だけを狙えばいいのに」

「元彼女、元彼って木村大尉が言ってました。なので、彼女は少佐のことは狙えないと思います」

「木村の奴………口が軽いのと仲間の大事なことをバラす奴は信用されないって士官学校の時に言ったんだけどな、仕方ない。まぁ、昔はそんな関係だった。けど、違えた道がまた交わることはないんだよ。別に彼女が悪いとは言えない、それは選んだ生き方の話だから」

昔は恋人同士の関係だったらしい、鳥浜は昔を思い出すかのように遠くの景色を見つめるような目だった。

「昔の少佐もなんというか人間っぽいことしてたんですね、彼女がいたなんて今からしたら想像できないですよ」

「茶化さないでくれよ、俺だって昔から今のような人間ではない毎日の積み重ねの結果こうなってしまっただけだ。俺の生き方に恋愛も枕も必要ならやるだけの話」

そう言いながらも鳥浜は昔の楽しい思い出を久々に脳裏に浮かばせた。

恋愛の類の話は学生も社会人も一定の期待値はあるのだ。

黒川は牧野と定時連絡をしていた。

3年の間にリアルタイムで並行世界間の通話ができるようになったのはつい1年前のことだ。

「黒川中佐、報告ご苦労。鳥浜少佐、君が士官学校時代に付き合っていた男はこの3年の間で何か変化はあったか?昔付き合っていた馴染みだ。酒を飲み交わしたり1夜を共に過ごしたりとかはしなかったのか?」

牧野はクールに言い放つが実は下品なことを聞きたいのが駄々洩れだった。

黒川はため息をつき、しかし、あからさまにセクシーな吐息だった。

「あの人とはもう敵味方の関係ですから、抱くとしたら毒を盛るか武器を忍ばせて事に及んだほうが中将は望むでしょう。何度も助命するよう勧告はしていますが」

「君が谷峨少尉を憎むように私は鳥浜が憎い。自分の力と可能性だけを愚直に押し通し世界の呼吸や常識をぶち壊すような連中だけは断固殺さねばならぬ。美咲少尉を利用して谷峨少尉を殺す、妹が乗っていた御霊機で妹を殺した男を殺す、そんな正義の復讐劇、無知な民衆も安全な立場で胡坐をかき人の命の儚さを餌にして楽しむ人もそして我々武器を扱い国家の正義を代行する軍人もこの手のシナリオは大好きだ。刀の国は列強諸国と戦う為にこの日本政府の依頼に応え……ゆくゆくはこの国を乗っ取るつもりだ」

牧野は言葉を終えると高笑いに転じる。この高笑いで階級の高い部下達は失敗したらいけないという恐怖に駆られさらに任務に励み、下士官や兵士達は牧野についていけばこの任務は成功するという確信のもとに自らのやることに邁進する。いや、その下士官達や兵士達の後ろには逃亡防止用として逃走兵を射殺する為の部隊も用意する程の手際の良さだ。

鳥浜は言葉の節々に熱い言葉を投げ、時には自ら先頭に立ち、仲間を鼓舞する熱のカリスマ性だがこの牧野は東国軍きっての戦上手で徹底した自分の意志で信念で部下に恐怖と煽りを含めて強制的に遮二無二にやらせて最大の結果を求める氷のカリスマ性だ。

黒川はそんな牧野の怖さを1連隊在籍時に嫌なほど見せつけられた。

1連隊の任務は首都防衛で首都に蔓延る有名無名のテロリストや西国軍と繋がるテロリストや西国軍のスパイ等を相手にしていて、軍の上層部の評価としては街や自然の景観を徹底的に破壊するが確実に敵対勢力に壊滅的損害を被らせていた。

さらにテロリストの首謀者やスパイや軍内部の裏切り者に対しては残忍かつ凄惨な仕打ちで処分してきた。

黒川はそれらのシーンをわざわざ毎回見せつけれらていた。

スパイには視覚聴覚を失わせた上で高いところから転落死させたり、金で癒着した者には食事に金塊や宝石を与え、餓死させたり、テロリスト首謀者は家族や友人共々見つけだし、殺害した。それにはペットも含まれるくらいだ。

特に彼が楽しんで処理していたのは戦争を裏から操る黒幕達の決定的な罪の証拠を見つけ処分した時はいつも氷のような冷たさに蛇の目をイメージさせる彼の目がキラキラしていたという。

その時の黒幕のセリフが彼に届かないのは哀れだった。

「俺は総統陛下の一門なのに、こんな罪を受けるのはあり得ない!俺はまだ18で、ゆくゆくは総統陛下の一門として後継者にもなるかもしれない男だぞ、豊島の家の名において貴様を断罪する。お前達軍人も国民も偉大なる総統陛下の臣民で道具だ!お前達は俺達の為に戦争をしていればいいんだ」

彼は東国を治める総統の一族で総統がなくなり後継者がなくなった時はご一門として豊島家、板橋家、練馬家から次の総統を決める家柄の者だった。

しかし、彼、豊島千早は豊島家の当主にも継いでいないし現当主の長男坊だが、次男が優秀なので後継ぎからは事実、離れているのだ。

「そうだとしても、総統陛下のご一門の豊島家の当主も継いでいない青二才が西国軍に通じて機密情報を流し、戦争のイカサマを現場の軍人達に話すのは言語道断と言わざるを得ません。2ヶ月前の戦争で私の部下が何人なくなったのかご存じでしょうか?」

「知るか、どうせ中隊派遣の小隊規模の戦だろ?戦死者は20名くらいだろ?ガス室送りで死ぬ犬猫と変わらない数だろ、それに軍人だから死ぬのは承知だろう。それが嫌なら除隊すればいいのだ」

「そうか……別に部下が死ぬのは仕方ないし、私も割り切っているが国民達が慕っている総統陛下のご一門に貴方のようなガンは取り除いたほうがいい。総統陛下のご一門といえど、総統陛下の臣民としての立場は変わらないだろう。総統陛下から許可は頂いている。この件は牧野少将の裁量に任せる、と」

若き豊島家のボンボンは絶望にうちひしがれ、この世の終わりという表情をしていた。

「あなたは特別な人間だ、よって普通の人間が適用される司法や世の中の法律は適用されない。総統陛下の命によりこの牧野憲実が仕置きをする」

豊島千早はこの牧野の私刑により、命を失った。

外に出た途端、銃を持たせた名もなき貧民に射殺してもらい金貨を渡した。

しかし、殺害したヒットマンもしばらくした後に牧野の部下が射殺したのだ。

「この金貨はどうしましょうか?」

部下が問う。黒川は隣でその様子を見ていた。

「この金貨は回収し、この男の手に小切手でも渡しておけばいいだろう。死人は呪いや病気以外持っていくものがない。小切手を渡しておけば彼の名誉に応えた形になり、この金貨は東国軍で使えばいい、むしろ、この件に関わった者達の報酬で使えばよほど有意義な金の使い方だろう。この任務に関わった者は今日含め5日間、有給とする。機密漏洩防止は厳しくな」

そう言うと、何もなかったかのように牧野は立ち去った。

黒川も秘書官にされ、会う度に暇な時間があれば彼のむき出しの性欲のはけ口にされてきた。

しかも、嫉妬深く、Sなところもあるので、出世という報酬がなければできなかっただろう。

「黒川中佐、君もたまには体を張って動いてくれないかな?五香からオートクレールを送ってもらうよう手配をした。男相手に媚を売ったり、ベッドの上だけの仕事ばかりも飽きるだろう?元御霊機乗りだろうし、できなくはないとは思うがね」

牧野は狡猾な声でかつサディスティックに言った。

「君が断れば秘書官の任を解く。君がこの任務を失敗すればもちろん秘書官の任を解く。最近、イキのいい候補もいてね。若くて純粋で伸びしろがあってなかなかいい人材なんだ。君に憧れ追い越すように切磋琢磨しているよ。君に対するリスペクトも彼女からは感じるが同時にこれからは私の時代だ、と意気揚々だ」

「了解しました。この黒川、オートクレールを受領し任務を遂行させます」

「鳥浜のいる三戸浜高校の生徒達や鳥浜達と実戦に近い模擬戦闘を行いなさい。訓練の事故を装って谷峨少尉を殺してしまってもいいし、鳥浜もついでに始末したっていいんだよ」

「はい。この任務、必ず遂行してまいります」

「良い結果報告を期待している」

そう言うと、牧野は通話を切った。

黒川は狼狽えた。

実戦形式の模擬戦闘、イコールで言うならば殺して来いということ命令。

あの牧野という男は忘れた頃に絶妙なタイミングで嫌がらせをしてくる。

兵器及び物品や兵站の拠点である五香から御霊機を送るとは。

オートクレールは東国軍の指揮官用の御霊機でファイアブランドよりも旧式だが鈍重な見かけに反してファイアブランドよりもパワーもスピードもディフェンスも優れている。

スペック上としてはファイアブランドやアイスブランドを屠ることは十分可能だ。

しかし、御霊機戦で厄介なのは乗り手の練度とそれに呼応して東国軍の御霊機は各人の好みごとの細かい癖を自動でラーニングして自らシステムを改良してしまう点がある。

最新機やスペック上性能が上だからって必ず有利で安全でないのが御霊機戦の怖いところでこの刀の国のある世界では世界共通で呼び方が違うが御霊機を採用しているのだ。

「後で中将から五香からオートクレールを転移されるそうよ。データがわかり次第私に見せて欲しい」

黒川は部下に命じて、部屋を出ていった。

何もかにも、私の軍人人生を狂わしたのはアイスブランドの試作機を破壊し、乗り手を殺した谷峨が憎い。

当時、黒川は御霊機乗りとして新型の御霊機の性能実験を行い各地の戦場に演習を行う実験部隊に所属していてその時のアイスブランドの実験小隊の小隊長だった。

敵に性能テストをして、データを得るのも1つの手段でもあるが東国軍では敵軍に秘密の漏洩を防ぐ意味で正体不明のアンノウンとして同じ味方の御霊機を狙って実験データを得る方法を使っていたのだ。

内部粛清に近いが、気まぐれで上は性能試験という名での味方の粛清を行っていた。

谷峨の当時所属していた2連隊の御霊機中隊の谷峨がいた4小隊の小隊長は東国軍の方針に反対を示しており、彼も鳥浜派の一員だった。

よく、連隊の方針に小隊長ながら文句を言っていて、八百長やイカサマの戦争に気づいていた者がいた。

その者を処理する為にアイスブランドの性能試験という名で谷峨のいた小隊を襲ったのだ。

谷峨はその時にこの東国軍がイカサマの戦争をしているということに気づいてしまった。小隊唯一の生き残りとしてアイスブランドを倒すことには成功したがその件で彼は一時的に御霊機乗りの資格をはく奪され、鳥浜に引き抜かれるまでは僻地の島の基地の警備隊員をやっていたのでモチベーションが下がりまくっていた。

黒川も始末しきれず、試作機を破壊された責任を取る為に1連隊の業務隊に異動させられたのだ。

黒川も閑職でモチベーションが下がり、出世コースに外れたと感じ自暴自棄に陥った時に拾ってくれたのが当時1連隊の連隊長だった牧野が拾う感じで牧野の副官として用いられたのだ。

「黒川中佐、五香の兵器工廠からオートクレールのデータが届きました。けど、これは………」

黒川の部下が狼狽えるように言う。黒川はタブレットを横取りし、データを確認した。

「何、これ?式典用のオートクレールでしょうが!兵装もオプションも私好みじゃないしむしろ殺されて下さいって言わんばかりのデータだわ、さっさと五香の方に連絡してもう一度オートクレールを送り直せと言いなさい!五香がダメなら八街太郎でも六実の補給処をあたりなさい、早く!」

部下は弾かれたように部屋を出て行った。式典用のオートクレールはカラーリングも派手な金色に塗装されていて、戦闘用のオプションはシステムはオミットされており武装はオートクレール専用のバスターソードと盾のスヴェルしかない有様だった。

「あの人、私が接近戦が苦手なのを知って……クソっ私もヤキが回ったわね」

黒崎は爪を噛み、出血していても気にすることなく窓の景色を睨んだ。

トンビが何事もなく旋回し、鳴き声を空に響かせていた。

11月の初め、谷峨は御霊機乗りの生徒達に校庭で話していた。

「今日は模擬戦闘を行う。俺もファイアブランドに乗ってお前達の実力を測らせてもらう。チームは俺が1小隊、美咲少尉が2小隊での対抗戦だ。チーム分けは1小隊が俺と真と遠藤、2小隊は美咲少尉と紫藤と佐藤だ。勝利条件は互いの制圧陣地を取られるか、交戦御霊機を全機交戦不能のいずれかにする」

「相手の陣地を取るか、敵を全機潰せばいいんだろ?簡単じゃねぇか。模擬戦とはいえ、2小隊の奴等全員叩いて潰して陣地を制圧して完全完封の完全勝利を目指すぜ、俺は」

真が意気揚々と闘争心を漲らせて宣言した。

ここ最近は谷峨とタイマンで模擬戦闘をやっていても谷峨を肉薄する実力になってきている。

たった1回の実戦と訓練で真機も機体性能レベルも上がってきて、御霊機自身も厄介な性能になっている。

「はっ、強くなっているのはお前だけじゃねぇ、俺達も強くなっているんだからお前の宣言の逆をさせてもらう!美咲先生の乙女狙撃なめんじゃねぇぞ」

「美咲先生の狙撃が全部決まれば俺達の勝ちは確定だし、今日の模擬戦は俺達が絶対勝つ」

2小隊の紫藤も真に負けじと啖呵とメンチを切った。佐藤も調子に合わせて言葉を追加する。

「では、互いに位置につけ。1小隊は漁港が本陣で2小隊は学校となりの森の廃神社だ。互いに陣地についたら模擬戦スタートだ」

鳥浜のクールな声が響く。

スピーカー越しでもはっきりと伝わり違和感がない。

各小隊は配置につき、模擬戦は開始された。

開始早々、美咲のアイスブランドが狙撃を開始した。

遠藤機が狙われて、1発でダウンして戦場を後にした。遠藤機の模擬戦用のライオットを構えたのにそれをぶち抜いた形だ。

「す、すまない………谷峨、真悪い。これ、戦闘続行不可能だ」

遠藤機は膝をつき、遠藤はさっさと降りて白旗を振った。

「さすが、美咲先生!乙女狙撃決まったし、俺達の担任なめんじゃねぇぞ」

すかさず紫藤が通信を入れた。

谷峨は美咲機の狙撃と狙撃の腕に驚いていた。

「真、美咲機と相手するな!オペレーター、鳥浜少佐達にアイスブランドの持っている武器と弾薬を調べさせろ。あからさまに弾薬がおかしい………」

谷峨が1発の狙撃で感じたあからさまな違和感、それは美咲機が実弾を使っている疑いがあること。

遠藤機のライオットと美咲がコクピットを狙っていなかったから遠藤はたまたま助かった形になった。

あからさまな実弾射撃ならまず1小隊が勝てる見込みがなくなる。

「真機、俺だ。谷峨だ。暗号通信のヒミコを使うぞ」

「くっ、何で暗号通信を使うんだよ?模擬戦だからデータは取るんじゃないのか、しかも通信記録は本部で全部筒抜けになっているだろう?意味あんのかよ?」

真の気持ちもわかるし、疑問点もわかる、だが谷峨は長年の勘からしてこの違和感を危ないと感じた。

「黙って聞け。美咲機はたぶん実弾を装填している。ってことは、場合によっては俺達を殺す気があるってことだ」

谷峨の声に真は動揺した。まさか、美咲がこちらを殺す気で攻撃してくる可能性がある。

「相手をするな、って言っても無理だろうが!美咲機を見なきゃ俺達が殺されるぞ」

真も怒号混じりの声で返した。

「美咲少尉がどういう狙いかはわからない、俺達を素直に狙うならいいが1番怖いのは2小隊の僚機を犠牲にしてまで俺達を狙うこと。事実、俺達の戦場では味方の傷病兵を狙う敵兵を傷病兵ごと狙撃する2枚抜きという方法があるくらいだ。それに敵の医官や衛生兵を狙う目的もある。自軍の衛生兵や医官は重要な人材だからな、御霊機でも同じことはできるってことさ」

「ふざけんなよ、ストラックアウトじゃねぇか!させる訳にはいかねぇ」

真機はラウンドテーブルという丸型の盾を左手に装備して美咲機の狙撃に備えようとした。

ライオットと違い、防御範囲や防御力は劣るが軽量さと取り回しの良さでは勝っていて、接近戦を好む御霊機乗りの防御兵装として需要がある。

「オラオラァ、太田和、よそ見してんなコラ」

佐藤機が機銃のキャバリアーから弾丸を発射する。

真機はラウンドテーブルで防御するが何発かは装甲をぶち抜いて軽く被弾した。

「くっ、嘘だろ?ライオットより防御力ないのはわかるけどあからさまに弾の威力も速さもおかしい!」

真も谷峨の言っていた違和感を理解した。

紫藤機のマインゴーシュの攻撃を谷峨機は模擬戦用のマインゴーシュで受け止める。

「紫藤機のマインゴーシュもあからさまな実戦用だな、俺が使ってる武器だから受け止める重さと感触でわかる。どうやら、2小隊は意図的ではないにしろ結果的に俺達を殺す可能性があるな。こんな模擬戦は中止だ!本部、こちら谷峨だ。この模擬戦はあからさまにフェアじゃない、即刻中止だ!武器を準備した責任者は黒川中佐の調査隊だろ?調査隊も返事してくれ」

谷峨が中止を求めたが、荻野が返信した。

「本部への通信が妨害されてるよ、これじゃログも打てないし、通信履歴も探知もできないよ」

「何だとっ!?これじゃ、いずれこちらがやられるのを待つばかりだ。黒川中佐も繋がらないのか?」

ダメもとで言うが、荻野からは無理だと言われた。

「やはりか………これは仕組まれたんだな。黒川中佐をはじめとした調査隊は確実に俺達に敵意を持っている。荻野は引き続きいつも通りオペレーターを続けていろ。八原は美咲少尉の隊の方のオペレーターだな、なんとか八原と繋がって情報が取れるなら頼む」

「わかった」

短い返事ながらも頼もしく感じる荻野。彼女も真と同じ成長した者の1人だ。

「ねぇ、八原聞こえる?」

「こちら八原、今は状況中よ?今は互いに敵味方に別れている。無用な通信はやめて」

荻野が通信を送るが八原は拒否する。

八原は八原で黒川の調査隊のメンバーに銃を突きつけられていた。

「余計なことを言うなよ、この作戦は谷峨少尉を殺す為の模擬戦という名の実戦だからな」

八原のこめかみに銃を近づける調査隊のメンバー。

「荻野さん、セカンド牽制釘付け、ホームベースブロック、ファーストランナーを刺すつもりだわ」

八原は音声入力で荻野の方に通信を送り、文字も表示した。

荻野は何これ?と言わんばかりに口が半開きになるがすかさず暗号通信で谷峨機に送った。

「八原からの情報か?どういう意味かわからない。八原も荻野も軍事用語の通信用語はまだ完全にマスターしてないからな」

谷峨はため息をつく。

「谷峨、この八原のメッセージは野球用語で暗号にしているんだよ。セカンドベースってのはたぶん2小隊は何かしらの脅しや制限がかかっている、ファーストランナーを刺すってのはファーストベースにいるランナー、1小隊のメンバーに対して殺す気があるってことでホームベースブロックはホーム、本部は通信とかはブロックしているってことだろうよ、谷峨お前どんだけ鈍感なんだよ?野球はこの国の国民的スポーツなの、わかるか?」

遠藤はドヤ顔で答える。さすが、同じ部活だろうか八原の言っていることがわかっていた。

谷峨はまた鈍感と言われて、心外する。

「人のこと鈍感鈍感って、俺はお前達みたいな神経も脳もしてないんだ。ったく、クソっ」

谷峨はキレならがらも美咲機の狙撃を躱していた。

御霊機の動かし方に関しては有り余って敏感な動きをする。

本部では黒川と調査隊の幹部メンバーと鳥浜と木村と大川が対峙していた。

「模擬戦なのに実弾を積んでいるってどういうことですか?あなた達軍人は殺し合いをする組織かもしれないが仲間を手厚く思い合い協力する組織でしょう?何で美咲先生や2小隊の生徒に実戦用の武器を持たせているんですか!あのね、谷峨先生を殺したいのならあなた本人がやればいいんだ」

早速、大川が威嚇するカマキリのように口角泡を飛ばして叫ぶ。

黒川はそんな大川の講義をうざそうに聞いていた。

「軍事演習に素人は黙っていてもらえませんか?あなたも以前は自己保身に溺れ教師の仕事も子供を守るということを怠っていた、と美咲少尉、いや美咲先生から聞いております。そんなあなたがこのことに口を挟むなんて論外、不愉快ですわ」

黒川はそう言うと見下した視線で黒川を見た。

お前のような人間に話す舌など持ち合わせてはいない、とも付け加えておきたがったがやめておく。

「谷峨先生だけを狙えばいいだろう、あなたと谷峨先生の間に何があったかはわからないがあなたのやっていることは許されることではありません。味方同士の同士討ちなんてもっての他、美咲先生もそんなことを望んではいない」

大川は叫んだ。半年前では見なかった行動にそばにいた明石達も驚く。

「大川先生も谷峨少尉の影響を受けてしまった哀れな感染者ね。谷峨ウイルスはタチが悪い。ずっと我々側のイエスマンで自己保身しておけば安定した定年生活、定年に伴う退職金、そしてこの戦争が終われば功労者として政府はあなたを保護するハズだったのに……残念だわ。医学で治療できない病原菌の感染者は隔離か処分されるしかないわ」

「谷峨先生は君が思っているような人間ではない。確かに彼は普通の人間とは違う生き方をしているだろうが彼の生徒を思う気持ちは本物だ。私よりも子供達の未来や生き方を不器用なりに寄り添っていく男だ。私は軍人としての彼は知らない、知っているのは今この場で一生懸命生徒とこの状況を前に進む彼だけだ」

「話にもならない。私にはあなたの言葉は響かない」

そう言って、黒川は部屋を出ていく。

そして、御霊機を出撃させようと壊れて修理中の体育館に向かっていった。

「黒川中佐」

鳥浜が声をかける。

「鳥浜少佐、美咲少尉を失いたくないのなら今すぐあなたが出撃して谷峨を殺しなさいよ。そうすれば

谷峨を殺した功績に免じて命だけは助けるよう牧野中将に進言する。あなたの部隊の皆の命を谷峨1人の命で賄って助かってもらえば損害は少ない」

「悪いがそれは聞くことはできない」

「あなたも谷峨のウイルスにかかったの?私はあなたのことを心配して……」

「彼のことをウイルスと言うのか?彼の闘志や行動は周りに伝染させる、それは戦士として貴重な資質だ。君の歩んだ道は否定しない、だが、私達の道を拒むのなら君といえども容赦はしない」

「くっ、あなたが私を殺すというの!?」

黒川は動揺し、ヒステリックに叫ぶ。

「オートクレールを出すわ!美咲が失敗した時の保険で私も出る」

黒川の部下は頷き、出撃準備をする。

「木村大尉、私も御霊機で出る。道を違えた以上、友に容赦はしない」

「そんな、先輩達感情に優先しすぎですよ!鳥浜少佐も黒川中佐ももう少し話し合いで解決できる術はないんですか?」

「そんなことで理解できるならこんなことは起こらない。それにかつて同期を我が手で葬ることができるのならそれもそれでいいだろう」

「木村大尉、あなたもいい加減理解、理解できないなら割り切りなさい。もう、彼と私は道を違えたのよ。私は組織に生き方を委ねた、彼は彼の信念に委ねた。もう、昔みたいに仲良くやれないのよ」

2人は互いの御霊機に向かっていった。

木村は軍帽を投げつけ、苛立ちを隠さなかった。

谷峨機と真機は山の廃墟に逃げ込み、狙撃と索敵から逃げるように隠れた。

「谷峨機、真機、3時の方向から未確認の御霊機、6時の方向からまた未確認の御霊機の反応がある」

荻野の通信で谷峨は聞き、レーダーに映るマーカーを確認した。

「6時の方向のは鳥浜少佐の御霊機だが3時の方向のはわからないな………」

鳥浜の御霊機は谷峨と同じファイアブランドのはずだ。しかし、鳥浜機は指揮官用やエースクラスの乗り手専用のカスタマイズ機だが。

その時、3時の方向にいる未確認の御霊機から通信が送られた。

「美咲少尉、あなたの倒すべき敵がいるのよ。何故殺せないの?あなたの小隊は実戦用の装備なのにまだ1機しか倒せていない」

黒川の通信だった。

「私にはできません………妹の敵なのに、何であの人なのかがまだ受け入れることができない」

美咲の悲痛な言葉がクリアに響く。

谷峨をはじめ、周りの皆は美咲の発言に絶句や驚きを隠せなかった。

「美咲少尉、どういう意味だ?倒すべき敵ってもしかして………」

「谷峨少尉、あなたのやった愚行は美咲少尉の妹を討ち取ったのよ。アンタのお陰で美咲少尉は軍に入る道を選び、私はその責任で左遷させられたのよ。恥を知り、罪を償いなさい!」

「谷峨少尉、あなたが私の妹を殺した。妹はアイスブランドの乗り手だった。あなたの小隊の小隊長が軍法違反を犯してその対処の為、妹はあなた達を実戦テストの名目で処理しようとした。だけど、結果は逆だった。あなただけが生き残り、妹は死んだ。軍の任務だから軍人としてのあなたは恨んでいない、けど、1人の姉として家族として、仇が目の前にいて何もしないなんてのはできないのよ」

美咲機は谷峨機に向かってアブソリュートで狙撃する。

しかし、手元が狂ったのか着弾することはなかった。

美咲と黒川の谷峨に対する感情に、言葉に谷峨は精神的なダメージを受けていた。

「そうか………美咲少尉の妹があのアイスブランドの乗り手だったのか。死んでしまった者にそして結果的に殺した者が言っても響かないが彼女はいい乗り手だった。きっと、生き続けていればもっとアイスブランドはもっと量産化されて彼女のやってきた立ち回りが戦術として組み込まれ、色んな戦果が出てきたのかもしれない。だけど、俺は謝罪するつもりはない。俺は目の前の敵を振り払っただけだ。それが友軍機でも敵軍でもそのスタンスは変わらないし、この件を俺が謝ったら仲間の面目も立たん。俺を殺して妹の無念を晴らしたいのなら俺を殺せ!ただで死ぬつもりはないけど」

そう言うと谷峨機は美咲機に対して加速装置を使って加速した。

模擬戦用の武器だが、やるしかない。

例え、同僚としても同じ教師とても自分に降りかかる火の粉は振り払うのは当然だ。

谷峨機は美咲機に廃ボートを投げつけてブラインド代わりにする。

美咲機はアブソリュートを散弾に切り替え応戦した。

廃ボートは木端微塵になり、木片が散らばり、粉塵のように舞う。

谷峨機は模擬戦用のマインゴーシュを美咲機に突き刺す。

カツン、というショボい音しかしない。

しかし、それでも美咲機からは動きが固くなった。

谷峨の考えとしては実戦に即した訓練をするから、模擬戦用の武器といえども、防御もするし、反撃も試みる。

防御や反撃や回避等の行動を取らなければ実戦に即した訓練じゃなくなるからだ。

谷峨は自分も逆の立場だったら美咲と同じような行動を取っていただろう。だから、敢えて条件反射に近いものを利用したのだ。

「どのように武器が模擬戦用にしても、どんなことをしても唯一模擬戦用にできない部位がある」

谷峨機は美咲機に素早くサイドに回り込み、谷峨機は空手の貫手のようにマニュピレーターで攻撃をした。

美咲機はわき腹を刺されたように膝を崩し、うずくまった。

「マニュピレーター?くっ、そうなのね………やっぱり、歴戦の兵に挑むのは無謀だったのね」

「模擬戦だろうと実戦だろうと俺の得意なフィールドであなたが俺に適う訳なんてない、逆に隊の本部や通信関係のことで俺はあなたには適わない。それだけのことだ」

谷峨は冷たく言い放つ。

美咲機は右手にあるアブソリュートで谷峨機を振り払うように横薙ぎをするが谷峨機は左手で受け止める。

「あなたに恨みはない、むしろ一緒に戦ってきた仲間だ。だけど、この行為をしたということは俺も仲間も殺す行為だ」

アブソリュートを奪い、銃口をコクピットに突き刺す。

御霊機を破壊した確かな感覚と美咲はもう助からないという不快な感覚を谷峨の中に残した。

「ぐっ………ごめん、なさい。香帆子………ずっと馬鹿な姉で、頼りない姉で………谷峨少尉、無責任で悪いけど生徒のことは………」

美咲機は沈黙し、美咲美帆子は命の活動を終えた。

「美咲機を撃破した。引き続き、黒川機を破壊する」

その時、鳥浜機から通信が入る。

「ご苦労、谷峨少尉。黒川は俺がケリをつけるから真機の援護に回れ。彼等は騙されていた人間だ。美咲少尉のクラスの子だけは死なす訳にはいかない」

谷峨機は真機の支援に向かう。

「太田和、何でテメエだけ変わってるんだよ?昔のお前はむかついたら呼吸やトイレに行くかの如く他人を攻撃し、仲間の不幸もメシウマと言うくらいのカス野郎なのに何故今はこうも他人の為に谷峨の為に戦える?俺達はテメエの本性を忘れねえ」

佐藤機の攻撃は精度を増し、的確に攻撃してくる。

ラウンドシールドはほぼ壊れておりボロボロで穴の空いた段ボールのようになっていた。

「佐藤も俺も1年の夏休みの時、たまたまむしゃくしゃしていたという理由だけで原付バイクで轢かれたことを今でも許す訳はいかないんだ」

過去の因縁が思い出されて紫藤機も怒りに任せてスカッシュを撃つ。

銃弾と剣戟の激しいコンビネーションに真機はいつかは破壊される手前まできていた。

「何でだよ?2年前のこと今更言ってるんじゃねえよ、もう時効だろ!」

「盗んだバイクで他人を轢いておいてもう時効だろ?はないだろ、美咲先生を殺したのも谷峨だしな、一応クラスの者としててめえらをはい、そうですかと許す訳にもいかないんだよ」

佐藤と紫藤は2年前の因縁を再燃し、確実に真に一泡吹かせたかったのだろう。

しかし、谷峨機は漁業用のロープと網を上から投網のように投げて佐藤機と紫藤機を捕獲した。

「くそっ、何だよ?この網はよ?」

「佐藤、紫藤、お前の気持ちはわかるよ。だが、真と俺に対する罰は後にしてくれないか?それと対御霊機延焼塗料を塗った。うかつな動きをしたら網が燃え、御霊機を中から蒸し焼きにするシロモノだ。俺が容赦しないのはお前達でもわかるよな?」

蛇に睨まれた蛙のようになる佐藤と紫藤。

「それと、真。お前も佐藤と紫藤に謝り、腹割って話せ」

もう1つの投網で真機を捕縛していく。

「真機、佐藤機、紫藤機、3機ともに戦闘不能だ。谷峨機も戦闘続行不可能。模擬戦は以上をもって終了だ」

谷峨の空しい通信が乾いた響きを残していた。

「くっ………美咲では谷峨は討てないか。本部は別動隊で制圧するしかないわね」

「黒川中佐、アンタの計画ここでアウトだ」

明石の声が聞こえる。

「こちら、八原。明石先生達が本部を制圧したわ。もう、こんな八百長やらなくていいわ」

本部では銃撃戦が行われ、生徒にも死傷者が出たが黒川の部下達は制圧されて無力化していた。

「歩兵なめんじゃねぇぞ、コラ」

「筋肉小隊の実力ここにアリだな」

明石に続き、中田もドヤ顔で叫んだ。

御霊機や転移技術に隠れがちだが、どの時代の環境でも歩兵は戦争の主役だ。

「後は頼んだぞ、美咲少尉の弔い合戦だ」

中田の叫びに鳥浜は頷く。

鳥浜機は黒川機に向かう。

その速さに谷峨も真も驚いていた。

「式典用のオートクレールとはお前は俺に勝つ気があるのか?」

鳥浜機は2本の片手剣、グラディウスで黒川機を攻撃する。

黒川機はなんとか防御するのが精一杯だった。

「相変わらずの速さと威力ね、けど」

黒川機もバスターソードで面を打つように鳥浜機に反撃した。

鳥浜機は2本のグラディウスで攻撃を防ぎ、つばぜり合いになった。

「回避できないなら防げばいいだけのこと。単調な攻撃では私を倒すことはできない」

「御霊機戦で誰もあなたには敵わないのはわかる、けど、私にも意地と誇りがある」

黒川機はショルダータックルをする。鳥浜機がそれをいなして、左逆手に持ったグラディウスで刺そうとするがすんでの所で黒川機が避けた。

「どっちもでたらめに強いぞ、谷峨」

真が言う。

「百戦錬磨だからな少佐は。俺は模擬戦で1度も彼に勝ったことがない」

真は鳥浜の強さに絶句していた。

こいつの動きは自分の御霊機の腕が高校野球レベルだとすればメジャーリーガーやサッカー選手ならばリーガエスパニョーラのトップ選手のような身体能力と技術だと真は体で理解した。

「式典用、お前の得意な武器のない、いや、本来君の持ちたいと思う自分の誇りと意地を他人に握られた人間に俺を倒すことはできない」

鳥浜機は急に激しく動いたり、水面の水面に浮かぶ波紋のように緩やかになったりを繰り返し、残像が浮かぶ。その残像は黒川機にまとわりつく泡のように取り囲む。

「真、鳥浜少佐がよくやるマニューバだ。これをやられたら普通の乗り手は1発で即死だ」

真は唾を飲む。

蛇蝎のような毒虫のダンスなのか綺麗だが獰猛な氷海の妖精の戯れと表現するべきなのかわからないがこの美しく圧倒的なマニューバは正に暴力、破壊、殺戮の何物以外でもなかった。

東国軍では鳥浜マニューバやバードソングと言われたこの動きは敵味方双方に恐れられた攻撃だった。

鳥浜の天才的なセンスと並外れた動体視力と空間把握能力、そして鳥浜は元から両利きだったのだ。

両方の手足から起こる動作が左右どちらも同じ精度なので2本のグラディウスを使った攻撃も左右逆順や表や裏や上や下からどちらを始点にも違和感なく攻撃を行ったり、移動できたりするので、その器用さも鳥浜ならではの武器だった。

黒川機はボロボロにされ、黒川は体に尋常ではないダメージを負った。

「ごふっ、私は死にたくない。いつも、アンタは私の行けないところへ行ってしまう。私はあなたといたいだけだったのに………」

「人は時が経てば変わる。俺の果たす目的と生き方に君という存在はいつしか道の違うものとなってしまった。もう、君は誰にも弄ばれない。この鳥浜大紀に挑んだ気高き軍人として死ぬのだ。君は俺の中で生き続ける………さらばだ、黒川映芽」

黒川はどす黒い血を吐き、臓器もズタボロでコクピットの中で息絶えた。

金色の式典用のオートクレールは金色の折り紙がぐちゃぐちゃになったように悲しい姿を現している。

「鳥浜より各位、敵戦力は消滅した。これからの敵は我々東国軍と西国軍の合流した統一国家政府軍だ。明石少尉、黒川中佐の部下を捕縛し人道的な方法で情報を吐かせろ」

「了解した」

鳥浜の指示で明石達は黒川の部下を拘束する。

「結束バンドってウチの世界にはないからこれなかなか便利だな」

明石は銃口をつきけながら黒川の部下に踏みつけた。

「ちゃんと、情報を吐けばこれ以上やってやらなくもない。こっちは大事な美咲少尉を失ったんだ。それなりの対価は払ってもらうぜ」

黒川の部下はくぐもった声で言葉にならない声で抵抗するのみだった。

この戦闘で失ったものは多かった。

美咲の死は生徒達に心理的に大きなストレスを与え、谷峨は特に美咲のクラスの生徒達から恨み節をたくさん聞いた。

谷峨は彼等の悲しみと怒りを受け入れ、黙っていることしかできなかった。

11月の初め、関東地方では狂ったように局地的豪雨が襲い、この神奈川県某所もこの豪雨の被害に遭った。

地下の教材資料保管庫では拘束した黒川の部下が衰弱していた。

明石が拷問して痛めつけていたのだ。

美咲のクラスの生徒達を鳥浜は呼んでいた。

「君達と美咲先生がどのように信頼関係が構築されていたのかを私は知らない。そんなことをしたって彼女が生き返るなんてこともありえない。だが、君達は変わるべきだ。これからの戦いは熾烈を極めるだろう。そこでだ」

鳥浜は何丁かの小銃を渡す。

「訓練の一環として、美咲少尉の敵を殺してもらいたい。我々のすることは結局殺すか殺されるかだ。シンプルな暴力、シンプルな主張のゴールが命を奪うことなのだ。さあ、この中で彼等を殺したい者はいるか?」

生徒の中には殺気に逸る者と躊躇う者の2派に別れた。

荻野は意気揚々と小銃を受け取ろうとした。

その時、谷峨は荻野の小銃を奪い取った。

「少佐、その処理は俺がやっておきます」

「いや、君にやらせても意味がない。彼等がやらねばならぬのだ。戦う現実、これからの未来は自分達で判断しつかみ取らないといけないのだ」

「俺がやってやるよ。それでいいだろ?」

そう言ったのは尾長だった。谷峨が夏の時、殴った生徒だ。

「尾長がやってくれるのか?他にやりたい者はいるか?できれば、1人1殺が望ましいのだが」

「私もやるよ」

「俺も」

何人か手をあげた。荻野も手をあげた1人だ。

「射撃訓練に基づいてやればいい。捕虜は明石少尉がだいぶ痛めつけたから君達を襲うことはない」

そう言うと、鳥浜は様子を見物しようと腕を組み、椅子に座る。

谷峨は見ることしかできなかった。

銃の撃発音が室内に響く。黒川の部下達は見るにも惨たらしい死体となっていた。

その時の生徒達の表情は目の奥に悪魔が住み着いたような光を失う者もいれば光を帯びる者もいた。

自分達も負ければいつかはこんな姿になる。

もう、憎しみは話し合いで解決するという問題ではなくなったし、自分達が負ければこうなりかねないという経験を感じたのであろう。

結局、自分達は紙一重の世界で生きているだけだ。


                      第7話


美咲の死亡から約1か月、美咲のクラスの生徒も何人かが谷峨のクラスに編入した。荻野が谷峨のクラスに編入して、純粋な谷峨のクラスの生徒は結構少なくなってきた。

150人しかいないのに、戦争の素人集団なのは当たり前だが、なんだかんだで生き残れてきた。それでも60人は失った。

「本国からアイスブランドを2機、そして残りのファイアブランドが4機、まだ使用していない予備のファイアブランドが1機、黒川のオートクレールはダメだったか………」

「使えるパーツだけはなんとか取り除いたのですが、御霊機としては使えませんでした」

「いや、いい。黒川の御霊と彼女の配下の者の御霊だけは本国に送ることができただけ良かった。彼等はもう敵だが戦のマナーと礼儀だけは守ってくれた。それを守るっていうのは手ごわい敵と戦わなきゃならないのがこれからの悩みの種だな」

鳥浜は乾いた笑いを浮かべながら答えた。

「ちなみに壊れた御霊機は使えるパーツを残して近隣の山と海に破棄しています。データも奪われないように解析されないように血液デバイスの登録から消しています」

「その辺りの後処理は木村大尉に任せるよ。本国、いや統一国家政府は我々に対する宣戦布告を申してきた。転移空間は攻める場所に対して転移ログをたくさん打たねばならないし、美咲少尉の教えが良かったのか荻野が転移を防ぐ為のダミーログとログデバッカーをうっておいたらしい」

「彼等も成長しているってことでしょうね。平和な世界なら卒業まで過程が見られたのに………最近、教育畑もいいかな、と思ったんですが本国からは我々は敵認定されているから生き残れる保証もないでしょうね」

「技術やシステムや整備にしか興味がない君が言うなんて人って気が変わるとこんなに印象が違うのだな」

「鳥浜少佐もですよ、心なしか穏やかになられました」

「そうかな?私は昔も今も変わらない。変われているのなら今頃、敵に降伏して助命を要請しているさ。私を犠牲にしていてもね」

鳥浜が絶対に変わってはいけない、変えてはならないと思っているのが自分の信念だ。敵の牧野も気づいているのだろう、鳥浜の信念が敵そのものであり倒すべき対象で命を絶たねばならない命題だと。

「鳥浜少佐、失礼します」

谷峨と明石が校長室に入ってきた。

「谷峨少尉と明石少尉、何があった?」

「統一国家政府軍が次に攻撃する場所がわかりました。私と通じている西国軍の士官の情報からですが」

「西国軍もターゲットにしてきたか。我々と今まで戦っていた敵だな?」

谷峨の言葉に鳥浜は察し良く反応した。

明石も谷峨も頷いた。

「彼等のいる場所に攻めて我々は何をしろと言うんだ?」

「彼等を助けませんか?彼等は俺達と同じ統一国家政府軍のターゲットになったんです。もう、彼等と戦うことなんてないんですよ!」

谷峨は机を叩き、鳥浜に迫る。

明石と木村は谷峨を止めようとするが鳥浜は手を払い、静止した。

「昨日の敵は今日の友ってやつか?俺はそういう話は嫌いじゃないが部下の意見具申にはい、そうですか。と言う訳にはいかない。今まで君達の現場の力に助けられた部分もあるが現場の視野の狭い一方的な判断全てを信じてはならない………士官学校で習った言葉だ」

「そんなこと言っている場合じゃないでしょうが!今まで戦った敵だ、彼等も所属は違えど我々と同じような軍人に訓練されて無理矢理戦争をしている連中です。戦う必要がなかったら俺は彼等も救いたい、それは軍務としてではなく人間として。戦いに巻き込まれた生徒を守る教師として」

「谷峨少尉、君の話はいつも感情的で一方的で他者や組織を配慮しないね。それが君の良いところで悪いところだが、君のやりたいことをやるのならば相応のリスクを負わねばならないな。君のクラスを派遣させる。1個小隊しか出せん、完遂してみせろ」

「はい」

谷峨は頷いた。小寺からの要望には完璧に応えたとは言えないが最低限は果たしたと言えるだろう。

「谷峨少尉が指揮を執るんでしょ?君にも見てもらいたいし、他の御霊機乗りにも見て欲しい。一応、修理とデータの修正と武器に改良を加えてみた」

木村がドヤ顔で谷峨にアピールする。この男は自分の得意分野に関することだけ何故かドヤ顔になる。

「ありがとうございます。木村大尉、さすが技術バカ士官ですね助かります」

「あのさ、上官にバカ言うの侮辱罪よ?君?けど、こちらも向こうさんの依頼にはできる限りだが助けてあげたいよ」

「大尉には適いませんよ、けどこれならだいぶやりやすくなった。これを活かすのは責任重大ですね」

そう言いながら谷峨は微笑んだ。

軽口を叩き合えるならまだ精神的にも余裕がある。

谷峨は教室に行き、小寺にメールを送った。


小寺達、西国軍の協力関係になっている城内高校は県内では古い歴史を持つ高校だ。

前身はこの地域を支配していた藩校でこの地域を治めていた藩主が住む居城の遺構を使って校舎にしている。

小田原城のような天守閣はないが、塀と櫓門と藩校時代にあった講堂は改修されながらも今も残っており、城郭マニアでも隠れた人気を誇っている。

小寺達城内高校にいる者は空堀や遺構の跡を使って陣地構築をしていた。

「対御霊機用地雷と対御霊機用や車両用の指向散弾も設置したし講堂は一見何もないボロい所だから敢えてそこに転移用のサーバーを組み込んだぜ」

三嶋が小寺に報告する。

今まで敵地に攻め込むだけで、使う機会がなかったが生徒達が敷地を自由に使えるなら設置して損はないだろうということで設置作業を黙々進めていたのだ。

お陰で防衛ラインはだいぶやりやすくなっている。

「あのよ?東国軍、俺達と今まで戦っていた連中と一緒に新しい敵と戦うんだろ?」

三嶋が小寺に質問する。顔としては納得していない、という表情だ。

「ああ、割り切れよ。と言いたいが全部割り切れるというものではないだろう。けど、死にたくないなら今できることに最善と人事を尽くせよ」

「ちっ、わかってるよ………一場も殺されて、他の仲間も殺された生徒全体で600人いたのにもう500人だ。たかが、100人っていうだろうがよ殺された遺族も周りも俺達の行動にあからさまに不信感をもって接触している人間がいるんだ」

事実、三嶋の言っていることは事実だ。

谷峨達、三戸浜高校も同じようになっているが彼等の遺族は補償金による問題や謝罪が多いが、城内高校の場合は何故こうなったのか?責任の所在は誰か?ともっと事実関係に対してのことが多い。

「謝罪訪問する度に心がすり減るよ、いや、我々が悪いことしているのはわかっているが………」

小寺はため息をつきながら小寺は言った。

谷峨も小寺も同じことをしているのだ。流石に谷峨みたいに遺族を殺すということはしないが、小寺も薬物や脅しや洗脳の類はしたことがある。どっちもどっちだ。

「三嶋、どうやら転移反応が来ているな」

「ああ、この歪みは東国軍の転移パターンだな。奴が来たか」

「奴?誰だよ?」

「お前達と戦った敵の俺と同じような役割をやっている士官だよ。俺と違って彼は優秀だ」

わずかな嫉妬。小寺は表情を変えた。

「コンタクトを取る。お前達が逆上されたらこれからの進展に大きく響く」

小寺は拳銃をセットし、転移ポイントに向かった。


ファイアブランドが3機とアイスブランドが1機に携帯用の転移編纂装置と通信機器。

谷峨達、三戸浜高校の3年6組が到着した。

「城内高校の小寺少尉、聞こえるか?三戸浜高校の谷峨耕助少尉以下30名現着した」

「谷峨少尉以下30名に、この部隊を代表して支援に感謝する。本当は正式な手続きを持って歓迎したいが俺達と一緒に先客をもてなしてくれないか」

「俺達がどこまでやれるか、わからないがそのオーダー全力を以て応えよう」

谷峨の通信に小寺は手ごたえを感じ、感情を露わにする。

「夏樹、谷峨少尉の増援部隊に敵情報と自軍施設の情報を送れ」

「了解」

さっそく小寺は小寺のクラスの生徒のオペレーターに指示をした。

「谷峨、向こうから情報が送られてきた……うそ、早いしわかりやすい。しかも、秘匿もちゃんとされている」

荻野が送られたメールにびっくりしていた。

自分も結構、通信機器やオペレーターの技術は上がっていると思ったが向こうの通信技術も引けを取ってはいない。

「荻野、こちらも転移ルートとログをあちらに合わせていこう」

「オッケー、なんか向こうのログ構築ってなんかセンスないからそのままって嫌だったんだよね」

お返しとばかりに荻野もログ関連と転移関連を小寺達に送る。

「マジかよ、向こうの転移ルートとログ構築気持ち悪いくらいルート追加されているぜ」

三嶋が狼狽える。

これなら神出鬼没に縦横無尽に走り回れる。

「緊急!ポイント5-Eに敵出現。識別コードは不明。敵御霊機もアンノウン」

「とうとう来たか、統一国家政府軍!」

「ああ、俺達プロによる編成された本物の戦闘のプロだから。けど、相手なんて選べないぞ」

「敵勢力と3年1組が交戦開始」

オペレーターの生徒が叫ぶ。

小寺は乗り手用のスーツに着替えて自身の御霊機である伏見の発進コードを入力をしていく。

「1組の増援はいけないだろう、谷峨少尉達のエスコートをしつつ敵を各個で撃破していくぞ。三嶋も二葉も一緒だ。夏まで戦っていた敵だけどな、割り切れよ。そうしないと死ぬぞ」

「………ああ」

三嶋はやる気のない返事で答えた。


統一国家政府軍は元西国軍所属で小寺と同じ外人連隊所属の者が指揮官になっていた。

村中洋紀は大佐で今回の城内高校攻撃の指揮を執っていた。

「小寺の奴、アカンわ。この建物改装してるで!しかも、今風に防御構築しているしあのアホに築城や防御構築教えたのアカンかったわ」

とは言ってもそんな未来になるとは思わなかったのだからこれは単純な愚痴やボヤキの話。

「村中大佐、あなた達の灘部隊が見事に対処されているのなら我が東国軍の人型御霊機部隊が支援致します」

東国軍と西国軍の合同部隊で並行世界に転移しての初の実戦。

牧野中将側の西国軍側の牽制として鳥浜の士官学校時代の同期である三國中佐が村中の部隊に派遣されていた。

立場は東国軍側の指揮官兼牧野からの管理官として遣わされた身だ。

「三國中佐、アンタのとこの軍の者も敵の方に合流しているとの情報がある。確認も頼むで」

「了解しました。指揮官が俺達の力を信頼して頼っている。お前達、ぬかるなよ?」

村中の指示に対して三國は応え、部下達に檄を飛ばした。

三國は鳥浜や黒川と同じ士官学校の同期で木村とも先輩後輩の関係だ。

プロレスラーのような体型におびただしい歴戦の戦から生まれた傷。

御霊機乗りとしても部隊指揮官としても優秀な男で、広報畑の黒川、カリスマ性の鳥浜と違い現場の者達には慕われている。

それが三國の部隊の士気の強さは東国軍でも指折りの精鋭部隊として総統からも褒賞や栄典を与えられているのだ。

「新型御霊機の実戦にはいい戦場だ!お前達、ヒーローやヒロイン気取りのガキ共に大人としてプロとしての軍人の実力を遺憾なく発揮し、敵を殲滅させろ」

「行くぞ!手癖、態度の悪い悪ガキ退治だ」

「中佐、いつでも行けます」

部下達が獣の咆哮のように叫ぶ。やる気満々の様子に村中は驚いてしまった。

「三國中佐、アンタもなかなかやるな………死んで来い、なのに部下のやる気引き出しおった。だから、アンタの部隊はやりにくかったんやな」

村中は元敵としての感想を率直に述べた。

三國中佐の所属していた34連隊は西国軍との国境に面していた部隊で浜名湖、刀の国では西の湖と呼ばれた地域ではよく小競り合いをしていた。

村中は傭兵部隊の連隊長として西国軍の領内では命令に応じて転戦していく部隊として様々な東国軍の部隊と戦っていた経験がある。

「三國の旦那が男気を見せたで、わしら西国軍軍人も奴等に負けたらアカンで」

西国軍の軍人はあからさまに不快な態度を見せた。特に正規軍に所属している者が顕著に目立った。

それを見ていた黒川の後任として牧野の秘書官に配属された吉野大尉は冷静に見ていた。

黒川と違って、長髪の黒髪で巨乳で男ウケする体ではないが、スレンダーで背が低く陸上競技のユニフォームが似合うような健康的な女子だった。

御霊機乗りとして、アグレッサー部隊や師団司令部の広報官や女子の新兵教育隊で小隊長等を歴任した経歴を持つ。

三戸浜高校にいる木村と士官学校では同期にあたる。

「吉野秘書官、何か西国軍の方を見て何か気づいたことでもあるのか?」

三國が尋ねる。

「西国軍は正規兵と外人部隊と呼ばれる傭兵との混成軍で成り立つ組織です。しかし、正規兵と傭兵は仲が悪く、士気の低さもあれば部隊としての練度もバラついていて今までは我が軍はそこの弱みを突いて御霊機戦をはじめとする戦いには勝っていました」

吉野が思うに、西国軍はいつか東国軍の派閥で支配しなければならない、ということ。

士気の低さや規律の乱れは風邪や伝染病のように移るからだ。

「それでも、村中大佐は数少ない西国軍でもできる人だ。見かけによらず理論派だし、過去の戦で牧野中将が率いた部隊をゲリラで抵抗して一泡吹かせたこともある人だ」

「そうなのですか?それは知りませんでした」

吉野は驚きの声をあげた。

チンピラみたいな姿をしているが外人部隊で傭兵最高の階級である大佐につくくらいだ。

「ランドアーマーの東国軍の御霊機も出撃させろ!」

ランドアーマーは西国軍が開発した御霊機輸送装甲車だ。

中隊規模で1個のランドアーマーに搭載御霊機は6機から8機だ。

搭載御霊機を少なくすれば資材を多く積んだり、人員確保のスペースを追加したり通信機能を強化させることができるシステムだ。

車両の走行速度は最大で80キロだ。

「大型の転移反応、しかもログを16個も使っている」

城内高校のオペレーターが叫ぶ。ログを16個も使うなんて、燃費が悪く巨大だということが理解できた。

ランドアーマーはまるで巨大なダンゴ虫が体を伸ばしたようなフォルムをしていた。

「何なんだよ?あれ………巨大なダンゴ虫じゃねぇか」

先行していた二葉が動揺する。

まるで、湖に住んでいる未確認生物を見た観光客のような表情。

まだ、未確認生物ならいい。命を狙う可能性がないのもあるからだ。

だが、このダンゴ虫はケツのほうから卵を産むかのようにドアを展開し、御霊機を発進させた。

そこには西国軍の新型御霊機の灘の新型にあたる四足歩行型の山科が4機に東国軍のファイアブランドの新型にあたるフランベルジュとアイスブランドの新型にあたるブランシュネージュが2機。

「こちら、偵察班の二葉だ。敵御霊機が8機、俺達と同じ四足歩行型と東国軍タイプの御霊機が4機でそのうち2機はタイプが判別できない」

二葉の報告からして、彼の不安やプレッシャーの類を感じることができた小寺は二葉の状態を察するのに精一杯だ。

「二葉機、敵に見つかったら単独で応戦なんかするなよ。俺自身、今回のパターンは初めてなんだ。校長、俺の上官も学校の防御に手間も人員も割くことができないとの判断だ。焼け石に水かもしれんが俺達皆が今までのことを認識し、これからも協力することができればほんの僅かだが勝てる可能性がある」

「は?敵だった三戸浜高校の奴等を信じろっていうのかよ?一場だけじゃない、殺された奴等はあいつらにやられたんだ。今更、引けるかっての」

「同じ言葉、向こうだって言っているし感じているさ。けどな、割り切る、いや、生き残る為に何が必要かってわかるだろう?お前達だってバカじゃないのは知っているさ」

「わかったよ、アンタが言うなら仕方ねえ。アンタは口が悪くて冷たいが言っていることは間違ってないからな」

二葉はなんとか偵察に徹する。初回の戦闘の後で通信回線の秘匿や使い方等を小寺達、西国軍の教師達に徹底的に指導された。

それと灘は偵察用任務として優れた御霊機というのも訓練や実戦で彼なりに理解したのだ。

しかし、敵もバカではない。

「敵の灘を発見した。戦闘態勢には入ってない」

「旧型の灘で新型の山科の敵じゃねぇってのは見せてやるぜ」

西国軍側も東国軍側も我先と言わんばかりに好戦的になっている。

「偵察している敵を倒して本隊をおびきよせてそのまま倒すってのも悪くないな」

「ボーナスもらえるかもしれへんで、行かせてもらいますわ」

東国軍側と西国軍側は連携も取れずに自ら各々で侵攻していく。

「敵に見つかったか!しかも、よってたかってリンチするつもりかよ?」

二葉が泣き言を言う。

単独で応戦してもまず敵う訳がない。

二葉機は全速力でトラップのある場所に向かう。

敵もすかさず、二葉機を追いかけた。

二葉は敵のスピードに怯えつつ、山科のスピードが仇になるということにほくそ笑む。

距離残り70、50、20、0………

二葉機は敵をトラップの位置に誘導した。

2機の山科がトラップに引っ掛かり、駆動輪がオシャカになる。

小寺達が仕掛けたトラップは古典的なモノで下から無数のスパイクとさらに粘着性のある物質でスパイクで駆動輪をパンクさせない限りの対策で機動力を下げることも準備した。

刀の国ではキャタピラという技術がなく、タイヤがメインだったので小寺達の元のアイデアをさらに城内高校の生徒がアレンジしたのだ。

「こちら二葉だ!2機はトラップに引っ掛かったが本命は後からついていくぞ」

「ナイスだ二葉。残った奴はこれでぶっ放してやる」

三嶋機は待機していた所から現れて、背中に装填していたロケットランチャーを発射した。

「弾速重視、誘導は犠牲にしたが威力は桁違いだ」

連装式なので弾が空になるまで撃ち続ける。

何発かはログに入り、弾が転移した。

「誰だ!俺の弾に転移ログを入れさせた奴は?こんな所にログなんて入力していないだろ?」

三嶋は怒りの声で叫ぶ。

「私が入れたの。アンタ達のログ入力は完璧で合理的で無駄がないけどさ、遊び心がない」

女の声の主は荻野だった。

「誰もログを入れろなんて頼んでなんかねえ!小寺の差し金か?こんな奴等、俺達城内の者で充分だっての」

三嶋はさらに声を荒げるが、敵の残った山科とフランベルジュが三嶋機に攻撃を仕掛けた。

三嶋機の弱点として、灘の機動力を発揮しての重火器による発射離脱が持ち味なので武器を使ったあとに携行火器を装備するのに時間がかかるという弱点があるのだ。

なので睨まれた時が課題だ。

二葉機も慌てて、通信を送った。

「こちら二葉機だ。三嶋機も武器を発射したのち敵御霊機と交戦状態になっている誰か支援を頼む」

「城内の者じゃ今は手に負えなくて送れない。呉越同舟になるがな、お前達割り切れよ。転送ポイント判明したぞ、行け、俺達の戦ったことのある者ども」

小寺がそう言うと、東国軍の転移状態の時空の歪みが現れた。

「こちら、谷峨機だ。敵を確認した。ただちに交戦状態に入る」

谷峨のファイアブランドが現れ、マインゴーシュを山科の頭部めがけて投擲する。

右手のスカッシュで追撃をする。

山科は崩れ落ち、戦闘続行不可能になった。

三嶋はその動きを見て、一場を殺した奴だと認識した。

「テメエ!一場を殺した奴か、忘れたなんて言わせねえ」

三嶋機は灘用のスナイパーライフル四条を装備して、谷峨機に照準を合わせた。

憎しみ、怒り、仲間を助けられなかった無力感、焦燥感、マイナス感情ごった煮のマシマシで三嶋はモニターを睨みつけた。

「西国軍機、助けた御霊機から狙撃したよ」

荻野が叫ぶ。谷峨は舌打ちをすると同時に左に躱す。

三嶋機から放たれた四条の弾丸はフランベルジュに予期せぬ形で当たり、そのフランベルジュは活動停止した。

「三嶋機、お前は何やっている!割り切れって言ったよな、お前のしたことは援軍に対する反逆行為だぞ」

小寺は声を荒げて叫んだ。

荻野や二葉も反論して言い争いになるが谷峨は大声で怒鳴り返した。

「三嶋くんと言ったな、君のお陰で敵を1機潰したのは大きい。俺も今度の件でいまだに全部割り切れてない。それは夏までお互いにドンパチしていたからな。俺を殺したいなら俺を殺せ、俺を狙え、君がそれで済むのなら君の信念に従い、後悔しないなら存分に俺を狙えばいいさ」

「谷峨少尉、これはウチの部隊が招いた行為だ。非礼と詫びを入れるのはこの俺だ」

小寺は慌てて、谷峨に謝るが谷峨はため息をついた。

「小寺少尉、謝罪よりも先に目の前の敵を叩くぞ!俺達は生き残る為の最善を尽くさねばならない」

「貴官の心遣いに感謝する」

小寺は谷峨の切り替えの早さと割り切る我慢する器量に彼には敵わないと感じていた。

三嶋機にさらなる敵が襲いかかる。

「四条は装填数1の武器や。装填するのに時間がかかるのは知っているんや」

「流れ弾で仕留めたのはお前の腕ではないことを思い知らせてやる」

山科は肩についてる速射砲の桃山で三嶋機を狙う。

弾着した所におびただしい砂煙が舞う。

フランベルジュもアサルトライフルで山科の支援射撃を行う。

三嶋機は口から単発のリボルバーを吐き出し応戦する。しかし、それは焼石に水レベルの反撃だった。

「プロはやっぱ見逃してくんねぇか……けどな、俺だってまだ死ぬ訳にはいかないんだよ」

リボルバーを全弾撃ち尽くしたあと、三嶋機は内臓兵器であるネイルダガーを装着して待ち構える。

「谷峨を狙ったのはコイツか?」

山科の速射砲を遠藤機が転移し、ライオットで防ぐ。

「防御ってのは正面からきっちり受ければ防げるんだよ!たとえ、旧型の御霊機だとしてもだ」

三嶋機は遠藤機に守ってもらった形になった。

コイツは一場を殺した奴とは違う。

フランベルジュが2機、三嶋機に襲いかかる。遠藤はタイミングを計っていたかのように合図を出した。

「行け!真」

そう言うと、真機が現れアンドロイヤーでフランベルジュの頭部を叩いた。

「カメラとセンサーをやられた!こんな所に隠れていたのか?アマチュアの癖に一丁前に擬態しやがって」

頭部にダメージを与えられたフランベルジュは反撃するが真機はラウンドシールドで受け流し体勢が崩れた所にアンドロイヤーでコクピットを狙い一突きで潰した。

もう1機のフランベルジュは三嶋機を狙ったが三嶋機の灘特有の小回りで敵の攻撃をすんでで躱し、後ろに向いてた真機は振り返ることなくアンドロイヤーを鞭のように振り回した。

不意打ちをくらったフランベルジュは脇腹を抑え、片膝をついた。

三嶋機は斜めに動きバスケットでいうペネトレイトの動きでネイルダガーでフランベルジュに組み付いた。

「コクピットにこれをぶち込んで耐えられる奴なんて見たことないぜ」

城内高校の生徒でも機械に詳しい者が作った粘着性の爆弾。

さらにピンを外し、セット完了させた。

4秒後、コクピットが爆発し、もう1機のフランベルジュも沈黙した。

アンドロイヤーを使い続けたことにより武器も成長するのが東国軍の旧型御霊機の特徴だ。

観測台で双眼鏡で見ていた吉野と三國は驚きを隠せなかった。

「あんな重量武器を鞭みたいに振り回すなんて聞いたことがない」

吉野が引きつった表情で三國に話す。

アンドロイヤーを使う御霊機乗りは少ない。

重量武器で鈍器タイプの槍なので威力はあるが使いずらいというのが理由だ。

近接武器で使いやすさや武器の癖の染み込みという点では片手で扱える剣型のグラディウスや手斧タイプのハチェットが人気だ。

「鳥浜の奴が選んだのか谷峨なのかわからんが、あの御霊機と御霊機乗りは要注意だ。基本性能がこちらが上回ってもあの武器をあんなに使いまわして攻撃を当てられたらひとたまりもない。当たらなければどうってこともないが、当たれば終わるという恐怖感や緊張感も充分に脅威だ」

三國は冷静に見ていた。

恐れることも大事だが、だからといって過度な敵戦力の過大評価はしない。

常に客観的でいること、それこそが指揮官の必須の項目だということを理解しているからだ。

「あのー」

突然の外野の声、若い少年の御霊機乗りが声をかけてきた。

「誰だ?勝手に私達に声をかけるなどとは無礼な」

吉野が声を荒げる。牧野の秘書官としてパフォーマンスをする部分もあるかもしれないが、突然の事態にびっくりしていた。

「無礼な作法ですいませんでした。今、三國中佐と秘書官殿は谷峨少尉の話をしていましたよね?」

無機質なしかし、少年らしさも見せる笑みに三國と吉野は鳥浜や木村、そして谷峨に共通するものを感じた。

「お前、所属と階級は?」

三國は確かめるようにその御霊機乗りに声をかけた。

「はっ、2連隊御霊機中隊山北弘平少尉であります」

山北と言われた男は雪深い東国軍の領地の部隊に所属する男だった。

一見すると童顔で優男に見えるが、体には無駄のない筋肉で引き締まり、ダンスや歌等やっていればジャニーズ事務所のタレントや韓国アイドルにも勝るとも劣らない印象を受けた。

「2連隊か、谷峨が昔いたところで彼の原隊はそこだったな。山北少尉は何故谷峨少尉を気にする?昔からの知り合いだからという理由ならば討伐には参加させないぞ。仲良しこよしの飲み会や同窓会のノリだとするのならばそんな者をこの戦線に参戦させるわけにはいかない」

三國は冷たく言い放つ。

彼の実力も知らなければ、知っている同胞の助力ならばモチベーションも上がるがそれを殺すなら話が違う。

「三國中佐、ええやん。彼を出せば。谷峨って男もかつての知り合いに対して動きが鈍るならそれだけで彼を出す意味あるかもしれへんで」

村中が割ってしゃしゃり出る。彼の狙いは囮として使うこと。

「村中大佐、しかしそれでは部隊の士気に大きく変化してしまうかもしれません。私的な理由で戦場に行かせるなどと」

「いや、ええやんけ。オタクも固いで。山北のボンがわざわざ自ら戦ってくれるんや。それで我が方に被害が少なくなれば儲けもんやで命はゴキブリやネズミみたいにわらわら湧くもんではない。無駄な命減らさんようにするのも指揮官の必須項目ですわ」

村中の発言に三國はドン引きし、吉野は夜叉のような形相で睨みつけた。

山北は体育会系の人が喜びそうな大きな声でありがとうございます、という始末。

「じゃあ、ウチの正規兵も付けましょ。モチベーションの低いウチの正規軍人をこの士気と熱意に溢れる山北少尉に部隊を指揮してもらいクソガキの相手をしてもらう。それでも、最低限の仕事はすると思うでウチの正規軍でもな」

村中は笑顔で言った。露払い、不良品の仕分け、規格外農産物の間引きと言っても差し支えないような内容に三國は村中の恐ろしさを感じた。

こんな考えだから牧野中将に一泡吹かせたんだな、残すものと捨てるものを感情いれずに機械的に判断する。

俺や鳥浜にはそんな指示はできない。

「指揮官命令や、西国軍の8連隊の御霊機中隊及び歩兵2中隊から40人を山北少尉指揮下に入れるで。これは西国軍も東国軍も関係ない、統一国家政府軍の重用な任務や。頼むで」

「はっ、任務の完遂に励みます」

「おおきに。ほな、気張れや山北少尉」

山北が去ったあと、三國を呼ぶ。

「ホンマ、あのガキのお陰で役立たずの間引きができて良かったわ。それだけでも、あのボンの功績は大きいで。あの正規軍の奴等はただ軍人というだけで福利厚生と給料を貪り主張する無能のクズや。ワシも傭兵、外人部隊出身で無能で自分を棚に上げて主張するだけのごく潰しは好かへんのや」

三國と逆の思考の村中をしばきたくなる衝動に駆られるが三國は拳を握り、口元を真一文字にして怒りを抑えた。

「三國中佐も吉野大尉もワシからしたら人のことポジティブに良く思い込むところがある。まぁ、弾除け以上の働きをしつつ、正規軍の何人かを間引いてくれたらワシもあのボンを認めたる。アンタ達よりもな。さぁ、ワシ等も気張っていきましょ。牧野中将は怖いお方やで、それは吉野大尉、あんさんがわかっているでしょ?」

やられた。吉野は頷くのみだった。村中はこちらに傾いていた指揮権の流れを見事に五分にした。

村中もやり方は違えど結果で評価するタイプの人間だということに。


その頃、城内高校は部隊のいくつかが壊滅的被害に陥り生徒の大半は緊急避難シェルターに逃がした。

大人の本気に子供達は敵う訳がなく、防戦、撤退、逃亡の繰り返しになった。

谷峨達は逃げた者を逃がすしんがりを務めていた。

その頃になると三嶋達も真達も嫌でも協力して戦うようになっていた。

「くそっ、全然くたばらねぇ」

真は必死に敵のフランベルジュと互角の立ち回りを演じる。

叩いても叩いても物量と性能にモノを言わせてくる。

そして、射程外からのブランシュネージュの狙撃が襲ってくる。

その狙撃範囲にアイスブランドが届かないので一方的に攻撃されていた。

「八原に狙撃させて黙らせることできないのか?」

遠藤も泣き言に近い感じで言う。

「二人とも愚痴と泣き言が多いぞ、八原の機体じゃ向こうの敵を狙撃できる距離じゃないが敵のログポイントや施設は順次攻撃をしている」

事実、こちら側もある程度は防戦できている。

負けに等しい戦であるが、だからこそ時間を稼いで敵を少しでも被害を増やしたい。

「谷峨、敵の増援が出たよ!フランベルジュと山科が6機」

荻野の叫びに思わず谷峨は逆ギレしそうになるが気持ちを抑える。

「徹底的に潰したい訳か………うち等4機の御霊機に対してもう7機も潰しているのにまだひるまないか」

旧型のしかもアマチュアに7機も潰されて、それでもなお増援で対抗する統一国家政府軍の物量には本当に恐ろしいと感じた谷峨。

「谷峨少尉、生徒及び現存できる資材は全て逃がした。谷峨少尉をはじめとして撤退してくれ!ログはこちらで打つ」

小寺が通信で言うが谷峨は安堵する。

「やっと終わったか。生徒が多すぎるのも問題あるな」

「お前達が数少ない癖に1人あたまが強いんだ。お陰で数多くの遺族の謝罪にたくさん行ったさ」

「それはお互い様だろ、数の多い少ないで決める話ではない」

そんなやり取りをしているうちにアラートが鳴り響く。

「敵?どこからだよ?」

谷峨がそう言うと、死角から谷峨の目の前に転移していてソードブレイカーで一突きしてきた。

谷峨機は躱すことができず、反応が遅れてダメージを受ける。

「くそっ、躱せなかった!直撃かよ」

「敵のエースは僕が引き受けます!その他の者は各機連携して敵各機を攻撃!」

谷峨機を攻撃したフランベルジュが指示を送る。他の敵御霊機は残りの3機を狙い攻撃してくる。

谷峨はその指示を送った声に戸惑いを受け、動揺する。

「その声、お前は山北か?山北弘平か?」

「死角を突いてたとはいえ、敵のショート転移にノーマークなんて練度も度胸もメンタルも劣化しまくりで弱くなっちゃいましたね、谷峨耕助少尉!」

山北の挑発に応じるように谷峨機は山北機に反撃を試みる。

「甘い甘い。いやー、昔より弱くなった御霊機乗りのましてや旧型の御霊機の攻撃なんて喰らう訳なんてないんですよ」

谷峨機と山北機のマインゴーシュとソードブレイカーの打ち合い。

しかし、結果は山北機は谷峨機のマインゴーシュを絡み取り、そのまま横方向に力を入れる。

パキッと心地よい音がする。

それは刃と反対側のギザギザの櫛状の部位で敵の刃物攻撃を防ぎ、テコの原理で折ることができる中世ヨーロッパでの戦場ではソードブレイカーと呼ばれる武器をそのままの原理で山北機は使っている。

谷峨機のマインゴーシュは拳のガードを付け、刃の切り替えが容易な着脱式タイプのマインゴーシュだった。

「どうせ、スカッシュでしょ?読んでるんですよ、そのくらい」

山北機もスカッシュで谷峨機のスカッシュの右腰のホルスターを撃ち抜いていた。

反撃を得意とする谷峨のお株を奪う、山北の練度に谷峨が完全に我を失っていた。

やられた、完全に主導権は向こうに渡っている。

谷峨に焦りの色が濃くなっていた。

「谷峨機より、各機へここは撤退が最優先だ!敵御霊機とまともに交戦するな!小寺少尉、貴官もさっさと御霊機を出して撤退する御霊機の支援を頼む」

それは自分に言い聞かせるような口調だった。

まともにやりあったら確実に自分は山北に負ける。

「あぁ、失望しました、絶望しました、百戦錬磨でならした谷峨少尉がたかが僕みたいな後進の御霊機乗りにお株奪われたくらいで戦意喪失して仲間に無理して戦わせるな、だって。そんな逃げ腰、弱気なエースなんてあなたの生徒でしたっけ?彼等もあなたに失望してしまいますよ!教え子というのなら僕は今の教え子の兄弟子ってことになる、兄弟子として人生の恩人としてひと思いに殺してあげますよ!」

山北機は顔のバイザーが開き、ゴーグル部分が赤く光る。

「新型御霊機限定の特殊システム、インフェイアで!」

山北機は加速装置を使い、時速160キロで谷峨機に近づく。

「速い、対応なんてできない」

谷峨機は両腕で顔面を守るように身を屈めガードを固める。

「亀のように待つってことですか?あぁ、もうダサいダサすぎる」

山北機はソードブレイカーを右逆手に持ち、上から下に振り下ろす。

握り方で殺意がハッキリ出る、谷峨は一縷の望みをかけて谷峨機は左手で上段受けをして、左手を犠牲にして右手のマニュピレーターで山北機のコクピットを狙う。

しかし、谷峨機はガラスの割れた音と同時に空間が割れ、谷峨機だけ転移される形になる。

山北機は敵機の突然のロストに勢いが止まらず、城跡の石垣にぶつかりクラッシュした。

山北は1分間気を失ったが、我に返り意識を確認するとコクピット内のモニターを叩いた。

「誰だ!余計な横槍を入れた出歯亀はっ!許しませんよ、僕の邪魔をする人間もモノは全て全部」

山北は怒りを露わにした。

400メーター離れていた場所で谷峨機を転移させるように転移弾を撃った小寺はそんな山北機に恐怖を感じていた。

「谷峨少尉でも勝てない相手に俺達がかなう訳がない。あとは彼等か」

小寺機はその場所を後にした。

次は残った生徒達か。

谷峨が敵のエースと粘ったお陰で生徒達には敵の数が多くいる。

転移弾、順調な予定ならば来年の春に使う予定だった。

転移ポイントを指定した数か所の一か所をランダムに対象を転移させるやり方と敵を転移ルート内に飛ばすやり方がある。

そのやり方は味方はちゃんとしたルートがあるから転移ができるが、その案内ルートを理解しないと敵は転移ルートの中迷った場所で彷徨うことになる。

西国軍の中でも敵や味方機に外から転移する武器は特級レベルの国家機密で許可なく保持、使用、データを流出させるだけでも混沌永葬刑になるかもしれない代物だ。

小寺は西国軍の傭兵部隊でもその機密を知っている数少ない者の1人だったのだ。

「三嶋、二葉、聞こえるか?」

小寺は三嶋と二葉に通信を送る。

「何だよ?ダイレクトに通信する暇なんかねえ」

「三嶋と同じだよ、敵機の攻撃が激しすぎる」

当たり前の2人の反応に小寺は指示を送る。

「ポイントの4-Fに向かって、その場所で1回ジャンプするなり減速してみろ」

「罠もなんもないぞ、そこに」

「敵が追っているのにそんなことできっこない」

2人はまた当たり前の答えをする。

「罠はないのはわかっているさ。罠は形があろうがなかろうが敵を騙すこと、遅らせることができればそれでいいのさ」

小寺がそう言うと、三嶋は閃き頷いた。

「そういうことか!ブラフでもいいから躊躇わせることができれば………」

「それとお前達の機動力で彼等も助けてやってくれ!俺達は彼等を憎み、戦ってもいたが彼等は俺達を助けてくれた。わかっているよな、三嶋?」

三嶋は少し黙った。

確かに彼等が来なければやられていた。

一場を殺した奴は俺が狙って殺そうとしたのにも関わらず、反撃をしないどころか君のお陰で敵を1機倒すことができたと言った。

「昨日の敵は今日の友という、お前達が生き残る為に彼等を利用しろ。仲間になる、とか彼等の為にしろ、とは言わない。けど、最適解はわかっているはずだ」

小寺の言葉に三嶋は逡巡する。数秒考えて、三嶋は結論にたどり着いた。

「ならば………いや、二葉!俺達の持っている装備をネイルダガーのみにしろ!戦闘は三戸浜の奴等にやらせればいい」

「何言ってるんだよ?あいつら逃げるだけで精一杯じゃないか」

「四足歩行型の御霊機だからな………しゃくに障るし、嫌いだが俺達の御霊機にアイツらを乗せるぞ」

二葉の三嶋の言葉でやっと気づいた。

ようは馬やバイクみたいに扱うということ。

「三戸浜の御霊機乗り!俺達を殺すのは後にしてくれ!俺にこの場面を切り抜けるいいプランがある」

三嶋の問いかけに真はすかさず反論した。

「せっかく助けてやったのに恩を仇で返す野郎の言葉なんて聞きたくないぜ!それが恨みあろうがなかろうが人の筋と道理を間違えてる奴なんて尚更な!!テメエは勘違いしているようだがどんなに頭が良くて合理的で優れた能力があったとしても俺は認めない、認めねぇ!」

「何だと………だから嫌だったんだよ、お前みたいな人間の姿だけした野蛮な類人猿に力を合わせようとすることに。どんなに優れた戦略プランを以てしても古今東西歴史を紐解いたらお前のようなバカに歴史を覆されているんだ!」

まさに水と油。こんな危機的な場面でも口争いをする2人に遠藤と二葉は止めに入る。

「三嶋、お前が彼等に自ら態度を改めて自分で行動するのが先だろ!お前が折れなきゃお前だけじゃない、俺達全員戦死するぞ」

「真、こいつらの言う通りだ。ここは頭の良い奴のプランって奴に乗るのが先決だ!俺達三戸浜の者がどこまで理解できるかわからないがやるしかないぞ、お前がやらなくても俺はこいつらのプランに乗ってやる」

遠藤と二葉が真と三嶋に間に割って止めに入る。そんなことしている内に敵は距離を詰めてくる。

「二葉とか言ったよな、俺はアンタ達に協力する。それで、どうすればいいんだ?」

遠藤が歩み寄る。二葉はすかさず返す。

「俺の御霊機の上に乗れ、それだけでいい。今やることは撤退戦だ。ようは俺達の御霊機が馬やバイクでお前達が馬の上に乗る騎手やバイクに乗るライダーと考えればいい。三嶋もそのことを言いたかったんだ」

「そんなんでいいのかよ?マジで」

「ああ、小難しい理屈や難しい言葉でバカに一生懸命説く奴は自分は頭悪いです、と言うのと同義語だ。さあ、早く乗れ」

「二葉、お前もなんかムカつけけどわかりやすくていいな。ウチの野球部にお前みたいなキャッチャーがいればもしかしたら1回戦くらい勝てたかもしれないな」

「ダメだ、俺がいようがいなくてもあんな不確実なスポーツ、俺じゃどうにもならん」

遠藤機は二葉機の上に騎馬武者のような感じになる。

「乗るなら女の子が良かったけど、仕方ねぇ」

「今回だけだ。お前の防御兵装をお前の背中にかけておくんだ。少しは弾除けになる」

「なるほどな、お礼に俺の御霊機の加速装置をお前の御霊機に渡しておく」

遠藤と二葉はぎこちないながらもコンビネーションしていく。

三嶋は二葉の切り替えの早さに驚きながら、真に謝罪した。

「先ほどは熱くなってすまなかった。生き残る為だ、俺達はこんなところでバカなことをしても意味がない」

「頭の良い奴はすぐ、そうやって物事を対処できるから嫌なんだよ。俺もお前も死んだら仇は取れないし、今邪魔な奴は同じだ!今だけだ」

真機は三嶋機の上に乗る。

「加速装置もついでに渡しておくぜ、俺はお前に命を賭けたんだ!」

「加速装置は助かる、バカでも気配りできるのは上等だ」

「命賭けるのに俺は100円の単勝万馬券では安い、だったら今ある有り金は全部渡すさ」

「度胸だけは頭が良くても悪くても確実に得ることができないものだ。任せろ、お前は敵を倒せる武器があるからあしらうのも頼む」

「オッケーだ!」

そう言うと、三嶋機と二葉機は加速装置を使って逃げ始めた。

敵もそうはさせないと、執拗に追ってくる。

「くそっ、逃げるだけでも神経使うなぁ」

「防御に徹するしかない、撤退ポイントまで来ればこんな奴等とはおさらばだ」

遠藤機と二葉機は必死に逃げる。

「さっさと走れ!こんなんじゃ、ダービーも取れねぇ」

「さっきからお前は俺のことを馬みたいに例えてくれて、未成年者が競馬なんてしてんじゃねぇよ!」

三嶋機と真機は近づいてきた敵御霊機を迎撃するスタイルを取っていた。

「まぁ、赤兎馬や黒王号とまではいかないがなかなかいい走りをしているぜ」

「いちいちうるせえんだよ、そこまで俺の御霊機はお前みたいなバリバリの戦闘用ではないんだ」

「ガキ共が!いい加減死ねってんだよ!」

真と三嶋のやり取りを邪魔するように山科が機銃で撃ってくるが、その山科の口の機銃を真機のアンドロイヤーが貫く。

「コクピット越しでも伝わるぜ、アンタの臭い息と汚い息遣いがよ」

「そんなのわからないだろうが………」

「わからないけど、どうせお前みたいな奴等って基本的に汚さそうだもん」

理不尽極まりない真の思い込みで山科は倒れ、乗り手も絶命した。

三嶋はクスクス笑っていた。

「何笑ってるんだよ?三嶋」

「どうやら、乗せるのがお前で良かった!お前の口の悪さと度胸は大金はたいてでも使う価値がある。俺も負けてはいられない」

加速装置を3倍にして、走る三嶋機。

4機はポイントに近づき、三嶋機はジャンプして二葉機は減速をした。

敵御霊機はそれを見て、判断に迷った。

「こちら、パープル4だ。敵御霊機がジャンプとブレーキをした。これ以上の追跡は罠の可能性がある。指示を乞う」

敵の隊長機の山科が本部に指示を求めた。

「山北機に聞けやボケ!お前の現場の長は山北なんやで?いつも、ワシ等外人連隊の階級がお前より上なのに言うこと聞かん奴が困った時、助けて下さいとか何か指示を下さい、ってアホか?アホちゃうか?」

まさかの村中の言葉に隊長機の御霊機乗りはびっくりした。

「罠でも罠でもなくても、行けや!さっさと行かんかいボケ共が」

「くっ、パープル4了解した。敵追撃を続行する」

そう言うと追撃隊はその場で指示をする。

「罠がなくてもあっても罠の警戒は怠るな。東国軍の者もそれでいいな?」

「いやいや、追撃するのはあなた達にやってもらいたい。私達は山北機の捜索と現場周辺の罠や施設の探索をする」

「俺は中尉だぞ、お前は上官の命令を無視するのか?」

「軍属も違う者の命令は聞く訳にはいかない。それにみだりに仲間を殺すような軍隊にも軍人にも俺はついていく気は毛頭ない。命令を通すなら我々の上官を通してからにしろ」

連携が崩れた追撃隊を見て、谷峨は小寺に通信を送った。

「さっきは助かった。貴官の機転で俺は助かった」

「いや、谷峨少尉が敵のエースを引き付けてくれたから助かったんだ。奴が三嶋達を狙っていたら確実に三嶋達は死んでいた。ウチの者を助けてくれてありがとう」

そう言うとモニター越しからだが、お互いが微笑む。

少しは通じあえたのかもしれない、という感情が込み上げた。

「小寺、指定ポイントを過ぎたぞ。敵御霊機は距離にして30メーターだ」

「ご苦労さま、あとはこっちで処理してやる」

「お前、一場を殺した奴より御霊機戦の腕と練度はないって言ったじゃないか?」

「そうだと言っても、それだけで御霊機戦が勝てる訳ではない!三戸浜のオペレーターとウチのオペレーターよ、ログ全開放だ」

そう小寺が指示をするとログ表示で現れる空間の裂け目が現れた。

「敵は撃破できないが、こちらだって無策って訳じゃないんだよ!」

ロックオンマーカーがアラートを鳴らす。

右手の親指を震える。緊張もあるし、失敗は許されない、という緊迫感。

「並行世界の狭間にツアーしてしまえっ!」

小寺機から転移弾は発射された。敵を無理矢理並行世界の狭間に飛ばす刀の国では敵に向けて発射するのはセオリーにはないやり方だ。

追撃隊は見事に転移範囲に引っ掛かり、さらに荻野が三嶋機のロケットランチャーの弾を押し入れから出す要領で転移させた。

「ついでにこれもサプライズってことで」

「君、まだ弾を転移させて隠していたのか?」

「三嶋の御霊機の弾使えそうだったから無駄弾にしちゃうなら使える場面で出したほうがいいじゃん」

荻野の言葉に小寺は驚きを隠せなかった。

御霊機乗りだけでなく、オペレーター等の後方職種も適材を絞って特化させる育成方式に小寺はかつて戦ってた敵がこんなにも頼もしいと肌で感じた。

小寺機も撤退ポイントに前進し、撤退した。


2時間後、統一国家政府軍は転移してからの合同作戦の初戦を無事に勝利し、城内高校は制圧した形になった。

「予想より時間と犠牲は払ったが城内高校の部隊は4割を倒すことはできた。立派に敵を撃破したことになる。皆、ご苦労様。次の任務まで準備と静養をしなはれや」

村中は残った隊員に講評をした。

三國と吉野は早速その事を牧野に報告し、村中をマークするようにと牧野から指示を受けた。

「これより、論功行賞を行う。呼ばれた者は前へ」

この論功行賞には山北も選ばれた。しかし、本人は不満足な表情で壇上から下りた。

山北は谷峨に対する失望に感情が支配された。

「次こそは殺してやりますよ。あなたを縛る邪魔者は誰だってどんな奴だって戦ってやるよ」

普段は草食系男子の様相を見せる山北がまるで悪質な霊に憑依されたような足取りで場を去った。

撤退した城内高校の生徒はボロボロの三戸浜高校に移る形で落ち着いた。

両校の生徒達は互いの校長をバックに対面していた。

「城内高校の元西国軍外人3連隊3大隊長、磯部中佐だ。今日より、生徒一同我々もこちらに合流させて頂く」

「三戸浜高校、元東国軍監査局の鳥浜少佐です。敵として戦っていたとはいえ、今は共通の敵と戦う者同士協力させて頂きます」

互いの部隊の長が敬礼をした。

そう、三戸浜高校と城内高校の戦いは開始9か月目でお互いが戦うことが終わり、同盟を組み、残りの3ヶ月を過ごすことになる。そして、

谷峨が帰宅すると、部屋の前に何かいつもと違う雰囲気と匂いを感じた。

あからさまに異質で不快。

任務の習性で静かに彼女の部屋まで忍び足で近づく。

それは見たくもない瞬間でこの隠れ蓑のような生活に終止符を打つのに相応しい光景だった。

身近にお世話になってくれた者も自分から離れていく、自分がいるお陰で生徒達は傷つき死んでいくが彼女は口に言わなかったがこの行為だけで充分に自分に別れを突き付けたのだと。

獣のように喘ぐ奏の声と激しい腰使いと肉を打ち合う音に谷峨は猛獣に気づかれないように全神経を集中させて部屋から出た。

その日は、12月29日のことだった。

そして、その年の大晦日。

鳥浜は自民党の大物議員と馬車道のラウンジで会合をしていた。

「統一国家政府軍、君達の国は東西に別れていたが西国探題は外国の脅威に対抗する為に東国探題と協定を結んだ。もう、君達の目的は終わったし、日本国政府は君達を倒すことに決定した。勿論、君達の使う技術の日本国で使う政策も凍結した」

大物議員の言葉に鳥浜は絶句した。

今までの苦労は何だったのだ?

その為に辛酸を舐め、お前達についてきたのに。

鳥浜の絶望と怒りが波を立てていく。

「悪いことは言わない。君がすぐに統一国家政府軍に降伏するのならすぐ私の所に来て欲しい。君の軍人の力も買ってはいるが、君を私の秘書にしたい。ゆくゆくは君を私の後を継いでこの国を立て直して欲しい。政治家は理想だけでは飯を食えない、現実を見るだけでは志を全うすることもできない。この国は首相にならなければ政治家は1番上の犬になり続けなければならない。私は最後の戦いをする。君が私につくのなら命も安全も地位も保障する。君を友だとして………」

「お断りします。あなたとの3年間は私にとって臥薪嘗胆のような3年だった。それも、目的の為野望の為。しかし、生徒も私の部下も頑張ってきました。未来に繋がるビジョンもない、統一国家政府軍はいつかあなた達に牙を抜く。できれば、こんなことであなたとは別れたくなかったです。次に出会う時は戦場で。啖呵を切ったのだから吐き出した唾は飲め込めまい。軍人として、敵として、全力であなた達を止めてみせる」

鳥浜は紙を取って、レジに会計を済ませる。

そう、やはり戦いこそが人生だ。

私の夢叶える為に私の道を阻む者は全て戦って勝利してきた。

この平和ボケの国もとうとう、寝ぼけ眼で拳を振ってきたのだ。

鳥浜は電車に乗って、横浜の街を眺める。

かつて、鳥浜が幼い頃。

地元で東国探題の総統と会話したことがあった。

「君が欲しいのはどんなものなのかな?私は生まれてからずっと誰かに導かれて、国民の象徴として、国家元首として生きてきた。君個人、私は気になる。どうすれば、世界は穏やかになるのだろう?」

総統は老人だが、細見ながらしっかりとして足取りで歩いていた。

お忍びで鳥浜という砂浜に来て、休憩していたのだ。

「敵を血に染める朱とこの大地を染める赤が欲しい。世界なんて、出自が偉いから治めるからダメなんだ。総統陛下のご一門で争いをして、臣民の命をみだりに失わせるなんて、国のトップとして失格です。だから、総統陛下がこの国を憂えているのなら僕に力を貸して欲しい。結局世界の理を変えるのは力しかないのだから………すいません、失礼なことを言い過ぎました」

「そうかい、物騒なことを言うが君は私に対して物おじしない度胸と私を人間として話してくれたことに感謝するよ」

鳥浜は最寄駅を過ぎて、終着駅に着いた。

除夜の鐘が鳴り、新たな1年が始まることを知らせてくれた。

しかし、それは鳥浜にとって死へのカウントダウンを知らてくれる不気味な音にしか聞こえなかった。


                      7話


新年が明けて、1月10日。

年末年始も両校の生徒達は訓練と資材の整備に大露わだった。

谷峨達教員も少しずつだがコミュニケーションを取り合うことができた。

「谷峨少尉」

小寺が声をかける。

「どうかしたか?」

「お前、彼女と別れたそうだな?」

小寺は単刀直入に言った。

年末に奏に別れのメールを入れた。

自分の至らなさがあったから別れるのももっともだが、とはいえ、付き合っていた彼女が他の男と寝ているのに気づいてしまったのは凄く後味が悪い。

「まあ、そうだな………もう、別れてしまったのだからいいんだ」

ため息をつく谷峨。

しかし、そんな谷峨に気にすることなく小寺は続けた。

「お前の元彼女………入間奏氏、寝とった相手はこの日本政府の者だという情報がサポーターから入った」

「そうか……政府の者ならば身分も収入も安定している。きっと、彼女を幸せにできるだろう」

谷峨は冷めた態度で小寺に応えた。

奏はいつも通りに生活をしているだろう、結局は自分のことと平穏でしか生きていけない種類の人間なのかもしれない。

現に谷峨は三戸浜高校の地下教材資材庫を寝床にしている。

野宿より幾分かマシ程度だが、2年近く続いた通勤生活と終わったことになる。

旧城内高校の者は三戸浜高校の近くの企業の廃保養所を間借りしている形になっている。


校長室では鳥浜と城内高校の指揮官だった磯部が2人で密談に近い感じで会話していた。

「統一国家政府軍と日本政府は完全に協力体制を敷くことになりました。これは私達がこの国の新技術採用トライアルのプロジェクトを凍結したことになります」

鳥浜が三浦海岸の喫茶店から貰ったブレンドコーヒーを一口啜り、磯部に話す。

佐賀県の古伊万里のマグカップがいい味を出していた。

磯部も鳥浜と同じ古伊万里のマグカップから同じようにコーヒーを飲む。

しかし、こちらはフレッシュを多めに入れる。

「日本政府が欲しがっていた技術は陸上防衛の兵器としての人型御霊機か四足歩行型御霊機のどちらかを制式採用をする為に争わせて、転移技術に関しては最重要項目でどちらかを採用するか俺達を戦わせていた、ってことになる」

「そうですね、同じ技術の方式をどちらかが採用するかで今後か変わるかもしれませんからね」

同じ目的でも技術方式を国がどのようなタイプの形を採用するかで歴史も変わりかねない事態にもなることがある。

「鳥浜少佐、かつて俺達は戦いあっていたがどの道、歴史はこれから動く。名もなき歴史で愚かな黒歴史として歴史に書かれたとしても………」

「愚かな歴史だろうが、輝かしい歴史だろうが歴史を決めるのは事後の世の人ではない。今を生きる私達ですよ」

磯部は鳥浜のこの言葉にこの男の強さはカリスマ性だ、ということを思い知った。

人間の可能性に絶望していない純粋で素直で無垢な姿。

この男が後世の歴史に評価されるのは遥か未来の話なのかもしれない。


1月19日、関東地方南部は大雪警報が鳴り、センター試験に挑む受験生達が雪と寒さに堪えているなか三戸浜高校と城内高校の者は自分達のできることの準備をした。

「最後の戦いが3月2日に決定した。マスコミに流れていない情報だが日本政府と我々の世界の国の軍隊である統一国家政府軍からの我々に対する討伐任務が下るそうだ」

谷峨が生徒達を集めてエアコンがかかっても冬の寒さにやられそうなボロい教室で話していた。

「はっ、ようやくこんなクソみたいな1年もこれで終わりか!俺達はたくさんの犠牲を払ってここまで来たんだ。こいつらといれば政府だろうが谷峨の国の軍隊だろうがアメリカとだって戦ってやるぜ」

真が大きい声で怒鳴る。

この9ヶ月でもしかしたら1番成長したのは真かもしれない、と谷峨は感じていた。

彼の気性や性格は社会として爪弾きにされていたかもしれないがちゃんと向き合えば彼は熱く響き応えた存在だ。

「政府は俺達の存在を否定して、大多数の国民の生活と安全を取ったのだろう?国を治める者として合理的な答えかもしれないが、太田和と同じだ。今までこんな立場になるとは思わなかった。俺は高校を卒業して大学に行って卒業をしたらどっかの1流企業や上級の国家公務員になろうとした。確かに小寺達は俺達の人生を狂わした許せない人達だ。だけど、こいつらは不器用なりに俺達と接してくれた。ただで殺されてたまるかよ?俺達が1人でも生き残って、こんなクソみたいな政府にカウンターをくらわせてやる」

三嶋も真に呼応する形で答えた。

生徒達もそうだそうだと歓声をあげた。

「ちょっと換気代わりに出てくるぜ」

三戸浜と城内の生徒の2人、名前は西野と東野か、2人は出て行った。

谷峨はその2人を怪訝そうに見るが、その時はまだ気づくことはなかった。


三戸浜高校の西野と城内高校の東野は校舎の外からスマホでカメラで撮影をしていた。

西野はカメラで谷峨達の教室の様子を撮影して、東野は音声を録音していた。

「やる気になってる奴等の言いなりに同じ行動してたまるかよ、俺は死にたくないんだ。このまま進んだら俺達政府に殺されてしまうんだろ?絶対嫌だよ死にたくないよ」

西野は悪態をつきながら自販機のカフェオレを飲んで言う。

吐く息が白くなる。

東野もスマホで録音したデータを再生する。

「これをSNSで拡散したり、マスコミに流せばもしかしたら動いてくれるかもしれない。私はこんなところで死にたくない。私の1年間を返してくれるまで死ぬわけにも負ける訳にもいかないの。西野だったらきっとわかるよね?」

西野は頷く。たぶん、全て、大部分は理解できなくても死にたくない、という気持ちだけは理解している。

「授業をサボって、三浦海岸のマックでマスコミの人と待ち合わせをしているんだ。抜けるべ?」

西野は東野の手を掴み、学校を抜け出した。

大川はそんな西野と東野を見て怪訝に思うが何もないと思い、目を離した。


三浦海岸のファストフード店で西野と東野は大手テレビ局の社員とはハンバーガーを頬張りながら会話をしていた。

テレビニッポンの木田と書かれた社員証をジャケットの胸ポケットに挟む感じでさりげなく自己紹介をしている。

「君達の話を聞いて、最初はこんな話あり得る訳がないと思っていたが話を聞いているうちに確信だと感じた。この国で極秘裏に並行世界の日本人の戦争の片棒を僅か数百人の高校生を使って戦争をさせていたとは……事実は小説より奇なり、とは言うけどさこんな場所でこの関係者に会うとは俺もツイてるよ」

新製品のモノノフバーガーを豪快と言えば響きは良いが、クチャクチャ聞こえる音が不快感を示していた。

「木田さん、これは最新の動画だ。俺達の仲間は狂っているぜ。」

西野はスマホで録画したデータを木田に見せる。

3月2日にこの三戸浜高校で並行世界の軍隊と政府が彼等を倒しにかかる、ということと生徒達が戦う気満々で意気揚々と鼓舞していることに演技ではない熱さとリアルさを感じ、木田は思わず凄いと呟く。

レタスの欠片が歯の間に挟まり、唾が拡散し、見ている側の東野と西野は表情が引き攣っていた。

「情報を定期的に木田さんにリークしていく、3月2日になったら私と東野は救出して欲しい。まだ、この情報はどこのマスコミにだって渡していない。木田さんは昔アナウンサーだったんでしょ?おはようジパングは小さい頃よく見てたもん。だから、あなたのイチファンとしてあなたに頼みたいの」

西野は淡々とした表情で木田に言う。

木田は頭を掻きながら、ため息をつく。

「ええ、アナウンサーの頃の俺を知っているのか?いやいや、参ったよ。もう、俺は2年目でアナウンス部からこの報道部に異動しちゃっているからさぁ」

今度は冷めかかったホットコーヒーを一口飲む。

「お金とかはいらない代わりに俺達はアンタを信頼して、西野と一緒に情報はアンタにしか渡さない。俺達は生きなきゃいけないんだ」

「君達がもし生き残ったらその後はどうするんだい?それは、記者としてではなく俺個人の疑問として聞きたい」

木田は試すように2人に訊く。

「私達は普通に生きるわよ、普通の人としてね。平穏無事にこんなことが何もなかったかのように生きるの」

「そうか………聞いて悪かったよ、ありがとう」

木田はその時に幻滅したのだ。

俺が欲しかったのはそんな答えではない。

動画に映っていた頭の悪いガキ、真のような答えが欲しかったのだ。

本物のヒーローの話が欲しい、というのは嘘だ。

この国は国を潰すような民衆が望むようなヒーローを望んではいない。

ただ、日々の生活に安心して自分の可能性や立場にぶら下がりつつも、安全な世界で他のドラマチックを満たしてくれる者を望んでいるだけだ。

「じゃあ、今日はもう帰るから代金は置いていく。今後もいい関係でいよう」

そう言うと、木田は店から出て行った。

雪がちらつき、灰色の海を見て木田は見えない房総半島を見る。

「俺が特ダネを仕込んで3月2日はアイツらに死んで貰って俺はテレビ局を辞めて、どっかの国で遊んで暮らせばいいさ。バリやハワイでもいいけど、あえてモーリシャスもいいな、はは」

そう言って木田は駐車場からミニクーパーを走らせた。


2月の月末になり、機体も生徒も資材も最後の準備をして最後の来月の2日を待つのみになった。

「総理大臣、来月の2日の作戦に向けて準備ができました」

鳥浜と接していた自民党の大物議員の森泉純太郎が総理大臣に言った。

運転手の印野もその場にいて、直立不動にしていた。

大物議員同士で国のトップと次期トップを狙う者の威圧感は並みの人には耐えられない重厚感も持っていた。

「統一国家政府軍が差しだしてくれた御霊機に我が国の底辺脱出チャレンジに参加してくれた者が無事に御霊機に乗れるようになりました」

「森泉、お前はやっぱり頼りになるし、私もお前ももう年だ。最後の私の仕事に付き合ってくれてありがとうな」

「いえ、総理は私が新人議員の頃に声をかけてくれてこの国の様々な出来事に一緒に参加させてくれました。総理の最後の大仕事、その場の最前線かつ中枢にいて私は至上の喜びと政治家をやって間違いではなかったと肌身に感じて震えております」

この為に自分は30歳の頃から総理と一緒に自民党をこの国の政治をまとめてきたのだ、下らぬ派閥争いも野党の抵抗もアメリカの無茶振りも官僚からの戯言も全て耐え、聞き流し、実行してようやくここまで来たのだ。

「鳥浜大紀という男は真に惜しい男だよ、お前が目にかけて正解だったが残念ながら私達は御霊機も転移技術も扱えない、という結論に至った」

「その通りです。未知のテクノロジーも我々が制御しきれないものは全て蓋をするべきです」

2人の政治家はまるで自分達が語ることは全国民の総意だ、と言わんばかりの感情を以て話す。

「大沢総理と森泉さん、ここにおられましたか?」

緑の軍服を着て、白髪交じりだが眼光の鋭い男。牧野がやってきた。

秘書官の吉野はセオリーのパンツスーツに身を固めて、牧野の後ろで控えて2人に挨拶をする。

「統一国家政府軍の1師団長の牧野と申します。本作戦は我が1師団の者が遂行致しますので後は見ているだけで結構ですよ。必ず我々が勝ちますから」

緑の軍服に付いている3段の記念章が何を物語っているのはわからないが、この佇まいだけで2人はこの牧野を優れた軍人だと理解した。

「牧野中将、あなたの部隊の作戦支援の為に底辺脱出チャレンジの者も御霊機乗りになれた者もいます。彼等は意気揚々と士気を上げて是非とも貴官に協力したいとのことです」

「自ら、この命を失いかねない戦いに参加する者達はどの国どの時代でも強い者です。その力を充分に当てにさせてもらいますよ」

森泉が冷や汗をかきながら言う。

この国の与党の大物、というがただの体格が良くて弱い者には徹底して蛇蝎の如く恫喝する政治家だと聞いている。

牧野は刀の国の黒幕と呼ばれる支配者と同じ匂いのする森泉に失望した。

お前達の用意した兵隊もどきは全部弾除けで使ってやる。

そして、この刀の国が日本国を支配してやる。


3月1日、不気味な程に関東地方では春の陽気が温かく最高気温は関東地方南部では27℃を記録した。

間違えて桜が開花してしまうくらいの暑さに三戸浜高校には陽炎ができていた。

「明日で良くも悪くも終わりだ。今までご苦労様」

谷峨が淡々と言った。

谷峨と小寺を中心に生き残った生徒達には撤退戦をしてもらことになった。

協定と言われる今回の戦争による、ガイドラインでは最終戦は3月2日の朝4時から11時59分と決められている。

その間までに生き残ればこの戦争は終わることになる。

「やっと終わりなんですね、谷峨先生。これで生き残った者の命と生涯は私の老後もこれで保障されるのですね?」

大川がカマキリのような顔と七三分けの髪形でなよなよ系男子の如く言う。

「明日まで生き残れば日本国政府は必ず生き残った者達に保障します。それは最初の協定で決められていますし、大川先生にはちゃんと退職金も1000万円程上乗せしています」

「そうか、やっぱり私の熱い教育の眼差しと熱意に応えてくれた皆の力の結晶だ………って、1000万しかないの?どういうことだ!私は命の危機に何度も晒されたのに1000万はどうなんだ?ふざけるな」

顎がだらんと落ちた大川。

えっ、1000万しか上乗せできない、とは?

谷峨に詰め寄る大川。

それを見て、生徒達は笑う者がいた。

「あなた、しょっちゅう自己保身ばかりだしたまにはいい仕事もするけど、すいません我々に力不足でした」

谷峨が頭は下げて、大川はすっと元に戻る。

「まぁ、いいでしょう。本当は君が軍人でなかったら私は君のことを推薦したかった。私は君という人間性を知っていた。生徒想いのいい教師になると私は長年の教師力で見抜いていた。それは本当だ」

「マジかよ?散々、拳銃やナイフ突き付けられて生徒想いのいい教師だってさ?絶対、そんな訳ないだろ」

「ダサイっすよ、大川先生」

真と遠藤がさらに話に入り、生徒達が笑う。

最後に死ぬかもしれないのに、そんなことを受け入れたくないのか、それすらを乗り越えてやる、という決意なのかその日はバカ騒ぎに終始した。

東野はその光景を見て、疑心暗鬼になる。

東野は逃げ出すように教室から出る。

「先生、また東野出たよ」

八原は呟くように谷峨に言う。

「大川先生、ちょっと東野を探してきます」

「えっ、谷峨先生!太田和と遠藤をどうにかして下さいよ」

大川の悲鳴を無視して、谷峨は東野を探した。

谷峨は渡り廊下で小寺と鉢合わせになる。

「谷峨少尉」

「小寺少尉、何だよ?俺は今東野を探しているんだ」

「ほぼ同じセリフを返してやる、ウチの西野も東野と同じことをしている」

2人はグルの可能性もある。

サポーターからの情報で2人が内部情報を外に流出させているかもしれない、という情報を掴んだのだ。

「谷峨少尉、お前は去年の秋に仲間の教師を殺した、との情報を八原と荻野から聞いた。気持ちは俺も同じだ。できれば、2人は殺したくない」

小寺はこれ以上は言わない、と決めていた。

谷峨の表情が少し曇り、苦虫を潰すような歯ぎしりで答えた。

「2人のせいで生き残る確率を減らすようなことをするのなら俺は容赦なんてしない。そうやって、今まで、これからもそうやっていくしかないんだ」

いつまでそれをやり続けなければいけないのだろうか?

谷峨はそう言いたかったが言うことはできなかった。

谷峨と小寺は別れ、2人を探すことを継続した。

「危なかった、谷峨と小寺に鉢合わせになるところだった」

東野は西野と合流して、谷峨と小寺が話していた階段の下に潜む感じで息を殺すように静かにしていた。

空気を読まないように木田からラインの通知が来ていたが着信音が来る度に空気を読め、と叫びたかったところだが当たり前のように木田からしたらそんなことは知らないだろう。

しかし、違う方向から歩く音が聞こえる。

リノリウムの冷たい床に響く革靴の音。

キュッという音から瞬時にダッシュしていく足音に2人は捕まったと思った。

けど、それは谷峨や小寺ではなくて鳥浜だった。

黒のスーツに身を包んだ鳥浜は2人を人間を見る目ではなく、路傍の石ころを見るような視線で2人の視界に入った。

「谷峨少尉と小寺少尉だけが君達を探していたと思っていた所が君達の唯一最大の誤算だよ。いつの時代でもどこの国でも地域でも内通者は必ず出る者だと私は士官学校時代の教官から口酸っぱく言われてきた。残念だ、君達が内通者と言うことに」

鳥浜は拳銃を素早く出して、2人にも言い訳させずに撃ち抜いた。

2発の銃声が学校中に響き渡る。

東野は腹を撃ち抜かれて、リノリウムの床に温かい血の染みを作り、僅か数メートル先には西野がうつ伏せで背中を撃ち抜かれていた。

鳥浜は東野と西野のスマホを取り出し、力任せに踏みつけた。

心地良い破壊音が鳥浜にとって1種のストレス解消になっていた。

「残念だよ。俺は君達に死ね、と命じる立場の人間だが、だからと言って君達を死ねと命じた人間を殺すのは好きではないんだ」

「少佐、東野と西野は?」

谷峨が白い息を吐きながら、問う。2月の寒さは谷峨の熱気をも奪いかねない寒さだった。

「残念だ。この通りだよ、彼等は内通者として私自ら始末させてもらった。遺族の方には訓練中の事故として処理してくれ」

谷峨はその言葉を聞いて理解した。鳥浜が彼等を処理したことに。

「谷峨少尉と小寺少尉が中心として、生徒達を逃がす為の撤退戦を考えているが俺個人としてこのプランは反対だ」

「そんな………」

鳥浜は冷たく言い放つ。

谷峨がそんな鳥浜に驚きの表情を上げ、声が続かなかった。

「東国軍が西国軍との戦争に勝ち、戦争を終わらせて黒幕達を抑えてそしてこの日本と経済も技術も交流させて国力を豊かにする目的はもう統一国家政府になってその目論見は潰れたし、その時から我々は軍としての存在価値も存在意義もなくなった。日本政府は最後に統一国家政府軍に協力し、私達を裏切った。私のことを目にかけてくれた議員の先生も最後は手のひら返しだ。結局、自己保身と自己の野望の為に私達を君の生徒を利用した。平和の世界というこの国を3年見て、平和に染まりきっても良くないものだと感じた」

鳥浜は谷峨を視界に入れているが、そんなのは大事ではなく谷峨を路傍の花のように見る。

「どうせ、生き残っても生徒達は国から監視されてその檻からはみ出さなければ人並みの生活をできるかもしれない。けど、それは誰かに権力に縛られて生かされるのと変わらない。結局、人は力を行使し、支配して、邪魔なものを駆逐して悦に浸りたいのだ。だから、私は君達の命を利用してまでも私の目的を完遂させる。敵を殲滅させることが大事だからな」

鳥浜に3年前のような情熱にあふれた姿はない。

彼は達観し、悟りを開いてしまったのだ。

「せっかく、城内高校の生徒も元西国軍の者もいるし兵力は増えてきている。可能性が0に近くても私は戦う。平和ボケに骨の髄まで染みこまれ、自分さえ良ければそんなのは対岸の火事と見る日和見連中と安全な立場で人の信念と生き様と命を自分の快楽と欲望と自己保身の為に利用する連中も倒すべき対象だ。これが、私の最後の戦いだ」

そう言うと鳥浜は乾いた笑い声で響く。

「谷峨少尉、君と3年間任務を一緒にできたことを誇りに思うよ。ありがとう」

鳥浜は校長室の方向に向かって歩いていく。

その背中を見た時に谷峨は鳥浜と道を違えたことを感じたのだ。

奏も鳥浜も別の道を歩き始めた。

鳥浜も奏もきっと同じことを感じているだろう。

「谷峨少尉、探したぞ。お前どこに行ってたんだ?」

小寺と明石がやってきた。

谷峨は指で差すと、2人は東野と西野の死体に動揺した。

「一体、誰が」

「鳥浜少佐だ。東野と西野は内通者として繋がっていたらしい。スマホも綺麗に破壊されている」

谷峨が淡々と話し、小寺と明石は寒気を感じた。

血の臭いが鼻孔をくすぐり不快にさせる。

「くそっ、何でよりによってウチでウチの人間を殺すようなことをしているんだ。いくら内通者だからと言ってそれは短絡的過ぎるだろうが!」

明石は壁を殴る。

「遺族にはどう説明するんだ?あからさまにお前の指揮官が殺しているだろう?躊躇いなく発砲しているだろうな、この雰囲気だと」

小寺は谷峨に詰め寄る。

「訓練中の事故として、遺族に説明をして早急に遺体を送り式と謝罪としなければいけないが最後の戦いがあと2日後だ。とてもじゃないが、そんなことは今はできない」

谷峨はため息をついた。

「明石少尉、そして小寺少尉、鳥浜少佐はこの戦いは生徒を逃がす撤退戦ではなく敵を迎撃して殲滅したいと思っている」

「嘘だろ?そんなことは無理だ!あからさまな命の無駄使いだ」

「ウチの磯部中佐にもそんなことは聞いていないし、鳥浜少佐の暴走ならば上官として中佐に進言させてもらう」

2人は居ても立っても居られない状態だ。

「鳥浜少佐は俺達全ての命を使ってでも自分の目的を果たすつもりだ。生徒の命を1人でも逃す為に協力を頼む。軍歴でも立派な上官に対する反逆罪になるし、軍人生活としてこれからは必ずバツのついたものになる。俺はこの戦いに生き残ったら軍を辞める」

谷峨の決意に押される2人。

「そんなこと言われたら………なぁ?」

「何を言っているんだ、谷峨少尉。俺は決めている生徒の為にできることをするだけだ」

「お前は背負いすぎなんだよ、谷峨。階級は同じでも俺はお前より軍にいる期間は長いんだぞ。たまには先輩頼れっての」

「ありがとう。もう、絶対1人でもいや、全員死なせてたまるか」

谷峨は自ら頬を張り、気合を入れ直した。


鳥浜と木村は地下教材資材庫にいた。

鳥浜は神妙な面持ちで1機の御霊機を見る。

「とうとうこれを使う時がやってきた」

「整備は万端です。先輩」

木村は誰もいないとみるや、士官学校時代の時と同じように話した。

「アマツミカ。最初の御霊機の1つで東国の総統陛下を守った名もなき兵士が使っていた御霊機だ。とは言っても、600年前の御霊機であるが故に製造方法や完璧な整備方法はいまだ謎のままであるが、この御霊機の言っていることはわかる。俺をこき使え、と」

木村は鳥浜の言っていることに疑問符を投げかけるがとうの本人はそんなことをおくびもせずにアマツミカを見続けていた。

赤色の禍々しいフォルムは特撮戦隊ヒーローの悪役ロボットという形に近く、どことなく平安時代末期の鎧武者をイメージさせる外観。

「けれど、この御霊機は現行のモデルとは違うし人を選ぶというのも御霊機として軍事兵器として間違っています。人の命を吸い取って強くなるなんて兵器は禁忌です」

木村は心配そうに鳥浜を見るが鳥浜は木村の態度を見ても自分の考えを曲げなかった。

「この戦いが鳥浜大紀の最後の戦いだ。御霊機は守る人を守れなかった無念と悔しさと己の無力さから、その次はそんなことのないようにと先人達が作った兵器だ。私は幼い頃からアマツミカを見て育った。これは私の拠り所で存在意義だ。総統陛下から賜った大事な御霊機だ」

「総統陛下から賜ったのですか?先輩の出自も士官学校入る前の経歴って本当に謎ですよねー」

木村が言う通り、鳥浜も自身の出自はわかっていない。

誰が親なのか、何で武家の一族の者としていてるのかわからない。

「少佐が最後の戦いと言うのならば悔いなく、きっと俺も技術士官としてこれが最後になると思います。最後まで俺は先輩に付き合います。本当だったら、黒川中佐や三國中佐や吉野もいたら良かったのに………」

「叶わないことをいつまでも口にするな。自分の行いは正しい、と思い続けなければ生きるのも辛くなるぞ」

そう言うと鳥浜はコクピットに入って調整作業に入る。

木村もタブレット端末を開いて、システムや武装のチェックに入った。

木村は鳥浜と最後まで付き合うことを改めて誓った。

この人が士官学校でいじめられていた時に助けてくれた。部隊配属された時もこの人から自分のことをアテにしていると言ってくれた。

全部の御霊機の調整も施設のシステム周りも同時に行う。

これが自分のできる戦い、自分の尊敬している人の最後の戦いを完遂する為にも全力を尽くす。


東野と西野が死んだことはいざ知らず、三浦海岸のファストフード店でダルそうにスマホを見続けてホットコーヒーを啜る木田。

すでに最後のラインから3時間は経っている。

コンセントに繋いで電源ケーブルを繋ぎ、スマホで会社に連絡を入れる。

しかし、本社からのメールに木田は驚いてしまう。

「3月2日に三戸浜高校に政府と並行世界の日本軍が攻撃する、誰だよ?政府筋とアイツらしかわからない情報なのにもう本社にリークされている。これじゃ、俺が今までやってきたことが意味もなくなる!また、そうやって手柄を特ダネをかっさらいやがって」

その時、木田は1種の感情がよぎる。

もしかして、東野と西野に何かがあったのかもしれない。

逸る気持ちを抑え、会計を済ませ、駐車場に置いてあるミニクーパーを発進させる。

直接潜入取材をして、3月2日に世界初の21世紀初めての内戦の撮影を成功させれば俺はこの金と名誉と名前を元手に新たなビジネスもモーリシャスで暮らすのもいい。

この閉塞感と諦めのこの緩やかな甘ったるい据えたような腐臭のするこの世界の変わるさまを映像に収める。

俺自身、スリルを求めている。

俺自身、何かを求めている。

2人が心配なのもあるけど、木田の中には色々な感情が湧き出ていた。


3月1日。

関東地方南部は温かな春の陽気が支配した。

三戸浜高校に残った生徒達も神妙な面持ちでこの日を迎える。

「明日でこの1年間も終わる、お前達以外はたぶん普通の卒業式を迎えるだろう。明日が終わればこんんな生活もおさらばだ。こんな身近な人々が生き死にを目の前で見る日々は明日で終わりだ。今までありがとうな、けどさ、大事なのは明日以降なんだよ、この戦いが終わった後が本当の人生の戦いなんだから」

谷峨の言葉に生徒達は何も返さず、話を聞くだけだった。

去年の今頃はうるさくて、人を舐めた態度を取り、自分の非を改めず、わめいて、暴れれば子供だから何をしても許されるという感じだったが、人は1年でこんなにも変わるものだと谷峨はしみじみと感じていた。

「なぁ、谷峨さお前明日以降どうするんだよ?仮に生き残れたら何をするんだよ?」

真が質問する。

「この戦いが終わったら、軍を抜ける。俺は実はちゃんとした教員免許じゃなくて偽りの免許なんだよ。県が認めているから特例なんだけど、また大学入り直して公平な条件で試験を受けて教師でもやろうかなと」

「先生、普通に教師してるじゃん」

「厳しいし、鈍感だけどな。御霊機乗ることしか教えることできないけどな」

生徒達はそう言ってはやし立てる。

ただ、生き残る為に任務を果たす為に日々生きてきただけなのに、生徒の言葉と表情を見て谷峨は泣きそうになる。

「この国のどこに匍匐前進や銃の撃ち方教える教師がいるんだよ?ちゃんと俺はこの世界で生きることにしたんだ。第二のお前達なんて作らない、作らせない。それが俺の次の戦いだ」

その決意は2度と叶うことはないのかもしれない、夢の話なのかもしれない。

「谷峨、ちょっと来てくれ!」

遠藤が叫ぶ。

汗をかきながら遠藤は谷峨を見つけるとほっとため息をついた。

「どうした?」

「小寺が三嶋と一緒に東野と西野に繋がっていた人間を捕まえたってよ!校長に見つかったらマズイからお前に頼みたいってよ」

「わかった!大川先生、またお願いします」

「谷峨先生、君は担任だろう。最後の言葉は担任が言わなくちゃ………いつも、私に仕事ばかり頼むな、彼は」

大川がそう言うと、生徒達から野次られてしまった。

黒川の言う、谷峨ウイルスの恐ろしさを少し感じた大川だった。

「私も君達と明日で別れることになって寂しい、けどこの1年は君達を成長させた1年だと思うよ、私もだ。先生、この1年間頑張っても退職金1000万しか割が増えなかったんだ?おかしいだろ?だけどな、谷峨先生も私も君達を見て変わったんだ。谷峨先生のぶんも言う。君達に心からありがとう。定年を迎えて君達との1年間の話を私の家の大事なエピソードにする」

大川がそう言うと、その金で奢れのオンパレードだ。

その合唱はウィーン少年合唱団の美しいハーモニーとは真逆のハーモニーだ。

「ついでにソープも奢れ」

「ヴィトンのバッグを横浜の正規店で買わせろ」

「私達はディズニーリゾートの泊まりのセット」

「switchとPS5で手を打とう」

「お前達、ふざけるな!1000万なんかあっという間に飛ぶだろ!遠慮や気配りをしろ、大人の世界はお前達のような遠慮ない無神経者を嫌うんだ。ちゃんと社会の歯車として………違う、君達は君達の生き方をしなさい。きっと、君達は強いから」

自分にはそれしか言えない。

自分は自己保身に逃げ、向き合うことを拒否した人間なのだから。

可能性の少ない明日以降の生きる道。

自分は予め、家族にも話した。

自分だって彼等のように生きたいし、戦う術も欲しかった。

そんな自己保身に溺れた愚かな男に言いたかったのかもしれない。

木田を捕まえ、使っていない教室に監禁していた小寺と三嶋は谷峨と遠藤が合流した。

「小寺少尉、手荒なことはしていないよな?」

「捕まえる際に暴れたからその時は暴れたが、意識もあるし受け答えもちゃんとできている」

「お前が誑かせたから西野は死んだんだ!」

「そうだ!東野も臆病な奴だけどお前がいたから死ぬことになったんだぞ」

三嶋と遠藤がさらに浴びせかけるように暴言を吐く。

仲間が死んでしまった以上、こんなことを言うのは当たり前だが谷峨は2人に腕を伸ばし、制止させた。

「やめろ、そんなこと言っても2人は返らないしコイツに暴力をふるっても2人は蘇らない。ウチの生徒がとんだ失礼をした。あなたの言葉を聞かずに一方的にこのようなことをしたのは謝罪する。しかし、危険を冒してまであえてそのようなことをするあなたの行動をじゃあ気を付けて帰って下さい、と言うのも違う」

本題はここからだ。

谷峨は木田を見て、詰め寄る。

木田は恐怖に駆られ、狼狽する。

「サポーターからの情報提供によるとこの男は三浦海岸のファストフード店で東野と西野と度々情報を入手をしていた。2人に情報提供をさせてもらう代わりに2人の身柄を安全な場所に逃がしてやる、とかそんな事だろう?」

小寺は淡々と木田に質問した。

自分の主観も入っているが大半は的を得ているので木田は頷いた。

木田は同じ言葉が通じる民族で助かったと少し安堵した。

どこかの国だったらオレンジ色の服を着せられ、自国の政府に私を助けて下さいと声明を送り身代金を請求し、最後は首チョンパだ。

それに比べてコイツらはまだアマチュア、付け入る隙はある。

木田は諦めずに次の答えを探していた。

しかし、そんな将棋のような思考を破るかのように1人の男が乱入した。

真が入ってきた。

「ここにいたのかよ?お前等、鳥浜達がお前達を探してるぜ。磯部も木村も鳥浜のパシリみたいに探してたからよ?テキトーに口裏合わせるから1回アリバイを作ってけ」

「しかし、東野と西野を誑かせた理由は聞かねばならないし」

「人道的な方法で尋問しなきゃいけないし、鳥浜少佐達にバレたらお前達もタダでは済まされない」

谷峨と小寺は躊躇う。しかし、真はそれを無視して、木田に近寄り胸倉を掴んだ。

ジャケットの長めの襟をわざとクロスさせて、首を絞めていた。

「頼む、谷峨と小寺を鳥浜達に今殺されても意味がないし鳥浜はコイツを殺すんだろ?だったら、俺達で時間稼ぎをする。遠藤と三嶋、悪いが付き合ってくれ」

「すまん」

谷峨と小寺は教室から出て行った。

真をそれを確認すると、木田の首を絞めるのをやめてその場で蹴りを入れて放した。

もんどりうって、床に顔を向けてうずくまる木田。

真はさらに頭を踏みつけて、上履きでズリズリと動かした。

「やめろ、真!」

「遠藤の言う通りだ、冷静になれ!コイツを殺すのも散々吐かせたあとでいいだろう?谷峨のやったことをお前は無に返しているんだぞ」

2人の必死な制止に真は舌打ちし、力を緩めた。

「自殺しないように猿轡でも噛ませるぞ」

三嶋と遠藤は木田に猿轡を噛ませた。

木田は顔面蒼白になり、額から薄っすらと血が流れている。

猿轡を噛ませたあと、真は木田の髪を掴みあげ、後ろに引っ張った。

「お前みたいな奴は何となくだけどよ?自分さえ助かればいいタイプの人間だって、言わなくてもわかる。俺はそこにいる三嶋みたいに合理的なことをできる人間じゃなければ遠藤みたいに気配る人間でもねえ。お前がふざけたことを抜かしても媚を売っても俺はお前の頭を遠慮なく叩きつけるか蹴るか踏みつけてやる」

真の鬼気迫る表情に木田は恐怖に駆られた。

それは三嶋も遠藤も同様だ。

「さあ、そろそろ質問に答えようか?何で、東野と西野に近づいた?遠藤、メモを取ってくれ。ざっとでいい。太田和はこの侵入者が動かないようにしてくれ。死ななければ何をしても構わないさ。俺自身、コイツにムカついているからな。太田和のお陰で少しは気分が晴れた」

三嶋が質問役になる。

「答えるときはこのキーボードでやってみようか?猿轡で話辛いが、クズの吐息でも不快だからせめて人道的にキーボードで入力させてやる。俺なりの人道的配慮だ」

そう言うと、タブレット用のキーボードを木田の前に置くが木田がキーボードを入力しようとしたときに右手の親指に金づちを振り下ろした。

しかも、ノールックで。

のけぞる木田とくぐもった悲鳴。真は無言で木田の頭を机の上に叩きつける。

「コイツが右利きだったら、たぶんオナニーもできねえな。三嶋もなかなかクソ野郎だよなー、散々人道的配慮と言いながら全然配慮してねえじゃねえか。形だけって結構堪えるんだよな、わかるわ」

真は木田を見ながら爆笑した。

遠藤は元々、真の暴力的な性格は知っていたし、三嶋もそれに負けず劣らずのところにびっくりしていた。

やり方とタイプは違うがどっちも暴力的で躊躇うことを知らない。

その時は一瞬、木田に同情をした。

たどたどしい、キーボード入力をモニターで見て、この男が自分の欲望塗れということが良くわかった。

「殺してもいいだろう?コイツ、結局全部ゲロして、俺達を撮影して自分が特ダネスクープして、東野と西野は生かしてその時の様子はどうでしたか?って、正義のジャーナリスト気取りやって最後はどっかの国でバカンスか………1周回ってコイツはバカしか言えねえよ」

「ここで殺しても印象は悪いからコイツは命がけでメッセンジャーをやってもらおう」

「メッセンジャーって、阪神タイガースに昔いた投手だろう?コイツは投手なんてできるのか?」

遠藤はわざとボケてみる。

真と三嶋は違うだろ、とツッコミを入れた。

「コイツに俺達を撮影してもらって、命がけでこの1年の最後の戦いを世界に配信させる。お前のジャーナリズムも満たして、この日本で行われる戦争だ、きっと歴史に乗る。それができたら、お前の仕事は終わりだ。ハワイでもバリでもどこへでも行け。もしくは俺達と同じ地獄行きだ。手荒なことをして済まなかった。アンタも一蓮托生だ」

木田は生き地獄を解放されて大きなため息をついた。

自分がイメージしていた悲劇のヒーローやヒロインではなく、洗脳されていた訳でもなく、本気でこの生徒達は自分達の生と未来を掴む為に巨大な敵と戦おうとしている。

「先生、見てよ」

荻野と八原が谷峨に写真を見せる。

それは今日が皆で最後といられるこの瞬間をせめてデータで写真で残そうとした、戦争で日常を奪われた高校生達の生きた証。

時間は容赦なく進み、運命の3月2日。

三戸浜高校と城内高校の生徒は最後の決戦に挑むことになる。












































                      


                     












































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