第1章 7話
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出来るだけ直します。
陰日。空にはクラミと破精霊神が封印されているというナツミラーゼが輝いていた。クラミの凜とした光とナツラーミの怪しい紫色の光が相まって心を不安にさせる。4月は寒い、陰日で恒星ランヴォの光がないから肌寒く感じる。家の屋根裏の窓から数歩あるけば、屋根裏の分高くなっていないところの屋根にたどり着く。こんな空を歩くことができるのは偏に剣術の指導をしてくれるイバリ先生が魔技を使った戦いについて懇切丁寧に体に教えてくれるからだろう。そう、できなかったらイバリ先生の木剣が突いて、払いてする方法で僕の体に教えてくれるのだ。嬉しくない。文句を言っても木剣しか答えてくれないだろう。そんな指導だから魔技では普通走ることしかできない空歩の技がいつの間にか歩いたり、その場で数分止まることができる程度には熟練した。これにはイバリ先生も驚いていた。まるで珍獣でも見つけたような顔をしていた。だが言いたい、こんなことができるようになってしまったのは先生のせいですと。言ったのかって?一応行ってみたがそんなんでできるなら誰も苦労しないとかなんとか言われた。まぁ普通はできないらしいということは判った。だが、できたものを使わなことはない。ということでこの空歩は暇なときに屋根の上に行くためによく使っている。
珍しいことに先客がいた。屋根のないところを僕が歩いているのを見た我が兄ファークイラことファー兄はこんなことを言ってきた。
「空を歩くのは楽しいか?」
「空っていうほど高くないと思うんだけど」
「そうか、高くないか」
やっぱ空を歩くっていうからには街全体が見下ろせる程度高く上がんないと。多分できると思うけど降りるときが怖いからやんない。
「それは空歩であっているのか」
「結界の魔法を使って空気中に足場を作っているんだよ。それに空歩の仕方を応用してやれば空中は自由自在に動けるよ」
これが僕の空歩の他の人と違うところ。結界の魔法で空中を行くのはベビーベッド大作戦からの僕の十八番。誰にも負ける気がしない。多分上には上がいるんだろうけど。
「口で言うより難しいように見えるけど、やっぱ赤ん坊の頃から出来たからか?」
「さぁ、そんな記憶にない頃の話をされても」
もちろん記憶喪失などということではない。対外的にこれで覚えているなどといってみろ追求されるに決まっている。こういうのは無難に流すのが一番だ。
「それもそうだ」
静寂があたりを支配した。いつまでも空中にいるのもどうかと思い屋根に腰掛けた。夜空はどこかの世界の空と違って4等星ぐらいは見えると思う。少なくとも1分もすれば数えられるような星の数ではない。1時間くらい頑張って数えれば判るかも?といったところだ。ふとその中に一際大きい星が目に止まった。
「ファー兄、あのクラミの近くに輝いている少し大きい星は何?」
「あれは……モヴリオスだな。光龍神フォスがいるそうだ」
「それ信じているの?」
「……居た事はあると思う。今現在、実際にいるどうかは解らない」
「そういえば光龍神を崇めている国って滅びたんだよね」
「光の国ーーフォスティオス国のことだな」
「どういう国だったの」
「習ったんじゃないのか」
「最近の滅びたことを話さないといけないからか、あまり触れないで次の単元に行ったんだよ」
「そうか、お前を教えているミナリー先生は確かフォスティオス国出身だったな。それじゃあ話すか、フォスティオス国は正式名称がフォスティオス民主国という。名前の通り民主主義国のひとつだ。夜でも光の絶えない豊かな国で農業が盛んだった。国土は小さいが技術力は高かった。これがよく挙げられることだな」
「なんでそんな国を破王フィーニスは最初に落としたの?」
「知らないか。それはだ、約60年前。光の勇者が破王フィーニスを倒したとされていたからだ。もちろん光の勇者は当時世界を相手に戦っていた破王フィーニスを倒したのだが、それは本人の自称であって、実際には破王に力の一部を与えられた魔王だったらしい。そして、この60年間破王フィーニスは世界を滅ぼすために着々と準備を進めていたのだろう。フォスティオスは一夜で落とされたとされているが、実際には一刻もかからなかったらしい。攻めてきたのは破王フィーニスと魔王一人だそうだ。実際は破王は手を出さず魔王一人で片付けたようなものだそうだ」
「なんで破王は動かないの?」
「噂と推測が一人歩きをしているだけで本当のところは判らないそうだ」
「ふ〜ん」
初めて知った事実というやつだ。4歳にもなって知らないのはどうかと思うが知らないのだから仕方がない。本当は心のどこかでは知りたくなかったのかもしれないけど、そろそろ現実を見ないといけない。これはいい機会になるだろう。神様が僕をこの世界に来させたのは魔王を倒して欲しいということだった。そう、魔王を。……なんで破王とか破神なんてできてんだよ⁉︎魔王が可愛く見えるような奴らって聞いたぞ。だけど勇者になるなら魔王との戦いも避けては通れない道だろう。
「お前は何になりたい?」
空を見上げながら考え事をしていた僕にファー兄が質問をしてきた。
「あと1年ちょっとでお前は教会で加護や素質をみることになる。その時お前は将来について考えていかなければいけない。どうやって生きるのかを決める大事な分岐点だ」
僕はこれまでよく周りに流されて生きてきた。自分で本当に決断して行動したこたはたかがしれいる。ファー兄の言葉は重く僕の心にのし掛かった。これからどう生きるか。とても重要で、これから変えることの難しいことだろう。けれど、僕は勇者になることが決まっている。神様にも言われたし、そのために魔法や剣術を必死で頑張った。生き残るために。
「俺はお前が生まれた時、ちゃんと仲良くやれるのかなと思った。父のあとを継いでナータリウヌ家の当主になって、これからもナータリウヌ家がサケリウス帝国で商売敵なしと謳われるように努力するのに弟に何かしてやれるかと。けどその考えもお前が1歳になった頃に霧散した。少なくとも、俺たちの夢は交わることが無さそうだと思ったからだ」
「なんで?」
「お前がターニャと魔法戦繰り広げてたからに決まっているだろ」
「聞いたことあるけど、魔法戦とは程遠いと思ったけど」
「それは今のお前が成長したってことだろ。1歳で魔技を感覚で使える。これはもう天才といっていいだろ。だから俺は思ったんだ、お前は商人にはならないだろうって」
「判んないよ、戦う商人を目指すかもしれないだろ」
「魔技を使って笑っている奴がか?」
「未来は解んないんだよ」
「そうかもな。けどなぜか俺はこいつは絶対に違うって思ったんだよ」
「根拠のない曖昧な感想だね」
「こういう直感は重要だぞ」
「そうだけど」
「それで思ったわけだ。お前は何になるんだろうってな」
「……夢ならあるよ」
昔、地球で思い描いた夢。できそうにない夢。
「なんだ」
「歴史に名を残すような偉業をすること」
「それは、壮大な夢だな」
「でしょ」
「そうだな」
二人の間に再び沈黙が訪れる。
「初めてお前とこういう風に話した気がする」
「そうかもね」
「偉業か、もし何か俺にできることがあったら手伝ってやるぞ」
「あったら言うよ」
目があった。なぜか解らないが、笑いがこみ上げてきた。堪えきれなくて笑った。ファー兄も笑っていた。二人で気がすむまで笑った。それは案外、少し心地よかった。
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「昨日何話していたの」
と唐突にシャー姉が言った。
「何の話?」
「ファークと話していたじゃない屋根上で」
どうやらファー兄と話していたのを見たらしい。
「あぁそのこと」
「で、いったい何を吹き込まれたの」
「吹き込まれたって、ただ将来について話しただけだよ」
「本当?」
「ほんとほんと。それより昼御飯が終わったんだから離してよ。だいたい、休日の日なのになんで僕にかまっているの」
「学園に行っていたらかまえないからに決まってるじゃない」
「かまわなくていいから」
「姉の願いを聞いてくれないの」
「もしも、家庭教師の先生たちを説き伏せることができたら考えるよ」
そうして僕は剣術を教えてくれるイバリ先生のもとへ行くのだった。
「今日はこれを着けて修行をする」
イバリ先生が出したのは革の鎧のようなものだった。
「先生、それはなんですか」
「うむ、これは魔力の位置を固定するものだ」
「魔力の制御の妨害と何が違うんですか」
「これは魔素を固定の位置に置くことで、着ている人が魔素に干渉する術を奪うためのものだ」
「それを使ってどんな修行をするんですか」
「それはだ、そろそろお前が俺の実力を追い抜きそうだからハンデを付けないと危ないかと思い考えたのだ」
「これがあれば俺はお前をまだボコれ……ゴホン。修行をつけることができるという寸法だ。お前は魔技の実力が上がる、俺は家庭教師を続けられる。みんな嬉しくてみんな良いということだ」
「口答えして良いですか」
「だめだ。それでは始めるぞ」
ボコられた。恨んでやる。イバリ先生め、今に見ていろ、ハンデありでも勝ってやる。
やっと話が進みます。
乞うご期待。